金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2015年11月04日

症例から学ぶDIC(3)症例1:診断上の注意点

症例(1)
症例から学ぶ播種性血管内凝固症候群(DIC)(インデックス)

<診断上の注意点>
重症感染症に合併したDICにおいては、FDP、D-ダイマーは軽度上昇にとどまり、フィブリノゲンは上昇することが多いです(診断上の落とし穴)。


本症例は、膀胱炎から急性腎盂腎炎(肋骨椎体角の叩打痛あり)にいたり、血液培養で大腸菌が検出されて敗血症から敗血症性ショックに至っています。

血小板数の低下がみられていますが、FDP&Dダイマーの上昇は軽度に留まり、フィブリノゲンは炎症反応のためむしろ上昇しています。

旧厚生省DIC診断基準では5点であり、DICの可能性少ないと判断されます。

しかし本当にそれでいいでしょうか。

旧厚生省DIC診断基準は、敗血症などの重症感染症に合併したDICに対しては感度が鈍いことが従来より指摘されています。

敗血症では線溶阻止因子であるプラスミノゲンアクチベータインヒビター(PAI)が著増するために線溶に強い抑制がかかることが知られています。

FDP&Dダイマーが軽度上昇に留まっているのも線溶抑制状態にあるためです。

実際、線溶活性化マーカーであるプラスミン-α2プラスミンインヒビター複合体(PIC)は、微増しているのみです。

凝固活性化マーカーであるトロンビン-アンチトロンビン複合体(TAT)が著増しているのとは対照的です。


本症例では敗血症という基礎疾患、そしてTATの著増がみられたために、旧厚生省DIC診断基準は満たしていませんでしたが、DICと考えて対処しました。

TATのデータなしにはDIC診断は不可能だったでしょう。



なお、この症例時代は可溶性フィブリン(SF)が測定できませんでしたが、今日であればTATのみならずSFも測定してDIC診断にさらに自信をつけたいところです。

保険診療上もTATとSFの同時測定が認められています(FMCとの同時測定は認められていません)。



・    敗血症などの重症感染症の場合には、FDP&Dダイマーを重要視するとDIC診断が遅れる場合が多いです。

・    敗血症などの重症感染症の場合には、フィブリノゲンは炎症反応で上昇するため、DIC診断に無力です。

・    TAT、SFは、DICの診断に有用です。

症例から学ぶ播種性血管内凝固症候群(DIC)(インデックス)

 <リンク>
血液凝固検査入門(図解シリーズ)
播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:47| DIC