2009年04月03日
TAT・F1+2・SF・Dダイマー:血液凝固検査入門(32)
抗血栓・血小板・凝固 療法:血液凝固検査入門(31)から続く。
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抗血栓療法には、抗血小板療法と抗凝固療法があること、そしてこれらの使い分けが重要であることは前回記事(血液凝固検査入門(31))にさせていただきました。
これらの抗血小板療法や抗凝固療法が必要な患者さんは、血小板活性化状態や凝固活性化状態にある患者さんということができます。血液検査で、血小板活性化状態や凝固活性化状態を評価することはできるのでしょうか?
残念なことに、血小板活性化状態を評価できるマーカーは、少なくとも保険診療の範囲内ではありません。研究室レベルで、血小板活性化マーカーを検討している医療機関はありますが、一般臨床で応用可能になるのにはまだまだ時間がかかりそうです。
一方、凝固活性化状態を評価できるマーカーは複数存在しています。
凝固活性化マーカー
1) トロンビン-アンチトロンビン複合体(thrombin-antithrombin complex:TAT)
凝固活性化の結果として最終的に産生されるトロンビンというkey enzyme(鍵となる酵素)の産生量を反映するマーカーです。トロンビンとその代表的な阻止因子であるアンチトロンビン(AT)が1:1結合したものがTATです。TATが高いということは、生体内でトロンビン産生が亢進している、すなわち凝固活性化状態にあるということを意味します。
TATは非常に優れたマーカーですが、弱点もあります。
<TATの弱点>
a) 正確性?:トロンビンの代謝経路としては、アンチトロンビンとの結合の他に、トロンボモジュリン(TM)との結合などその他の代謝経路もあります。TATをみても、key enzymeであるトロンビン産生量を正確に把握できないのではないかという指摘です。
b) 正常域近傍の感度?:TATの正常値は3〜4ng/mL未満です。播種性血管内凝固症候群(DIC)、深部静脈血栓症(DVT)などのように高度な凝固活性化をきたす病態には大変敏感なマーカーです。しかし、正常値近傍あるいは正常値よりも低くなるかどうかをみるには鈍感なマーカーなのです。たとえば、ワーファリンによる抗凝固療法を行っても正常値よりも低くなるところまでみることはできません。TATは最低値は0ng/mLですので、これより低いレベルを評価することはできないのです。
c) artifactが出やすい:上記の図にあるマーカーの中で、最もartifactが出易いマーカーはTATです。たとえば、極めて採血が困難な方で、採血に長時間を要してしまった患者さんでは、artifactとしてTATが高値になってしまうことがあります。採血中に試験管内凝固が起きた場合に、最も影響を受け易いマーカーがTATです。共同研究をさせていただいている当院検査部から素晴らしい欧文論文が報告されています(参考文献)。
2) プロトロンビンフラグメント1+2(prothrombin fragment 1+2:F1+2)
F1+2も、TAT同様に凝固活性化マーカーです。上図で示されているように、プロトロンビンからトロンビンに転換する際に、プロトロンビンから遊離するペプチドです。F1+2は、TATの弱点とされた点をクリアしています。
<F1+2の特長>
a) 正確性:TATよりもkey enzymeであるトロンビン産生量を正確に反映しています。F1+2は、プロトロンビンからトロンビンに転換する際に、プロトロンビンから遊離するペプチドですので、100%トロンビン産生量を反映していることになります。トロンビン産生量を評価したいという観点からは、TATよりも正確性において優れていることになります。
b) 正常域近傍の感度:F1+2の正常値は50〜170pMです。DICやDVTなどのように高度な凝固活性化をきたす病態にも敏感ですが、正常値近傍にも鈍感なマーカーです。たとえば、ワーファリンによる抗凝固療法を行いますと、十分な効果が発揮されている場合には、正常値よりも低くなるところまでみることができます。
d) artifactが出にくい:採血困難で長時間を要した場合であってもTATよりもartifactが出にくいです(参考文献)。
3) 可溶性フィブリン(soluble fibrin:SF)
これも凝固活性化を反映したマーカーです。フィブリノゲンからフィブリンに転換する過程で形成される中間産物です。上図の中では最も新しいマーカーですので、今後浸透していくのではないかと思います。管理人は、SFはTATとは違ったものを評価している、換言しますとSFとTATが解離することも少なくない印象を持っています。
4) Dダイマー(D-dimer:DD)
血栓が形成されて(安定化フィブリンが形成されて)、その血栓が溶解しますとDダイマーが血中に出現します。ですから、Dダイマーが高値であると言うのは、血栓が既に形成されてしまって、かつ溶解したということを意味しています。なお、Dダイマーは、artifactが全く出ないというのも強みです。
上図のマーカーを上手に駆使することによって、凝固活性化の病態を適確に把握できるのではないかと思います。悪性腫瘍とともに血栓症は人間の二大死因です。管理人は、上図のマーカーのどれかを健康診断の血液検査に組み込んではどうかと真剣に考えています。
TATを健康診断にと言いたいところなのですが、健康診断でartifactが出るのは困りますので、Dダイマーが良いのではないかと思っています。
健康診断でDダイマーが組み込まれば、多くの方が早期診断、早期治療の観点から恩恵を受けるのではないかと思っています。
(続く)
心房細動と凝固活性化マーカー:血液凝固検査入門(33)
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:23| 凝固検査 | コメント(0)