金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2009年2月10日

副鼻腔気管支症候群(SBS):咳嗽の診断と治療(9)

アトピー咳嗽 vs. 咳喘息:咳嗽の診断と治療(8)からの続編です(咳嗽ガイドライン関連記事)。 

 

【副鼻腔気管支症候群】Sinobronchial Syndrome(SBS)

概念

慢性・反復性の好中球性の気道炎症を上気道と下気道に合併した病態です。
上気道の病変は慢性副鼻腔炎(とくに上顎洞炎)です。下気道の病変は慢性気管支炎びまん性気管支拡張症びまん性汎細気管支炎の三つに分類されます。

本疾患は慢性湿性咳嗽を呈する代表的疾患です。14、15員環マクロライドが奏効する点で本疾患の認識は極めて重要と言えます。


病態

何らかの気道防御機構の障害に関連して発症すると推測されていますが、詳細は不明です。


診断

簡易診断基準を以下に示します。

 

副鼻腔気管支症候群(Sinobronchial Syndrome:SBS)の簡易基準診断
(下記の1〜3の全てを満たす)

1.呼吸困難発作を伴わない咳嗽(しばしば湿性)が8週間以上継続

2.以下の3つの所見のうち,1つ以上を認める
(1)後鼻漏,鼻汁および咳払いといった副鼻腔炎に伴う自覚症状
(2)上咽頭や中咽頭における粘液性ないし粘液膿性の分泌物(後鼻漏)の存在ないしcobblestone appearanceといった副鼻腔炎に伴う他覚所見,
(3)副鼻腔炎を示唆する画像所見

3.14ないし15員環マクロライド系抗菌薬や去痰薬が有効

 


副鼻腔炎の検出には、副鼻腔の画像所見(液体貯留像や粘膜肥厚像)が有用ですし、鼻汁スメアに好中球を認めることは重要な所見となります。

後鼻漏や咳払い(throat clearing)は副鼻腔炎の存在を強く示唆することになります。

喀痰中に肺胞マクロファージに加えて多数の好中球を認めることは、下気道における好中球性気道炎症の存在を示す重要な所見です。


治療

軽症:

気道粘液修復薬(L-カルボシステイン)が有効です。びまん性汎細気管支炎のように末梢気道の去痰が必要な場合には気道粘膜潤滑薬(塩酸アンブロキソール)を併用します。


中等症:

常用量の1/4〜1/2量の14,15員環マクロライド薬を併用します。


重症&増悪時:

喀痰培養で検出された病原菌に感受性のある抗菌薬の常用量を1〜3週間上乗せします。症状が軽快すれば薬剤を減量・中止します。再燃時には同様な治療を繰り返します。




(続く)

 

【シリーズ】  咳嗽の診断と治療

1)ガイドライン

2)咳嗽の定義 & 性状

3)急性咳嗽

4)遷延性咳嗽 & 慢性咳嗽

5)咳嗽の発症機序

6)診断フローチャート

7)咳喘息

8)アトピー咳嗽 vs. 咳喘息

9)副鼻腔気管支症候群(SBS)

10) 胃食道逆流症(GERD)

11)慢性咳嗽&ガイドライン

 

【関連記事】 好酸球性下気道疾患

1)概念 & β2-刺激薬の特徴

2)咳喘息

3)アトピー咳嗽 & 非喘息性好酸球性気管支炎

4)咳喘息・アトピー咳嗽・非喘息性好酸球性気管支炎の関係

 


【関連記事】NETセミナー

慢性咳嗽の診療

非小細胞肺癌治療の最前線

肺がんに気づくサイン

 

 
【リンク】金沢大学血液内科・呼吸器内科関連

金沢大学 血液内科・呼吸器内科ホームページ

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 07:10 | 咳嗽ガイドライン | コメント(0) | トラックバック(0)

アトピー咳嗽 vs. 咳喘息:咳嗽の診断と治療(8)

 

 咳喘息:咳嗽の診断と治療(7)からの続編です(咳嗽ガイドライン関連記事)。 



【アトピー咳嗽】atopic cough

概念

気管支拡張薬が全く無効で、ヒスタミンH1-拮抗薬とステロイド薬が有効な乾性咳嗽を呈する疾患概念として、1989年に我が国から提唱された疾患概念です。

「アトピー素因」とは、過去、現在または将来に、アレルギー疾患を発症した、発症している、または発症する可能性のある素因を意味していますが、IgE抗体産生を意味する狭義の意味ではありません。


病態

以下の表(以前の記事でも掲載しています、再掲です)に示したように、咳感受性亢進を呈する好酸球性気管・気管支炎が基本病態です。咳感受性とは気道表層の知覚神経(C-線維かAδ-線維かの同定は不明)の過敏性を言います。

アトピー咳嗽は、好酸球性炎症が中枢気道のみであり末梢気道には認めない点が、咳喘息と大きく異なる病態です。

慢性咳の表*




診断

アトピー咳嗽の簡易診断基準を以下に示します。


アトピー咳嗽の簡易診断基準

1.    喘鳴や呼吸困難を伴わない乾性咳嗽が3週間以上持続
2.    気管支拡張薬が無効
3.    アトピー素因を示唆する所見 (※) または誘発喀痰中好酸球増加の1つ以上を認める
4.    ヒスタミンH1-拮抗薬または/およびステロイド薬にて咳嗽発作が消失


(※)アトピー素因を示唆する所見:


1)    喘息以外のアレルギー疾患の既往あるいは合併
2)    末梢血好酸球増加
3)    血清総IgE値の上昇
4)    特異的IgE陽性
5)    アレルゲン皮内テスト陽性

 

この治療的診断では、気管支拡張薬が無効なために咳喘息が否定できていて、ヒスタミンH1-拮抗薬ないしステロイド薬で軽快することが診断根拠となっています。


治療
以下の図(咳喘息とアトピー咳嗽の治療方針)に示したような治療を行います。

咳階段

左側は咳喘息、右側はアトピー咳嗽の治療です。
稀には両疾患の合併もあります。
効果が不十分な時は上方の治療薬を追加します。
症状が軽快した場合、咳喘息では長期吸入ステロイド療法が推奨されますが、アトピー咳嗽では治療を終了します。


アトピー咳嗽の重症度分類by 治療効果

軽症:ヒスタミンH1-拮抗薬で咳嗽が消失。
中等症:吸入ステロイド薬の併用で咳嗽が消失。
重症:上記に加えて、経口ステロイド薬の上乗せによって咳嗽が消失。
難治性:上記のいずれでも咳嗽が消失しない場合。

重症と難治性は専門医の診療が好ましいです。

アトピー咳嗽は、喘息への移行を認めませんので、症状が軽快すれば治療を中止できます。

(続く)

 

【シリーズ】  咳嗽の診断と治療

1)ガイドライン

2)咳嗽の定義 & 性状

3)急性咳嗽

4)遷延性咳嗽 & 慢性咳嗽

5)咳嗽の発症機序

6)診断フローチャート

7)咳喘息

8)アトピー咳嗽 vs. 咳喘息

9)副鼻腔気管支症候群(SBS)

10) 胃食道逆流症(GERD)

11)慢性咳嗽&ガイドライン

 

【関連記事】 好酸球性下気道疾患

1)概念 & β2-刺激薬の特徴

2)咳喘息

3)アトピー咳嗽 & 非喘息性好酸球性気管支炎

4)咳喘息・アトピー咳嗽・非喘息性好酸球性気管支炎の関係

 


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