金沢大学・血液内科・呼吸器内科
※記事カテゴリからは過去の全記事をご覧いただけます。
<< 2009/02/17トップページ2009/02/19 >>
2009年2月18日

溶血性貧血の治療(海外との比較):溶血性貧血(8)

発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の治療 :溶血性貧血(7)からの続きです。

 

【溶血性貧血の治療:海外と日本の比較 】

温式自己免疫性溶血性貧血(AIHA)に対するステロイドの初期投与量は、国内ではプレドニゾロン換算で0.5-1.0 mg/kg/日程度ですが、海外では1.0-1.5 mg/kg/日または40 mg/m2と国内より若干多い傾向にあります。

また、高用量ステロイド療法も試みられ、一定の成果が報告されています。

海外におけるステロイド減量開始の目安はHb 10 g/dLです。

冷式抗体によるAIHAの治療は保存的治療が中心であり、国内外で違いはありません。


発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)に関しては、欧米ではエクリツマブが使用可能です。

また、海外では発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)に血栓症(thrombosis)を伴うことが多いため、血栓症予防・治療対策が重要視されています。

そのほか、海外では、溶血性貧血に伴う葉酸欠乏を防ぐため、葉酸の補充を勧めることが多いです。


 


【溶血性貧血】

1)赤血球寿命

2)溶血性貧血の診断基準(厚生労働省研究班)

3)溶血性貧血の病型分類

4)自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の診断

5)発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の診断

6)自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の治療

7)発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の治療

8)溶血性貧血の治療(海外との比較)




【関連記事】NETセミナー

汎血球減少のマネジメント:特に骨髄不全について

造血幹細胞移植

貧血患者へのアプローチ

輸血後鉄過剰症と鉄キレート療法

血液内科に関する研修医からのQ&A

 

 

 【リンク】金沢大学血液内科・呼吸器内科関連

金沢大学 血液内科・呼吸器内科ホームページ

金沢大学 血液内科・呼吸器内科ブログ

研修医・入局者募集


投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:35 | 溶血性貧血 | コメント(0) | トラックバック(0)

発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の治療 :溶血性貧血(7)

自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の治療 :溶血性貧血(6)からの続きです。

 

 

【発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の治療】

厚生労働省のガイドラインを参考に治療を計画します。溶血症状に乏しく造血不全や血栓症がない場合、通常は無治療観察でよいです。

1.溶血発作の治療

(1) 輸血:Hb 9 g/dL以上を目標に赤血球輸血を実施します。貧血の改善による全身状態の回復に加え、PNHタイプ赤血球造血が抑制され、溶血の軽減も期待できます。

なお、PNHに対する輸血には、血漿に含まれる補体や免疫グロブリンを除去するため、長年洗浄赤血球が用いられてきました。しかし、通常の赤血球濃厚液中に含まれる血漿成分はごく微量であり、実際に溶血を来す例はほとんどないことから、輸血は赤血球濃厚液でよいです。

(2) 補液・ハプトグロビン投与:血中遊離ヘモグロビン排泄・代謝促進と腎不全予防を企図して実施します。

(3) 誘因除去:誘因疾患(感染症が契機になることが多いです)を治療します。


2.溶血発作の予防

(1) 誘因回避:ビタミンCを大量に摂取しないようにします。感染症罹患を避けることは難しいですが、発症後は速やかに治療を開始するように指導しておくことも重要です(あらかじめ抗菌薬を持参させる、医療機関に早めに受診するなど)。
 
(2) 溶血治療:ステロイドや蛋白同化ホルモンが用いられることが多いですが、劇的な効果がみられることは少ないです。効果と毒性を考慮した上で、適応を慎重に判断します。


3.血栓予防と治療

欧米に比べ日本は血栓症の合併症は比較的少ないのですが、産褥期や外科手術を契機に発症することがあり、注意が必要です。

女性は経口避妊薬の使用を避けるべきと考えられます(経口避妊薬には血栓症の副作用が報告されているためです)。

血栓症発症時には、一般の血栓症治療と同様に、ヘパリン類治療や、必要があれば血栓溶解療法(線溶療法)を考慮します。ただし、線溶療法には脳出血などの致命的な出血を含めて副作用の問題がありますので、その適応に関しては慎重に判断する必要があります。

急性期にはヘパリン類主体の治療を行いますが、症状が改善したのちの慢性期にはワルファリン(商品名:ワーファリン)治療を行うのが一般的です。

重篤な血栓症を繰り返す症例には、骨髄移植が考慮されることもあります。


4.造血不全の治療

再生不良性貧血の治療方針に準拠して行います。

輸血のほか、シクロスポリンや抗胸腺グロブリン、造血因子、骨髄移植などの適応が考慮されます。


5.妊娠

妊娠により、血栓傾向、貧血・血小板減少の悪化が予想されますので、妊娠は推奨されません。
 


【発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)治療のポイント】


最近、補体による溶血反応抑制を目的として、C5に対するヒト化単クローン性抗体エクリツマブ(eculizumab)が開発されました。

第3相試験では、輸血依存状態のPNH患者97名にエクリツマブが投与され、患者の87%に奏効し、患者の半数が輸血不要となりました。国内での審査・承認が待たれるところです。
 


 


【溶血性貧血】

1)赤血球寿命

2)溶血性貧血の診断基準(厚生労働省研究班)

3)溶血性貧血の病型分類

4)自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の診断

5)発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の診断

6)自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の治療

7)発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の治療

8)溶血性貧血の治療(海外との比較)




【関連記事】NETセミナー

汎血球減少のマネジメント:特に骨髄不全について

造血幹細胞移植

貧血患者へのアプローチ

輸血後鉄過剰症と鉄キレート療法

血液内科に関する研修医からのQ&A

 

 

 【リンク】金沢大学血液内科・呼吸器内科関連

金沢大学 血液内科・呼吸器内科ホームページ

金沢大学 血液内科・呼吸器内科ブログ

研修医・入局者募集


投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:34 | 溶血性貧血 | コメント(0) | トラックバック(0)

自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の治療 :溶血性貧血(6)

発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の診断 :溶血性貧血(5)からの続きです。

 

【自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の治療】

厚生労働省研究班の治療ガイドラインを参考に治療を計画します。温式自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の第一選択治療はステロイドです。貧血が軽い場合は経過観察を続けてもよいのですが、最終的には治療が必要になることが多いです。



1.温式抗体によるAIHAの治療

1) 初期治療(寛解導入療法)
推奨用法・用量は、プレドニゾロン換算で1.0 mg/kg/日(患者の状態・年齢・合併症により0.5 mg/kg/日まで適宜減量)、連日経口4週(反応性をみて2-6週に適宜調整)。
患者の約40%は治療開始4週までに血液学的寛解となります。その後1か月かけて0.5 mg/kg/日まで漸減します。

その後2週で5 mg(5 mg製剤1錠)を目安に漸減(急性型や直接クームズ試験が早期に陰性化する場合は早めてもよい)し、10-15 mg/日の初期維持量とします。

減量中に悪化した場合(治療例の約5%)は、0.5 mg/kg/日に戻します。
 
2) 維持療法
網赤血球低下とクームズ試験陰性化を目安に、5 mg/日まで減量します。そのまま維持するか、2-4週間隔で漸減を試みます。漸減中に悪化した場合の増量規定はないのですが、2段階前の量に戻すことが多いと思います。
 
3) 2次治療
ステロイド不応またはプレドニゾロン換算で15 mg/日未満に減量できない、副作用・合併症のためステロイド継続が困難、寛解・悪化を繰り返すなどの場合、ステロイド以外の治療を考慮します(ただし保険適応は認められていません)。
2次治療には、免疫抑制薬(イムラン・エンドキサンなど)や摘脾術、輸血・血漿交換などがあります。
 
4) 治療抵抗例・再発例への治療
これまで、悪性リンパ腫に準じた多剤併用化学療法や大量シクロホスファミド療法、免疫グロブリン製剤、ダナゾール、シクロスポリン、胸腺摘出術、ビンカアルカロイド、ヒト化抗CD20モノクローナル抗体(リツキシマブ)、ヒト化抗CD52モノクローナル抗体(アレンツツマブ)などの有用性が報告されています。
 

2.冷式抗体によるAIHAの治療


寒冷凝集素症
発作性寒冷ヘモグロビン尿症に明確な治療ガイドラインはありません。

軽症の場合、寒冷暴露の予防や保温など生活習慣の工夫のみで良好な日常生活がおくれることも多いです。高度の溶血には通常ステロイド治療が行われますが、十分な効果が得られることは少ないです。

悪性リンパ腫に伴う続発性の場合は、現疾患の治療による改善が期待できます。

その他、アルキル化薬、リツキシマブ療法などが試みられています。
 



【自己免疫性溶血性貧血(AIHA)治療のポイント】


プレドニゾロン換算で0.5 mg/kg/日以上使用する場合には、入院治療が望まれます(特に高齢者や合併症を有する例)。

ただし、十分な臨床経験のある血液専門医であれば外来治療も可能だと思います。血液内科病棟は、血液悪性腫瘍疾患・造血不全患者で大抵満床ですので。。。
当科もそのような状況でございます。

血液内科と言いますと、白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫など造血器悪性腫瘍のイメージが強いかも知れませんが(間違っている訳ではありませんが)、溶血性貧血、再生不良性貧血、特発性血小板減少性紫斑病、膠原病、血栓止血疾患のように、良性の血液疾患も多数扱っているのです。

血液内科という標榜ではなく、血液免疫内科と標榜している総合病院も多いです。


 


【溶血性貧血】

1)赤血球寿命

2)溶血性貧血の診断基準(厚生労働省研究班)

3)溶血性貧血の病型分類

4)自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の診断

5)発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の診断

6)自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の治療

7)発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の治療

8)溶血性貧血の治療(海外との比較)




【関連記事】NETセミナー

汎血球減少のマネジメント:特に骨髄不全について

造血幹細胞移植

貧血患者へのアプローチ

輸血後鉄過剰症と鉄キレート療法

血液内科に関する研修医からのQ&A

 

 

 【リンク】金沢大学血液内科・呼吸器内科関連

金沢大学 血液内科・呼吸器内科ホームページ

金沢大学 血液内科・呼吸器内科ブログ

研修医・入局者募集


投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:33 | 溶血性貧血 | コメント(0) | トラックバック(0)

<< 2009/02/17トップページ2009/02/19 >>
▲このページのトップへ