金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2008年12月16日

タール便(黒色便)と血便

1.タール便(黒色便)とは

推薦書籍:「臨床に直結する血栓止血学」

黒色便が見られる疾患が知られています。若い方は、タールと言ってもピンとこないかも知れません。道路を舗装する時に使うコールタールが語源です。そのコールタールのように黒い便ということで、タール便と言います。黒色便ということもあります。

参考書籍:「臨床に直結する血栓止血学」(出血性疾患&血栓性疾患について詳述されています)


2. どういう時にタール便が見られるか?
これは、胃や十二指腸から相当出血している時に、みられる特徴的な便です。胃酸と血液が混合することで、黒色便になります。
具体的には、以下のような疾患でタール便が見られます。

1)胃から出血する疾患:胃潰瘍、胃癌、重症の胃炎など。
2)十二指腸から血が出る病気:十二指腸潰瘍、十二指腸乳頭部癌など。
3)食道から血が出る病気:食道静脈瘤、食道癌(いずれも出血を伴う場合)など。
4)大量の鼻出血・口腔内出血を飲み込んだ場合など。

ただし、少量の出血では、タール便にはなりません。たとえば、早期胃癌で、わずかの出血しかない場合にはタール便になることはないでしょう(そういう時には、便潜血検査←クリック を行います)。
タール便がみられましたら、胃や十二指腸からの相当量の出血があることを意味しますので、早々に胃カメラなどの検査が必要です。

一方、直腸癌など、肛門に近い部位からの出血では、タール便にはなりません。この場合は、暗赤色の血便になるでしょう。あるいは、痔からの出血では、鮮紅色の血液が便に付着するでしょう(下記)。


3.タール便と、血便の違い
血便は、文字通り、便に赤い血液が混じります。暗赤色のこともあります。
血便の場合は、大腸癌(直腸癌を含む)や重症の大腸炎などがある場合にみられます。血便は、胃酸の影響のない部位からの相当量の出血で見られる症状です。

痔(特に切れ痔)でも、しばしば便に血が混じります。切れ痔の場合は、便の上に血液がのるという感じになります。便に血液が混入すると言っても、タール便(黒色便)と血便では、意味するところが違うのです。


4. 抗血栓療法とタール便
抗血栓薬というのは、文字通り血栓症の発症を抑えるお薬です。具体的には、抗血小板薬のアスピリンや、抗凝固薬のワーファリンなどです。
抗血栓薬を内服していますと、出血の副作用がみられることがあります。たとえば、紫斑(青あざ)が出やすいかもしれませんし、怪我をした後も止血しにくいかも知れません。

しかし、胃や十二指腸に病気がないのに、抗血栓薬を内服していてタール便がみられることはあまりありません。
ただし、抗血栓薬を内服していますと、小さな潰瘍や癌であっても止血しにくく、タール便になりやすい可能性はあります。この点、抗血栓薬の内服によって、タール便という症状が増幅しやすい(早期診断につながりやすい)可能性があります。


5. 解熱鎮痛薬(NSAID)とタール便
風邪薬には、しばしば解熱鎮痛薬が含まれています。医学的には、非ステロイド系消炎鎮痛薬(NSAID)と言います。
この解熱鎮痛薬には、いろんな種類がありますが(古くは、アスピリンやインドメタシンがあります)、時に、胃粘膜に障害を与えて、胃潰瘍を起こすことがあります。

胃潰瘍を起こしますと、胃の中に出血をきたし、胃酸と混じることで、タール便(黒色便)がみられることがあります。風邪薬をのんでいて、黒い便が出たというのは、風邪薬のなかの解熱鎮痛薬の成分で胃潰瘍を起こした可能性があるのです。風邪薬を処方する際、しばしば胃薬を含めますのは、そのような背景からです。

なお、管理人自身の経験ですが、風邪薬を内服すると必ず毎回黒い便が出るという患者様がいらっしゃいました。検査の結果、先天性出血性疾患の患者様であることが判明しました。


6. 造血剤と黒色便

貧血のお薬に、造血剤があります。造血剤の中身は、鉄(Fe)そのものです。
実は、造血剤(鉄剤)を内服しますと、便は黒色(タールのように見えるかも知れません)になります。しかし、これはもちろんタール便ではありません。



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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 05:29| 出血性疾患 | コメント(0) | トラックバック(0)

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