軽症血友病A:凝固因子活性測定と診断
論文紹介です。
「腹腔内出血を契機に診断された軽症血友病Aの13歳男児例」
著者名:寺尾陽子 他。
雑誌名:臨床血液 53: 765-769, 2012.
<論文の要旨>
著者らは、過去に出血のエピソードがなく、明らかな受傷機転がないにもかかわらず腹腔内出血を来した13歳男児例を報告しています。
新鮮凍結血漿を含む輸血と止血剤による保存的治療に反応せず、外科的止血術を施行しました。
出血源は肝左葉下面と判明しました。
家族歴聴取で母方男性のみの出血傾向が判明し、治療前の第VIII凝固因子活性が22%であったことにより血友病A軽症型と診断しました。
血友病軽症型は日常生活においては出血症状をほとんど認めず、偶然の受傷や手術時止血困難で発見されることが多いこと、血友病の家族歴が明らかでない場合があること、さらに凝固系検査異常が軽微なことにより診断に苦慮することが多いです。
軽症型でも重大出血の場合には生命予後は重症血友病と同等であり、迅速な診断と十分な凝固因子補充による治療が重要です。
Darbyらによると、1977〜1998年に6018人の血友病患者についての解析では、HIV感染を除いた血友病での死亡は予期しない重症出血がもっとも多く、次いで頭蓋内出血が原因と報告しています。
死亡率は重症型18.9%、中等症12.0%、軽症型13.5%であり、軽症型においても重症出血には十分な注意を払う必要を示唆しています。
本症例のように血友病の家族歴が明らかではなく、凝固系検査値の異常が軽度であっても、説明のつかない重大出血を来した男性においては、血友病軽症型の可能性を考えて、精細かつ迅速な凝固因子活性の測定を行うことが重要です。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:21| 出血性疾患