後天性血友病の発症頻度
後天性血友病は、100万人に1人の発症頻度と言われてきましたが、そうではなくもっと発症頻度が高いのではないかと思っています(後天性血友病(2):病態、疫学、発症率)。
当科での経験、または当科にご紹介いただいた症例のみでも、近年、相当数を経験させていただきました。
この疾患は、後天性血友病ではないかと疑わないと、なかなか診断に到達いたしません。血液内科のみならず、全ての臨床医にインプットしておいていただきたい重要疾患ではないかと思います(参考:クロスミキシング試験)。
今回紹介させていただく論文は、当科からのものですが、ご容赦くださいませ。
「高齢者に発症した後天性血友病の2例」
著者名:林 朋惠 ほか。
雑誌名:日本老年医学雑誌 47: 329-333, 2010.
<論文の要旨>
後天性血友病Aは凝固第VIII因子(以下FVIIIと略す)に対する自己抗体によって起こるまれな出血性疾患であり、高齢者に発症しやすいです。今回、半年の間に高齢者に発症した同疾患を2例経験したので報告します。
症例1:66歳、男性、脳出血発症後リハビリ中に筋肉内出血を認めました。APTT 100.3秒、FVIII活性<1%、FVIIIインヒビター力価42 BU/mlより後天性血友病と診断。プレドニゾロン(以下PSLと略す)50mg/日開始にて症状は改善しましたが、PSLの減量に伴いインヒビター力価が再上昇したため、PSL20mg/日にて免疫抑制療法を再開しインヒビターは消失しました。基礎疾患は特定できませんでした。
症例2:85歳、男性、進行胃癌あり、広範な皮下出血を認め当科紹介。APTT 75.1秒、FVIII活性2%、FVIIIインヒビター力価64 BU/mlより後天性血友病と診断。PSL20mg/日投与(止血治療として活性型プロトロンビン複合体製剤使用)が約8週間になる頃よりAPTTの短縮傾向、約12週でFVIII活性の上昇、インヒビターの消失がみられ、PSL継続のまま胃癌手術を施行、現在も寛解を維持しています。
同じ後天性血友病ながら2例の免疫抑制療法に対する反応は大きく異なっていました。基礎疾患の相違によると考えられますが、治療反応の悪かった症例2では患者の状態も悪く、免疫抑制療法の副作用である感染症のリスクが高い状態が続きました。
高齢者、特に基礎疾患に悪性腫瘍を有する後天性血友病A患者の診断、治療は非常に複雑であり、今後、個々の症例により柔軟な対応をすべく、さらなる症例の蓄積が重要と考えられました。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:21| 出血性疾患