血友病とは
血友病(hemophilia)
【概念】
血友病は先天性出血性素因の一つで、伴性劣性遺伝(X連鎖劣性遺伝)します。この遺伝形式のため、血友病は母方から遺伝しますが、発症するのは男性のみの病気です。母親が血友病の遺伝子を有したキャリアーになりますが、女性は発病しません。
ただし、例外があります。母親が血友病のキャリアーで、父親が血友病を発症している場合には、その子に女性の血友病がありえます。実際、日本でもごくわずかではありますが、女性の血友病の方がおられます(1%未満です)。
血友病には、血友病A(凝固第VIII因子の先天性欠損症)と血友病B(凝固第IX因子の先天性欠損症)があります。両者は欠損している凝固因子は異なるのですがなぜか臨床症状は全く同じです。
なお、家系内に血友病のいない孤発例(突然変異)も、約20%存在します。
【疫学】
全血友病患者さんでの出生頻度は、男子出生1万人に1〜2人と言われています。血友病Aの方が、血友病Bよりも多く、血友病A:B=5:1です。
【重症度分類】
凝固因子活性のレベル(血友病Aでは第VIII因子活性、血友病Bでは第IX因子活性)によって重症度分類されます。
重症:凝固因子活性<1%
中等症:凝固因子活性 1〜5%
軽症:凝固因子活性>5%
おおよそ、凝固因子活性のレベル(血友病Aでは第VIII因子、血友病Bでは第IX因子)と臨床症状の重症度は相関して、凝固因子活性のレベルが低いほど出血症状(後述の関節内出血など)は高頻度にみられやすいですが、例外もあります。
【症状】
血友病の出血症状として最も特徴的なのは、関節内出血です。全ての関節での出血がありえますが、膝関節は最も出血の多い関節です。関節内出血をきたしますと、関節が腫れて痛みを伴います。
関節内出血を繰り返しますと、関節拘縮(関節がこわばって曲がりにくくなる)をきたして日常生活に制限をきたしてしまうことがあります。そうならないように治療すべきなのですが、重症の場合や、適切な治療がなされませんと、関節拘縮をきたしてしまいます。
関節内出血の次に有名な、血友病での出血部位は筋肉内出血です。
その他には、皮下出血、皮下血腫、外傷時出血、歯肉出血、鼻出血、血尿などもあります。まれではありますが、頭蓋内出血もありえます。
軽症例では、抜歯時の出血で初めて出血性素因に気がつかれて、血友病の診断がなされることもあります。あるいは、手術前の止血スクリーニング検査で偶然異常を指摘されて診断されることもあります。
【検査】
・ プロトロンビン時間(PT)、出血時間:正常
・ 活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT):延長
・ 凝固因子活性:血友病Aでは第VIII因子活性の低下、血友病Bでは第IX因子活性の低下。
(補足)
軽症の血友病では、APTTの延長がはっきりしないこともありますので、血友病を疑ったら、APTTが正常であっても第VIII&IX因子を測定した方が良い場合があります。
【治療】
この病気は先天性の疾患ですので、根治することはできません。ただし、コントロールすることはできます。
血友病A:第VIII因子製剤(クロスエイトM、コージネイト、アドベイドなど)
血友病B:第IX因子製剤(ノバクトM、クリスマシンMなど)
コンファクトFも第VIII因子製剤ですが(血友病Aにも有効ですが)、本剤は第VIII因子のみならずvon Willebrand因子も含まれているため、von Willebrand病の出血に対して用いられることが多いです。
軽症〜中等症例では、出血時(関節内出血など)に上記製剤を静注しますが、重症例では出血とは無関係に予防的に上記製剤を静注することがあります(2〜3回/週)。なお、出血してから注射する場合には、速やかに注射できることが重要ですので、現在自己注射が可能になっています。速やかに注射できませんと関節拘縮を進行させてしまいます。
糖尿病患者さんでのインスリン自己注射(皮下注射)という話は耳にすると思いますが、血友病患者さんでは凝固因子製剤を自己注射(静脈注射)されています。
詳細は血友病治療のガイドライン(日本血栓止血学会)があります。
【凝固因子製剤投与量の計算式】
<第VIII因子製剤(血友病A)の場合>
第VIII因子をどの程度上昇させるかは、出血の重症度、どのような規模の手術を予定しているかによって異なります。詳細は血友病治療のガイドライン(日本血栓止血学会)を参照いただければと思います。
第VIII因子製剤 1U/kgの静注によって、第VIII因子2%上昇が期待できます。
期待値(%)=[第VIII因子製剤投与量(U)/体重(kg)]×2
たとえば、50 U/kg(体重60kgの人では、3,000U)投与すると、30分後には第VIII因子活性は100%になります。
ただし、第VIII因子の半減期は半日程度(8〜12時間)のため、上記例の投与で100%に上昇した第VIII因子は、24時間後には20%程度にまで低下します。この血中濃度の変動を避けるために、手術などに伴う第VIII因子製剤補充では1回静注ではなく持続点滴を行うことが多くなっています。
<第IX因子製剤(血友病B)の場合>
第IX因子製剤 1U/kgの静注によって、第IX因子は約1(〜1.5)%上昇が期待できます。
第IX因子の半減期は1日程度(12〜24時間)です。
これらのことを考慮して、第VIII因子製剤の補充療法を改変した治療を行います。
第IX因子製剤では第VIII因子製剤と比較して、半分しか血中濃度は上昇しませんが、半減期は2倍ということになります。
【治療合併症とその対処】
第VIII(IX)因子インヒビター
血友病A(B)の患者さんにとっては、第VIII(IX)因子は自分の体内で産生していませんので、未知の蛋白と言うことになります。
大変皮肉なことですが、血友病A(B)の患者さんに治療目的に第VIII(IX)因子製剤を投与しますと、抗体(同種抗体)が形成されてしまうことがあります。そうしますと、第VIII(IX)因子製剤の効果は激減してしまします。
血友病の患者さんの5〜20%でインヒビターが発生すると言われています。
インヒビターを発生した場合の血友病止血治療は、バイパス製剤を用いることになります。
具体的には、遺伝子組換え活性型第VII因子製剤(商品名:ノボセブン)や、活性型プロトロンビン複合体製剤(商品名:ファイバ)が用いられます。
【(補足)第VIII因子インヒビター】
第VIII因子に対するインヒビターが出現する場合は、以下の場合があります。
1)血友病A:
血友病Aに対して治療目的で第VIII因子製剤を投与することで、血中にインヒビター(同種抗体)が出現する場合です(上述)。
2)後天性血友病:
自己免疫性疾患、悪性腫瘍、妊娠、高齢などを背景に(はっきりとした背景がないことも多々あります)、第VIII因子に対する抗体(自己抗体)が出現します。まれな疾患ですが、この病気を知っているかどうかで、患者さんを救命できたり不幸な転帰になったりすることがあると考えられます。先天性の血友病とは無関係ですので、男性にも女性にも発症します。
(参考)
・APTTの延長
・APTT延長の解釈
・クロスミキシングテスト(混合試験)
・出血時間、血小板凝集能
【関連記事】
ノボセブン(遺伝子組換え活性型第VII因子製剤):究極の止血剤。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 19:39| 出血性疾患 | コメント(0)