金沢大学・血液内科・呼吸器内科
※記事カテゴリからは過去の全記事をご覧いただけます。
<< 前のエントリトップページ次のエントリ >>
2010年02月24日

MDSとPNH型血球:金沢大学血液内科 中尾教授より-6

微少PNH型血球:金沢大学血液内科 中尾教授より-5 より続く



【「MDSもどき」の同定】


このPNH型血球が検出される骨髄不全症例を検討していると、いくつかの共通の特徴があることが分かりました。

臨床的にもっとも重要なことは、典型的な再生不良性貧血だけでなく、骨髄細胞に形態異常があるため「MDS」と診断される症例の中にこのPNH型血球がしばしば検出されることです。


PNH型血球陽性の骨髄不全は形態異常の有無にかかわらず、シクロスポリンやATGに反応して改善します。


MDSという病気は形態異常によって診断される症候群でありながら、疾患概念はクローン性造血(一つの幹細胞によって造血が維持されている状態)による前白血病状態と定義されている不思議な疾患ですが、PNH型血球の増加を伴うMDSは実は免疫抑制療法によってすっかり改善してしまうMDSもどき(実体は再生不良性貧血)なのではないかと考えました。

そこで、再生不良性貧血やMDS症例の末梢血顆粒球を遺伝学的な手法で石山君が調べたところ、PNH型血球が陽性の骨髄不全症例の造血は多クローン性であることが明らかになりました。また、その後杉盛君による日本中の膨大な再生不良性貧血症例の解析により、PNH型血球の存在が免疫的な骨髄不全の優れたマーカーであることが証明されました。

このように実際にはクローン性造血ではない良性の骨髄不全でありながらMDSと診断される「MDSもどき」は日本だけでなく世界中に潜在しています。


困ったことにいったんMDSと診断されると、その患者さんは不治の病であり、造血幹細胞移植だけが唯一の根治療法であると認識されてしまい、たとえそれが「MDSもどき」であっても適切な治療がなされなくなります。


これは患者さんにとって非常に不幸なことですので、骨髄不全例をみた場合にはまずPNH型血球を検索するように、10年近く念仏のように唱え続けてきました。


しかし、微少なPNH型血球の存在がなかなか受け入れられないことに加えて、多くの血液内科医には「骨髄細胞に形態異常があるとMDS」、「MDSというと前白血病」いう先入観が刷り込まれているため、MDSもどき(実は再生不良性貧血)が未だに世界中でMDSと診断されているのが現状です。

(続く)

再生不良性貧血とT細胞:金沢大学血液内科 中尾教授より-7 へ 

 

【関連記事】NETセミナー

汎血球減少のマネジメント:特に骨髄不全について

輸血後鉄過剰症と鉄キレート療法

急性骨髄性白血病の治療

悪性リンパ腫の診断

造血幹細胞移植

移植片対宿主病(GVHD)の分類と診断

ドナーリンパ球の威力 −ドナーリンパ球輸注(DLI)−

貧血患者へのアプローチ

血液内科に関する研修医からのQ&A

 

【リンク】

金沢大学 血液内科・呼吸器内科ホームページ

金沢大学 血液内科・呼吸器内科ブログ

研修医・入局者募集

投稿者:血液内科・呼吸器内科at 07:02| 血液内科