DICモデル:Dダイマーとトランサミン(図解47)
DICモデル血尿と抗線溶療法:トランサミン(図解46)から続く
2種類の播種性血管内凝固症候群(DIC)モデルに対して、抗線溶薬であるトラネキサム酸(商品名トランサミン)を投与したところ、血尿の出現が強く抑制されたことに関しましては、前回記事にさせていただきました(DICモデル血尿と抗線溶療法:トランサミン(図解46))。
確かに、血尿だけに注目しますと、 DICモデルに対してトランサミンは良いことをしているように感じます。
さて、今回はDICの診断において最も重要なマーカーといわれているDダイマー(D-dimer)の変動を見てみましょう。
既に記事にさせていただいたように、組織因子(tissue factor: TF)誘発DICモデルは線溶活性化が充分であるために、Dダイマー(血栓の溶解を反映)は明確に上昇いたします。
DICモデルの比較
16. DICモデルへ
17. DICモデルの比較
18. LPS誘発DICモデル
19. 組織因子(TF)誘発DICモデル
20. 臓器障害の比較
21. 腎糸球体フィブリン沈着
22. 出血症状(血尿)
23. 病型分類(動物モデルとの対比)
24. 病態の共通点と相違点
一方、LPS誘発DICモデルにおいては、線溶阻止因子PAIが著増するために線溶に強い抑制がかかります。そのため、血栓溶解は充分でなくDダイマーの上昇は軽度に留まります。
さて、この2種類のDICモデルに対して、トランサミンを投与しますとどうなるでしょうか?
TFモデルでみられた急峻なDダイマーの上昇は、トランサミン(上図では、TF + TA)によってほぼ完全に抑制されます。LPSモデルにおいては、もともとDダイマーの上昇は軽度なのですが、トランサミンの投与により完全に抑制されます(上図では、LPS + TA)。
トランサミンによって、DICの重要なマーカーであるDダイマーが抑制されたということは(血尿も消失していますし:DICモデル血尿と抗線溶療法:トランサミン(図解46))、DICの病態は改善したということでしょうか?
いいえ、ここは慎重に考える必要があります。
確かに、DICが軽症である場合であってもDダイマーの上昇は軽度に留まると思いますが、DICが重篤であってもDダイマーの上昇が軽度に留まる可能性があるのです。
つまり、生体内重要臓器に微小血栓が多発しても、血栓が溶解しない場合です。血栓が溶解しないためにDダイマーは上昇しないのです。
33. FDP(Dダイマー)低値の意味
34. FDP(Dダイマー)低値の別の意味
35. FDP(Dダイマー)の上昇しない意義
36. DIC診断でFDP(Dダイマー)のみの限界
さて、DICモデルに対してトランサミンを投与したところDダイマーの上昇は抑制されたのですが、DICは良くなったのでしょうか、それとも悪くなったのでしょうか?
(続く)
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血液凝固検査入門(全40記事)
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:24| 播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解) | コメント(1)
◆この記事へのコメント:
この記事に対してご質問をいただいたのですが、お名前が書かれていましたので公開操作を行わず、記載内容の紹介のかたちをとらせていただきます。
(以下がご質問内容です)
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ラットDICモデルを作製してるのですが、DダイマーやFDPを測定できず困ってます。ラットのDICマーカー測定どのように行ってますか?
いろいろ調べたのですがイイ方法がみつからず・・・助言をいただけると嬉しいです。
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(以上がご質問内容です)
分かる範囲内で回答させていただきます。
ラットのDダイマー測定ですが、人用の測定キットがラットにクロスするものとクロスしないものがあります。私たちは、三菱化学メディエンスのキットで測定しています。
ラットFDPに関しましては、私たちは経験がありませんので、回答はできません。すいません。
この度は、ご訪問ありがとうございました。
投稿者:血液・呼吸器内科: at 2011/01/05 17:59