金沢大学血栓止血研究室便り(1)
近く発刊される金沢大学第三内科同門会報の記事からです。
今回は、 血栓止血研究室(血管診療グループ)の紹介です。
血栓止血研究室(1)
血栓止血研究室は、血栓止血学を臨床・研究・教育のテーマとしています。
血液および全身臓器に分布する血管を対象としますので、多くの他領域と関連が深いのが特徴です。
血栓止血学は血液内科の領域の一つと思われがちですが、「血管内科」と言った方がよりわかりやすいかも知れません。
最近の臨床現場での話題の一つして、遺伝子組換えトロンボモジュリン製剤(rTM、商品名:リコモジュリン)を昨年も書かせていただきましたが、現在も相変わらずホットな薬剤です。
保険適応は、播種性血管内凝固症候群(DIC)のみなのですが、その強い抗炎症効果が注目されて、多くの病態での応用が期待されています。
実は、某焼き肉チェーン店の食中毒で有名になった溶血性尿毒症症候群(HUS)でもrTMが多用されたそうです。
薬問屋のrTMが枯渇してしまったと聞いています。
HUSを担当された同門の主治医の先生から、抜群の効果であったとお聞きしました。
もう一つの大きな話題は、ダビガトラン(商品名:プラザキサ)です。
心房細動に起因する心原性脳塞栓の予防として保険収載されました。
ダビガトランは、経口の抗トロンビン薬です。
心房細動に対しては長らくワルファリン(商品名:ワーファリン)が使用されてきました。
ワルファリンは第二次世界大戦の頃に開発された大変歴史のある薬剤です。
数十年以上にわたり処方されてきたということはそれだけ優れた薬剤であった訳ですが、ビタミンK拮抗薬であるワルファリンには多くの問題点も指摘されてきました。
例えば、ビタミンKが豊富な食物(納豆など)を摂食できないこと、多数の他の薬剤との相互作用があること、毎回PT—INRによるモニタリングが必要なことなどです。
これに対して、ダビガトランは臨床試験の結果によりますと、ワルファリンと比較して効果、副作用の両面で勝っていました。
まさに、スーパーワーファリンとしての呼び声が高かったのですが、実際は必ずしもそうではなかったようです。お薬が広く使用されるようになりますと、臨床試験で使用されてきたような質を維持できないようです。
出血の副作用による死亡症例も出て、マスコミで話題になりました。
特に腎臓機能の悪い方、高齢者などで致命的な出血が報告されました。
ダビガトランは夢の新薬として期待された薬物のためマイナス報道は残念です。
優れた薬物は大切に育てる必要があると思っています。
このためには、やはりPT、APTTによるモニタリングが不可欠であろうと私たちは考えています。
今後、経口抗トロンビン薬のダビガトランに続き、経口抗Xa薬が続々と登場してきます(参考:抗トロンビン薬)。
やはり、モニタリング不要というスタンスではなく、しっかりモニタリングして、夢の新薬を大事に育てていく必要があると思っています。
(続く)金沢大学血栓止血研究室便り(2)へ
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:43| 血栓止血(血管診療)