金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2015年11月10日

症例から学ぶDIC(9)症例2:出血症状の原因

症例(2)
症例から学ぶ播種性血管内凝固症候群(DIC)(インデックス)

<DICの出血症状の原因>

本例では、血小板数は数万レベルに低下していますが、この程度ではここまでも高度な出血の原因にはなりません。

例えば、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)症例では、血小板数は数万程度であればまず出血はないために、ステロイド治療を行うことはなく経過観察しています。


血小板数低下に加えて血中FDP&Dダイマーは明らかに上昇しており、フィブリノゲンは低下、凝固活性化マーカーであるトロンビン-アンチトロンビン複合体(TAT)は著増しています。

消費性凝固障害を伴った播種性血管内凝固症候群(DIC)の診断は容易です。

さらに、治療方針を決定するためにはDICの病型分類が重要です。


実際、線溶活性化マーカーであるプラスミン-α2プラスミンインヒビター複合体(PIC)は著増しています。

線溶活性化が高度なことで有名な急性前骨髄球性白血病(APL)の平均レベルが10μg/mL程度ですから、本例ではAPLを凌駕するような線溶活性化です。


α2プラスミンインヒビター(α2PI)10%と際立った低下をきたしていますが、α2PIが大量に形成されたプラスミンと1対1結合するために消費されていると考えられます。

プラスミノゲンもプラスミンへの転換が進行しているために、半減しています。

典型的な線溶亢進型DICです。



指針





DICにおける高度な出血は、血小板数の低下よりも線溶活性化の程度、特にα2PIの低下と密接に関連
しています。

PICは線溶活性化を反映する重要なマーカーですが、PICを測定するようなDIC症例では、必ずα2PIもチェックしたいところです。


線溶亢進型DICでは、肝予備能の低下がなければアンチトロンビン(AT)の低下がみられない点も特徴です。

この点は、敗血症に合併したDICでATが低下しやすいのと対照的です。

なお、線溶亢進型DICの典型例では、AT、プラスミノゲン、α2PIが、それぞれ90%、60%、30%程度になることが多いです。

ATが低下していても、それはDICのためではなく肝予備能低下など他の要素を反映しています。

本症例ではATは約70%となっているためAT、プラスミノゲン、α2PI に+20%補正すると、偶然ではありますが上記の各%に近い数字となります。

<ポイント>

・    DICにおける出血症状の重症度は、血小板数低下よりも、線溶活性化と関連しています。
特に、PICの上昇を伴うα2PI著減例は要注意です。

・    線溶亢進型DICを疑う症例では、PICのみでなくα2PIも測定すべきです(当然TATも測定します)。

・    線溶亢進型DICではAT活性は低下しないことが多いです。
もし低下していれば、それはDICのためではなく、肝予備能低下などの他要素のためです。

症例から学ぶ播種性血管内凝固症候群(DIC)(インデックス)

 
<リンク>
血液凝固検査入門(図解シリーズ)
播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:35| DIC