金沢大学血液内科学系統講義試験:大動脈瘤のDIC
平成30年度血液内科学系統講義試験の問題紹介と正答です。
(平成30年7月9日 月曜日)
問28. 72歳の男性。
【主訴】労作時息切れ
【現病歴】
63歳時に胸腹部大動脈瘤を指摘され、71歳時に人工血管置換術が施行された。
経過観察されていたが今回特に誘因なく左大腿部の疼痛に加え、翌日にはふらつき、息切れを自覚したため医療機関を受診。
貧血の進行と左大腿部の皮下血腫を認め、精査加療目的に入院となった。
【入院時血液検査所見】
Hb 7.0 g/dL、血小板数 9.1万/μL
PT 13.1秒、APTT 29.0秒、フィブリノゲン 68 mg/dL、FDP 172.7 mg/mL(基準<5.0)、D-ダイマー 79.9 μg/mL(基準<1.0)
アンチトロンビン(AT)114%、プラスミノゲン 79%、α2PI 97%
TAT 82.5 ng/mL(基準<4.0)、PIC 18.4 μg/mL(基準<0.8)
Cr 2.6 mg/dL
【経過】
入院後出血に伴う貧血の進行をみとめたため、赤血球輸血をおこなった。
同時にメシル酸ナファモスタット持続点滴を開始したところ出血症状の改善がみられたが、同薬の副作用と考えられる高K血症をみとめたため、同薬を中止して他薬に変更した。
入院時血液検査所見に誤った記載が1箇所ある。1つ選べ。
(1) α2PI
(2) APTT
(3) D-ダイマー
(4) フィブリノゲン
(5) アンチトロンビン
(解説)
本症例は、大動脈瘤に起因した線溶亢進型DICである。
1)典型的な線溶亢進型DICでは、α2PIは著減するのが特徴である。
2)線溶亢進型DICでは、APTTが延長しないことが多い。むしろ短縮することもある。本年の医師国家試験では、急性前骨髄球性白血病(APL)に起因したDIC症例が出題されているが、APTTは正常になっている。
3)線溶亢進型DICでは、FDPもD-ダイマーも上昇するが、特にFDPは著増するために、FDPとD-ダイマーの間に乖離現象が見られる。上記の、本年の医師国家試験の症例でも、FDPとD-ダイマーの間に大きな乖離現象が見られている。
4)線溶亢進型DICでは、フィブリノゲンは著減する。
5)線溶亢進型DICでは、肝不全の合併がなければ、アンチトロンビンは低下しない。APLではむしろ上昇することもある。
(正答) (1)
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 02:14| 医師国家試験・専門医試験対策