金沢大学・血液内科・呼吸器内科
※記事カテゴリからは過去の全記事をご覧いただけます。
<< 前のエントリトップページ次のエントリ >>
2011年05月14日

造血幹細胞移植の夢と現実(4)固形腫瘍(癌)


造血幹細胞移植の夢と現実(3)DLIが効くメカニズム
より続く

(金沢大学第三内科同門会報の教授コーナーby 中尾眞二教授より)。

 


造血幹細胞移植の夢と現実(4)

固形腫瘍に対する同種造血幹細胞移植の効果

造血幹細胞移植によって血液腫瘍だけではなく固形腫瘍も治したいというのは移植医の誰もが描く夢の一つです。

慢性骨髄性白血病再発に対するDLIの成功をきっかけに、同種造血幹細胞移植の免疫的な抗腫瘍効果を、抗がん薬の効かない固形腫瘍に応用しようとする試みが各地でなされるようになりました。

これには、従来の移植前処置を弱めた骨髄緩和的移植(いわゆるミニ移植)前処置法や、末梢血幹細胞移植の普及によって、同種造血幹細胞移植が高齢者に対しても比較的安全に行えるようになったという背景があります。

2002年頃に、私が留学していたNIHのラボから、腎細胞癌の約4割にミニ移植が奏効するというセンセーショナルな成果が発表されました。

高度先進医療を推進するための文科省からの研究費を受け、高見昭良君が中心となって、第三内科でも腎細胞癌に対するミニ移植の臨床試験を行いました。

その結果、ミニ移植には一定の抗腫瘍効果があるものの、それはGVHDに依存したものであるため、腫瘍量が多い場合には生存期間の延長にはつながらないことが分かりました。

ただし、移植前の腫瘍量が少なかった一人の患者さんは、ミニ移植により腫瘍が消失し、長期の寛解が得られました。また、ミニ移植後の腫瘍組織に細胞傷害性T細胞の浸潤が誘導されていることが、石山謙君、高見君の研究によって示されています。

 

ただ、同種免疫が効きやすい慢性骨髄性白血病や腎細胞がんなどの腫瘍は、進行が遅い腫瘍であり、かつがん化のメカニズムが分子レベルで明らかになっているため、同時に分子標的療法のもっとも良い適応でもあります。

一方で同種免疫療法には多かれ少なかれGVHDによるQOLの低下という問題が付きまとうため、最近ではこれらの腫瘍に対して同種造血幹細胞移植が適応されることは少なくなっています。

その結果、移植医が克服しなければならない悪性腫瘍のターゲットは、分子標的療法が効きにくい、またはその開発が遅れている難治性白血病にシフトしてきています。

 

(続く)

造血幹細胞移植の夢と現実(5)同種免疫療法の限界

 

【リンク】金沢大学血液内科・呼吸器内科関連

造血幹細胞移植入門(インデックス)

金沢大学 血液内科・呼吸器内科ホームページ

金沢大学 血液内科・呼吸器内科ブログ

研修医・入局者募集

投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:06| 血液内科