血友病Aと第VIII因子インヒビター:免疫寛容療法を行わないと?
第VIII因子インヒビターには、先天性血友病Aに出現するものと(同種抗体)、血友病でない者で第VIII因子に対する自己抗体が出現する後天性血友病があります。
後天性血友病においてはステロイドなどの方法で第VIII因子インヒビターを消失させることができますが、先天性血友病Aに出現したインヒビターを消失させるには免疫寛容療法が考慮されます。
ただし、免疫寛容療法は高価な治療法であることが難点であり、もしこの治療法を行わなくてもインヒビターが消えるのであれば、これに越したことはありません。
今回紹介させていただく論文はこの点を論じています。
「免疫寛容療法未施行の先天性血友病Aにおける第VIII因子インヒビターの転帰」
著者名:Caram C, et al.
雑誌名:Thromb Haemost 105: 59-65, 2011.
<論文の要旨>
先天性血友病Aにおいて、インヒビターの出現は最も深刻な合併症です。
免疫寛容療法(ITI)を行わなかった場合のインヒビターの転帰を調べるために、1993〜2006年の間に著者らの施設で診療にあたられた症例の検討が行われました。
「持続してインヒビター陰性(SNIS)」の判定は、2年以上にわたりインヒビターが検出されないこととしました。
全体で60/486症例(12%)の症例が、2回以上の検査でインヒビターが検出されました。
インヒビター力価がピークでも5B.U.未満(低力価インヒビター)の症例の56%において、SNISの状態となりました。
高力価(5〜9.98B.U.)または超高力価(10.8. B.U.以上)症例においては、それぞれ50%、3%でSNISとなりました。
以上、ITIはインヒビターの出現した全ての血友病患者に対して必要という訳ではなく、特にインヒビターのピーク値が10 B.U.未満の症例では、必ずしも必要ではないものと考えられました。
ITIを行うことのできない国において、SNISとなる予知因子に関する更なる検討が必要と考えられました。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:30| 出血性疾患