金沢大学呼吸器研究室便り(2)
平成23年度研究室だより
金沢大学呼吸器研究室(2)
慢性労作時呼吸困難を訴える患者の胸部単純X線写真(上画像)を示す。診断は何でしょうか?
肺疾患グループが研究をすすめている疾患の一つに“上葉優位型肺線維症”がある。
本症例は、下葉優位に線維化が起こる特発性肺線維症とは全く異なり、上葉の縮みが下葉に比して強いために、相対的に下葉が引っ張られ、下葉は一見過膨張しているかのように見えるため、いわゆるCOPDと誤診されて不要な加療を受けていることが多い。
しかし、胸部Xpをよく見ると、上肺野の外層に強い濃度上昇(apical cap)と肺門の拳上を伴っている。
もともと、網谷らによる“上葉限局型肺線維症”という概念があり、これは1)胸郭の極端な扁平化、2)病変は主に両肺上葉に限局、3)蜂窩肺とは異なる線維性嚢胞性病変の形成、4)病理学的には非特異的線維化像、5)高率に再発性の両側気胸を合併、6)進行性で、末期に真菌感染などをきたす、7)胸郭外病変の欠如、を特徴とする概念である。
近年上葉のみならず、下葉まで同様に外層主体に線維化をきたすが上葉優位であるものを広く“上葉優位型肺線維症”と言われる。
当科でも上葉優位型肺線維症を呈する症例を10数例経験している。
病理学的には気腔内線維化をきたし、無気肺様に外層より折りたたまれるように縮む症例を数例経験している。
原因としては、アルミニウム肺や造血幹細胞移植後に生じたと考えられる症例が数例あるが、原因不明である症例(特発性)も多い。
呼吸機能検査での最大の特徴は特発性肺線維症と比較すると、どちらも肺活量が低下するが、特発性肺線維症は残気量が減少するのに比して、本疾患ではHe希釈法による残気量が増加する。
また、肺プレスチモグラフ法を用いた残気量はさらに増加し、He希釈法による残気量と乖離を伴うため、一見、閉塞性細気管支炎様の所見に類似するが、実際はクロージングボリュームにて第IV相が欠如していることより、閉塞性細気管支炎ではなく息がはききれないことによる所見であることが確認された。
治療は現時点では有効なものがなく、徐々に進行して気胸や感染などを合併し、呼吸不全に至る症例が多い。
COPDとして治療されているうちに増悪する症例も少なくないことより、早期に本症例を疑い、正確に診断することが、今後の治療につながる第一歩と考える。
今後も本症例の病態、治療について検討していく予定である。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:10| 呼吸器内科