第VIII因子活性測定法の違いと軽症血友病A診断
論文紹介です。
関連記事:APTT、血友病、後天性血友病、第V因子インヒビター、第VIII因子インヒビター、PT-INR
、クロスミキシングテスト
「測定法の違いによる軽症血友病A診断の問題点」
著者名:Bowyer AE, et al.
雑誌名:Haematologica 98: 1980-1987, 2013.
<論文の要旨>
第VIII因子活性は、1段法、2段法、発色合成基質法の3つの方法で測定可能です。
軽症血友病A患者の多くは、どの測定法であっても同じ結果となります。
しかし、約30%の患者さんでは測定方法により異なった結果が得られます。
著者らは自施設において、測定法の違いにより差が出る症例がどの程度存在するかその頻度を検討しました。
対象は軽症血友病A 84症例です。
1段法と2段法の間に2倍以上の差がある場合を乖離例と定義しました。
その結果、乖離例は31%にみられ、12%の例では2段法の方が低値であり、19%の例では1段法の方が低値でした。
発色合成基質法は2段法に代わる適切な測定法であることが示されました。
トロンボエラストメトリーは、血友病診断としては低感度でした。
較正自動トロンボグラフィーは、2段法や発色合成基質法の結果と一致しました。
今日使用されているガイドラインでは軽症血友病Aの診断のための測定法を記載していないため、4%の症例が1段法では血友病と診断されません。
血友病Aの可能性のある症例に遭遇したら、1段法と発色合成基質法(または2段法)の両測定を行うべきです。
<リンク>
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:35
| 出血性疾患
先天性出血性素因患者とHCV感染
論文紹介です。
関連記事:APTT、血友病、後天性血友病、第V因子インヒビター、第VIII因子インヒビター、PT-INR
、クロスミキシングテスト
「先天性出血性素因を有する患者におけるHCV感染の長期間経過観察」
著者名:Fransen van de Putte DE, et al.
雑誌名:J Hepatol 60: 39-45, 2014.
<論文の要旨>
著者らは先天性出血性素因患者(IBD)において、HCV感染による肝関連有害事象の長期問題追跡を行いました。
オランダおよび英国におけるHCV感染IBD 863症例を対象に後方視的検討を行いました。
HCV感染からの追跡期間の中央値は31年でしたが、30%の症例は35年超の観察期間となりました。
19%症例では自然にHCVが消失しましたが、81%の症例では慢性HCV感染症となりました。
慢性HCV感染症700症例のうち90例(13%)では末期肝疾患(ESLD)を発症しました。
3%では肝細胞癌(HCC)の診断がなされ、そのうち41%は最近6年間で発症しました。
ESLD発症の決定因子は、感染した年齢(1年毎にHR1.09)、HIV重複感染(HR 10.85)、アルコール多飲歴(HR4.34)、抗ウイルス治療の成功(HR0.14)でした。
現在も生存中の487症例のうち、49%では抗ウイルス療法が行われていませんでした。
HCVに感染したIBDの相当数患者が30年以上の経過でESLDを発症していました。
HCC発症も重大な問題です。
将来のESLD発症を抑制するために、伝統的な抗ウイルス療法も新しい抗ウイルス療法も有効な選択肢になると考えられました。
<リンク>
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:26
| 出血性疾患
軽症血友病Aとデスモプレシン治療
論文紹介です。
関連記事:APTT、血友病、後天性血友病、第V因子インヒビター、第VIII因子インヒビター、PT-INR
、クロスミキシングテスト
「軽症血友病Aに対するデスモプレシン治療の効果と反応決定因子」
著者名:Di Perna C, et al.
雑誌名:Semin Thromb Hemost 39: 732-739, 2013.
<論文の要旨>
デスモプレシン(DDAVP)は軽症血友病Aの治療選択肢の一つと考えられていますが、反応率、反応型、効果決定因子など不明な点が多いです。
著者らは自施設通院中の軽症血友病A全症例を対象に後方視的に検討しました。
DDAVP治療歴のあったのは75症例であり、そのうち57例(76%)は完全あるいは部分的に反応しました。
DDAVPの反応は患者の年齢と相関しており、反応例の年齢中央値は24歳、非反応例は18歳でした。
また、プロモーター領域に変異のある10例は全員が非反応例でした。
第VIII因子活性の基礎値は、反応例で有意に低かったです(反応例0.14, 非反応例0.19IU/mL)。
この理由は、プロモーター領域に変異を有する非反応例は第VIII因子活性の基礎値が高値のためでした。
12年間の経過観察期間中、出血のエピソード82/237回(35%)は27例の反応例で生じ、DDAVPが246回投与されましたが、完全あるいは部分的有効率は92%(75/82)でした。
DDAVPの副作用はみられませんでした。
以上、DDAVPは軽症血友病Aに対して治療または予防として安全かつ有効であり、在宅治療も含めて普及させるべきと考えられました。
<リンク>
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:19
| 出血性疾患
後天性血友病Aの治療
論文紹介です。
関連記事:APTT、血友病、後天性血友病、第V因子インヒビター、第VIII因子インヒビター、PT-INR
、クロスミキシングテスト
「後天性血友病A:2013 update」
著者名:Franchini M, et al.
雑誌名:Thromb Haemost 110: 1114-1120, 2013.
<論文の要旨>
後天性血友病A(AHA)は、第VIII因子に対する自己抗体が出現するまれではありますが、重症の出血傾向をきたす疾患です。
AHAの危険因子は、高齢、出産、悪性腫瘍、自己免疫疾患、ある種の薬物などです。
ただし、50%の症例は特発性です。
AHAの基礎疾患の治療とともに、急性出血の止血治療と第VIII因子抗体産生抑制の治療が重要です。
この総説では、疫学、診断、臨床的特徴、最新の治療法について論じています。
(止血治療)
•第1選択(第VIII因子バイパス製剤)
1) APCC:50〜100IU/kg、 8〜12hr毎、最大200IU/kg/day
2) rFVIIa:90〜120μg/kg、2〜3hr毎
•第2選択:第VIII因子濃縮製剤、デスモプレシン、免疫吸着療法・血漿交換療法
(インヒビター除去治療)
•第1選択:プレドニン(1mg/kg/d, 4〜6週)単独またはサイクロフォスマイド(1.5〜2.0mg/kg/day, 最大5週)との併用
•第2選択:リツキシマブ(375mg/m2, 週1回を4週間)、アザチオプリン、サイクロスポリン、ミコフェノレート、ヴィンクリチン、FVIIIによる免疫寛容療法
<リンク>
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:11
| 出血性疾患
血友病とPT、APTT
論文紹介です。
関連記事:APTT、血友病、後天性血友病、第V因子インヒビター、第VIII因子インヒビター、PT-INR
、クロスミキシングテスト
「グローバルテスト:PT、APTTの基礎と臨床」
著者名:内場光浩
雑誌名:日本検査血液学会 14: 337-343, 2013.
<論文の要旨>
PTおよびAPTTはそれぞれ凝固外因系と内因系の反応を反映すると考えられていますが、あくまでも試験管内の反応であり、生理的凝固反応の一側面しか反映していません。
診断のための検査としては、凝固因子欠損症のスクリーニングが、次いでインヒビターのスクリーニングが挙げられます。
特にAPTTは、第VII因子欠損症を除く全ての凝固因子欠損症で延長するため、凝固因子欠損症のスクリーニングに有用です。
しかしながら、因子活性低下に対する感受性は試薬によって大きく異なり、また因子によっても異なります。
特に血友病保因者などの軽〜中程度の低下症では、APTT は必ずしも異常値を示さない場合もあります。
インヒビターを呈する疾患の中で頻度が高い疾患はループスアンチコアグラントですが、緊急度は後天性血友病の方がより高いです。
これらインヒビターの検出には混和試験が有効ですが、後天性血友病の場合は混和直後では検出されないこともあるため、混和2時間後の測定が必要です。
一方治療方針決定の検査として、ヘパリンの指摘投与量の調整にAPTTが用いられ、数多くの学会作成のガイドラインでもAPTTを1.5〜2.5倍が治療域であると記載されています。
しかしAPTTは試薬間差(施設間差)が大きくガイドラインの様に使用することは出来ません。
第VIII因子活性の低下とともにAPTTは延長し、特に凝固因子活性が20%以下の患者では51例中49例(96%)が基準値以上の延長を呈していました。
この事実は血友病Aの患者のスクリーニング検査としてはAPTTは充分使用に堪え得ると考えられます。
しかしながら、VIII因子活性が20〜60%の症例では26%(19例中5例)がAPTT基準値内の値を示しました。
この事実は血友病Aの保因者などではAPTTが正常な値を示す症例も少なくなく、保因者スクリーニングにAPTTを使用する場合は注意が必要であることを示しています。
第IX因子の低下にてもAPTTは延長し、因子活性が20%未満の症例のすべて(5例中5例)で異常値を示しましたが、IX因子活性が20〜60%の症例でAPTT異常値を示したのは33%(9例中3例)に過ぎませんでした。
従って血友病Bの保因者のスクリーニングは血友病Aの診断スクリーニング以上の注意が必要であると考えられます。
<リンク>
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:55
| 出血性疾患
金沢大学附属病院第三内科(血液・呼吸器内科)病棟(2)
金沢大学附属病院第三内科(血液・呼吸器内科)病棟(1)より続く。
金沢大学附属病院の第三内科(血液・呼吸器内科)病棟で、クリスマスコンサートが行われました。
年々、レベルアップしているように感じます。
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:44
| その他
金沢大学附属病院第三内科(血液・呼吸器内科)病棟(1)
金沢大学附属病院の第三内科(血液・呼吸器内科)病棟で、クリスマスコンサートが行われました。
あまりに素晴らしすぎて、管理人も大変感動しました。
入院されている患者さんの病状も必ずや改善されたのではないかと思いました。
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:27
| その他
金沢大学第三内科(血液・呼吸器内科)忘年会:インデックス
金沢大学第三内科(血液・呼吸器内科)忘年会
平成25年12月14日(土)(ANAクラウンプラザホテル金沢)
インデックス
1)忘年会
2)山崎先生と高見先生
3)スピーチ画像
4)お隣はN病院の忘年会
5)高見先生
6)学外の先生と語り合える
7)全ての先生方がお元気
8)とても良い一年だったと思います
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:49
| その他
金沢大学第三内科(血液・呼吸器内科)忘年会(8)
金沢大学第三内科(血液・呼吸器内科)忘年会
平成25年12月14日(土)(ANAクラウンプラザホテル金沢)
本年も大変に楽しい忘年会になりました。
今年は、森下先生と高見先生の2人の教授が誕生しましたし、若手のドクターも元気に頑張っていますし、とても良い一年だったと思います。
多くの皆様に当科をご支援いただき、心から感謝申し上げます。
ありがとうございます。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
<リンク>:臨床に直結する血栓止血学
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:40
| その他
金沢大学第三内科(血液・呼吸器内科)忘年会(7)
金沢大学第三内科(血液・呼吸器内科)忘年会
平成25年12月14日(土)(ANAクラウンプラザホテル金沢)
最近ご無沙汰していた先生方も何人もおられましたが、全ての先生方がお元気でとても嬉しく思いました。
とても良い忘年会になったと思います。
<リンク>:臨床に直結する血栓止血学
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:31
| その他
金沢大学第三内科(血液・呼吸器内科)忘年会(6)
金沢大学第三内科(血液・呼吸器内科)忘年会
平成25年12月14日(土)(ANAクラウンプラザホテル金沢)
当科の医局行事はいろいろありますが(今回の忘年会もそうですが)、学外の同期生と語り合える機会を持てるというのも大きな意義ではないかと思っています。
お忙しい中、万難を排して来て下さった学外の先生には、本当に感謝です。
ありがとうございます。
<リンク>:臨床に直結する血栓止血学
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:24
| その他
金沢大学第三内科(血液・呼吸器内科)忘年会(5)
金沢大学第三内科(血液・呼吸器内科)忘年会
平成25年12月14日(土)(ANAクラウンプラザホテル金沢)
上段の画像は高見先生シリーズです。
この度、愛知医科大学血液内科教授就任が決定しました。当科にとっては、とてもめでたいニュースです。
<リンク>:臨床に直結する血栓止血学
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:16
| その他
金沢大学第三内科(血液・呼吸器内科)忘年会(4)
金沢大学第三内科(血液・呼吸器内科)忘年会
平成25年12月14日(土)(ANAクラウンプラザホテル金沢)
今回の忘年会の出席者数は幹事の先生に確認していませんが、多分80人くらいだったと思います。
温泉一泊ではなく、ホテル日帰りの方が出席しやすいようです。
なお、お隣では、当科が大変にお世話になっているN病院の忘年会が行われていました。
偶然なのですが、大変びっくりしました。
<リンク>:臨床に直結する血栓止血学
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:06
| その他
金沢大学第三内科(血液・呼吸器内科)忘年会(3)
金沢大学第三内科(血液・呼吸器内科)忘年会
平成25年12月14日(土)(ANAクラウンプラザホテル金沢)
各先生方のスピーチ画像です。
どの画像も素晴らしいのですが、何と言っても新婚さんご夫婦の画像が光り輝いています!
<リンク>:臨床に直結する血栓止血学
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:00
| その他
金沢大学第三内科(血液・呼吸器内科)忘年会(2)
金沢大学第三内科(血液・呼吸器内科)忘年会
平成25年12月14日(土)(ANAクラウンプラザホテル金沢)
山崎医局長と高見先生の貴重なショットです。
お二人のスマイルが素敵です!
<リンク>:臨床に直結する血栓止血学
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:55
| その他
金沢大学第三内科(血液・呼吸器内科)忘年会(1)
金沢大学第三内科(血液・呼吸器内科)忘年会の画像をアップさせていただきます。
平成25年12月14日(土)(ANAクラウンプラザホテル金沢)
右上では、当科の中尾教授と、保健学科の森下教授の密談(?)が行われています。
左下では、呼吸器内科長の笠原先生と、南砺市民病院院長の南先生が歓談中です。
<リンク>:臨床に直結する血栓止血学
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:46
| その他
金沢大学血栓止血研究室(5)「臨床に直結する血栓止血学」
金沢大学血栓止血研究室(4)先天性凝固異常症より続く。
血栓止血研究室(血管診療グループ)(5)「臨床に直結する血栓止血学」
「臨床に直結する血栓止血学」(中外医学社、朝倉英策編)が、平成25年10月に発刊されました。
40人以上の専門の医師により執筆されていますが、当科からは、森下、高見、林、朝倉が執筆に加わりました。
血栓止血学の基礎から詳細に論じた専門書や雑誌は多数ありますが、本書はあくまでも「臨床に直結する」を意識しています。
教科書的な基本知識にとどまらず、ここがコンサルトされやすい、ピットフォール、お役立ち情報、症例紹介などを充実させています。
おかげさまで出だしは好調です、ありがとうございます。
同門の先生方にも種々ご批判いただければと思っています。
次回の改訂版に活かしていきたいと思っています。
以上、私たち血栓止血研究室は、生体の最も基本的な生理反応である止血と、人類が克服すべき血栓症を扱っています。
また、この領域は追求する程に味わいのある深淵な学問であると思っています。志を同じくする同志が一人でも増えることを願ってやみません。
(続く)金沢大学血栓止血研究室:インデックスへ
<リンク>:臨床に直結する血栓止血学
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:58
| 血栓止血(血管診療)
金沢大学血栓止血研究室(4)先天性凝固異常症
金沢大学血栓止血研究室(3)DICより続く。
血栓止血研究室(血管診療グループ)(4)先天性凝固異常症
抗リン脂質抗体症候群(APS)に対しても精力的にとり組んできました。
当科の「血栓止血外来」で診療を受けられる患者さんの過半数はAPS関連の疾患を持っておられますので、臨床的にも比重の大きい重要疾患であり,外来担当者全員で診療にあっております。
APSはいまだ不明の部分も多い疾患群ですが、徐々に解明され、コントロール可能となっていくことを、大いに期待して研究に取り組んでおります。
先天性凝固異常症の分子病態に関する研究としては、森下および保健学科の学生らを中心に、凝固因子および凝固阻止因子の分子異常について幅広く研究しています。
一般的には先天性凝固因子欠損症では出血傾向を、凝固阻止因子欠損症では血栓傾向を呈することが知られています。
そのような異常を呈する症例について家族を含めて遺伝子解析を行い、その変異部位の同定を行っています。
さらに、組み換えDNAの手法を用いて異常分子を作成し、その機能解析を行っております。
今までに,世界でも報告のない新たな変異部位を次々と明らかにしており、先天性凝固異常症の研究では全国でも有数の研究施設となっております。
現在、血栓傾向をきたす先天性第V因子欠損症というきわめてアジア系人種ではまれな家系に遭遇し、その血栓形成メカニズムの解明に取り組んでおり、第V因子の新たな機能が明らかになるかもしれません。
(続く)金沢大学血栓止血研究室(5)「臨床に直結する血栓止血学」へ
<リンク>:臨床に直結する血栓止血学
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:46
| 血栓止血(血管診療)
金沢大学第三内科(血液・呼吸器内科)医局説明会
金沢大学第三内科(血液・呼吸器内科)医局説明会のご案内です。
日時:12月12日(木)午後6時
場所:第三内科医局
<リンク> :臨床に直結する血栓止血学
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:53
| 研修医の広場
金沢大学血栓止血研究室(3)DIC
金沢大学血栓止血研究室(2)新規経口抗凝固薬より続く。
血栓止血研究室(血管診療グループ)(3)播種性血管内凝固症候群(DIC)
さて、当研究室の医局員スタッフは学内外を合わせて計10人で、大学には、朝倉、森下、林、門平(敬称略)の計4人が在籍しています。
またこれまでに、薬学部修士課程大学院生13人との共同研究を行ってきました。
保健学科、検査部との共同研究も継続されています。
研究助手の穴田は、長きにわたり研究室のため縁の下の力者として活躍してもらっており、彼女なしでは研究室は運営できないという状況にあります。
当研究室は、一貫して「血栓症の克服」に向けて研究を進めています。
特に、DIC病態解析と治療法の改善、抗リン脂質抗体症候群(APS)の病態解析・臨床、血栓性疾患の病態解析、凝固異常症の遺伝子解析は、私達が最も力を入れているところです。
播種性血管内凝固症候群(DIC)研究に関しては、日本血栓止血学会 学術標準化委員会(SSC)の「DIC部会」の部会長として朝倉が4年間の任期を全うしました。
その間、日本における一般内科や血液内科領域のみならず、救急・外科・臨床検査などの種々領域でのDICの臨床、研究が大きく向上しました。
この向上には、前述のrTMの果たした役割も大変に大きかったと思います。
現在は、日本血栓止血学会の諮問機関として「DIC診断基準作成委員会」(委員長:朝倉)が結成されて、長らく用いられてきた旧厚生省DIC診断基準の改訂までもう一歩のところまで来ています。
<リンク>:臨床に直結する血栓止血学
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:43
| 血栓止血(血管診療)
金沢大学血栓止血研究室(2)新規経口抗凝固薬
金沢大学血栓止血研究室(1)森下英理子の教授就任より続く。
血栓止血研究室(血管診療グループ)(2)新規経口抗凝固薬
血栓止血研究室は、血栓止血学を臨床・研究・教育のテーマとしています。
内科系、外科系あるいは臨床検査医学など、多くの他領域と関連が深いのが特徴です。
遺伝子組換えトロンボモジュリン製剤(rTM、リコモジュリン)は、保険適応はDICのみですが、その強い抗炎症効果が注目されて、多くの病態での応用が期待されています。
敗血症に合併したDICに対しては臨床現場で大活躍していますが、それ以外には最近は、移植後の合併症であるSOS、TMA、生着症候群にも期待されています。
rTMは、今後とも目の離せない夢のあるお薬です。
昨年は、心房細動に対する新規経口抗凝固薬(New Oral Anti-Coagulant:NOAC)であるダビガトラン(商品名:プラザキサ)、リバーロキサバン(商品名:イグザレルト)を紹介いたしましたが、現在はアピキサバン(商品名:エリキュース)も処方可能になりました。
また、近いうちにエドキサバン(商品名:リクシアナ)も心房細動に対して処方可能になるでしょう(術後の深部静脈血栓症予防には保険収載済み)。
今後は、これらの新規経口抗凝固薬の使い分けが議論されるようになっていくと思います。
ワルファリンしか使用できなかったごく最近までの時代を思いますと、治療選択肢が大きく広がりました。
他施設や他科からの紹介でも、本症例はNOACの適応があるかどうかというコンサルトも増えました。
また、紹介状を拝見しますと、NOACはあまり厳格な制限なく弾力的に処方されている印象を持っています。
ただし、これらの新薬が順調に成長するためには、やはり今後の慎重な検討が必要だと思っています。
(続く)金沢大学血栓止血研究室(3)DICへ
<リンク>:臨床に直結する血栓止血学
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:21
| 血栓止血(血管診療)
金沢大学血栓止血研究室(1)森下英理子の教授就任
金沢大学第三内科(血液・呼吸器内科)同門会報の原稿からです。
今回は、血栓止血研究室紹介です。
血栓止血研究室(血管診療グループ)(1)森下英理子の教授就任
私たちの研究室にとって真っ先にお伝えしたい大変に明るいニュースは、森下英理子の教授就任(金沢大学医薬保健研究域保健学系検査科学専攻)です。
森下は、大学内において、教育、研究、臨床の3本柱をバランスよくこなしてきたかつてない逸材で、教授就任は時間の問題と多くの者が思っていましたが、予想通りの展開とは言え大変に喜ばしいかぎりです。
金沢大学において松田保名誉教授に灯していただいた血栓止血の火が今後とも輝きを増すことを決定付けた慶事でもあります。
医局&同門会の祝賀会、血栓止血研究室の祝賀会と2枚の画像を紹介させていただいていますが、特に小さい画像の方が私たちにとってはお宝画像と言うことができます。
(続く) 金沢大学血栓止血研究室(2)新規経口抗凝固薬へ
<リンク>:臨床に直結する血栓止血学
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:16
| 血栓止血(血管診療)
セカンドオピニオン外来:インデックス
セカンドオピニオン外来(5)インターネットのテレビ電話相談より続く。
セカンドオピニオン外来の風景(インデックス) by 中尾眞二
1)受診の理由
2)申し込み、受診、診療
3)骨髄不全
4)MDSではなく再生不良性貧血
5)インターネットのテレビ電話相談
<リンク>:臨床に直結する血栓止血学
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:34
| その他
セカンドオピニオン外来(5)インターネットのテレビ電話相談
セカンドオピニオン外来(4)MDSではなく再生不良性貧血より続く。
セカンドオピニオン外来の風景(5) by 中尾眞二
医師にとってのセカンドオピニオン外来の効用
前述のように一人の患者さんに2時間かかるという診療はあまり楽な作業ではない。
ただし、自分の経験や知識によってその患者さんの運命を良い方向に変えられることが時にあるのでこの2時間を苦痛に思うことはあまりない。
むしろ医師冥利に尽きる作業と言っても良いかもしれない。
また、自分を頼ってやって来る患者さんや紹介医に無責任なことは言えないので、患者さんが来院するまでに担当医はその病気について一生懸命調べざるを得ない。
これが実はとても良い勉強になる。
さらに、一度セカンドオピニオンでつながりができた患者さんは、その後も一般外来やメールなどによる診察・相談を希望されることが多いので、顛末が不明のまま診療が途絶えることはなく、長期間にわたって多くの患者さんの経過をみることができる。
このため若い医師には可能な限り積極的にセカンドオピニオン外来を担当するよう勧めている。
将来展望
セカンドオピニオンは、患者が主治医に気を遣うことなく、他の医師の意見を聞けるという意味で、良い制度であることは間違いない。
従来であれば、他の医師に診てもらうために紹介状を依頼するのに気が引けていた患者も、この制度を利用すれば遠慮なく主治医に紹介状を依頼することができる。
ただ、何といっても保険外診療であるため値段が高いことが欠点である。
遠方からの来院では診療費以上に交通費がかかるという問題もある。
これを解決するための一つの方策は、インターネットを用いたテレビ電話相談であろう。
Face to faceで話を聞くことに勝るものはないとは言え、画像資料や患者さんの表情をみながら説明ができれば、直接来院するのとあまり変わらない面接効果が得られると思われる。
病院収入に繋げるためにどのように料金を設定するかという問題はあるが、テレビ電話が一般化すれば、日本中あるいは世界中で不適切な医療を受けている(可能性のある)患者さんを救済できるのではないかと夢想している。
(続く)セカンドオピニオン外来:インデックスへ
<リンク>:臨床に直結する血栓止血学
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:24
| その他
セカンドオピニオン外来(4)MDSではなく再生不良性貧血
セカンドオピニオン外来(3)骨髄不全より続く。
セカンドオピニオン外来の風景(4) by 中尾眞二
アメリカからのセカンドオピニオン
同じような誤解は日本だけでなくアメリカでも起こっている。
図1は7年前にサンフランシスコ在住の男性から寄せられたメールのコピーである。
メールの内容は要約すると以下のようになる。
“私の母親はMDSと診断され、医師からは骨髄移植しか治す方法がないと言われている。
ただし、母の末梢血にはPNH形質の血球がわずかに検出された。
貴施設がBlood誌に2002年に報告した論文には、PNH形質血球陽性のMDSの一部は無治療で自然寛解する例があると書かれている。
それらの例について詳しく聞かせて欲しい”
この男性は非常に親孝行な息子さんで、母の治療方針について相談するためにヒューストンのMDアンダーソン癌センターやシアトルのフレッドハッチンソン癌研究所なども訪れ、MDSの大家にセカンドオピニオンを求めた。
その結果、スタンフォード大学の主治医を含めたすべての専門医から「アザシチジン」という一種の化学療法を勧められた。
男性が送ってきた検査結果を詳しく見たところ、診断はMDS(前白血病)ではなく重症度の低い再生不良性貧血と思われた。
私との間で10通以上のメールのやり取りをした結果、この母親思いの男性と患者さんは化学療法ではなく、私が勧めたシクロスポリン療法を選択した。
図2はその息子さんが送ってきた治療開始後血小板数の推移を示している。
患者さんにみられていた汎血球減少は1年半後には完全に消失し、2年間のシクロスポリン内服中止後も血球減少の再燃はみられていない。
もちろん白血病に移行する徴候は皆無である。
5年前にサンフランシスコでアメリカ血液学会が開催された際、学会に参加することを伝えたところ、学会場近くのレストランに招待しれくれることになった。
約束したレストランの扉を開けたところ、患者さん、息子さんと患者さんの友人が全員立ち上がって迎えてくれた。
そこで撮ってもらった写真が図3である。
初めて会ったアメリカ人家族ではあったが、長年の友人に会ったような気がした。
患者さんは自分の経過を医師や他の患者さんにも伝えて役立てて欲しいと言われたため、海外で骨髄不全の話をするたびにこの経過と写真を紹介するようにしている。
しかし、残念なことにこの患者さんでみられた「誤診」は未だに世界中で起こっている。
(続く)セカンドオピニオン外来(5)インターネットのテレビ電話相談へ
<リンク>:臨床に直結する血栓止血学
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:27
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セカンドオピニオン外来(3)骨髄不全
セカンドオピニオン外来(2)申し込み、受診、診療より続く。
セカンドオピニオン外来の風景(3) by 中尾眞二
血液難病の診断は難しい
悪性疾患の場合、診断に問題があることはほとんどない。
一方、骨髄不全の場合には、紹介医の診断が正しくないことがしばしばある。
これは必ずしも主治医に問題があるためではなく、骨髄不全という疾患群そのものの鑑別診断がそもそも難しく、既存の診断基準に矛盾があることが影響している。
ただ、セカンドオピニオンの場合、患者さんが自分の病気の診断を疑って来院することは稀で、通常は治療方針の確認か別の可能性がないかを知りたくて来院する。
このため、診断が間違っていると現場を取り繕うのに苦労することになる。
そのような場合には紹介状を書いてくれた主治医に失礼にならないように、患者さんに診断の難しさを伝えたうえで治療方針の変更を提案するようにしている。
もっとも多いのは、良性疾患の再生不良性貧血や発作性夜間血色素尿症(PNH)がMDS(前白血病状態)と診断され、適切な治療がなされていない例である。
逆に、再生不良性貧血と診断されて来院したにもかかわらず、よくデータをみると急性白血病であったため外来で説明に窮したこともあるが、これは幸い稀である。
圧倒的に多いのは再生不良性貧血・PNHがMDSと診断されている場合である。
患者さんは医師からMDSと言われたため、いつ白血病に変わるのかと不安に苛まれる日々を過ごしてきた患者さんが、実は良性の病気であると分かって喜ばれるのをみると、時間を取った介があったという気持ちになる。
一方で、これは氷山のほんの一角であり、同じような「誤診」が全国で起こっていることを考えると暗澹たる気持ちになる。
金沢大学病院では、実際に外来を受診するセカンドオピニオン外来とは別に、骨髄不全の診断と治療に関するメール相談を10年以上前から受け付けている。
当科でしか行えない特殊検査があるため、年間に1,000例近い相談が全国から寄せられるが、その中で施設診断がMDSとされている例の約半数は、実際には再生不良性貧血である。
骨髄不全の診断が如何に難しいかを示している。
(続く)セカンドオピニオン外来(4)MDSではなく再生不良性貧血へ
<リンク>:臨床に直結する血栓止血学
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:11
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セカンドオピニオン外来(2)申し込み、受診、診療
セカンドオピニオン外来(1)受診の理由より続く。
セカンドオピニオン外来の風景(2)by 中尾眞二
患者さんが外来に来るまで
セカンドオピニオンの申込みがあると地域連携室からメールが届く。
申込書に書かれている患者さんの番号に電話して日程を調整する。
これが実は簡単ではない。
最近では連絡先として携帯電話番号を記載するケースが多いので以前よりは連絡が取りやすくなったが、かつては自分が電話できる時間帯に自宅に電話してもなかなか通じないため、申し込みから連絡が取れるまでに3-4日以上かかることがざらにあった。
特に自分が学会や研究会で出張しているときは連絡の時間を作るのが大変である。
かといって、秘書さんや医事課の事務方に調整を頼めるかというと、ある程度病状を聞いたうえで実際にセカンドオピニオン外来を実施するかどうかを判断しなければならないため、これも難しい。
私の場合、遠方の患者さんに対しては電話でおおよその病状を聞いたのち、金沢まで来るほどのことがない相談に対しては電話相談で済ませるようにしている。
また、セカンドオピニオン希望であっても、直接話をしてみると病状判断のために種々の検査が必要なことがあることがある。
その場合には一般外来に切り替えることになる。
結果的に、セカンドオピニオン外来の申し込みがあったうち、実際にその特殊外来を実施するのは全体の70%程度である。
診療の実際
セカンドオピニオン外来用の紹介状は診療前にファックスや郵送で届られる場合と、当日患者さんが持参する場合とがある。
後者の場合は、診察開始前の20分ほどで紹介状を読み、その間に自分なりの方針を決定することになる。
患者さんに自分の意見を伝える時間は約30分、患者さんからの質問に答える時間が30分で計1時間ほどやり取りをした後、話した内容を紙にまとめる。
私の場合入力の作業が遅いのでここにどうしても30ほどかかるため、全体としては90分以上かかることが多い。
患者さんやご家族によっては、話をまとめている間にさらに質問が生じるので、患者さんに文書を手渡し、紹介医への返書を印刷して全てが終了する頃には約2時間が経過している。
2006年6月から2013年11月までの約7年間で私のセカンドオピニオン外来を受診した患者数は72人、このうち移植に関する相談は22件、残り50件は再生不良性貧血、MDS、赤芽球癆などの骨髄不全の診断・治療に関する相談であった。
前者はほとんどすべてが北陸三県から紹介であるのに対して、後者のほとんどは東京、愛知、大阪などの北陸三県外からの紹介である。
(続く)セカンドオピニオン外来(3)骨髄不全へ
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:01
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セカンドオピニオン外来(1)受診の理由
金沢大学第三内科(血液・呼吸器内科)同門会報からの原稿です。
ブログで先行してアップさせていただきます。
今回は当科の中尾教授の原稿です。
セカンドオピニオン外来の風景(1)by 中尾眞二
金沢大学病院では2005年からセカンドオピニオン外来が開設され、年間約180人の患者さんが保険外診療として各科を受診している。
この制度が始まった当時、私は副病院長を務めていた。
病院の執行部会議でセカンドオピニオン外来の新設が提案された際に、是非やりましょうと後押ししたのを覚えている。
私がこの制度をありがたいと思ったのは、次の患者さんを待たせているという精神的な重圧なしに患者さんとゆっくり話ができると思ったからである。
血液難病を専門にしていると、患者さんが予告なしに遠方から来院することが時々ある。
特に、当時は病院が完全予約制をとっていなかったため、遠方から初診患者さんが来ると早々に話を切り上げるわけにもいかず、その結果、待っている他の患者さんに迷惑がかかるということがしばしばあった。
その点、セカンドオピニオン外来は自分の空いている時間を選んで実施するため、他の患者さんのことを気にせずにじっくり患者さんの話を聞いたり病状を説明したりすることができる。
セカンドオピニオン外来受診の理由
セカンドオピニオン外来を訪れる患者さんの受診目的は大きく分けて二種類ある。
一つは、治療方針に関する主治医の説明に十分納得しているが、重大な選択であるため、念のため別の医師の意見を聞きたいという場合である。
この目的で来院する患者さんの多くは悪性疾患と診断された方である。
もう一つは、病気の経過が良くないので、次の治療をどうするかを経験の多い別の医師に聞きたいという場合である。
これは、治療方針に関するエビデンスが乏しい難病の場合に多い。
セカンドオピニオン外来への受診は当院への転院を前提としないことになっているので、担当者の意見が主治医の治療方針と異なる場合には、患者さん自身が選択した治療を主治医にお願いする、ということになる。
私がセカンドオピニオン外来の対象にしているのは同種造血幹細胞の適応に関する相談と、再生不良性貧血や骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome; MDS)などの骨髄不全の治療に関する相談である。
対象をこれらに絞っている理由は、これらの状態・疾患の場合、治療方針に関するエビデンスが十分に確立されていないため、医師によって意見が異なることが多く、治療方針を説明するために長時間を要するためである。
結果的に、私のセカンドオピニオン外来を訪れる患者さんの多くは、上記の二つの目的のうち後者の「主治医が治療方針に窮している場合」ということになる。
(続く)セカンドオピニオン外来(2)申し込み、受診、診療へ
<リンク>:臨床に直結する血栓止血学
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:42
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キノコの山をめぐる冒険:インデックス
キノコの山をめぐる冒険(4)ドクターBJより続く。
「キノコの山をめぐる冒険(広州編)」(インデックス) by 小川晴彦
1)国際咳嗽カンファランス
2)ドンファンホテル
3)慢性咳嗽
4)ドクターBJ
<リンク>:臨床に直結する血栓止血学
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:17
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キノコの山をめぐる冒険(4)ドクターBJ
キノコの山をめぐる冒険(3)慢性咳嗽より続く。
「キノコの山をめぐる冒険(広州編)」(4) by 小川晴彦
その晩、Welcome dinnerは、会場からはなれた、高層ビル最上階で開催された。
眼下に広がる夜景のなかに、広州タワーが光を放っている。
突然のスモークと照明に目がくらんだ。
おおーっというどよめきのなかに、会場の天井が、大きく左右にわかれて収納されていくと、瞬く間にオープンエアーのフロアーに様変わりし、宴は最高の盛り上がりをみせた。
「おーい、BJ! こっちだ。 集合写真だ。 早く。」
Prof Nanshan Zhongが、ひときわ大きな声で私を呼ぶと、みなが、“BJ、BJ”といって手招きした。
どうやら、ぼくのニックネームは BJに決まったらしい。
「今日は本当にありがとう。
会場からのすごい熱気は、きみがうまく通訳してくれたからだね」
彼女が微笑んだ。
「this way こっちよ」
彼女が指さしたのは、みんなを待つバスの方向だった。
そしてそれが、彼女とかわした最後の言葉になった。
これでもかといわんばかりに、両手にお土産をもたされて、修学旅行のような、にぎやかなバスは静かにドンファンホテルへと動き出した。
翌日、すべてのプログラムが終了し、一般演題の優秀賞の授与が終わると、それに続いて、講演を行ったメンバー全員が壇上へと招かれた。
安堵と充実感、そして連帯感。
この仕事をやってきてよかった。
ここに来られて本当によかった。
何度も喜びをかみしめ、感謝の気持ちに満ちあふれた。
* 2013.11.10.広州空港。
午前9:15 成田行きANA933便が離陸した。
キノコの山をめぐる冒険 広州編が、もうすぐ幕をとじる。
初めての中国。
初めての国際学会での招請講演。
大きく一息ついた。
そして、淡い面影が薄らいでゆくころ シートベルト着用サインが消え、ぼくは浅い眠りにおちた。
(続く)キノコの山をめぐる冒険:インデックスへ
<リンク>:臨床に直結する血栓止血学
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:55
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