発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の診断 :溶血性貧血(5)
自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の診断 :溶血性貧血(4)からの続きです。
【先天性溶血性貧血】
先天性溶血性貧血の中で最も多いのは球状赤血球症です。赤血球形態や家族歴、胆石・ 脾腫の存在などで診断します。
小球性の溶血性貧血がみられた場合には、サラセミアを第一に疑います。
サラセミアを除きますと溶血性貧血は通常正球性貧血になりますが、網赤血球の著増により軽度の大球性貧血を呈することがありますので注意が必要です。
大球性貧血に溶血性貧血がみられれば、巨赤芽球性貧血(ビタミンB12・葉酸欠乏)や骨髄異形成症候群(MDS)の除外が必要になります。
【発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)】
PNHの診断は、以下の診断基準を用います。下記のうち、フローサイトメトリー法でPNHタイプ血球を検出することが特に重要です。
発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の診断基準(平成16年厚生労働省研究班)
1. 臨床所見として、貧血、黄疸のほかヘモグロビン尿(淡赤色尿から暗褐色尿)を認める。ときに静脈血栓、出血傾向、易感染性を認める。先行発症はないが、青壮年を中心に広い年齢層で発症する。
2. 以下の検査所見がしばしばみられる。
1) 貧血および白血球、血小板の減少
2) 血清間接ビリルビン値上昇、LDH上昇、ハプトグロビン値低下
3) 尿上清のヘモグロビン陽性、尿沈渣のヘモジデリン陽性
4) 好中球アルカリホスファターゼ(NAP)スコア低下、赤血球アセチルコリンエステラーゼ 低下
5) 骨髄赤芽球増加(骨髄は過形成が多いが低形成もある)
6) Ham(酸性化血清溶血)試験陽性または砂糖水試験陽性
3. 以下の検査所見によって診断を確実なものとする。
1) グリコシルホスファチヂルイノシトール(GPI)アンカー型膜蛋白の欠損血球(PNHタイプ血球)の検出と定量
2) 骨髄穿刺、骨髄生検、染色体検査等による他の骨髄不全疾患の判定
4. 以下によって病型分類を行う。
1) 臨床的PNH(溶血所見がみられる)
・古典的PNH
・骨髄不全型PNH
2) PNHタイプ血球陽性の骨髄不全症(溶血所見は明らかでない)
・PNHタイプ血球陽性の再生不良性貧血
・PNHタイプ血球陽性の骨髄異形成症候群
・PNHタイプ血球陽性の骨髄線維症、など
5. 参考
1) PNHは溶血性貧血と骨髄不全症の側面を併せ持つ造血幹細胞異常による疾患である。
2) PNHタイプ血球の検出と定量には、抗CD55および抗CD59モノクローナル抗体を用いたフローサイトメトリー法を用いる。
3) PNHタイプ赤血球が1-10%であれば、溶血所見を認めることが多い。PNHタイプ好中球比率はしばしばPNHタイプ赤血球のそれより高値を示す。
4) 溶血所見として、網赤血球増加、血清LDH上昇、間接ビリルビン値上昇、血清ハプトグロビン値低下が参考になる。
5) 骨髄不全型PNHは、再生不良性貧血-PNH症候群によって代表される。
自己免疫性溶血性貧血(AIHA)・発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)・先天性溶血性貧血が否定されれば、稀な溶血性貧血ということになります。ただし、先天性溶血性貧血を完全に否定することは難しいです。
最終的に専門医療機関での遺伝子診断が必要になることもあります。その際は、患者の有益性も含め十分に吟味する必要があります。
【その他の溶血性貧血】
心臓弁膜疾患(特に人工弁置換術後)や大動脈狭窄症、微小血管障害(血栓性血小板減少性紫斑病、溶血性尿毒症症候群、癌の全身転移、血管炎症候群、悪性高血圧、行軍ヘモグロビン尿症など)がありますと、機械的刺激により赤血球が壊れ、血管内溶血を来すことがあります(赤血球破砕症候群)。
末梢血塗抹標本上破砕赤血球の増加がないか調べるとともに、必要に応じ全身検索を進めることになります。
【溶血性貧血】
1)赤血球寿命
2)溶血性貧血の診断基準(厚生労働省研究班)
3)溶血性貧血の病型分類
4)自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の診断
5)発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の診断
6)自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の治療
7)発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の治療
8)溶血性貧血の治療(海外との比較)
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 19:40 | 溶血性貧血 | コメント(0) | トラックバック(0)
血液内科のGoogle検索で1位(金沢大学 血液内科・呼吸器内科)

金沢大学 血液内科・呼吸器内科といたしましては、「血液内科」や「呼吸器内科」と言った主要キーワードでの検索で、上位に検索されてくるとやはり嬉しいものです。
さて、日曜日に、記念すべきイベント(?)が発生いたしました。
Googleで、「血液内科」の入力で検索したところ、1ページ目の1位(文字通りトップです)に私たちのホームページが検索されてきました。証拠写真を今回の記事に画像で掲載しておきたいと思います。
検索順位は時間単位で変動しており、本日は1位ではなく6位前後なのですが、一時的とは言えども1位で検索されたというのは、まさに記念すべきイベントではないかと思っています。
将来的には、恒常的にベスト3位以内くらいで検索されるようになることを期待しているところです。
今後とも、多くの方にご支援いただけるHP&ブログを目指していきたいと思いますので、どうかよろしくご指導、ご鞭撻のほどお願い申しあげます。
【リンク】
金沢大学第三内科ホームページ
金沢大学第三内科ブログ
研修医・入局者募集
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:20 | その他 | コメント(0) | トラックバック(0)
自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の診断 :溶血性貧血(4)
溶血性貧血の病型分類 :溶血性貧血(3)からの続きです。
【自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の診断】
まず行う検査
1) クームズ試験
2) 赤血球形態観察
3) (必要に応じて)発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)タイプ血球検査:フローサイトメトリー法を用いたGPIアンカー型膜蛋白欠損血球の検出
直接クームズ試験陽性ですと、自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の可能性が高いですので、さらに以下の表のごとく確定診断へと進めます。
自己免疫性溶血性貧血(AIHA)診断基準(平成16年厚生労働省研究班)
1. 溶血性貧血の診断基準を満たす。
2. 広スペクトル抗血清による直接クームズ試験が陽性である。
3. 同種免疫性溶血性貧血(不適合輸血、新生児溶血性疾患)および薬剤起因性免疫性溶血性貧血を除外する。
4. 1-3によって診断するが、さらに抗赤血球自己抗体の反応至適温度によって、温式(37℃)の1)と、冷式(4℃)の2)および3)に区分する。
1) 温式自己免疫性溶血性貧血
臨床像は症例差が大きい。特異抗血清による直接クームズ試験でIgGのみ、またはIgGと補体成分が検出されるのが原則であるが、抗補体または抗スペクトル抗血清でのみ陽性のこともある。診断は2)、3)の除外によってもよい。
2) 寒冷凝集素症
血清中に寒冷凝集素価の上昇があり、寒冷暴露による溶血の悪化や慢性溶血がみられる。直接クームズ試験では補体成分が検出される。
3) 発作性寒冷ヘモグロビン尿症
ヘモグロビン尿を特徴とし、血清中に二相性溶血素(Donath-Landsteiner抗体)が検出される。
5. 以下によって経過分類と病因分類を行う。
1) 急性:推定発病または診断から6か月までに治癒する。
2) 慢性:推定発病または診断から6か月以上遷延する。
3) 特発性:基礎疾患を認めない。
4) 続発性:先行または随伴する基礎疾患を認める。
6. 参考
1) 診断には赤血球の形態所見(球状赤血球、赤血球凝集)も参考になる。
2) 温式AIHAでは、常用法による直接クームズ試験が陰性のことがある(クームズ陰性AIHA)。この場合、患者赤血球結合IgGの定量が有用である。
3) 特発性温式AIHAに特発性血小板減少性紫斑病(ITP)が合併することがある(Evans症候群)。また、寒冷凝集素価の上昇を伴う混合型もみられる。
4) 寒冷凝集素症での溶血は寒冷凝集素価と平行するとは限らず、低力価でも溶血症状を示すことがある(低力価寒冷凝集素症)。
5) 自己抗体の性状の判定には抗体遊出法などを行う。
6) 基礎疾患には自己免疫性疾患、リウマチ性疾患、リンパ増殖性疾患、免疫不全症、腫瘍、感染症(マイコプラズマ、ウイルス)などが含まれる。特発性で経過中にこれらの疾患が顕在化することがある。
7) 薬剤起因性免疫性溶血性貧血でも広スペクトル抗血清による直接クームズ試験が陽性となるので留意する。診断には臨床経過、薬剤中止の影響、薬剤特異性抗体の検出などが参考になる。
この場合、薬剤性免疫性溶血性貧血を除外しておくことが大切です。
特に、βラクタム環を有する抗菌薬使用後の直接クームズ試験陽性溶血性貧血が有名です。輸血検査技師がクームズ試験陽性を来しやすい薬剤リストを作成していることがありますので、問い合せてもよいと思います。
なお、自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の1~4%は直接クームズ試験陰性です。
以下の場合には、クームズ陰性の自己免疫性溶血性貧血(AIHA)を疑います。
1) 溶血所見がある。
2) PNH・先天性溶血性貧血が否定的である。
3) 球状赤血球・赤血球凝集など自己免疫性溶血性貧血(AIHA)に矛盾しない赤血球形態所見がある。
4) (偶然の)副腎ステロイド使用に反応する。
なお、クームズ陰性自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の診断には、赤血球結合IgG定量検査が有用です(自治医科大学地域医療学センター地域医療学部門などへ相談されると良いと思います)。
自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の診断を確定させると同時に、続発性の自己免疫性溶血性貧血(AIHA)を除外する必要があります。
特に、全身性エリテマトーデス・リンパ増殖性疾患は常に念頭に置く必要があります。必要に応じて、骨髄異形成症候群・悪性腫瘍・妊娠・後天性免疫不全症候群の除外も考慮します。
【溶血性貧血】
1)赤血球寿命
2)溶血性貧血の診断基準(厚生労働省研究班)
3)溶血性貧血の病型分類
4)自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の診断
5)発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の診断
6)自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の治療
7)発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の治療
8)溶血性貧血の治療(海外との比較)
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 04:13 | 溶血性貧血 | コメント(0) | トラックバック(0)