金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2011年05月12日

造血幹細胞移植の夢と現実(2)ドナーリンパ球輸注(DLI)


造血幹細胞移植の夢と現実(1)より続く(金沢大学第三内科同門会報の教授コーナーby 中尾眞二教授より)。

 

造血幹細胞移植の夢と現実(2)

移植後再発の克服

私が大学院を卒業する1984年頃までの骨髄移植は、100日生きれば成功という厳しい治療でした。

その後、主な移植適応が寛解状態の白血病患者さんに絞られ、新規抗生薬やシクロスポリンが臨床応用されるようになってから、無菌室から生還するのは当たり前という時代に変わって行きました。

移植片の生着(造血の回復)が普通のことになると、次に何とか克服しないといけないと思うようになったのは、移植後の再発です。

地獄をみるような辛い思いをして無菌室から何とか出たにもかかわらず再発してしまうことほど、患者さんや家族にとって残酷なことはありません。

それは苦労した主治医にとっても同じことです。

移植後に再発した白血病が、移植片対宿主病(graft-versus-host disease、GVHD)の発症とともに寛解に至る例があることがその頃から知られていました。

このため、移植片の免疫学的な力を追求すれば、移植後白血病再発という最大の悲劇を回避できるのではないかと思うようになりました。

 

ドナーリンパ球輸注(donor lymphocyte infusion、DLI)のインパクト

留学先のアメリカNIHから大学に帰って移植の臨床に勤しんでいた頃、ドイツのKolbらが、慢性骨髄性白血病の再発が移植ドナーのリンパ球を大量に輸注するだけで完治したという、当時としては画期的な報告をBlood誌に発表しました。

同じ状況の患者さんがいれば是非試してみたいと思っていたところ、兄弟からの移植を受けた慢性骨髄性白血病患者さんが立て続けに3人再発されました。

早速同じようにドナーリンパ球輸注(DLI)を行ったところ、GVHDを発症することなく白血病細胞が見事に消失し、その後も再発の徴候は一切ないまま患者さんは長期生存されています。

がんに対して免疫が働くことは古くから知られていましたが、がんが免疫によって「治癒する」かどうかは懐疑的でした。

慢性骨髄性白血病の移植後再発に対するDLIは、がんが免疫(リンパ球)によって本当に治ることを証明した最初の事例でした。

このように白血病が免疫によって治っていく過程を目の当たりにすることができたのは、医師として幸運であったと思います。このDLI成功の経験は当時主治医をしていた山崎宏人君が、日本では初めて論文として報告しました。

DLIが慢性骨髄性白血病に効くのであれば、その他の急性白血病再発に対しても効果を示す可能性があります。

当時輸血部の准教授をされていた塩原信太郎先生が中心となって、厚生労働省の班研究として全国調査を行ったところ、DLIは慢性骨髄性白血病の慢性期再発に対しては80%の確率で奏効するものの、その他の白血病再発に対してはほとんど効かないことが分かりました。

それでもグリベックという分子標的薬のなかった当時、DLIは移植後再発に対する重要な治療手段であることが認められ、塩原先生の尽力によりこの治療は日本における最初の細胞療法として保険診療になりました。

 

(続く)

造血幹細胞移植の夢と現実(3)DLIが効くメカニズム へ

 

 

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:00| 血液内科