金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2010年02月20日

再生不良性貧血とシクロスポリン:金沢大学血液・呼吸器内科 中尾教授より-2

骨髄移植と骨髄不全:金沢大学血液・呼吸器内科 中尾教授より-1 より続く



【なぜ再生不良性貧血か?】


一方、正常造血幹細胞に対する免疫学的な攻撃(再生不良性貧血)や、異常造血幹細胞(白血病)に対する免疫学的な反応(graft-versus-leukemia、GVL効果)のメカニズムが解明できれば、その成果を直接臨床に反映させることができます。

抗白血病免疫についてはすでに多くの研究者が取り組んでいる割に成果が挙っていないので、謎の多い再生不良性貧血における免疫反応を解明すれば、違った切り口から抗白血病免疫を解明できるのではないかと考えました。

臨床的観察から科学的な真実を見出すためには、何といっても沢山の患者さんを診なければなりません。また、患者さんの協力を得て臨床検体を数多く収集することも重要です。

私が幸運であったのは、原田先生が他の施設に先駆けて新しい治療を取り入れることに積極的であったため、当時日本の他施設ではほとんど使われていなかったシクロスポリンがすでに多くの再生不良性貧血患者さんに投与されていたことでした。



【シクロスポリン依存性再生不良性貧血との出会い】

NIHへの留学から帰国して血液内科の専門外来を担当したところ、シクロスポリンを投与されて改善した患者さんの中に、この薬を減量すると悪化し、増量すると改善するという「シクロスポリン依存性」の再生不良性貧血症例があることに気付きました。

NIHの研究室で相部屋だった女性研究者が、抗胸腺細胞免疫グロブリン(ATG)が効かない再生不良性貧血に対するシクロスポリン療法の臨床試験を担当しており、そのような例の20−30%にシクロスポリンが効くと言っていたのですが、当時はシクロスポリンのようなT細胞だけに選択的に働く免疫抑制剤で良くなるほど再生不良性貧血は簡単な病気ではないと思っていたので、彼女の言うことに対しても半信半疑でした。

しかし、実際に見事にシクロスポリン依存性に造血が回復する例を何例も目にした結果、再生不良性貧血という病気がT細胞による自己免疫病であることを誰よりも強く確信するようになりました。

そこで感じたことは、このような臨床的に貴重な経験は、同じような患者さんを診る機会のある世界中の血液内科医に知らしめる必要があるということと、そのような免疫学的背景を持つ患者さんを解析すれば、長年謎であった再生不良性貧血の免疫学的機序が明らかになるのではないかという期待でした。

臨床家は研究に多くの時間を割くことはできないので、良い研究成果を挙げるためには、いくつかの作業仮説を立てて、当たる確率の高い研究テーマだけを選んでそれに取り組む必要があります。

シクロスポリン依存性の再生不良性貧血の場合、その病気の存在に気付いている人は他にいないので、何かを調べればそれらはすべて新知見になります。

 (続く)

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:26| 血液内科