金沢大学・血液内科・呼吸器内科
※記事カテゴリからは過去の全記事をご覧いただけます。
<< 前のエントリトップページ次のエントリ >>
2013年07月18日

腹部/解離性大動脈瘤とDIC(2):凝固線溶活性化


腹部/解離性大動脈瘤とDIC(1)より続く。


腹部大動脈瘤・解離性大動脈瘤とDIC(2)


大動脈瘤・大動脈解離に伴う凝固線溶活性化について


大動脈瘤や大動脈解離では時に著明な線溶活性化を伴うDIC(線溶亢進型DIC)を合併します。

実際に血小板数減少症や出血傾向などの臨床症状がみられる症例は全体の0.5~6%にすぎないといわれていますが、FDPやDダイマーの上昇はかなりの症例で認められます。


大動脈瘤および大動脈解離における
播種性血管内凝固症候群(DIC)は、どちらも著しい線溶活性化が特徴的ですが、その発症メカニズムは大きく異なっています。

大動脈瘤は、一部の仮性瘤を除いて大動脈壁の3層構造が保たれたまま大動脈の一部が瘤(=こぶ)状に膨らんだ状態をさし、大動脈瘤における凝固線溶異常は、瘤内部における壁在血栓の形成およびその溶解、血液の乱流発生が原因と考えられています。

このため経過も比較的緩慢であることが多いです。


一方で、大動脈解離では解離発症と同時に亀裂を起こした部位(=内膜と外膜の間)に血液が流入し、血液成分がコラーゲンなどの内皮下組織に曝されることにより一気に凝固活性化を生じ、解離局所におけるダイナミックな血栓形成がおきると考えられます。

大動脈瘤と解離が併存している症例もあり、明確な区別がつかない場合も多いですが、いずれも病変局所の状態が個々の凝固線溶活性化に影響していることは疑いようのないところです。


この点でも大動脈瘤・大動脈解離に伴うDICは歴史的にはlocal DICと呼称されることがありました。


大動脈瘤の症例では破裂がない限りほとんどの患者は無症状です。

また大動脈瘤に伴う凝固線溶活性化が存在しても、血小板数の低下が軽微なため、健康診断でも異常を指摘されない場合があります。

そのような症例では抜歯や外傷を契機とした止血困難が生じ、出血傾向に対する原因検索の結果、大動脈瘤が見つかることがあります。

また、大動脈瘤や凝固線溶活性化の存在に気が付かず、軽度の血小板数減少がみられる症例を免疫性血小板減少症(ITP)と誤診して経過観察している場合もあります。

実際、そのような症例で詳しく凝血学的検査を行ってみますと、プラスミン-α2プラスミンインヒビター複合体PIC)の著増、α2プラスミンインヒビター(α2PI)およびプラスミノゲンの低下、
FDPやDダイマーの上昇がみられます。

また、フィブリノゲン分解の進行を反映して、フィブリノゲンの低下に加えFDP/DD比の上昇がみられます。

アンチトロンビン
(AT)は正常範囲内のことが多いです。


(続く)腹部/解離性大動脈瘤とDIC(3):ステントグラフト治療



<リンク>
 

投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:47| DIC