慢性肝疾患(肝硬変など)の凝固異常:出血&血栓症
肝硬変などの慢性肝疾患では、血小板数が低下し、凝固因子活性も低下し、出血傾向になると考えるのが一般的だったと思います。
今回紹介させていただく論文は、この考えを否定する論文です。
N Engl J Medからの論文です。
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「慢性肝疾患における凝固異常」
著者名:Tripodi A, et al.
雑誌名: N Engl J Med 365: 147-156, 2011.
<論文の要旨>
肝疾患末期症例においては出血傾向(特に胃小腸出血)にあるのは間違いありません。
しかし、この出血傾向の評価が従来の凝固検査のみに依存してきたのは見直されるべきです。
トロンビン形成試験などの止血能全体を評価する検査では、凝固能低下の所見とはなりません。
そのため、肝疾患末期症例における出血傾向の原因は、門脈圧亢進、血管内皮障害、細菌感染症、腎不全などの要素も考慮すべきです。
一方、向凝固因子のみならず抗凝固因子が低下することや、第VIII因子が増加することで止血バランスは回復しています。
このことは、慢性肝疾患者で動脈&静脈血栓症を発症しにくいとは限らない理由ともなっています。
これらの患者ではトロンボモジュリンに対する抵抗性を獲得することで向凝固性になったり、VWFの増加により血小板数低下を代償しているという報告もあります。
また、ウイルス性肝炎の動物モデルにおいては免疫学的機序による肝疾患の進行に血小板活性化が重要な役割を演じているという報告もみられます。
以上、慢性肝疾患者における止血能を再評価してみると、凝固異常により常に出血傾向になるという単純なものではなく、抗凝固因子も低下することで止血能を回復していると考えられます。
実際、出血よりも血栓症が問題となることも少なくありません。
慢性肝疾患に対して従来は禁忌とされていた薬物のなかには、有用な薬物もあるのではないかと推測されます。
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:59| 出血性疾患