凝固因子インヒビターとループスアンチコアグラント
論文紹介をさせて続けさせていただきます。
「複数の凝固因子インヒビター偽陽性を示したループスアンチコアグラント・低プロトロンビン血症症候群」
著者名:森永信吾、他。
雑誌名: 臨床血液 53: 716-720, 2012.
<論文の要旨>
著者らは、ループスアンチコアグラント・低プロトロンビン血症症候群(LA-HPS)の1歳男児例を経験しました。
患者は6ヶ月間の副鼻腔炎の治療後、皮下出血斑と鼻出血を認めました。
凝固検査でPT、APTTが延長し、APTTクロスミキシング試験で補正できませんでした。
凝固因子活性はそれぞれ、第II因子20%、第VII因子44%、第IX因子42.5%、第X因子59%、第XI因子4%、第XII因子10%でした。
Bethesda法により複数の凝固因子インヒビターを認めました。希釈ラッセル蛇毒時間結果も加味してLA陽性と判定し、凝固因子インヒビター偽陽性が疑われ、LA-HPSと診断しました。
患者は無治療にて、発症から2ヶ月後に自然寛解しました。
LAはリン脂質依存性の凝固反応を阻害するため、複数の凝固因子活性低下を認めることがあります。同様に、Bethesda法によるインヒビター測定もリン脂質依存性のため、複数のインヒビターを認めることがあります。
鑑別には、特異的抗凝固因子結合抗体を検出するELISA法、抗FVIII抗体であればH鎖やL鎖を検出するイムノプロット法、免疫沈降法などがあります。
LAでは上記鑑別検査は陰性となり、Bethesda法での陽性は偽陽性と判断されます。
本症例では、上記検査は行っていませんが、クロスミキシング試験で即時型のインヒビターを呈し、一人の患者に複数の凝固インヒビターが発生することはまれであることから、複数の凝固因子に対するインヒビターはLAによる偽陽性反応と考えられました。
<リンク>
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:21| 出血性疾患