先天性凝固異常症(3)先天性プロトロンビン低下/異常症
先天性凝固異常症(3)先天性プロトロンビン低下/異常症
先天性プロトロンビン低下/異常症
ホモ接合体あるいは複合へテロ接合体の発症頻度は、200万人に1人と極めて稀です。
活性および抗原を完全に欠失する無プロトロンビン血症はいまだに報告がなく、致死的と考えられています。
本邦では低下症は1家系のみ、異常症はProthrombin Tokushima、Obihiro、Himi、Kawaguchiなどの報告があります。
症状
一般的にプロトロンビン低下症は、乳幼児期より皮下出血、筋肉内出血、関節内出血、頭蓋内出血、尿路出血などを認め、外傷や抜歯、手術後には止血困難を示します。
新生児期に臍出血を呈する症例もあります。
一方、プロトロンビン異常症のProthrombin Himiは無症状で出血の既往はありませんが、その他の症例では低下症と同様の出血症状を示します。
最近、アンチトロンビン(AT)との結合部位に異常を有するトロンビン異常が本邦から報告され、「AT抵抗性」による血栓性素因として注目されています。
検査所見
ホモ接合体や複合ヘテロ接合体例では、PT、APTTが著しく延長し、プロトロンビン活性はきわめて低い場合が多いです。
またプロトロンビン活性化の特殊な方法として、Staphylococcus aureusの菌体外蛋白質であるスタフィロコアグラーゼやEchis carinatus、Taipan等の蛇毒酵素をプロトロンビンアクチベーターとして用いる方法があります。
抗原量が低下しているものを低プロトロンビン血症、抗原量は正常であるが活性が低下しているものをプロトロンビン異常症と診断します。
中には、低プロトロンビン血症とプロトロンビン異常症の複合ヘテロ接合体などの場合があります。
治療
ホモ接合体で出血に対して迅速な治療が必要な場合や、手術前に予防投与する場合に、補充療法を行います。
本症の補充療法には、プロトロンビンを含む血漿由来第IX因子(FIX)複合体製劑を用います。
プロトロンビンは血漿中半減期が3日間と比較的長く、血漿プロトロンビン活性は20〜30%程度で止血レベルに入るため、30%を維持するように第IX因子複合体製劑20〜30 U/kgを投与します。
しかし、血栓症を合併する危険性があるので、150%以上を超えないように注意します。
後天性プロトロンビン低下症
後天性には、肝機能障害、ビタミンK(VK)欠乏、ワルファリン服用などにより低下しますので、鑑別の際に注意が必要です。
たとえば、新生児や乳幼児期にPT・APTTの延長を伴う出血傾向を認めたためVK欠乏症を疑い、VKの補充を行ったけれども効果が得られない場合は、先天性プロトロンビン欠損症などの存在も早期に考慮し、適切な検査および補充療法を開始すべきです。
また、後天性プロトロンビン低下症としてはまれですが、ループスアンチコアグラント・低プロトロンビン血症症候群(LA-HPS)についても、鑑別疾患の中に入れておく必要があります。
LAは臨床的には後天性の血栓症として重要ですが、まれに低プロトロンビン血症、あるいは血小板減少症や機能異常を合併した場合は出血します。
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<リンク>:臨床に直結する血栓止血学
播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)へ
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:13| 出血性疾患