先天性血栓性素因:アンチトロンビン、プロテインC&S欠損症
論文紹介です。
「先天性血栓性素因の診断」
著者名:森下英理子
雑誌名:日本検査血液学会雑誌 16: 1-10, 2015.
<論文の要旨>
血栓性素因のスクリーニング検査として、アンチトロンビン(AT)、プロテイン(PC)、プロテイン(PS)活性の測定は重要だが、その測定に関してはいくつかの問題点がある。
II型PC欠損症PC Lys193欠失は日本人に高頻度に認められる可能性が指摘されているが、合成基質法によるアミド活性の低下を示さないため、スクリーニングの際に見落とす可能性がある。
日本人特有の遺伝子多型PS K196E変異のヘテロ接合体症例のPS活性は幅広く分布しており、活性値だけでは正常者と鑑別するこができないが、最近血漿検体を用いてPS K196E変異を簡便に検出できるELISA法が開発され、ワルファリン内服中でも診断可能である。
また、AT抵抗性を血漿検体で検出するスクリーニング法も開発され、原因不明の先天性血栓性素因の診断に用いられている。
このように、血栓性素因のスクリーニングに際しては、新しい診断法がいくつか開発されており、今後先天性血栓性素因の病態解明が進むことが期待される。
血中PSの約60%は補体制御蛋白の一種であるC4b結合蛋白(C4BP)と結合しており、約40%が遊離型として存在する。
活性化PCに対する補酵素活性を有するのは遊離型のみで、この遊離型の低下が血中PS活性の低下につながる。
C4BPとの複合型PSは、遊離型PSの補酵素活性を阻害する。
したがってC4BP値の増減が、血中PS活性に影響する。
たとえば新生児では血中C4BP値が低値であるため相対的に遊離型PSが増加し、PS活性が高値を示す。
日本人の血栓症の遺伝子多型であるPS K196Eヘテロ接合体症例のPS活性は40〜110%と幅広く分布しており、PS活性測定だけでは正常者と識別できない。最近、血漿を用いてPS K196E変異を検出するELISAが開発され、ワルファリンな内服中でも診断可能であり、今後の臨床応用が期待される。
後天性にPS活性低値を示す場合としては、PCと同様に、肝機能障害、VK欠乏やワルファリン内服時、妊娠・経口避妊薬使用時、凝固活性化による消費(DIC、血栓症急性期、炎症)などがあげられる。
全身性エリテマトーデス、ステロイド内服、ネフローゼ症候群でもPS活性が低下する。
また、PS活性は性差や加齢による変化を強く受け、男性は加齢により活性が20%程度低下し、30〜40歳代の女性は男性に比べて活性が20%程度低いことも知っておく必要がある。
<リンク>推薦書籍「臨床に直結する血栓止血学」
播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)へ
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参考:血栓止血の臨床(日本血栓止血学会HPへ)
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:11| 出血性疾患