自己免疫疾患:金沢大学血液・呼吸器内科 中尾教授より-3
再生不良性貧血とシクロスポリン:金沢大学血液・呼吸器内科 中尾教授より-2 より続く
【自己免疫疾患であることの証明】
最初に検証しようとしたのは、シクロスポリン反応性再生不良性貧血症例の骨髄細胞では、インターフェロンγという造血抑制性のサイトカインの遺伝子が恒常的に過剰発現されているのではないかという仮説です。
これはシクロスポリンが効きやすいということから当然予想されたことでしたが、実際にシクロスポリンで改善した患者さんの骨髄で、以前みられたインターフェロンγ遺伝子発現がみられなくなることを確認したときにはある種の感動を覚えました。
次に注目したのはヒト組織適合抗原(HLA)との関係です。
多くの臓器特異的自己免疫疾患では、特定のHLA分子が疾患のかかりやすさを決定していることが知られていました。再生不良性貧血でもHLA-DR2というクラスII抗原の頻度が高いという報告はあったのですが、これがこの病気の免疫病態に関わっているという証拠はありませんでした。
シクロスポリン依存性再生不良性貧血という純粋な自己免疫病を対象として検討すれば何らかの陽性の結果が得られるだろうと考え、当時塩野義製薬の研究所でHLA遺伝子タイピングキットの開発に携わっておられた兼重俊彦博士に何例か検体を送ってHLA遺伝子を決定してもらったところ、全例がHLA-DRB1*1501というアレルを持っていることが分かりました。
結果のレポートを見たとき、こんなに綺麗な現象があって良いものかと俄かには信じられませんでした。そのうちに、ささやかな発見の喜びとともに、これを追求すれば、長年多くの研究者が探し求めてきた造血幹細胞上の自己抗原が明らかにできるかもしれないという期待が膨らむのを感じました。
HLA分子はT細胞に抗原を提示する腕に当たります。腕の種類が決定すれば、その腕と抗原の両者を認識する骨髄中のT細胞を同定することによって、T細胞レセプターの相手(抗原分子)を同定できる可能性があります。
そこで、患者さんの骨髄から、病勢に一致して増殖しているCD4陽性T細胞のT細胞レセプターをまず同定し、そのようなレセプター構造(T細胞の顔)を持つT細胞の単離を試みました。有望なT細胞はいくつか単離できたのですが、CD4陽性T細胞の対応抗原を決定するための良い方法がまだ確立されていないため、このアプローチでは自己抗原を同定することはできませんでした。
(続く)
再生不良性貧血 1999〜:金沢大学血液内科 中尾教授より-4 へ
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 03:37| 血液内科