金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2009年02月10日

アトピー咳嗽 vs. 咳喘息:咳嗽の診断と治療(8)

 

 咳喘息:咳嗽の診断と治療(7)からの続編です(咳嗽ガイドライン関連記事)。 



【アトピー咳嗽】atopic cough

概念

気管支拡張薬が全く無効で、ヒスタミンH1-拮抗薬とステロイド薬が有効な乾性咳嗽を呈する疾患概念として、1989年に我が国から提唱された疾患概念です。

「アトピー素因」とは、過去、現在または将来に、アレルギー疾患を発症した、発症している、または発症する可能性のある素因を意味していますが、IgE抗体産生を意味する狭義の意味ではありません。


病態

以下の表(以前の記事でも掲載しています、再掲です)に示したように、咳感受性亢進を呈する好酸球性気管・気管支炎が基本病態です。咳感受性とは気道表層の知覚神経(C-線維かAδ-線維かの同定は不明)の過敏性を言います。

アトピー咳嗽は、好酸球性炎症が中枢気道のみであり末梢気道には認めない点が、咳喘息と大きく異なる病態です。

慢性咳の表*




診断

アトピー咳嗽の簡易診断基準を以下に示します。


アトピー咳嗽の簡易診断基準

1.    喘鳴や呼吸困難を伴わない乾性咳嗽が3週間以上持続
2.    気管支拡張薬が無効
3.    アトピー素因を示唆する所見 (※) または誘発喀痰中好酸球増加の1つ以上を認める
4.    ヒスタミンH1-拮抗薬または/およびステロイド薬にて咳嗽発作が消失


(※)アトピー素因を示唆する所見:


1)    喘息以外のアレルギー疾患の既往あるいは合併
2)    末梢血好酸球増加
3)    血清総IgE値の上昇
4)    特異的IgE陽性
5)    アレルゲン皮内テスト陽性

 

この治療的診断では、気管支拡張薬が無効なために咳喘息が否定できていて、ヒスタミンH1-拮抗薬ないしステロイド薬で軽快することが診断根拠となっています。


治療
以下の図(咳喘息とアトピー咳嗽の治療方針)に示したような治療を行います。

咳階段

左側は咳喘息、右側はアトピー咳嗽の治療です。
稀には両疾患の合併もあります。
効果が不十分な時は上方の治療薬を追加します。
症状が軽快した場合、咳喘息では長期吸入ステロイド療法が推奨されますが、アトピー咳嗽では治療を終了します。


アトピー咳嗽の重症度分類by 治療効果

軽症:ヒスタミンH1-拮抗薬で咳嗽が消失。
中等症:吸入ステロイド薬の併用で咳嗽が消失。
重症:上記に加えて、経口ステロイド薬の上乗せによって咳嗽が消失。
難治性:上記のいずれでも咳嗽が消失しない場合。

重症と難治性は専門医の診療が好ましいです。

アトピー咳嗽は、喘息への移行を認めませんので、症状が軽快すれば治療を中止できます。

(続く)

 

【シリーズ】  咳嗽の診断と治療

1)ガイドライン

2)咳嗽の定義 & 性状

3)急性咳嗽

4)遷延性咳嗽 & 慢性咳嗽

5)咳嗽の発症機序

6)診断フローチャート

7)咳喘息

8)アトピー咳嗽 vs. 咳喘息

9)副鼻腔気管支症候群(SBS)

10) 胃食道逆流症(GERD)

11)慢性咳嗽&ガイドライン

 

【関連記事】 好酸球性下気道疾患

1)概念 & β2-刺激薬の特徴

2)咳喘息

3)アトピー咳嗽 & 非喘息性好酸球性気管支炎

4)咳喘息・アトピー咳嗽・非喘息性好酸球性気管支炎の関係

 


【関連記事】NETセミナー

慢性咳嗽の診療

非小細胞肺癌治療の最前線

肺がんに気づくサイン

 

 
【リンク】金沢大学血液内科・呼吸器内科関連

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 07:09| 咳嗽ガイドライン | コメント(0) | トラックバック(0)

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