再生不良性貧血 1999〜:金沢大学血液内科 中尾教授より-4
自己免疫疾患:金沢大学血液・呼吸器内科 中尾教授より-3 より続く
【1999年から現在まで】
前置きが非常に長くなりましたが、ここからが教授就任以降の歩みになります。
再生不良性貧血例の骨髄において、何らかの抗原を認識するT細胞が増えていることは証明できたのですが、上記の理由で、その抗原が何かは依然として不明でした。
1999年のアメリカ血液学会で、私がかつて属していたNIHのラボから、興味深い発表がなされました。それは、発作性夜間血色素尿症(PNH)でみられる特定の蛋白(GPIアンカー膜蛋白)が欠失した顆粒球や赤血球(PNH型血球)の増加がみられる骨髄異形成症候群(MDS)は、このPNH型血球が増加していないMDS患者に比べて、ATGによって造血能が改善する確率が有意に高いという発表でした。
実はNIHのラボから発表される免疫関係の研究成果の多くは私たち研究の後追いで、独創性の高いものはほとんどなかったのですが、この発表を聞いた時には初めて感心されられました。
再生不良性貧血やMDS症例の一部の例では、このPNH型血球という一種のできそこないの血球が増えていることが以前から知られていました。
これは、GPIアンカー膜蛋白の生合成を司るPIGAという遺伝子に突然変異を来した造血幹細胞が、GPIアンカー膜蛋白を細胞表面に発現できないために、骨髄に対する免疫学的な攻撃を免れて生き残る結果であろうと想像されていましたが、直接の証拠はありませんでした。
PNH型血球が増えている患者に免疫病態が関与しているというNIHの報告はこのエスケープ仮説を臨床的に証明したものでした。これが本当であれば、GPIアンカー膜蛋白の中に、造血幹細胞に対する攻撃の標的となる自己抗原が含まれている可能性があります。
(続く)
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 05:58| 血液内科