電撃性紫斑病とワーファリン:血液凝固検査入門(21)
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プロテインC(PC)は、アンチトロンビン(AT)同様に、体内に存在する重要な凝固阻止因子です。
PCは、トロンビン-トロンボモジュリン複合体によって活性化プロテインC(APC)に転換します(参考:トロンボモジュリン)。そして、APCは、プロテインSを補酵素として、活性型第V因子(FVa)と活性型第VIII因子(FVIIIa)を不活化します。
先天性PC欠損症という先天性血栓性素因が知られています(参考:先天性血栓性素因と病態)。若くして、深部静脈血栓症や肺塞栓などの静脈血栓症を発症します。
先天性PC欠損症のホモ接合体の場合、なかなか生存することが困難なのですが、新生児期に電撃性紫斑病(purpura fulminans)を発症することが知られています。紫斑病とは言っても、病気の本態は出血ではなく、DIC(播種性血管内凝固症候群(図解シリーズ))と類似した著しい血栓傾向です。PCが存在しないために、皮膚の微小循環レベルで血栓を多発します。そして、二次的に出血(紫斑)をきたします。
先天性PC欠損症のヘテロ接合体の場合は、新生児期に電撃性紫斑病を発症することはありませんが、ワルファリン(商品名:ワーファリン)内服後に電撃性紫斑病の病態を来すことがあります(warfarin induced skin necrosis)。
その理由は以下の通りです。
1) ワーファリンの内服によってビタミンK依存性蛋白であるPCの活性が、低下します。しかも、PCの半減期は6〜8時間と短いために、PC活性は速やかに低下してしまいます。
2) 先天性PC欠損症(ヘテロ接合体)の場合、元来PCが半分しか存在していないために、ワーファリンの内服によってPC活性は速やかに著減して0%に近づいてしまいます。
3) ワーファリンが抗凝固活性を発揮するためには、VII、IX、X、II因子(最も半減期の長いII因子まで)低下する必要があります。
4) 先天性PC欠損症(ヘテロ接合体)では、ワーファリン内服によりII因子が低下する前に(ワーファリンが十分な抗凝固活性を発揮する前に)、PCが著減するために、かえって血栓傾向が悪化するのです。
先天性PC欠損症(ヘテロ接合体)の患者さんでは、抗凝固療法治療薬であるワーファリン内服によって、かえって血栓傾向が悪化するというのは皮肉な現象です。
しかし、先天性PC欠損症(ヘテロ接合体)の血栓症発症予防のための治療は、やはりワーファリンなのです。それでは、どうすれば良いのでしょうか。
ワーファリンによって、VII、IX、X、II因子(最も半減期の長いII因子まで)低下すれば大丈夫です。ですから、ワーファリン導入時が危ないと言えます。ワーファリン導入時にヘパリン類を併用することで、電撃性紫斑病(warfarin induced skin necrosis)を回避することができます。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 05:41| 凝固検査 | コメント(0) | トラックバック(0)