発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の治療 :溶血性貧血(7)
自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の治療 :溶血性貧血(6)からの続きです。
【発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の治療】
厚生労働省のガイドラインを参考に治療を計画します。溶血症状に乏しく造血不全や血栓症がない場合、通常は無治療観察でよいです。
1.溶血発作の治療
(1) 輸血:Hb 9 g/dL以上を目標に赤血球輸血を実施します。貧血の改善による全身状態の回復に加え、PNHタイプ赤血球造血が抑制され、溶血の軽減も期待できます。
なお、PNHに対する輸血には、血漿に含まれる補体や免疫グロブリンを除去するため、長年洗浄赤血球が用いられてきました。しかし、通常の赤血球濃厚液中に含まれる血漿成分はごく微量であり、実際に溶血を来す例はほとんどないことから、輸血は赤血球濃厚液でよいです。
(2) 補液・ハプトグロビン投与:血中遊離ヘモグロビン排泄・代謝促進と腎不全予防を企図して実施します。
(3) 誘因除去:誘因疾患(感染症が契機になることが多いです)を治療します。
2.溶血発作の予防
(1) 誘因回避:ビタミンCを大量に摂取しないようにします。感染症罹患を避けることは難しいですが、発症後は速やかに治療を開始するように指導しておくことも重要です(あらかじめ抗菌薬を持参させる、医療機関に早めに受診するなど)。
(2) 溶血治療:ステロイドや蛋白同化ホルモンが用いられることが多いですが、劇的な効果がみられることは少ないです。効果と毒性を考慮した上で、適応を慎重に判断します。
3.血栓予防と治療
欧米に比べ日本は血栓症の合併症は比較的少ないのですが、産褥期や外科手術を契機に発症することがあり、注意が必要です。
女性は経口避妊薬の使用を避けるべきと考えられます(経口避妊薬には血栓症の副作用が報告されているためです)。
血栓症発症時には、一般の血栓症治療と同様に、ヘパリン類治療や、必要があれば血栓溶解療法(線溶療法)を考慮します。ただし、線溶療法には脳出血などの致命的な出血を含めて副作用の問題がありますので、その適応に関しては慎重に判断する必要があります。
急性期にはヘパリン類主体の治療を行いますが、症状が改善したのちの慢性期にはワルファリン(商品名:ワーファリン)治療を行うのが一般的です。
重篤な血栓症を繰り返す症例には、骨髄移植が考慮されることもあります。
4.造血不全の治療
再生不良性貧血の治療方針に準拠して行います。
輸血のほか、シクロスポリンや抗胸腺グロブリン、造血因子、骨髄移植などの適応が考慮されます。
5.妊娠
妊娠により、血栓傾向、貧血・血小板減少の悪化が予想されますので、妊娠は推奨されません。
【発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)治療のポイント】
最近、補体による溶血反応抑制を目的として、C5に対するヒト化単クローン性抗体エクリツマブ(eculizumab)が開発されました。
第3相試験では、輸血依存状態のPNH患者97名にエクリツマブが投与され、患者の87%に奏効し、患者の半数が輸血不要となりました。国内での審査・承認が待たれるところです。
【溶血性貧血】
1)赤血球寿命
2)溶血性貧血の診断基準(厚生労働省研究班)
3)溶血性貧血の病型分類
4)自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の診断
5)発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の診断
6)自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の治療
7)発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の治療
8)溶血性貧血の治療(海外との比較)
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:34| 溶血性貧血 | コメント(0) | トラックバック(0)