金沢大学・血液内科・呼吸器内科
※記事カテゴリからは過去の全記事をご覧いただけます。
<< 前のエントリトップページ次のエントリ >>
2010年03月01日

PNH型血球と再生不良性貧血:金沢大学血液内科 中尾教授より-10

PNH型血球の意義:金沢大学血液内科 中尾教授より-9 から続く



【患者さんから学ぶ(2)】

ところが、これもある患者さんの診療をきっかけに証明することができました。

50代の再生不良性貧血患者さんが、兄弟から造血幹細胞移植を受けた後に汎血球減少を来しました。その患者さんは、同じドナーからすでに2回の造血幹細胞移植を受けており、血液が完全にドナー型に置き換わっているにもかかわらず生着不全を来したことから、危険性は高いがもう一度別のドナーから移植するしかないのではないかと教室では議論されていました。

教授回診の際に検査結果をみたところ、血球減少のパターンがPNH型血球陽性再生不良性貧血例のパターンと良く似ていたため、当時主治医をしていた杉盛君に「まさかとは思うが、念のためPNH型血球を調べてみたら」と指示しました。

翌日杉盛君が興奮した面持ちで教授室にやってきて、陽性結果の生データを見せてくれました。

このときは、10年前に王さんから微少PNH型血球陽性例の最初の結果を見せられたとき以上に驚きました。


その後望月果奈子君や杉盛君らの検討により、この患者さんでは、移植されたドナー由来の骨髄に対して自己(ドナー)のリンパ球による免疫学的な攻撃が起こった結果、元々ドナーの骨髄に存在していた静止状態のPIGA変異幹細胞が増殖したことが明らかになりました。

すなわち、PNH型血球の増加が本当に再生不良性貧血の発症とともに起こることが、この患者さんの経験によって初めて証明された訳です。

患者さんはその後再移植を受けることなく、ATG療法で寛解となりました。

この例は、患者さんを十分観察することや、造血幹細胞移植という治療方法が、動物モデルのない疾患のメカニズムを明らかにする上でいかに有用かを示す好例であったと思われます。


(続く)

 特発性骨髄不全と免疫:金沢大学血液内科 中尾教授より-11 へ

 

【関連記事】NETセミナー

汎血球減少のマネジメント:特に骨髄不全について

輸血後鉄過剰症と鉄キレート療法

急性骨髄性白血病の治療

悪性リンパ腫の診断

造血幹細胞移植

移植片対宿主病(GVHD)の分類と診断

ドナーリンパ球の威力 −ドナーリンパ球輸注(DLI)−

貧血患者へのアプローチ

血液内科に関する研修医からのQ&A

 

【リンク】

金沢大学 血液内科・呼吸器内科ホームページ

金沢大学 血液内科・呼吸器内科ブログ

研修医・入局者募集

投稿者:血液内科・呼吸器内科at 17:03| 血液内科