止血剤の種類と疾患:ノボセブン、アドナ、トランサミンなど。
止血剤は、文字通り出血を止めるためのお薬です。
管理人が研修医時代には(大昔の話です)、止血剤と言えば、アドナ、トランサミン、ビタミンKでした。種々の出血に対して、上記の処方を繰り返してきた記憶があります。
しかし、今の医学で考えますと、あまり適正に止血剤が使用されてきたとは思えないのが正直なところです。20年以上前の話ですので、医学レベルが今とはまるで違っていたということでお許しください。
まず止血剤には強力なものと、マイルドなものがあります。
また、出血の種類によって、処方内容は当然変わってきます。
今回の記事は、止血剤の種類別に、解説を加えたいと思います。
当然ながら、何に対して有効であるかが変わってきます。
参考書籍リンク:しみじみわかる血栓止血 Vol.1 DIC・血液凝固検査編 ← クリック
1)濃厚血小板(pletelet concentrates:PC):
血小板数や、血小板機能が極端に低下している場合の出血に対して有効です。
血液疾患などで、濃厚血小板が必要となる疾患は通常入院が必要となります。
ただし、濃厚血小板は繰り返し使用していますと、抗体ができて効果が減弱してきますので、本当に必要な時にのみ使用します。
2)新鮮凍結血漿(fresh frozen plasma:FFP):
新鮮凍結血漿には全凝固因子が含まれています。
新鮮凍結血漿が必要となるのは、重症の肝不全、血液疾患(DIC合併例を含む)などで、凝固因子が枯渇しているような疾患です。
3)第VIII因子濃縮製剤:
血友病A(先天性第VIII因子欠損症)の止血管理用です。ただし、第VIII因子は血友病Aの人にとっては未知の蛋白であるため、皮肉なことに第VIII因子濃縮製剤を使用しますと抗体(インヒビター)が形成されてしまうことがあります。この時の止血管理には、バイパス製剤(ノボセブン、ファイバなど)が必要になります。
4)第IX因子濃縮製剤:
血友病B(先天性第IX因子欠損症)の、出血時の特効薬です。インヒビターの発症はありえますが、血友病Aの場合と比較しますと遥かに少ないです。
5)DDAVP(抗利尿ホルモン):
DDAVPは興味あることに、血管内皮からフォンヴィレブランド因子(VWF)を放出させる作用があります。そのため、フォンヴィレブランド病(VWD)に対して有効です。ただし、重症のフォンヴィレブランド病には限界があります。また、繰り返し、DDAVPを使用していますと、放出されるフォンヴィレブランド因子が枯渇してきますので、効果が減弱してきます。
参考記事:鼻出血時の疾患と血液検査
6)コンファクトF(第VIII因子濃縮製剤の一つ):
第VIII因子濃縮製剤は最近は、遺伝子組み換えのものが主流になってきていますが、コンファクトFは昔ながらの血漿由来の第VIII因子濃縮製剤です。しかし、これが幸いしています。なぜなら、この血漿由来の第VIII因子濃縮製剤は純度が悪く、第VIII因子のみでなく、フォンヴィレブランド因子が混入しています。そのため、フォンヴィレブランド病の止血管理としても有効です。
7)遺伝子組換え活性型第VII因子製剤(ノボセブン):
これは究極の止血剤です。血友病の患者さまで、濃インヒビターが出現した時の代替え治療薬(バイパス製剤)として用いられます。また後天性血友病にも適応があります。日本では、血友病インヒビターと後天性血友病に対してのみ保険が通っています。ただし、脳出血、外傷時の出血などほとんど全てのタイプの出血に対して有効ではないかと期待されています(ノボセブンの参考記事)
ただし、1アンプルが約30万円と高価なことと、現在は血友病インヒビターと後天性血友病にしか使用が認められていないのが残念です。しかし、ほとんど全てのタイプの出血に有効ではないかと期待されている究極の止血剤ですので、早く種々の出血に対しての使用が認可されて、価格も安くなってほしいと願っています。
8)ビタミンK製剤:
ビタミンK欠乏症の時の出血に対して、劇的に効きます。表現を変えますと、ビタミンK欠乏症以外の出血に対しては、全く無効です。
9)アドナ(内服も注射もあります):
止血剤と言えば、このお薬をまずイメージすることが多いくらい有名なお薬ですが、効果は極めてマイルドです。副作用もまずありませんので、使用しても良いですが過度な期待は禁物です。
10)トラネキサム酸(商品名:トランサミン):
線溶活性化が強い時の出血に対しては、劇的に効果を発揮します。しかし、表現をかえれば、線溶活性化が強い時の出血でなければあまり効果を期待できません。アドナよりはまだ効果があるかも知れませんが。。。
トランサミンは、線溶活性化が極めて強いタイプの播種性血管内凝固症候群(DIC)に対して上手に使用しますと(ヘパリンと併用して)著効しますが、間違って使用しますと全身性の血栓症により死亡するという報告もあります。正に諸刃の剣的なお薬です。DICに対して使用する時は、必ず専門家に相談して使用すべきと考えられます。
(以下でもリンクしています)
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 05:32| 出血性疾患 | コメント(0) | トラックバック(0)