2009年01月04日
播種性血管内凝固症候群(DIC):多臓器不全(MOF)の有無とFDP(図解30)
上図では、DIC症例を、多臓器不全(multiple organ failure:MOF)の有無で分類して比較しています。MOF合併例は予後不良で死亡例が多く含まれていますが、MOF非合併例では全員がDICから離脱して生還しています。
MOFの有無にかかわらず、TATの上昇がみられています。PTの延長がみられる症例もありますが、ほとんど正常の症例も少なくありません。フィブリノゲンは、MOFの有無とは関係なく、むしろ正常に留まっている例が多いことが分かります。最近は、DIC診断におけるフィブリノゲン低下の意義は乏しくなっていますが(線溶亢進型DICを除く)、上図からもその点の理解ができます。
さて、FDPはどうでしょうか?
予想に反して、 FDPはMOFを合併して予後不良であったDIC症例の方が上昇の程度が軽度です。一方、MOFの合併がなく予後良好であった症例の方が高度に上昇しています。たとえば、旧厚生省DIC診断基準では、FDPが高値であるほどDICスコアは大きくなり重症であると考えられてきた歴史があると思いますが、上図ではその逆の結果となっているのです。
その逆説の理由は何でしょうか?
MOFを合併したDIC症例では、線溶阻止因子PAIが著増するために、線溶に強い抑制がかかります。そのため線溶活性化は軽度にとどまり(PICの上昇は軽度に留まり)、血栓の溶解はあまり進行しません。血栓分解を反映するFDPは軽度上昇にとどまる訳です(参考:敗血症に合併したDIC)。
一方、MOF非合併DIC症例では、線溶阻止因子PAIの上昇はあまりないために、線溶に抑制がかかりまません。そのため線溶活性化は高度となり(PICの上昇は高度となり)、血栓の溶解が進行します。血栓分解を反映するFDPは明らかに上昇する訳です。
このように、FDPの上昇度によってDICの重症度が反映されない(むしろ逆説的になる)ということは、データを解釈する際に注意が必要なのです。
(続く)
以下で、DIC関連記事とリンクしています。
播種性血管内凝固症候群(DIC)【図説】へ(シリーズ進行中)
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 10:26| 播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解) | コメント(0) | トラックバック(0)