金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2008年10月19日

播種性血管内凝固症候群(DIC)に対するフサン(FUT)治療


メシル酸ナファモスタット(商品名:フサン)

【はじめに】
播種性血管内凝固症候群(DIC)の治療薬としては、多くの薬剤が知られています。メシル酸ナファモスタット(商品名:フサン FUT)は、DICの治療薬の一つです。メシル酸ガベキサート(商品名:FOYなど)とともに、合成セリンプロテアーゼインヒビターという分類に属する薬物です。

関連記事:フサン(FUT)治療が有効なDIC症例

フサンは、凝固活性化のみならず、線溶活性化も抑制する作用が強い点が特徴です。このため、線溶活性化が強いタイプのDIC(線溶亢進型DIC出血しやすいタイプのDIC)に対して、極めて有効な治療薬になります。
線溶亢進型DICに対して、ヘパリン類のみを投与いたしますと、出血をかえって助長することが少なくありません。

DIC病型分類に関する欧文論文:Classifying types of disseminated intravascular coagulation: clinical and animal models.  Journal of Intensive Care 2014, 2: 20.

 
【フサンの良い適応】
フサンは、具体的には以下のような疾患に合併したDICに対して、特に有効です。現疾患が不変あるいは悪化するような場合ですら、DICに伴う出血が軽快することが多々あります。
使用量は、標準的体重の方では、200 mg/24時間位になります。

1)    急性白血病(線溶亢進型DIC):ただし、急性前骨髄球性白血病(APL)に対してATRA(ビタミンA誘導体)を使用している場合を除きます。APLでは、ATRAそのものがDIC治療効果を発揮します(参考記事)。
2)    転移性前立腺癌(線溶亢進型DIC)
3)    その他の一部の癌(線溶亢進型DIC)
4)    腹部大動脈瘤(線溶亢進型DIC)
5)    膵炎:フサンは膵炎治療薬でもあります。

【DIC治療の重要性】
DICの現疾患の治療が最も重要であることは言うまでもありませんが、DICのために全身性の出血に悩まされている患者さまのコントロールを行う必要があります。
また、線溶亢進型DICでは血小板数が比較的保たれていても、脳出血などの致命的な出血を突然発症することがあります。脳出血を発症してしまわれますと、現疾患の治療どころではなくなってしまいますので、DICの治療はとても重要です。

【フサン無効例に対する治療】
線溶亢進型DICに対して、多くの場合はフサンが有効ですが、もし充分な効果が期待できない場合は、次の特効する治療方法があります(今回は省略)。
ただし、使用方法を間違えますと全身性の血栓症を発症する可能性があります。専門家にコンサルトできる場合のみに限定すべきと考えられます。

【フサンの副作用】

時に、高カリウム血症の副作用がみられます。
フサン投与中は、電解質に十分な注意が必要です。

【FOY vs.フサン】
● FOYとフサンの共通点
1)DIC治療薬です。
2)膵炎治療薬でもあります。
3)合成セリンプロテアーゼインヒビターです。
4)アンチトロンビン非依存性に、抗凝固活性を発揮します。
5)DICに使用する場合は、どちらも24時間持続点滴が必要です。

● FOYとフサンの相違点
1)フサンは、抗凝固活性のみならず、抗線溶活性も強力です。FOYは、抗線溶活性は強力ではありません。
2)フサンは、高カリウム血症の副作用があります。FOYには高カリウム血症の副作用はありません。
3)フサンは線溶活性化が強いタイプのDICに有効ですが、FOYは線溶活性化が強いタイプのDICにはあまり有効でありません。

● FOYとフサンの使い分け
1)線溶亢進型DIC(出血症状が著明なDIC)には、フサンが絶対的に有効です。たとえば、前述のような急性白血病、前立腺癌、腹部大動脈瘤などに合併したDICにはフサンが有効です。
2)マイルドな効果を期待したい場合は、FOYが選択肢にあがります。たとえば、出血傾向が強くヘパリン類は使用できないし、しかもカリウム濃度が高く、フサンも使いがたい時などです。
3)どちらも、DIC治療を語る上で、必ず登場する必要がある重要な薬剤です。


【管理人の経験】
出血症状が著明な線溶亢進型DICに対してフサンを用いた場合、著効例では出血がみるみる引いていくことも少なくありません。管理人は、著効例を多数経験していますが、フサンの著効例を経験した臨床家は、フサンのファンになるこ間違いなしと思います。

特に管理人にとって、一生忘れることのできない経験があります。
70歳代の男性患者様(Xさん)は、ある部位の癌のために重症のDICを合併しておられました。XさんのDICは、出血がみられやすいタイプでした(線溶亢進型DIC)。Xさんは、出血性胃炎で大出血、筋肉内出血、皮下出血、鼻出血、口腔内出血、全身性紫斑など、まさに全身の高度な出血状態でした。

しかし、これほどの激しい出血症状をきたしたDICだったにもかかわらず、フサンによる治療を開始したところ、翌日の回診時には、全身の出血は奇麗にひいていました。まるで「魔法がかかったように」止血しました。一生忘れることのできない、極めて優れた治療効果でした。もし、昔の教科書に書いてあるようにヘパリンによる治療を行っていましたら、患者様の出血はかえって悪化していたことでしょう。
DIC診断にとどまらず、DICの病型診断にまで踏み込むことで(この患者様の場合は線溶亢進型DIC)、奇麗に治療に反応した良い例ではないかと思います。

 

【関連記事】

<特集>播種性血管内凝固症候群(図説)クリック(シリーズ進行中!)

 

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 11:01| DIC | コメント(1)

◆この記事へのコメント:

この記事に対してご質問をいただいたのですが、実名が書かれていましたので、公開手続きをとらず、コメントを紹介させていただく形で回答させていただきたいと思います。

(以下がご質問の内容です)
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FOYとフサンの相違点に関しては、FOYには高カリウム血症の副作用はありませんと書かれています。FOYの添付書には副作用として高カリウム血症が記載されていますが、どちらが正しいのでしょうか?
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(以上がご質問の内容です)


コメントいただきありがとうございます。
ご指摘いただいた通りだと思います。FOYの添付文書には副作用として高カリウム血症が記載されているようです。しかし、管理人はFOYの高カリウム血症の経験は一度もありません。おそらく高カリウム血症は皆無ではないのかも知れませんが、極めて少ないのではないかと思います。

一方で、フサンの添付文書を見ますと、高カリウム血症は無視できない頻度でみられるようです。実際、管理人自身も、複数例の経験があります。

フサンは線溶亢進型DICには優れた効果を発揮しますので、臨床に不可欠の薬物だと思います。ただし、適切に使用するために高カリウム血症がありうることを意識しておく必要があるということだと思います。

以上、簡単ですが回答になっていますでしょうか。

投稿者:血液・呼吸器内科: at 2010/01/25 19:20

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