金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2010年02月09日

遺伝子組換え活性型第VII因子製剤(ノボセブン)と血栓症

遺伝子組換え活性型第VII因子製剤(rFVIIa:商品名 ノボセブン)は、第VIII因子インヒビター(先天性血友病Aの合併症、後天性血友病)に対する適応を有した治療薬です。

この薬剤は止血効果が極めて優れているために、世界的に適応外使用がなされているのが現状です。究極の止血剤と言えるかも知れません。ただし、すぐれた効果を有しているものの、副作用は皆無という訳ではありません。

今回紹介させていただく論文は、遺伝子組換え活性型第VII因子製剤の合併症についての報告です。




「脳内出血に対するrFVIIaの投与と血栓塞栓症」

著者名:Diringer MN, et al.
雑誌名: Stroke 41: 48-53, 2009.

<論文の要旨>

脳内出血をきたした症例は、高齢、高血圧症、動脈硬化、糖尿病、臥床状態などの血栓塞栓症(TE)発症のリスクも有していることが多いのが特徴です。そのため、遺伝子組換え活性型第VII因子製剤(rFVIIa)は、TEを増加させる懸念もあります。

著者らは、rFVIIaによるTE発症頻度およびTE発症危険因子を明らかにするためFactor Seven for Acute Hemorrhage Stroke (FAST)トライアルのデータを解析しました。

脳内出血発症3時間未満の84症例が、rFVIIa 20μg/kg投与群、rFVIIa 80μg/kg投与群、プラセボ投与群に分類されました。心筋梗塞、脳梗塞、静脈TEに関しては詳細に評価されました。


その結果、動脈血栓症178例、静脈TE 47例が存在しました。静脈TEの発症頻度は3群間に差は見られませんでした。

一方、動脈血栓症はプラセボ投与群49例(27%)、rFVIIa 20μg/kg群47例(26%)、rFVIIa 80μg/kg群82例(46%)でした。心筋梗塞は、プラセボ群17例(6.3%)、rFVIIa 群57例(9.9%)にみられました。

動脈TEは、rFVIIa 80μg/kg投与(OR=2.14)、入院時の心&脳虚血徴候の存在(OR=4.19)、高齢(OR=1.14)、抗血小板薬の使用(OR=1.83)と関連していました。脳梗塞は各群それぞれ7、5、8症例みられました。


以上、リスクの高い患者に対する高用量rFVIIa の投与は、若干心筋梗塞発症を増やすものと考えられました。

また、脳出血に対するrFVIIa の投与は脳内出血量に対して抑制的に働くメリットの一方で、動脈TEが若干増加することに留意が必要と考えられました。







【リンク】

血液凝固検査入門(図解シリーズ)

播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 05:49| 出血性疾患