金沢大学血液・移植研究室(骨髄不全):研究室紹介(3)
金沢大学血液・移植研究室(臨床研究):研究室紹介(2)から続く
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【血液・移植グループ(3)】
<骨髄不全>
平成18年1月より開始した「成人再生不良性貧血(再不貧)における免疫病態マーカーの意義を明らかにするための多施設共同前方視的臨床試験」は、平成21年7月までに110例の登録が得られ、登録受け付けを終了しました。
最終登録例の効果判定を待って、治療効果とマーカーとの関係を解析する予定です。歴代の大学院生たちが見つけたマーカーが、造血障害の日常臨床に役立つことが証明されることを期待したいと思います。
「高感度フローサイトメトリー法を用いたPNH型血球の検出」は、その重要性が広く認知されるようになりました。日本全国からPNH型血球検査の依頼が多数寄せられ、解析結果の判定と報告(治療法のアドバイスも含む)を行っています。
また、低リスクの骨髄異形成症候群(MDS)でもPNH型血球の有無により免疫抑制療法の有効性が予測出来ることがわかり、現在染色体異常の有無とPNH 型血球の出現との関連を解析しています。
肝炎後再不貧では、肝細胞と造血幹細胞が共有する抗原に対して何からの免疫反応が起こっていると推測されていますが、その標的抗原は今まで不明でした。これを明らかにするため、肝炎後再不貧患者血清を用いて、肝細胞株に反応する抗体の有無をスクリーニングすることにより、自己抗原の同定を試みたところ、Heat shock protein (HSP) 72であることが判明しました。
HSP72は加温などのストレスで誘導されるシャペロンタンパクの一つであり、NK細胞やヘルパーT細胞の抗腫瘍活性を増強することが報告されています。
HSP72蛋白に対する血清中の抗体の有無をウェスタンブロットで検討したところ、抗HSP72抗体は通常の肝炎患者では検出されず、肝炎後再不貧患者で高率(12例中11例(92%))に検出されたことから、HSP72は肝炎後の再不貧の発症に関連した自己抗原の一つと考えられました。
ヒト造血幹細胞から成熟血球への分化経路は、個々の幹細胞クローンの分化の過程をなぞるよい指標がないため、ほとんど分かっていません。
これまでの検討では、骨髄不全患者で検出されるPNH型血球はPIG-A変異幹細胞に由来し、その変異幹細胞は正常幹細胞に近い動態を示すと考えられています。そこで、多数の骨髄不全症例を対象として、多系統の血球におけるPNH型血球の有無を検討しました。その結果、PIG-A変異幹細胞の分化経路も、正常幹細胞と同様であることが示唆されました。
また、骨髄不全患者でPNH型血球が増殖する機序について検討したところ、GPIアンカー型膜タンパクを介して細胞増殖を抑制する機序が、GPIアンカー型膜タンパク分子が欠如しているために機能せず、増殖が抑制されない可能性が考えられました。
(続く)
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 03:46| 血液内科