CBT問題(コアカリ):血栓・塞栓症
実際出題された、CBT問題(コアカリ)より、血栓止血関連領域のものを取り上げて、簡単な解説をさせていただきます。
実際に試験を受けた学生さんの記憶による再現問題ですので、実際の問題とは微妙に異なっている可能性がありますが、ご了承お願いいたします。
血栓・塞栓症をきたしやすい状態として適切でないのはどれか。
A. 長期臥床
B. うっ血性心不全
C. 妊娠
D. 悪性腫瘍
E. 肝硬変
(解説)
A. 長期臥床は下肢筋肉収縮が乏しくなり(下肢筋肉ポンプが働かなくなり)、下肢静脈血流が悪くなるため、深部静脈血栓症(DVT)の危険因子となります。
B. うっ血性心不全は心臓への静脈還流が悪くなり、深部静脈血栓症(DVT)の危険因子となります。
C. 妊娠は、胎児による下大静脈圧迫および妊娠そのものによる凝固活性化状態のため、易血栓状態となります。
D. 悪性腫瘍の存在により、凝固活性化状態となります。悪性腫瘍は播種性血管内凝固症候群(DIC)の基礎疾患でもあります。
E. 肝硬変では、血小板数および凝固因子が低下するため、出血しやすい状態となります(ただし、凝固阻止因子であるアンチトロンビンやプロテインC(参考:敗血症と凝固・DIC(1)活性化プロテインCの意義)も低下するため易血栓状態にもなります。紛らわしい選択肢だと思います)。
(静脈血栓塞栓症の危険因子)
1) 脱水・多血症
2) 肥満
3) 妊娠・出産(特に帝王切開出産)
4) 経口避妊薬
5) 下肢骨折・外傷、手術後、下肢麻痺、長期臥床、ロングフライト
6) 悪性腫瘍の存在
7) 心不全、ネフローゼ症候群
8) 深部静脈血栓症や肺塞栓症の既往
9) 血栓性素因:先天性アンチトロンビン欠損症、先天性プロテインC欠損症、先天性プロテインS欠損症、抗リン脂質抗体症候群など。
(正答)E
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:56
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金沢大学公開講座:健康寿命をのばそう(Part3)
健康寿命をのばそう(Part3)のご案内です(金沢大学公開講座)。
申し込み・問い合わせは、金沢大学地域連携推進センターまでお願いします。
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健康寿命をのばそう(Part3)は、 9/3(土)に開催されます。
於:サテライト・プラザ(西町)
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:18
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止血血栓領域の若手医師育成プログラム(Change 2011)
参加申し込み:CHANGE 2011
Change 2011のご案内です。
日時:2011年9月24日〜9月25日(9/24は14時〜、9/25は9時〜)
開催場所:東京ステーションカンファレンス(東京都千代田区丸の内1-7-12 サピアタワー4F)
Changeは、Conference of Haemostasis Academy for Next Generation に由来しています。
血栓止血領域に興味を持っていただき、この領域で活躍していただける未来を担う若手医師のためのセミナーです。
プログラムの特徴は、参加形ワークショップです(凝固検査異常、血栓性疾患、出血性疾患、English)。
血栓止血領域は、多くの臨床各領域と関連したとても重要な領域です。
全国の医療機関で、適切にコンサルトに応じ、治療を行うことのできる血栓止血専門医師が求められています。
この臨床面での貢献のみならず、研究面でも近年大きな発展が見られています。
是非とも、一人でも多くの皆様の参加をお待ちしています。
参加申し込み:CHANGE 2011
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:02
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プラザキサ vs ワーファリン 6:モニタリングの必要性
プラザキサ vs ワーファリン 5:抗トロンビン薬 & 抗Xa薬 より続く。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:35
| 抗凝固療法
プラザキサ vs ワーファリン 5:抗トロンビン薬 & 抗Xa薬
プラザキサ vs ワーファリン 4:リバロキサバンとAPTT より続く。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:56
| 抗凝固療法
北陸SPAF Meeting(心房細動、プラザキサ)
北陸SPAF Meeting
日時:2011年9月15日(木) 19:00〜21:00
場所:ホテル日航金沢 3階「孔雀の間」
開会の辞
金子 周一 先生
金沢大学医薬保健研究域医学系 恒常性制御学 教授
講演1
「抗凝固療法の過去・現在・未来」
座長:中尾 眞二
金沢大学医薬保健研究域医学系 細胞移植学 教授
演者:朝倉 英策
金沢大学附属病院 高密度無菌治療部 准教授
講演2
「変わる。心房細動治療 −Keep it simple !!
ダビガトランによる抗血栓療法の新時代の幕開け−」
座長:高村 雅之 先生
金沢大学附属病院 循環器内科 講師
演者:山下 武志 先生
(財)心臓血管研究所 所長・付属病院長
主催:日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:47
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プラザキサ vs ワーファリン 4:リバロキサバンとAPTT
心房細動に対する抗凝固療法(心原性脳塞栓の発症予防目的)治療薬としては、長らくワルファリン(商品名:ワーファリン)のみでしたが、この度、新薬であるプラザキサ(ダビガトラン:抗トロンビン薬(6))が登場しました。
【リンク】
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:19
| 抗凝固療法
プラザキサ vs ワーファリン 3:ダビガトランとAPTT
プラザキサ vs ワーファリン(心房細動)2:モニタリング/INRより続く。
関連記事:新規経口抗凝固薬(1):次世代のワーファリン
心房細動に起因する心原性脳塞栓の発症予防目的としては、長らく治療薬は
ワルファリン(商品名:
ワーファリン)のみでしたが、本年3月から、ワーファリンのみでなくプラザキサ(
ダビガトラン:抗トロンビン薬(6))を処方することができるようになったのは朗報です。
プラザキサ、ワーファリンの長所と短所は先の記事でも書かせていただきました。
プラザキサ vs ワーファリン(心房細動)1:PT-INR&APTT
プラザキサ vs ワーファリン(心房細動)2:モニタリング/INR
ワーファリンコントロール時には、診察時ごとに採血を行い、PT-INR(関連記事:
PT-INR、
APTT)をチェックするのが一般的だと思います。
ワーファリンはビタミンKの拮抗薬のため、内服に伴い、
ビタミン依存性凝固因子(半減期の短い順に、VII、IX、X、II)の活性が低下します。特に、半減期の短い第VII因子は敏感に反応します。
ワーファリンコントロールのモニタリングを、APTTではなくPTで行うのは、PTは半減期の短い第VII因子を反映するためなのです(APTTは、PTと対照的にビタミン依存性凝固因子の中では、VII因子のみ反映しません)。
さて、プラザキサですが、ワーファリンとは異なり毎回の採血、モニタリングが必要ないことをキャッチフレーズにしています。しかし、この点につきましては、専門家の間でも意見が分かれるのではないかと思っています。
上図のように
プラザキサ(薬品名:
ダビガトラン<経口抗トロンビン薬>)を投与しますと、PT-INRは上昇し(PTは延長し)、APTTは延長します。特に、APTTの延長の方が目立つようです。
臨床用量では、プラザキサ(ダビガトラン)の血中濃度は、150〜170ng/mlくらいまで到達するようですので、APTTは、1.5〜1.8倍位まで延長するようです。
APTT 1.5〜1.8倍位の延長というのは、代表的な出血性疾患である
血友病に匹敵するような延長です。モニタリング不要と言われてもすぐに受け入れにくい人も多いのではないでしょうか。
管理人らは、
プラザキサのモニタリングにはAPTTは不可欠と考えています。
加えて、
PT(PT-INR)によるモニタリングも欠かせないと思っています。
その理由ですが、ワーファリンからプラザキサに治療変更時の本来はあってはいけない問題点です。
ワーファリンを内服されてきた患者さん(脳梗塞の既往のある御高齢の患者さんを含む)は、年余にわたって主治医からワーファリン内服の重要性を教育されてきました。
プラザキサに変更する場合は、当然ワーファリンは中止する必要があります。
しかし、患者さんと主治医の思いがかみ合わず、間違って
ワーファリンが中止されずに、ワーファリンとプラザキサが併用されてしまう可能性です。
このようなことは絶対あってはいけないのですが、可能性は0%ではないと思います。
PT-INRをチェックしていれば、すぐにおかしいと気がつくことができます。
プラザキサの副作用を出させない、本来あってはいけないことにすぐ気がつくためにも、PT、APTTの両者によるモニタリングは重要なのではないでしょうか。
ただし、プラザキサのTmax 約2時間(半減期 約12時間)という薬物動態から、内服後どの時点で採血するかによって話は変わってきます。しかし、このことはモニタリングできないことの理由にはならないと思っています。内服から採血までの時間間隔を配慮すれば良いだけのことではないかと思っています。
(続く)
プラザキサ vs ワーファリン 4:リバロキサバンとAPTT へ
関連記事
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:08
| 抗凝固療法
プラザキサ vs ワーファリン(心房細動)2:モニタリング/INR
プラザキサ vs ワーファリン(心房細動)1:PT-INR&APTT より続く。
非弁膜症性
心房細動患者(NVAF)に対する抗血栓療法(心房細動による心原性脳塞栓抑制目的)として、ワーファリンのみでなくプラザキサ(
ダビガトラン:抗トロンビン薬(6))を処方することができるようになりました。
プラザキサには大きな期待がよせられています。
ワルファリン(商品名:
ワーファリン)と比較しての長所と短所は前の記事でも書かせていただきました(
プラザキサ vs ワーファリン)。
今回は、モニタリングについて考察したいと思います。
ワーファリンの場合は、PT-INR(関連記事:
PT-INR、
APTT)によるモニタリングが必要です。
そのため、外来での診察時には毎回採血を行い、その結果をみた上で、ワーファリン内服量を増減するということが必要でした。
これは、患者さんにとって負担ではないかと考えられてきましたし、主治医サイドとしては煩雑であると思われてきた可能性があります。しかし、このモニタリングが必要であるというのは、本当にワーファリンの短所でしょうか?
ワーファリンは「モニタリングすることができる」と言い換えることもできるのではないでしょうか。
一方のプラザキサですが、ワーファリンとは異なり、モニタリングする必要がないということを、キャッチフレーズにしているようです。本当にそうでしょうか。
モニタリングすることができないという意見もあるかもしれません。
管理人はプラザキサの登場以来、
ワルファリン(商品名:
ワーファリン)からプラザキサへの切り替えの選択肢を提示させていただいた患者さんが多数おられます(プラザキサは優れたお薬ですので)。それぞれのお薬の長所と短所を冷静にかつニュートラルにお話させていただきました。
医療機関によっていろんな動向があるとは思いますが、管理人が主治医をさせていただいている患者さんでは、8割の患者さんは変更を躊躇されました。モニタリングのための毎回の採血を嫌っておられる患者さんはほとんどおられませんでした。むしろ、しっかりモニタリングしてもらっているとpositiveに考えておられる患者さんの方が多かったです。
変更を躊躇された場合として最も多かった理由は、2週間処方でした。
2週間ごとの病院受診は負担なので、1年経過してから、プラザキサに変更したいと言われる方が多かったです(ただし医療機関によって動向は異なると思います)。
(続く)
プラザキサ vs ワーファリン 3:ダビガトランとAPTTへ
関連記事
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:16
| 抗凝固療法
プラザキサ vs ワーファリン(心房細動)1:PT-INR&APTT
「非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制」に対して、プラザキサ(ダビガトラン)を処方することができるようになりました。
心房細動による脳塞栓を抑制する薬剤として、ワーファリンを越える新薬と言えると思います。
関連記事
数十年も使用されてきたというのは、それだけ優れた薬剤であったということかも知れません(心房細動、
深部静脈血栓症、肺塞栓などの静脈血栓症<凝固活性化に起因する血栓症>に広く処方されてきました)。
しかし、ワルファリンには、この記事の中で書かせていただくような難点(上図)もあります。
そのため、ワーファリンを凌ぐ、次世代のワーファリン(言わばスーパーワーファリン)が求められてきました。
そして、ついにスーパーワーファリンが登場しました。
まず、 まず心房細動に対して、
ダビガトラン(商品名:
プラザキサ)が登場しました。
参考:
ダビガトラン:抗トロンビン薬(6)
効能効果は「
非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制」です。
新薬のため、現時点(H23.8.9)では、2週間処方しかできませんが、発売後1年経過した後は、処方量は飛躍的にアップするのではないかと思っています。それだけ、すぐれたお薬です(効果、副作用のいずれにおいても、ワーファリンより優れています)。
このような優れた薬剤は、大事に育てる必要があるのではないかと思っています。
臨床試験では、出血の問題はワーファリンより少なかったようですが、広く臨床の場で使用されるようになりますと、どうもそうとは言い切れないようです。
管理人は、プラザキサのような優れた次世代のスーパーワーファリンを育てるためには、
適切にモニタリングすることがとても大事ではないかと思っています(関連記事:
PT-INR、
APTT)。
(続く)
プラザキサ vs ワーファリン(心房細動)2:モニタリング/INR へ
【リンク】
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:20
| 抗凝固療法
フサン(FUT)治療が有効なDIC症例
関連記事1:DICに対するフサン(FUT)治療
関連記事2:トロンボモジュリン製剤(リコモジュリン)
関連記事3;播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)
合成プロテアーゼインヒビター(synthetic protease inhibitor:SPI)は、AT非依存性に抗トロンビン活性を発揮します。
代表的薬剤は、メシル酸ナファモスタット(NM:商品名フサン(FUT)など)および、メシル酸ガベキサート(GM)です。
出血の副作用が全く無いのは大きな魅力です。また、両薬は膵炎治療薬でもあり、膵炎合併例にも良い適応となります。
NMは臨床使用量で抗線溶活性も強力で、線溶亢進型DICに有効です(出血症状が前面に出るタイプのDICに対して相性が良いです)。
線溶亢進型DICに対してヘパリン類を投与しますと、かえって出血を助長させることがありますが、NMは線溶亢進型DICの出血症状に対してしばしば著効します。
< メシル酸ナファモスタット(フサン)が特に有効なDIC症例 >
1) 悪性腫瘍
・ 転移性前立腺癌:線溶亢進型DICとなります。
・ 転移性悪性黒色腫:線溶亢進型DICとなります。
・ 進行癌の一部:大腸癌、乳癌、胃癌、膵癌などの一部で、線溶亢進型DICとなります。
・ 血管関連悪性腫瘍:DICを合併すると、線溶亢進型となります。
2) 血管関連疾患
・ 胸部・腹部大動脈瘤:DICを合併すると、線溶亢進型となります。
・ 巨大血管腫:DICを合併すると、線溶亢進型となります。
3) 膵炎合併症例 :本薬は膵炎治療薬でもあります。
4) 敗血症、重症感染症:特に、出血の副作用のためヘパリン類(ヘパリン類の表)を使用しがたい症例で。
5) 外傷:外傷経過で線溶亢進型DICの時期において。
6) 急性白血病(線溶亢進型DIC):ただし、急性前骨髄球性白血病(APL)に対してATRA(ビタミンA誘導体)を使用している場合を除きます。APLでは、ATRAそのものがDIC治療効果を発揮します。
【備考】
メシル酸ナファモスタット(商品名:フサン(FUT)など)は、DIC症例に対して広く処方されるが、特に上記疾患においては極めて相性が良いです。
現疾患が不変あるいは悪化するような場合ですら、DICに伴う出血はしばしば軽快します。
使用量は、標準的体重の方では、 200 mg/24時間程度となります。
高K血症の副作用には注意が必要です。
【関連記事のリンク】
血液凝固検査入門(インデックス)
抗リン脂質抗体症候群(インデックス)
トランサミン(インデックス)
DIC関連記事
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:36
| DIC
金沢大学第三内科同門会総会(全体写真)
当科の同門会総会、開講記念会の際の全体写真をアップさせていただきます。
第28回金沢大学第三内科同門会総会
第43回金沢大学第三内科開講記念会
日時:平成23年6月26日(日)午後1:00より (エクセルホテル東急)
<金沢大学第三内科の同門会総会・開講記念会インデックス>
・プログラム
・新入医局員
・優秀研究賞
・鎌田洋(特別講演講師)
・懇親会
・中村忍先生と中尾教授
【リンク】
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:52
| その他
国際血栓止血学会(ISTH):SSC(DIC)白血病/APL
国際血栓止血学会(ISTH)/学術標準化委員会(SSC)/DIC部会の報告を続けさせていただきます。
国際血栓止血学会(ISTH):SSC(DIC)診断基準より続く。
ISTH/DIC部会(SSCシンポジウム)ーインデックスー
凝固と炎症のクロストーク(ヒストン・トロンボモジュリン・プロテインC)ーインデックスー
Subcommittee on Disseminated Intravascular Coagulation(DIC)
2011年7月24日(日)9:00-12:00
SSC Session(7)
iInvolvement of tissue factor and annexin II in pathoclinical profile of acute promyelocytic leukemia
Wangらは、急性前骨髄球性白血病(APL)の特徴として重症出血と、時に血栓症の両者があることを指摘しました。
APLにおけるDIC合併率は826/1040(79.4%)と、その他のAML32.3%と比較して高率です。
APLに対する分化誘導治療薬であるATRAは、APLのDICや出血症状を改善するのが特徴です。APL細胞においては、組織因子やアネキシンIIが過剰に発現しており、このことがAPLに合併したDICを特徴付けています(著明な線溶活性化と出血症状)(Liu Y, Wang Z, et al: Leukemia Res 35: 879-884, 2011)。
Wangらは、APL細胞やNB4(APL細胞株)に対して、ATRAや三酸化ヒ素(Arsenic trioxide、亜ヒ酸:ATO)を添加して、組織因子やアネキシンIIの発現に対する影響を検討しました(NB4はAPLの細胞株であり、線溶活性化能が高いことが確認されましたが、HL60では線溶活性化能はみられませんでした)。
その結果、ATRAやATOは、組織因子(procoagulant activityとしても評価)、アネキシンIIの発現を有意に抑制しました(ダウノルビシンでは抑制しないどころか、かえって上昇させました)。
ATRAやATOの登場により、APLの予後は飛躍的に改善しましたが、重症出血による早期死亡症例が依然として10%程度もあり、お研究が行われるべきです。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:05
| DIC
国際血栓止血学会(ISTH):SSC(DIC)診断基準
国際血栓止血学会(ISTH)/学術標準化委員会(SSC)/DIC部会の報告を続けさせていただきます。
国際血栓止血学会(ISTH):SSC(DIC)Microperticle より続く。
ISTH/DIC部会(SSCシンポジウム)ーインデックスー
凝固と炎症のクロストーク(ヒストン・トロンボモジュリン・プロテインC)ーインデックスー
Subcommittee on Disseminated Intravascular Coagulation(DIC)
2011年7月24日(日)9:00-12:00
SSC Session(6)
Controversies in DIC scoring
Nielsenは、DIC診断基準(スコアリング)の問題点について報告しました。
ISTHによって、Overt DIC診断基準と、Non-overt DIC診断基準が提唱されましたが、Non-overt DIC診断基準の有用性は低く(AT活性やPC活性はDIC診断基準に含める意義は乏しいなど)、一つのDIC診断基準に合体されるべきであると報告しました (Toh CH, et al: Blood Coagul Fibrinolysis 16: 69-74, 2005)。
ADAMTS13活性はTTP診断としての意義は確立していますが、DICにおける意義も深いです。ADAMTS13活性が低いDIC症例においては、腎障害が高頻度にみられるという報告が紹介されました(Ono T, et al: 107: 528-534, Blood)。
DICは、Hyperfibrinolytic DICとNon-hyperfibrinolytic DICと病型分類されます。
前者は臨床的には出血症状がみられやすいのに対して、後者は臓器障害がみられやすいです。
後者に対してはトラネキサム酸による抗線溶療法は禁忌ですが、前者に対しては注意深いトラネキサム酸の使用は出血症状に有効なことがあります。
特に敗血症に合併したDICにおいては、capillary leakがみられることがあります。
DICにおいてはアンチトロンビン活性やプロテインC活性が低下する場合がありますが、必ずしも消費性凝固障害のためとは限りません。
血管外への漏出、肝での産生低下、好中球エラスターゼによる分解など、DIC以外の要素で低下することが多いです。
実際、血中アンチトロンビン活性はDICの有無とよりも、血中アルブミン濃度と正相関しています(Eur J Haematol 67: 170-175, 2001)。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:56
| DIC
国際血栓止血学会(ISTH):SSC(DIC)Microperticle
国際血栓止血学会(ISTH)/学術標準化委員会(SSC)/DIC部会の報告を続けさせていただきます。
国際血栓止血学会(ISTH):SSC(DIC)造血幹細胞移植/VOD より続く。
ISTH/DIC部会(SSCシンポジウム)ーインデックスー
凝固と炎症のクロストーク(ヒストン・トロンボモジュリン・プロテインC)ーインデックスー
Subcommittee on Disseminated Intravascular Coagulation(DIC)
2011年7月24日(日)9:00-12:00
SSC Session(5)
Microperticle assays in human endotoxemaia
Keyは、血栓性病態におけるMicroperticle assayの意義を論じました。
各種臨床病態において、組織因子(TF)含有のMicroperticles(MPs)(TF-MPs)測定に対する興味が持たれています。血栓性病態の動物やヒトモデルにおいて、TF-MPsが血栓性病態の進展に重要な役割を演じているのではないかと言う考えがあります。
TF-MPsの測定法としては、免疫学的な測定方法と、活性で測定する方法があります。
両測定方法には、それぞれ長所と短所があり、どちらも現時点ではgold standardと言える測定法ではありません。
TF-MPsには多様性があり(MP表面上のフォスファチジルセリン<PS>発現状況など)、このことが向凝固活性、循環血からのクリアランスの速度などの多様性と関連しています(Key NS, et al: Thromb Res 125: s42-s45, 2010)。
a)MPsの向凝固活性はどの細胞由来であるかによって異なっています。PSがMP内部に存在し、TFを含有していない場合には、向凝固活性はもし有していたとしても極めてわずかです。一方、陰性に荷電したPSを表面に有し、TFも含有しているMPsの向凝固活性は最も強力です。
b)微量のエンドトキシンの投与された健常人ボランティアから血小板を除去した血漿を得て、MP-TF活性を測定しました。血漿検体にVIIaとFXを添加して6時間でのFXa形成量を測定しました。LPSが投与されたヒト血漿ではFXaが形成されるが、抗TF抗体も同時に添加されると、FXa形成量は著しく低下しています。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:30
| DIC
国際血栓止血学会(ISTH):SSC(DIC)造血幹細胞移植/VOD
国際血栓止血学会(ISTH)/学術標準化委員会(SSC)/DIC部会の報告を続けさせていただきます。
国際血栓止血学会(ISTH):SSC(DIC)アンチトロンビン/AT より続く。
ISTH/DIC部会(SSCシンポジウム)ーインデックスー
凝固と炎症のクロストーク(ヒストン・トロンボモジュリン・プロテインC)ーインデックスー
Subcommittee on Disseminated Intravascular Coagulation(DIC)
2011年7月24日(日)9:00-12:00
SSC Session(4)
Therapeutic effects of recombinant thrombomodulin in DIC patient with hematological malignancy
Nomuraは、造血幹細胞移植(HSCT)後の合併症のキーワードとして“SIGHT”を提唱しました。
すなわち、SOS(別称:VOD)、Infection、GVHD、HPS(hemophagocytic syndrome)、TMAです。この中でも、特にVODとTMAは、止血、凝固異常と密接に関連しています。
化学療法に伴う肝類洞血管内皮細胞と肝細胞障害は、VOD病態の基礎になっていると考えられます。
VOD患者では、血管内皮障害マーカーや接着因子関連マーカーが上昇している(TM、E-セレクチン、組織因子、TFPI、PAI)ため、血管内皮障害マーカーがVODを予知する可能性があります(Cutler C, et al: Biol Blood Marrow Transplant 16: 1180-1185, 2010 )。
VODに対してヘパリンによる抗凝固療法が行われることがありますが、ヘパリンの投与を行ってもVODに対して無効です。
Nomuraらの検討によりますと、HSCT後に上昇したIL-6、TNF、HMGB-1に対してヘパリンの投与は影響を及ぼしませんでしたが、rTMの投与を行ったところ、これらのマーカーの上昇を有意に抑制しました。
VCAM-1、E-セレクチンの上昇に対しては、rTMは影響を与えませんでしたが、ヘパリンの投与ではさらにこれらのマーカーを上昇させました。
rTMは、抗凝固(トロンビン補足、活性化プロテインC)、抗炎症(TMのlectin domeinの作用)の作用を合わせ持っています。
VOD発症の一因としてHMGB-1を含む炎症性サイトカインの関与があると考えられますので、rTMはVOD発症を抑制する上で有効と考えられると発表しました(Nomura S, et al: Thromb Haemost 105: 1118-1120, 2011)。
なお、AT活性が50%未満に低下した症例に対しては、まずAT濃縮製剤を補充した上で、rTMを投与するのが良いのではないかと発表しました。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:57
| DIC
国際血栓止血学会(ISTH):SSC(DIC)アンチトロンビン/AT
国際血栓止血学会(ISTH)/学術標準化委員会(SSC)/DIC部会の報告を続けさせていただきます。
国際血栓止血学会(ISTH):SSCシンポジウム(DIC)外傷/線溶 より続く。
ISTH/DIC部会(SSCシンポジウム)ーインデックスー
凝固と炎症のクロストーク(ヒストン・トロンボモジュリン・プロテインC)ーインデックスー
Subcommittee on Disseminated Intravascular Coagulation(DIC)
2011年7月24日(日)9:00-12:00
SSC Session(3)
Antithrombin (AT)
Ibaは、DIC治療ガイドラインにおいて、日本ではAT濃縮製剤(AT)が推奨されているのに対して、欧州では推奨されていない点にフォーカスをあてました。
多施設前向き試験でATの効果および副作用を評価しました。
対象は、敗血症に合併したDIC1,435例(154施設:2007〜2010年)で、このうち729例が解析可能でした。
内訳は、650例はAT 1,500単位3日間、79例はAT 3,000単位3日間の投与が行われました。
Day7におけるDIC離脱率、Day28における死亡率における評価が行われました。
治療前のAT活性が50%未満であった症例は、AT 3,000単位の投与群では69.6%であったのに対して、AT 1,500単位の投与群では48.2%でした(AT 3,000単位の投与群がより重症でした)。
DIC離脱率はAT3,000単位投与群では69.6%、1,500単位投与群では55.4%であり、生存率はAT3,000単位投与群では74.7%、1,500単位投与群では65.2%でした。
生存率を上昇させる因子は、以下でした。
1)AT 3,000単位と高用量投与であること
2)若年であること
3)治療前AT活性が高値であること
出血の副作用は6.52%(重症出血1.71%)でみられましたが、AT 1,500単位投与群と3,000単位投与群間で有意差はみられませんでした。
以上、特に治療前AT活性が低値である症例においては、AT 3,000単位の投与が良い効果を発揮すると考えられました。
ただし、日本における全ての施設においてAT3,000単位の投与が認められていない現状を考えますと、AT1,500単位に遺伝子組換えトロンボモジュリン製剤(rTM)を併用する治療がより良い結果をもたらすのではないかと考察されました。
なお、ヘパリンの併用の有無は、効果、出血の有害事象のいずれにも影響を与えませんでした。
この検討は、post-market surveillanceでありプラセボ投与群を設置していないという制限はあるものの、多数例での多施設前向き試験の結果であり、AT 高用量投与の意義を明らかにした点は、重要であると考えられます。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:54
| DIC
国際血栓止血学会(ISTH):SSCシンポジウム(DIC)外傷/線溶
国際血栓止血学会(ISTH)/学術標準化委員会(SSC)/DIC部会の報告を続けさせていただきます。
国際血栓止血学会(ISTH):SSCシンポジウム(DIC)外傷/ICU より続く。
ISTH/DIC部会(SSCシンポジウム)ーインデックスー
凝固と炎症のクロストーク(ヒストン・トロンボモジュリン・プロテインC)ーインデックスー
Subcommittee on Disseminated Intravascular Coagulation(DIC)
2011年7月24日(日)9:00-12:00
SSC Session(2)
DIC due to trauma
Gandoは、DICと臓器障害の関係について論じられてきた歴史を、鶏が先か卵が先かの議論と重ねて報告を開始しました。
重症の外傷に伴う凝固異常症では、出血のコントロールが予後とも直結して問題となります。
ただし、外傷に伴う凝固異常症の原因は十分に明らかになっていません。
まず、外傷早期の凝固異常症ではショック、外傷に起因するトロンビン形成が考えられます。この凝固活性化は、抗凝固と線溶活性化を伴っています。
この外傷性ショックによる急性の凝固異常症は、acidemia、低体温、希釈などや治療介入により修飾を受けることになります。これらのAcute Coagulopathy of Trauma-Shockは、DICの概念とは分けるべきであるという考え方もあります(Hess JR, et al. J Trauma 65: 748-54, 2008)。
これに対してGandoは、外傷に起因する凝固異常はDICであるが、病期によって2つのタイプのDICに分類されると報告しました。
1)DIC with the fibrinolytic phenotype:外傷初期の凝固異常であり、凝固活性化および線溶活性化が著しい病態です。炎症性サイトカインが上昇し、外傷由来の組織因子が凝固を活性化して大量のトロンビンが形成されます。ショック性の低酸素血症や微小血栓の多発によりfibrin(ogen)olysisが進行します。消費性凝固障害や出血が前面にでやすいのが特徴です。
2)DIC with the thrombotic phenotype:外傷後24〜48時間でみられます。血小板や血管内皮由来のPAIにより線溶の抑制された病態となり、血栓症が問題となります。いずれであってもDICと診断できる病態であると発表しました。
fibrinolytic phenotypeの病期では、外傷に対する観血的治療、ショック対策、濃厚血小板や新鮮凍結血漿による補充療法が有効です。また、この時期に限って、トラネキサム酸による抗線溶療法は出血に対して有効であると報告しました(Gando S, et al: Ann Surg 251: 10-19, 2011)。
<なお、外傷におけるDIC with the fibrinolytic phenotypeは、急性前骨髄球性白血病(APL)における線溶亢進型DICに、DIC with the thrombotic phenotypeは敗血症に合併した線溶抑制型DICに近い概念と考えられます>
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| DIC
国際血栓止血学会(ISTH):SSCシンポジウム(DIC)外傷/ICU
国際血栓止血学会(ISTH)/学術標準化委員会(SSC)/DIC部会の報告を続けさせていただきます。
国際血栓止血学会(ISTH):SSCシンポジウム(DIC)敗血症 より続く。
ISTH/DIC部会(SSCシンポジウム)ーインデックスー
凝固と炎症のクロストーク(ヒストン・トロンボモジュリン・プロテインC)ーインデックスー
Subcommittee on Disseminated Intravascular Coagulation(DIC)
2011年7月24日(日)9:00-12:00
SSC Session(1)
DIC due to sepsis or trauma
Wadaは、chairperson報告を行いました。
DIC研究におけるテーマとして、外傷性DIC、Dダイマー標準化の問題、non-Overt DIC診断基準、治療ガイドラインなどを挙げました。
出血を伴っている外傷性DICに対しては、トラネキサム酸が死亡率を低下させるという報告も紹介された(Lancet 376 (9734): 23-32, 2010)。
ただし、外傷早期に投与することが重要であり、遅れての投与はかえって有害であることにも注意が必要です(Lancet 377(9771): 1096-101, 2011)。
また、modified non-overt DIC診断基準に関しても論じられました(Am J Hematol 85: 691-694, 2010、Thromb Res 126: 18-23, 2010)。
Mimics of DIC in the intensive care unit
Thachilは、集中治療室(ICU)における凝固異常は、DICと類似した病態が少なくないことを報告しました。
ICUでは血小板数の低下はしばしば見られます。
PTの延長がみられることもありますが、DICのためとは限りません。
フィブリノゲンは低下するよりもむしろ上昇することが多く、フィブリン関連物質(FDPなど)は上昇することが多いがその原因は多様です。
ICU患者で経験する血小板数低下にも多くの原因があり、敗血症、薬物、ヘパリン(HIT)、血液希釈、CABG術後、ITP、TTP、そしてDICが挙げられます。
ICU患者の14〜28%でPT(APTT)の延長がみられますが、これもDICのみでなくビタミンK欠乏症、肝不全、ヘパリン投与中など原因は多様です。なお、時にAPTTの短縮がみられますが、過剰で調整されていないトロンビン形成を反映しているものと考えられます。
フィブリン関連マーカー(FDP、Dダイマー、SFMCなど)も、ICU患者の多くで観察されますが、DICとは限らず、静脈血栓塞栓証、術後、炎症、大量の胸水&腹水、大血腫、炎症など原因は多様です。
さらには、アッセイの問題がある場合もあります。
肝疾患においては、凝固因子&血小板数の低下のみならず、凝固阻止因子(アンチトロンビン、プロテインCなど)の低下もみられるために、出血症状、血栓症のどちらへも傾きうる不安定な状態になります。
その他、ICUで経験するDICと鑑別すべき疾患としては、血栓性微小血管障害症(TTP、HUS、HELLP)、macrophage activation syndrome(MAS)、全身性血管炎(臓器障害を伴う)、大量出血(消費および血液の希釈を生じる)などがあります。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:07
| DIC
国際血栓止血学会(ISTH):SSCシンポジウム(DIC)敗血症
国際血栓止血学会(ISTH)/学術標準化委員会(SSC)/DIC部会の報告を続けさせていただきます。
国際血栓止血学会(ISTH):SSCシンポジウム(DIC)炭疽菌 より続く。
ISTH/DIC部会(SSCシンポジウム)ーインデックスー
凝固と炎症のクロストーク(ヒストン・トロンボモジュリン・プロテインC)ーインデックスー
Subcommittee on Disseminated Intravascular Coagulation(DIC)
2011年7月24日(日)9:00-12:00
Educational Session(2)
Pathogenesis of septic DIC
Leviは、敗血症に合併したDICの病態について報告しました。
現在、感度の高い分子マーカーを使用することにより、臨床検査異常を速やかにとらえ、DICの診断がなされています。
全身性の凝固活性化により、細小血管内に微小血栓が多発すると臓器障害をきたし、微小血栓の多発により血小板や凝固因子が低下すると出血症状をきたします。
敗血症においては、エンドトキシンやサイトカインが単核球に作用して、組織因子の発現が高まることで、凝固活性化をきたし、DICを発症します。
最近の話題として、血小板からのP-セレクチンは単核球からの組織因子産生を亢進させる、ADAMTS13活性はDICの重症度とともに低下するなどの報告が紹介されました。
ADAMTS13活性はDIC(炎症)経過とともに消費される可能性があります。ADAMTS13活性が低下したDIC症例では予後不良です。
活性化プロテインC、TFPI、アンチトロンビンは、抗凝固、抗炎症の両者からの作用が期待されている。
Glycocalyxは、プロテオグリカンなど血管内皮細胞表面を覆う、糖と結合した化合物の総称です。
炎症の刺激や高血糖は血管脆弱性をきたします。
近年、血管内皮に存在するglycocalyxと血栓止血病態との関連が指摘されています。
エンドトキシンによって誘導された炎症反応はglycocalyx層を薄くするか、この病態でTNFは重要な役割を演じているかどうか検討しました。
健常人男性に投与されたエンドトキシンは、細小血管のglycocalyx 層を著明に薄くし、それに伴いglycocalyxの構成成分であるhyaluronan の血中濃度を上昇させ、F1+2やDダイマーを上昇させました。
etanercept (TNFのレセプター製剤)によりTNFを抑制するとglycocalyxが薄くなるのを抑制しました。
炎症(少なくとも一部はTNF関与)はglycocalyxの障害を来すと考えられました(J Leukoc Biol 83: 536-545, 2008)。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:42
| DIC
国際血栓止血学会(ISTH):SSCシンポジウム(DIC)炭疽菌
国際血栓止血学会(ISTH)では、それに先立つ日程で学術標準化委員会(SSC)が、開催されています。
ほぼISTH内のプログラムと考えて良いと思います。
SSCシンポジウムの中で、DIC部会の内容を紹介させていただきます。ただし、すべての内容を書き写すことはできませんので、管理人が印象に残った部分のみの紹介となりますが、ご了解いただければと思います。
ISTH/DIC部会(SSCシンポジウム)ーインデックスー
凝固と炎症のクロストーク(ヒストン・トロンボモジュリン・プロテインC)ーインデックスー
Subcommittee on Disseminated Intravascular Coagulation(DIC)
2011年7月24日(日)9:00-12:00
Educational Session(1)
DIC due to anthrax: A pre-clinical in vivo study
Kurosawaは、anthrax(炭疽)によるDICに関して報告しました。
Bacillus anthracis(B. anthracis、炭疽菌) は、炭疽を発症する芽胞形成桿菌(グラム陽性菌)です。全身性の感染症は、敗血症、toxemiaをきたし死亡率が高いです。
炭疽菌は土壌中の常在細菌ですが、家畜やヒトに感染して炭疽を発症させます。皮膚の傷口から侵入して皮膚で発症する皮膚炭疽、炭疽菌の芽胞が呼吸器を介して肺に到達する肺炭疽、炭疽により死亡した動物の肉を食べたとき、腸管の傷口から侵入して起きる腸炭疽が知られています。
炭疽菌は 3 種類の毒素タンパク質を菌体外に分泌しており、これが炭疽によって起こる諸症状の直接の原因になっています。
外毒素はそれぞれ、防御抗原 (PA, protective antigen)、浮腫因子 (EF, edema factor)、致死因子 (LF, lethal factor) と呼ばれています。これらをコードする遺伝子はすべて毒素プラスミド pXO1 上に存在しています。
Kurosawaは、ヒヒモデルを用いた検討を行いました。
ヒヒにB. anthracisを投与したところ、血管透過性亢進、DIC(血小板数の低下、フィブリノゲンの低下、APTTの延長、Dダイマーの上昇、プロテインCの低下)、全身性炎症反応が観察されました(Am J Pathol 169: 433-444, 2006)。
また、胸水、肺胞浮腫、肺出血が観察されました。
Delta strainは、toxinのない菌種ですが、敗血症、DICを発症して、4日で全モデルが死亡しました(toxin非依存性の病態の存在を意味しています)。
しかし、活性化プロテインC(APC)を投与したところ、全モデルが生存しました(参考:敗血症と凝固・DIC/抗炎症効果/活性化プロテインC)。
<Anthraxに合併したDICは新しい話題であり、APC以外に、各種ヘパリン類、rTMなどその他の薬物による治療でどうなるか興味のあるところです>
【リンク】
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:27
| DIC
凝固と炎症のクロストーク4:TLR2&4/ヒストン、肝障害
凝固と炎症のクロストークに関する論文(ヒストン関連)を紹介させていただいています。
今回紹介させていただく論文は、このシリーズの最後になります。
凝固と炎症のクロストーク(ヒストン関連)ー インデックス ー
ISTH/DIC部会(SSCシンポジウム)ーインデックスー
関連記事
凝固と炎症のクロストーク1:敗血症モデル
凝固と炎症のクロストーク2:血小板と血栓/ヒストン
凝固と炎症のクロストーク3:トロンボモジュリン/プロテインC
敗血症と凝固・DIC/抗炎症効果(活性化プロテインC)
Extracellular Histones Are Mediators of Death through TLR2 and TLR4 in Mouse Fatal Liver Injury.
Xu J, Zhang X, Monestier M, Esmon NL, Esmon CT.
J Immunol. 2011 Jul 22. [Epub ahead of print]
細胞外ヒストン(extracellular histones)は、敗血症死亡における主たるメディエーターです。
ヒストンを投与しますと、サイトカインレベルが上昇します。
ヒストンは、TLR2およびTLR4を活性化しますが、この反応はDNAに結合することで増強します。
TLR4の活性化が、ヒストン依存性のサイトカインレベル上昇に関与しています。
著者らは、ヒストンの遊離が病態にどの程度影響を与えているかを2つのモデルを使用して検討しました。
一つは、Con AでT細胞を活性化させた炎症モデル、もう一つはacetaminophen中毒モデルです。
どちらのモデル(炎症モデル・中毒モデル)においてもヒストンが遊離されて、抗ヒストン抗体は防御的に作用しました。
TLR2- or TLR4-null mice においても防御的に作用しました。
以上、炎症性障害や化学物質で誘発された細胞障害において、ヒストン遊離が致命的に作用し、TLRsが少なくとも部分的に関与しているものと考えられました。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:21
| DIC
凝固と炎症のクロストーク3:トロンボモジュリン/プロテインC
今回紹介させていただく論文は、細胞外ヒストンが、トロンボモジュリン(TM)/プロテインCシステムを障害することにより、トロンビン(血栓)形成をきたすという論文です(参考:敗血症と凝固・DIC/抗炎症効果)。
前回紹介させていただいた論文(血小板と血栓/ヒストン)では、ヒストンと血小板の関連が論じられていましたが、今回は血小板ではなく凝固との関連を論じています。
凝固と炎症のクロストーク(ヒストン関連)ー インデックス ー
ISTH/DIC部会(SSCシンポジウム)ーインデックスー
関連記事
凝固と炎症のクロストーク1:敗血症モデル
凝固と炎症のクロストーク2:血小板と血栓/ヒストン
Extracellular histones increase plasma thrombin generation by impairing TM-dependent protein C activation.
Ammollo CT, Semeraro F, Xu J, Esmon NL, Esmon CT.
J Thromb Haemost. 2011 Jun 28. doi: 10.1111/j.1538-7836.2011.04422.x. [Epub ahead of print]
ヒストンは細胞外に遊離しますと、細胞障害や組織障害をきたす重要な蛋白です。
マウスに対してヒストンを投与しますと、広範囲にわたる細小血管内血栓をきたすために、ヒストンは向凝固活性を有していると考えられます。
プロテインC(PC)/トロンボモジュリン(TM)システムは、特に微小血管レベルにおいて凝固を制御する役割を果たしていますが、いくつかの荷電蛋白により影響を受けます。
著者らは、血漿トロンビン形成アッセイを用いて、ヒストンのPC/TMシステムへの影響を検討しました。
ヒストンのトロンビン形成への影響は、トロンボモジュリン(TM)の存在下および非存在下で評価されました(calibrated automated thrombinography)。
PCの活性化は、発色合成基質を用いて評価しました。TMおよびPCのヒストンへの結合は、solid-phase binding assayで評価しました。
TM存在下において、ヒストンは用量依存性にトロンビン形成量を増加させました(コンドロイチン硫酸成分とは無関係でした)。
この効果は、活性化PCの抑制のためではなく、TMによるPC活性化抑制のためでした。
ヒストンは、PC、TMの両者に結合しましたが、この作用のためにはPCのGlaドメインが必要でした。
ヒストンの中では、H4とH3が最も強力な作用を発揮しました。
興味あることに、ヘパリンとは異なり、DNAはヒストンのトロンビン形成に対する効果を阻害しませんでた。
以上、ヒストンはTM依存性のPC活性化を低下させて、トロンビン形成を増加させるものと考えられました。
この機序は、ヒストンにより微小血管内に血栓を形成して臓器障害や強い炎症をきたすことに寄与しているかも知れません。
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