皮下出血と薬物:医師国家試験
医師国家試験再現問題と解説です。
68歳の女性.
左下腿の腫脹を主訴に来院した.
3日前に転倒し左下腿を打撲した.徐々に腫脹が強くなり,心配になって受診した.
脂質異常症,高血圧症,糖尿病および心房細動で内服治療中である.
現在服用中の薬剤は,スタチン,カルシウム拮抗薬,アンジオテンシンII受容体拮抗薬,ビグアナイド薬およびワルファリンである.
左下腿後面の写真を別に示す(省略:左下腿の腫脹、皮下出血)。
この病変に関係しているのはどれか.
a スタチン
b ワルファリン
c ビグアナイド薬
d カルシウム拮抗薬
e アンジオテンシンII受容体拮抗薬
(解説)
画像から、皮下出血です。
筋肉内血腫も合併しているかも知れません。
深部静脈血栓症とは異なり、末梢までの腫脹はないです。
内服薬にワルファリンが含まれており、易出血状態にあったことがうかがわれます。
.
a スタチンは、高コレステロール血症に処方されます。
b ワルファリンは、心房細動、深部静脈血栓症、肺塞栓などに処方されます。
出血の副作用に注意が必要です。
c ビグアナイド薬は、糖尿病治療薬です。
d カルシウム拮抗薬は、高血圧治療薬です。
e アンジオテンシンII受容体拮抗薬は、高血圧治療薬です。
(ポイント)
ワルファリンの適正コントロールのために、PT-INRが用いられますが、適正コントロール内であっても、打撲などにより出血をきたすことがあります。
疾患や年齢によっても多少異なりますが、PT-INR 2〜3くらいでコントロールすることが多いです。
ワルファリンは、ビタミンKの拮抗薬であり、4つのビタミンK依存性凝固因子(半減期の短い順番に、VII、IX、X、II)を低下させます。
なお、プロテインC、プロテインSもビタミンK依存性蛋白です(国試既出)。
(正解) b
<リンク>
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:31 | 医師国家試験・専門医試験対策
急性前骨髄球性白血病のDIC:医師国家試験
医師国家試験再現問題と解説です。
50歳の女性.
全身の皮下出血と鼻出血とを主訴に来院した.
特に誘引なく右肩の紫斑が出現した.
その後大腿や下腿にも紫斑が出現し,今朝から鼻出血が止まらないため受診した.
5年前に乳癌に対して手術と抗癌化学療法とを受けた.
血液所見:
赤血球278万,Hb 8.8g/dL,Ht 25%,白血球700,血小板5.1万,
PT-INR 1.2(基準0.9〜1.1),APTT 30.6秒(基準対照32.2),血漿フィブリノゲン74mg/dL(基準200〜400),血清FDP 110μg/mL(基準10以下),Dダイマー9.6μg/mL(基準1.0以下).
骨髄血塗抹May-Giemsa染色標本(省略)を別に示す(アズール顆粒、アウエル小体、Faggotを有する異常細胞(芽球)が多数).
この患者に対する治療薬として適切なのはどれか.
a 抗エストロゲン薬
b 全トランス型レチノイン酸
c トラネキサム酸
d ドセタキセル
c ヘパリン
(解説)
全身性の出血症状が見られています。
特徴的な凝固異常所見と骨髄像があります。
汎血球減少症の存在から血液疾患の存在が疑われます。
骨髄像では特徴的な芽球が守られており、急性前骨髄球性白血病(acute promyelocytic leukemia:APL)(FAB分類:M3)と診断されます。
血小板数は5.1万と低値ですが、それだけでは著明な出血症状をきたすほどではありません。
出血症状をきたしている主因は、播種性血管内凝固症候群(DIC)(線溶亢進型DIC)の合併です。
a 抗エストロゲン薬は乳癌の治療に用いられますが、本例での乳癌の既往は今回のエピソードとは無関係です、
b 全トランス型レチノイン酸(all-trans retinoic acid:ATRA)は、APLの分化誘導治療薬として用いられ明日。
c DICに対してトラネキサム酸を単独で投与しますと、全身性の血栓症を誘発することがあります。特に、APLに対してATRAを投与している場合は、APLの線溶活性化が抑制されるために、トラネキサム酸は絶対禁忌です(死亡例の報告があります)。
d ドセタキセルは、乳癌、非小細胞肺癌、胃癌、卵巣癌などに用いられます。
e APLに合併したDICに対して昔はヘパリンが投与された時代もありましたたが、かえって出血を助長することもあり、現在は使用されることはあまりないです。APLに対する ATRA療法そのものに抗DIC効果が期待されます。
(正解) b
播種性血管内凝固症候群(DIC)
<概念>
1. 基礎疾患の存在
・三大疾患:急性白血病、固形癌、敗血症
・産科合併症:常位胎盤早期剥離,羊水塞栓
・大動脈瘤、膠原病(血管炎を伴う),外傷,熱傷 など。
2. 全身性&持続性の血管内における著明な凝固活性化状態(微小血栓の多発)
3. 二次線溶:ただし,その程度は症例により様々。
4. 消費性凝固障害(consumption coagulopathy):血小板や凝固因子の低下。
5. 出血症状,臓器症状 (DICの2大症状)
<診断のための検査所見>
1. 血小板数の低下:ただし造血器悪性腫瘍のようにDICとは無関係に血小板数が低下する場合にはDIC診断には用いません。
2. 血中FDPおよびD-ダイマーの上昇
3. 血中フィブリノゲンの低下
4. プロトロンビン時間(PT)の延長:進行例ではAPTTの延長もみられることがありますが、本症例のように延長しないことも多いです。
<病態把握のための検査所見>
1. アンチトロンビン (AT)の低下
2. プラスミノゲンの低下、α2プラスミンインヒビター(α2PI)の低下。
3. トロンビン-アンチトロンビン複合体(TAT)の上昇
4. プラスミン-α2PI複合体(PIC) の上昇
<DICの病型分類>
凝固活性化と線溶活性化は平行して進行してますが,両者のバランスは基礎疾患により相当異なります。
線溶抑制型DIC
・敗血症など。
・線溶活性化が軽度のため,微小血栓が溶解されにくいです。
・出血症状<臓器症状
・TATは上昇しますが,PICの上昇は軽度です。
・線溶阻止因子であるPAI-1 は,著増します。
線溶亢進型DIC
・急性前骨髄球性白血病(APL)、大動脈瘤、前立腺癌など。
・線溶活性化が高度のため,微小血栓が溶解されやすい。
・出血症状>臓器症状
・TAT,PICともに上昇。
・線溶阻止因子であるPAI-1は,正常。もう一つの線溶阻止因子α2PI は著減。
(ポイント)
線溶亢進型DICでは、本症例のように、フィブリノゲン著減、FDP著増が特徴です。
D-ダイマーも上昇しますが、FDPほどの上昇はないために、FDPとD-ダイマーの間に乖離現象が見られます。
<リンク>
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:14 | 医師国家試験・専門医試験対策
免疫性血小板減少性紫斑病(ITP):医師国家試験
医師国家試験再現問題と解説です。
免疫性血小板減少性紫斑病〈ITP〉について正しいものはどれか.
a 先天性疾患である.
b 骨髄の巨核球が減少する.
c 皮下出血を起こしやすい.
d 関節内出血を起こしやすい.
e 筋肉内出血を起こしやすい.
(解説)
免疫性血小板減少性紫斑病〈ITP〉は、従来は「特発性血小板減少性紫斑病」と言われてきました。
現在は、両方の用語が使用されていますが、徐々に「免疫性血小板減少性紫斑病」の呼称の方が多くなると思います。
a ITPは後天性疾患です。
b 典型例では、骨髄の巨核球は上昇します。
c 紫斑病の名前のごとく、皮下出血は見られやすいです。点状出血も特徴的です。
d 関節内出血をきたすのは、血友病です。
e 筋肉内出血は、(先天性)血友病、後天性血友病などで見られます。
なお、(先天性)血友病では関節内出血が特徴的ですが、後天性血友病では関節内出血は稀です。
(正解) c
<免疫性血小板減少性紫斑病〈ITP〉>
【概念】
ITPは、血小板に対する自己抗体が産生され、脾での血小板の破壊が亢進し、血小板寿命は短縮し出血傾向をきたします。
小児科領域では,先行感染を伴った急性型が多いのに対して(しばしば自然治癒)、内科領域では、先行感染のない慢性型が多いです(女性に多いです)。
【症状】
点状出血、粘膜出血など。
【検査&診断】
・血小板数の低下(PT&APTTは正常)。
・他血液疾患の除外(除外診断)。特に,MDSは確実に否定。
・骨髄巨核球の増加。
・血小板結合性IgG(PAIgG)の上昇。
【治療】
必ずしも早期診断・治療が当てはまりません。
1)血小板数が数万以上では無治療で経過観察。
2)ピロリ菌の除菌療法。
3)血小板数が2-3万以下で出血があれば、副腎皮質ステロイド。
4)ステロイド無効例では,摘脾術を考慮。摘脾術に際して,免疫グロブリン大量療法を先行。
5)トロンボポエチン受容体作動薬
ITPと抗リン脂質抗体症候群(APS)の合併もあり、摘脾術時の術後血栓症に注意が必要です。
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