金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2010年11月30日

序論:造血幹細胞移植入門(1)

今回から、造血幹細胞移植入門をシリーズでお届けしたいと思います。
まず、今回は序論です。

造血幹細胞移植入門(インデックス)

 


造血幹細胞移植入門:序論

血液疾患の治療法は日々進歩し、多くの患者が病気を克服して、社会復帰を果たしています。

血液がんは、化学療法や放射線治療に加え、分子標的薬が最大限の 効果を発揮しています。

再生不良性貧血の治療は、免疫抑制療法が確立しています。支持療法の向上も著しいです。

造血幹細胞移植を受けるのは、このような治療で十分 な効果が得られない患者です。

 

造血幹細胞移植には、血液難病の根治が期待できるという利点があります。

造血幹細胞移植を確立したトーマス医師は、その功績を讃えられ、1990年にノーベ ル賞を受賞しました。ノーベル賞を受賞した臨床医は、他に、世界で初めて腎移植を行ったマレー医師やピロリ菌を発見したマーシャル医師など、数えるほどしかい ません。

造血幹細胞移植は、臨床医学の歴史を塗り替えた偉大な治療法です。

ただし、いいことばかりではありません。造血幹細胞移植最大のマイナス面は、毒性(副 作用)の強さにあります。造血幹細胞移植を行う際は、効果だけでなく、死亡や後遺症を含む重い合併症や移植後再発の恐れ、家族のサポート、社会復帰へ向けた長 い道のりなど、具体的で詳細な説明が求められます。

 

このシリーズでは、造血幹細胞移植にたずさわる全ての医療関係者を対象に記事としてアップしていきたいと思います。

 

【関連記事】

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血球貪食症候群(HPS)(8回シリーズ)
溶血性貧血(PNH、AIHAほか) (8回シリーズ)
造血幹細胞移植後の再発(4回シリーズ)
造血幹細胞移植前処置としてのATG(6回シリーズ)
播種性血管内凝固症候群(DIC:図解シリーズ)


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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:59 | 血液疾患(汎血球減少、移植他)

2010年11月29日

造血幹細胞移植入門(インデックス)


造血幹細胞移植入門 <インデックス>

1)序論   
2)造血幹細胞移植の種類 
3)造血幹細胞とは 
4)HLAとは

5)自家造血幹細胞移植とは 
6)造血幹細胞移植法の比較 <表> 
7)造血幹細胞移植後の死因 <図> 
8)同種造血幹細胞移植とは 
9)同種造血幹細胞移植ドナー検 
10) さい帯血移植とは 
11)精子・卵子保存 
12)造血幹細胞移植の適応   
13)造血幹細胞&ドナーリンパ球輸注 
14)移植後合併症 
15)副作用とミニ移植
16)社会復帰へ

17)移植前処置の目的 
18)骨髄破壊的&非破壊的前処置 
19)ミニ移植の問題点 
20)再生不良性貧血の移植前処置

21)無菌室とは 
22)無菌室の効果

23)移植前評価

24)急性白血病の適応 
25)骨髄異形成症候群の適応 
26)再生不良性貧血の適応
27)HLA不適合血縁者間移植の適応 
28)骨髄腫/自己免疫疾患の適応 
29)小児急性リンパ性白血病の適応
30)小児悪性リンパ腫/再生不良性貧血の適応

31)造血幹細胞(骨髄)の採取 
32)造血幹細胞(末梢血幹細胞)の採取 
33)造血幹細胞(さい帯血)の採取 
34)造血幹細胞(子供から)の採取 

35)血液型不適合移植とは 
36)血液型不適合移植の方法 
37)血液型不適合移植時の輸血

38)正着
39)正着不全 
40)造血回復 
41)網血小板(幼若血小板、IPF)

42)GVHD予防・治療の意義 
43)GVHDの病態・疫学 
44)急性GVHDの分類 
45)慢性GVHDのの症候・臓器スコア 
46)GVHD予防/CI+メソトレキセート 
47)GVHD予防の治療薬 
48)急性GVHDの一次治療 
49)急性GVHDの二次治療 
50)慢性GVHDの治療 
51)非血縁骨髄ドナー・HLA・重症急性GVHD

52)移植後再発治療の種類 
53)移植後再発治療の評価 
54)移植後白血病再発の特徴 
55)再発後治療の効果1 
56)再発後治療の効果2 
57)自家造血幹細胞移植後再発 
58)移植後再発モニタリングの意義  
59)移植後再発モニタリングの実際
60)HLA半合致移植後再発とHLA欠失

61)造血幹細胞移植の成績

 

 

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:44 | 血液疾患(汎血球減少、移植他)

2010年11月28日

金沢大学第三内科(血液・呼吸器内科):同門の先生方へ

金沢大学第三内科(血液内科・呼吸器内科)のホームページ(HP)は、2008年8月にリニューアルされました。この際、ブログ(血液・呼吸器内科のお役ち情報)が併設されています。HPからブログへジャンプすることも可能ですし、直接ブログにアクセスしていただくことも可能です。

ブログの併設は効果を発揮したようで、おかげさまで多くの方々のご支援をいただき、リニューアル後は順調にアクセスが伸びています。

現在は、1日2,000人以上のご訪問をいただいています(閲覧数は5,000〜6,000回/日くらいです)。学会などでも当科のサイトが話題になることがあり、多くの方々にご利用いただいていることを大変ありがたく思っています。


私たちのサイトは、医師のみならず、研修医、コメディカル、医療関係学生など多くのかたにとって有用な情報を発信することを目標にしています。同門の先生方の周囲で、興味を持っていただけそうな方がおられましたら、是非とも私たちのサイトを紹介していただければと思います。

関連記事:金沢大学血液内科・呼吸器内科:一言お願いします(インデックス)

 

また、学内からのみでなく、広く同門の先生方からの原稿をお待ちしています。

内容は、病院紹介、研修医や医学部生へのメッセージ、医の倫理、研究会やセミナーの広報など何でも結構です。


これまでの同門の先生方の御支援に深く感謝しています。今後ともどうかよろしくお願いいたします。

 

(HPへのアクセス法)

1)「金沢大学 第三内科」「金沢大学 血液内科」「金沢大学 呼吸器内科」:YahooまたはGoogleなどの検索でトップ検索されます。

2)「3nai.jp」の入力でもアクセスできます。3ナイ.jpと覚え易いです。

 

【リンク】

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:54 | その他

2010年11月27日

認定血液検査技師試験の問題対策(凝固検査):検査血液学会

日本検査血液学会は、血液関連の学会の一つです。

比較的最近できた学会ですが、会員数が大きく伸びている勢いのある学会の一つです。

日本検査血液学会では、認定血液検査技師試験があるのですが、その問題の一つを紹介させていただきたいと思います(一部改変)。

関連記事:血液凝固検査入門(図解シリーズ)

 

以下のなかで、誤っているのはどれか。

a. 止血は血液と血管内皮下コラーゲンとの接触で始まる。

b. 血小板の粘着には、組織因子(tissue factor:TF)が必要である。

c. 血小板の一次凝集は可逆的である。

d. 凝集した血小板からセロトニンの放出が起きる。

e. 血小板の二次凝集は不可逆的である。

 

(解説)

血管が破綻しますと、血管内皮下コラーゲン(血小板活性化作用を有する)が露呈し、まず「血小板粘着」が起きます。

この際、血小板と血管内皮下コラーゲンの間に介在し、いわば糊的な役割を果たすのがvon Willebrand因子(VWF)です。血小板粘着時にVWFと結合するのが、血小板膜糖蛋白GPIb/IXです。


次いで、多数の血小板が集合、活性化して「血小板凝集」が起きます。

血小板活性化に伴い、血小板中のADPやセロトニンが放出され、これらの物質はさらに周囲の血小板を活性化します。

血小板凝集の際、血小板間に介在して糊的な役割を果たすのがフィブリノゲンです。

血小板凝集時にフィブリノゲンと結合するのが、血小板膜糖蛋白GPIIb/IIIaです。

このような血小板を核として凝固活性化が進行しますと、最終的にはフィブリンが形成され止血血栓が強固となります。

 

血小板凝集には、粘着、変形のみで血小板からの放出を伴わない可逆的な一次凝集と、血小板からの放出を伴う不可逆的な二次凝集とがあります。

 

選択肢で、a,c,d,eは正しいです。

bは組織因子ではなく、von Willebrand因子(VWF)が正しいです。

なお、血小板膜糖蛋白GPIb/IXの先天性欠損症が、Bernard-Soulier症候群(巨大血小板の出現でも有名です)、血小板膜糖蛋白GPIIb/IIIaの先天性欠損症が、血小板無力症(Glanzmann病)(血小板凝集能検査でADPの一次凝集が出現しないことでも有名です)です。

 

 

【リンク】

血液凝固検査入門(図解シリーズ)

播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:41 | 医師国家試験・専門医試験対策

2010年11月26日

ワーファリン内服とINR家庭内測定

家庭内で行う血液検査としては、糖尿病の患者さんにおける血糖値測定をすぐに思いつきます。この他には、海外ではワルファリンコントロールで用いられるINR(PT-INR)もあります。

日本でも、将来はワーファリン内服中の患者さんが、自宅でINRを測定する時代が来るかも知れません。

今回紹介させていただく論文は、INR家庭内測定に関する、N Engl J Medの論文です。

 

関連記事:

PT-INRとは(正常値、PTとの違い、ワーファリン)?

PT(PT-INR)とは? 正常値、ワーファリン、ビタミンK欠乏症

 

「INR家庭内測定の臨床的意義について」
Effect of home testing of international normalized ratio on clinical events.

著者名:Matchar DB, et al.
雑誌名:N Engl J Med. 2010; 363(17):1608-1620.


<論文の要旨>

ワルファリンによる抗凝固療法は、心房細動や人工弁置換術後の症例における血栓塞栓合併症を減らすことが知られていますが、そのコントロールは煩雑であり、INRはしばしばコントロール域を外れることがあります。

静脈採血による血漿検体を用いた測定法と比較して、point-of-care(POC)検査としてのINR家庭内測定は、頻繁に検査を行うことができて臨床上のメリットがある可能性があります。


著者らは、ワルファリン内服中の心房細動や人工弁置換術後の症例2,922例を対象に、POC家庭内検査(1回/週)またはクリニックにおける精度の高い検査(1回/月)を行い比較検討しました。

一次エンドポイントは、最初の大イベント(脳梗塞、大出血、死亡)までの期間としました。2.0〜4.75年の追跡が行われました(全体で8,730症例・年)。


その結果、最初のイベントまでの期間は、POC群で有意に長いという結果は得られませんでした。

また、臨床所見に関しては、POC群において小出血の回数がより多かったことを除いて、二群間に差はみられませんでした。

 

全経過を通して評価すると、INRがコントロール域に入っていた期間は、POC群の方がわずかではあるが有意に長期間でした。

また経過観察2年目において、POC群においては抗凝固療法に対する患者の満足度やQOLが高いという結果でした。

以上、POC家庭内検査(1回/週)はクリニックにおける精度の高い検査(1回/月)と比較して、脳梗塞、大出血、死亡までの期間を長くするということはなく、POC家庭内検査の有用性を支持する結果となりませんでした。

 

(備考)

この報告は否定的見解ではありますが、POC家庭内検査は、患者の通院間隔を伸ばし、出血があった場合の簡便な検査としての意義はあるように思われます。

また、検査項目はINRのみで良いかどうかも検討の余地があるかも知れません。

 

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血液凝固検査入門(図解シリーズ)

播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:53 | 抗凝固療法

2010年11月25日

金沢大学第三内科(血液・呼吸器内科)医局説明会

 

第三内科医局説明会が行われました!

懇親会


平成22年11月19日に、金沢大学第三内科(血液・呼吸器内科)医局説明会が行われました。

最初に医局長の山崎宏人から第三内科の魅力を語ってもらい、その後みんなで街に出て懇親会を開催しました。

4年生から6年生の学生さんに加えて研修医も参加し、総勢30名の盛会でした。

短い時間でしたが、参加者には第三内科の雰囲気を肌で感じてもらえた事と思います。

都合で今回の説明会に参加できなかった人も、気軽に医局に遊びに来てください。スタッフみんなで待ってます!

 

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:31 | その他

2010年11月24日

敗血症と凝固・DIC/抗炎症効果 <インデックス>

敗血症と凝固・DIC(11)APCの抗炎症効果と白血球 より続く

関連記事:播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)

 

敗血症と凝固・DIC/抗炎症効果 <目次>

1)活性化プロテインCの意義

2)凝固活性化

3)炎症と凝固のクロストーク

4)プロテインCと凝固・線溶

5)活性化プロテインC(APC)治療

6)活性化プロテインC(APC)臨床試験

7)活性化プロテインC(APC)の今後

8)活性化プロテインC(APC)の抗炎症効果

9)活性化プロテインC(APC)と凝固・線溶・炎症

10)APCの抗炎症効果

11)APCの抗炎症効果と白血球

 

【リンク】

血液凝固検査入門(図解シリーズ)

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:56 | DIC

2010年11月23日

敗血症と凝固・DIC(11)APCの抗炎症効果と白血球

 

敗血症と凝固・DIC(10)APCの抗炎症効果より続く

関連記事:播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)

 


敗血症と凝固・DIC(11)APCの抗炎症効果と白血球

活性化プロテインC(APC)は、これまでの記事で書かせていただいた血管を反応の場とした抗炎症効果を発揮するのみならず、白血球を介した抗炎症効果も有していることがin vitroの実験で明らかになっています。

実際、EPCRは、好中球、単球/マクロファージ、好酸球、NK細胞でも発現しています。

Sturn DH, Kaneider NC, Feistritzer C, et al. Expression and function of the endothelial protein C receptor in human neutrophils. Blood. 2003; 102: 1499–1505.

Pereira C, Schaer DJ, Bachli EB, et al. Wnt5A/CaMKII signaling contributes to the inflammatory response of macrophages and is a target for the antiinflammatory action of activated protein C and interleukin-10. Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2008; 28: 504–510.

これらの報告では、APCは主としてEPCRを介して、LPSによる単核球の炎症反応を抑制したり、白血球のアポトーシスや遊走反応を抑制することが明らかになっています。

 

マウス生体モデルを用いた検討はまだあまりありませんが、最近マウス敗血症モデルにおいて死亡率を低下させるのに、APCのCD8+樹状細胞への作用が重要な役割を演じているとの報告がみられています。

Kerschen E,  Hernandez I, Zogg M, et al. Activated protein C targets CD8+ dendritic cells to reduce the mortality of endotoxemia in mice. J Clin Invest. 2010; 120: 3167–3178.

 

なお、敗血症においては活性化プロテインC(APC)の形成が低下していますが、プロテインC(PC)の肝における産生も低下しているという背景のもと、動物敗血症に対してPCを投与したところ、炎症性サイトカインの抑制と臓器障害を軽減して死亡率を低下させたという報告も見られています。

Messaris E, Betrosian AP, Memos N, et al. Administration of human protein C improves survival in an experimental model of sepsis. Crit Care Med. 2010; 38: 209-16.

 

(続く) 敗血症と凝固・DIC/抗炎症効果 <index>  www.3nai.jp/weblog/entry/43455.html

 

【リンク】

血液凝固検査入門(図解シリーズ)

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:30 | DIC

2010年11月22日

敗血症と凝固・DIC(10)APCの抗炎症効果

 

敗血症と凝固・DIC(9)活性化プロテインC(APC)と凝固・線溶・炎症より続く

関連記事:播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)

 


敗血症と凝固・DIC(10)APCの抗炎症効果

また、壊死細胞からヒストンが遊離しますと、このヒストンが血管内皮細胞を障害しますが(好中球遊走、血管内皮の空泡化、肺胞内出血、血管内血栓を伴います)、活性化往路テインC(APC)はヒストンを分解することで、抗炎症作用を発揮するという報告もあります(抗ヒストン抗体と同様の作用)。

Xu J, Zhang X, Pelayo R, et al. Extracellular histones are major mediators of death in sepsis. Nat Med. 2009; 15: 1318-21.

マウス敗血症モデルを用いた検討によりますと、APCが敗血症モデルの予後を改善するには、APC-EPCR複合体がPAR-1を分解、活性化することで細胞内シグナルを起動することが不可欠と報告されています。

これを裏付ける実験結果として、抗凝固活性は正常であるもののシグナル機能の低下した変異型の遺伝子組換えAPC(E149A-APC)は敗血症モデルの予後を改善しませんでしたが、一方、シグナル機能は正常だが抗凝固能のほとんどない変異型APC(5A-APC)は敗血症モデルの予後を改善したという報告があります。

Kerschen EJ, Fernandez JA, Cooley BC, et al. Endotoxemia and sepsis mortality reduction by non-anticoagulant activated protein C. J Exp Med. 2007; 204: 2439-48.

Mosnier LO, Zampolli A, Kerschen EJ, et al. Hyperantithrombotic, noncytoprotective Glu149Ala-activated protein C mutant. Blood. 2009; 113: 5970-8.

 

血管内皮におけるAPC・PCR・PAR-1システムによる抗炎症効果、細胞保護効果に関する報告は多いです。

APCには、次のような報告があります。

1)炎症による血管内皮の透過性亢進を抑制する。

Xu J, Ji Y, Zhang X, et al. Endogenous activated protein C signaling is critical to protection of mice from lipopolysaccaride-induced septic shock. J Thromb Haemost. 2009; 7: 851-6.

Niessen F, Furlan-Freguia C, Fernández JA, et al. Endogenous EPCR/aPC-PAR1 signaling prevents inflammation-induced vascular leakage and lethality. Blood. 2009; 113: 2859-66.

2)APCはNO依存性ショックを軽減する。

Isobe H, Okajima K, Uchiba M, et al. Activated protein C prevents endotoxin-induced hypotension in rats by inhibiting excessive production of nitric oxide. Circulation. 2001; 104: 1171-5.

3)APCは血管のバリア機能を亢進させることで腫瘍細胞の浸潤を抑制する。

Van Sluis GL, Niers TM, Esmon CT, et al. Endogenous activated protein C limits cancer cell extravasation through sphingosine-1-phosphate receptor 1-mediated vascular endothelial barrier enhancement. Blood. 2009; 114: 1968-73.

4)APCは炎症により亢進する好中球の遊走を抑制する。

Nick JA, Coldren CD, Geraci MW, et al. Recombinant human activated protein C reduces human endotoxin-induced pulmonary inflammation via inhibition of neutrophil chemotaxis. Blood. 2004; 104: 3878-85.

Andonegui G, Bonder CS, Green F, et al. Endothelium-derived Toll-like receptor-4 is the key molecule in LPS-induced neutrophil sequestration into lungs. J Clin Invest. 2003; 111:1011-20.

APCの血圧維持効果は重症敗血症患者においても報告されており、また、健常人ボランティアに対してLPSを投与した検討でも報告されています。

Monnet X, Lamia B, Anguel N, et al. Rapid and beneficial hemodynamic effects of activated protein C in septic shock patients. Intensive Care Med. 2005; 31: 1573-6.

Kalil AC, Coyle SM, Um JY, et al. Effects of drotrecogin alfa (activated) in human endotoxemia. Shock.
2004; 21: 222-9.

 

(続く)敗血症と凝固・DIC(11)APCの抗炎症効果と白血球 へ

 

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:29 | DIC

2010年11月21日

敗血症と凝固・DIC(9)活性化プロテインC(APC)と凝固・線溶・炎症


敗血症と凝固・DIC(8)活性化プロテインC(APC)の抗炎症効果より続く

関連記事:播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)

プロテインC


敗血症と凝固・DIC(9)活性化プロテインC(APC)--凝固・線溶・炎症への影響

PCがAPCに転換しますとAPCの一部はEPCRから遊離してリン脂質膜に結合し、抗凝固活性を発揮します(FVaとFVIIIaの不活化)。

このことで、トロンビン形成量が低下しますので、線溶阻止因子TAFI(thrombin activatable fibrinolytic inhibitor)の活性化が抑制されます。

また、APCはPAIを抑制することでも、向線溶的に作用します。PS(プロテインS)は、これらの反応時の補酵素です。


APCは血管内皮のEPCRに結合しますと、APC・EPCR複合体は、PAR-1を活性化します。

その結果、おそらく細胞内におけるSphK1の亢進とS1P(sphingosine 1 phosphate、スフィンゴシン1リン酸)の細胞外への遊離を介して、S1P1(SIP受容体1)が活性化されます。

このことが、上図中の四角で囲んだ細胞保護作用や抗炎症作用につながっていきます。

 なお、図は以下の論文のものを改変しています。

Danese S, Vetrano S, Zhang L, et al. The protein C pathway in tissue inflammation and injury: pathogenic role and therapeutic implications. Blood. 2010; 115: 1121-1130.

 

(続く)敗血症と凝固・DIC(10)APCの抗炎症効果 へ

 

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:07 | DIC

2010年11月20日

敗血症と凝固・DIC(8)活性化プロテインC(APC)の抗炎症効果

敗血症と凝固・DIC(7)活性化プロテインC(APC)の今後より続く

関連記事:播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)

 

敗血症と凝固・DIC(8)活性化プロテインC(APC)の抗炎症効果

APCの抗炎症効果が注目される理由の一つとして、PC同様に生理的な抗凝固物質であるアンチトロンビンTFPIが、敗血症に対して予後改善効果をきたさなかったという大規模臨床試験の結果に依存するところがあります。

Bernard GR, Vincent JL, Laterre PF, et al. Efficacy and safety of recombinant human activated protein C for severe sepsis. N Engl J Med. 2001; 344: 699-709.

Warren BL, Eid A, Singer P, Pillay SS, et al. Caring for the critically ill patient. High-dose antithrombin III in severe sepsis: a randomized controlled trial. JAMA. 2001; 286:1869-78.

Abraham E, Reinhart K, Opal S, et al. Efficacy and safety of tifacogin (recombinant tissue factor pathway inhibitor) in severe sepsis: a randomized controlled trial. JAMA. 2003 Jul 9;290(2):238-47.

Toussaint S, Gerlach H. Activated protein C for sepsis. N Engl J Med. 2009; 361: 2646-52.

もし、APCが抗凝固作用によって敗血症の予後を改善するのであれば、アンチトロンビンやTFPIにも同様の効果があっても良いはずという理論です。

APCの抗炎症効果や細胞保護効果は前述のように、APCがEPCRに結合し、PAR-1を切断、活性化するためと考えられてきました(図は次回の記事で)。

PAR-1は、トロンビンなどの活性型凝固因子と結合する場合には炎症を増強する反面(炎症と凝固のクロストーク)、APCと結合する場合は抗炎症作用を発揮するという相反する性格を有している点でも興味深いです。

  (続く)敗血症と凝固・DIC(9)活性化プロテインC(APC)と凝固・線溶・炎症 へ

 

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:56 | DIC

2010年11月19日

金沢大学第三内科(血液・呼吸器内科)医局説明会

医局説明会2

 

金沢大学第三内科(血液・呼吸器内科)医局説明会

日時: 11月19日 (金)午後6時

場所:第三内科(血液・呼吸器内科)医局に集合してください。

対象: 学生さん、初期研修中の先生


参加いただける方は11月17日(水)までに、下記まで御連絡ください。

(BSLや研修でまわっている方に、ことづけてもらっても結構です)

076-265-2275 金沢大学附属病院 第三内科図書室

 

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:35 | 医局内行事・研修医・専門医

2010年11月18日

(ご案内)第8回北陸血栓研究会


第8回北陸血栓研究会

日 時:平成22年11月27日(土)16:00〜18:00
場 所:十全記念会館(金沢大学医学部構内)


代表世話人 金沢大学医薬保健研究域医学系 細胞移植学教授      中尾 眞二
当番世話人 富山大学大学院医学薬学研究部 危機管理医学教授     奥寺 敬  先生


プログラム

16:00〜16:10    学術情報提供 CSLベーリング株式会社

開会の挨拶 富山大学大学院医学薬学研究部 危機管理医学教授 奥寺 敬  先生


16:10〜17:10    一般演題 

座長:金沢医科大学 血液免疫制御学 准教授 正木 康史 先生

1.「クルクミン誘導ヘムオキシゲナーゼ-1による末梢血単核球細胞における組織因子発現への影響」

油野岳夫1、森下英理子1,2、丸山慶子1、関谷暁子1、大竹茂樹1,2
1金沢大学大学院医学系研究科病態検査学、2同 附属病院血液内科

【指定発言】 金沢大学附属病院 高密度無菌治療部 朝倉英策 
    

2.「正常大動脈に発生した巨大壁在血栓症の一例」

烏川信雄、宝達明彦、山岸正和 1、大竹裕志、渡邊剛 2
1金沢大学循環器内科, 2金沢大学心臓血管外科

【指定発言】 富山大学大学院医学薬学研究部 危機管理医学 若杉 雅浩 先生


3. 「軟部組織感染より敗血症・DICをきたした4症例の検討」

    藤田祥央、有嶋拓郎、吉川宣近、濱田浄司、若杉雅浩、奥寺敬

 富山大学附属病院 救急部   

【指定発言】 芳珠記念病院 内科 青島敬二 先生

 

17:10 〜 17:20 休憩

17:2018:00    教育講演 

「転写因子NF−κB活性化調節機構から視る炎症と凝固のクロストーク」

富山大学大学院医学薬学研究部  臨床分子病態検査学教授 北島 勲  先生

 

閉会の挨拶    金沢大学医薬保健研究域医学系 細胞移植学教授 中尾  眞二 

謝辞 
      CSLベーリング株式会社  京都支店  福家 真治

 

 

共催 

北陸血栓研究会

CSLベーリング株式会社

社団法人 石川県臨床衛生検査技師会
           

後援 

石川県病院薬剤師会

一般社団法人 福井県臨床検査技師会

 


※ 本研究会は、石川県病院薬剤師会生涯教育制度の1単位に該当しますので、会場で研修シールを受け手帳に貼付して下さい。

※ 本研究会は、日本臨床衛生検査技師会生涯教育研修制度 専門教科20点に該当します。
 
会費:500円(学生無料)

 

 【リンク】

血液凝固検査入門(図解シリーズ)

播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:40 | 研究会・セミナー案内

2010年11月17日

敗血症と凝固・DIC(7)活性化プロテインC(APC)の今後

敗血症と凝固・DIC(6)活性化プロテインC(APC)臨床試験より続く

関連記事:播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)

 

敗血症と凝固・DIC(7)敗血症に対する活性化プロテインC(APC)の今後

現在、最も重症の敗血症病態と言える「敗血症性ショック」に対するrhAPCの臨床試験が進行中で、その結果が注目されています。

今後は、出血の問題を解決するための方法として、どのような凝血学的検査でモニターするのか(血小板数、PTAPTTなどのグローバルマーカー:PT&APTTなど:のみで良いのかどうか)、凝血学的検査や臓器障害の状況により投与量を変更させる必要があるのかなども検討される必要があるのではないかと考えられます。

また、有効性を向上させるために投与開始タイミング、投与期間、他の合併症の評価、併用薬の是非も重要な検討課題ではないかと考えられます。

特に、ヘパリン類(未分画ヘパリン、低分子ヘパリン、ダナパロイド)やアンチトロンビン製剤に関して併用の是非、投与量により是非が変わるのかどうかなど、大変気になるところです。

なお、APCに対する新たな抗体の出現も懸念されましたが、過去のrhAPCに関する臨床試験時の検体を検査したところ、rhAPC治療群とプラセボ治療群間には抗体出現率に有意差はありませんでした(それぞれ、1.5%、1.6%;p=0.72)。

 (続く)敗血症と凝固・DIC(8)活性化プロテインC(APC)の抗炎症効果 へ

 

【リンク】

血液凝固検査入門(図解シリーズ)

播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:34 | DIC

2010年11月16日

敗血症と凝固・DIC(6)活性化プロテインC(APC)臨床試験

敗血症と凝固・DIC(5)活性化プロテインC(APC)治療 より続く

関連記事:播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)

 

敗血症と凝固・DIC(6)敗血症に対する活性化プロテインC(APC)臨床試験

重症敗血症を対象にした遺伝子組換えヒトAPC(rhAPC)の臨床試験(PROWESS study)の結果は、当時極めて大きなインパクトをもって世界に発信されました。

Bernard GR, Vincent JL, Laterre PF, et al. Efficacy and safety of recombinant human activated protein C for severe sepsis. N Engl J Med. 2001; 344: 699-709.

対象症例は1,690例で、約75%の症例が多臓器不全を有していました。

診断後24時間以内にrhAPCが投与されたところ、28日後の時点における死亡率はrhAPC群24.7%(プラセボ群30.8%)でした(p=0.005)。

その後の報告では、1回以上の出血をきたしたのは、rhAPC群24.9%、プラセボ群17.7%でした(p=0.001)。

Fumagalli R, Mignini MA. The safety profile of drotrecogin alfa (activated). Crit Care. 2007; 11 Suppl 5:S6.

また、重症出血は、rhAPC群3.5%、プラセボ群2.0%(p=0.06)と、rhAPC投与群で高頻度の傾向にありました。

サブ解析の結果では、rhAPCの有用性が高いのは、APACHE IIスコアが25以上の重症例であることが判明しました。

Ely EW, Laterre PF, Angus DC. Drotrecogin alfa (activated) administration across clinically important subgroups of patients with severe sepsis. Crit Care Med. 2003; 31: 12-9.

 
これらの結果を受けて、欧米では、rhAPCは致命的な重症敗血症に対して保険認可されています。

ただし、この認可に対しては否定的な見解もあります。その理由としては、PROWESS臨床試験中にプロトコールに修正が加えられたこと(除外項目として、28日以内に死亡すると思われる症例などが加えられました)、製造方法の変更があったことなどが指摘されています。

また、APACHE IIスコアを継続して評価することは難しく、しかも加療開始後スコアが速やかに変化していくために、サブ解析においてAPACHE IIスコアを主項目とするのは問題ではないかという指摘もありました。

Warren HS, Suffredini AF, Eichacker PQ, et al. Risks and benefits of activated protein C treatment for severe sepsis. N Engl J Med. 2002; 347: 1027-30.

Poole D, Bertolini G, Garattini S. Errors in the approval process and post-marketing evaluation of drotrecogin alfa (activated) for the treatment of severe sepsis. Lancet Infect Dis. 2009; 9: 67-72.

これらの疑問点を解決するために、rhAPCを重症敗血症の早期症例(臓器障害が一つの臓器のみ、またはAPACHE IIスコアが25未満)に投与して評価する臨床試験が行われました。

しかし、この臨床試験は、rhAPCの有効性が見いだされなかったために、2,640例登録された時点で中断となっています(28日後の死亡率:rhAPC群 18.5%、プラセボ群 17%、p=0.34; 院内死亡率: rhAPC群 20.6%、プラセボ群 20.5%、p=0.98;薬物投与期間中の高度出血: rhAPC群 2.4%、プラセボ群 1.2%、p=0.02 )。

Abraham E, Laterre PF, Garg R, et al. Drotrecogin alfa (activated) for adults with severe sepsis and a low risk of death. N Engl J Med. 2005; 353: 1332-41.

 

小児を対象とした臨床試験においても、やはりrhAPCの有用性は示されませんでした。

Nadel S, Goldstein B, Williams MD. Drotrecogin alfa (activated) in children with severe sepsis: a multicentre phase III randomised controlled trial. Lancet. 2007; 369(9564): 836-43.


これらの追加された臨床試験の結果から、rhAPCを重症敗血症に対して広く使用するのには問題があると結論付けられましたが、多臓器不全を合併し予後不良と考えられる症例に対しては処方意義がありガイドラインに組み見込まれています。

Carlet J. Prescribing indications based on successful clinical trials in sepsis: a difficult exercise. Crit Care Med. 2006; 34: 525-9.

Dellinger RP, Carlet JM, Masur H. Surviving Sepsis Campaign guidelines for management of severe sepsis and septic shock. Intensive Care Med. 2004; 30: 536-55.

 

(続く)敗血症と凝固・DIC(7)活性化プロテインC(APC)の今後 へ

 

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血液凝固検査入門(図解シリーズ)

播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:58 | DIC

2010年11月15日

敗血症と凝固・DIC(5)活性化プロテインC(APC)治療

敗血症と凝固・DIC(4)プロテインCと凝固・線溶より続く

関連記事:播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)

 

敗血症と凝固・DIC(5)敗血症に対する活性化プロテインC(APC)治療の意義

敗血症においては、PCの産生自体が低下しており、加えてAPC産生が低下しているため、このことも凝固活性化に拍車をかけてDIC発症へとつながることになります。

DICの合併は、敗血症の予後を著しく悪化させることが知られており、凝固活性化の制御は敗血症の予後を改善する観点から重要です。凝固活性化は炎症を増幅して、凝固と炎症のクロストークによる悪循環サイクルが形成されます。


この病態に対して、APCは抗凝固活性を発揮するのみならず、抗炎症作用を発揮することも期待されています。

Weiler H. Regulation of inflammation by the protein C system. Crit Care Med. 2010; 38(2 Suppl): S18-25.

Sarangi PP, Lee HW, Kim M. Activated protein C action in inflammation. Br J Haematol. 2010; 148:817-33.

Toltl LJ, Beaudin S, Liaw PC. Activated protein C up-regulates IL-10 and inhibits tissue factor in blood monocytes. J Immunol. 2008; 181:2165-73.

また、APCには、一酸化窒素(nitric oxide: NO)による血管障害、リンパ球や血管内皮細胞のアポトーシス、好中球活性化を抑制する作用も報告されています。

遺伝子組換え技術により抗凝固活性を10%未満に低下させたAPCにおいても、抗凝固活性を有した通常のAPCと同様に動物敗血症モデルの予後を改善したという報告があり、このことはAPCによる効果は抗凝固活性に依存しない部分が大きいことを示しています。

Kerschen EJ, Fernandez JA, Cooley BC, et al. Endotoxemia and sepsis mortality reduction by non-anticoagulant activated protein C. J Exp Med. 2007; 204: 2439-48.

この論文では、APCによる血管内皮PC受容体(endothelial cell protein C receptor, EPCR)とPAR-1を介したシグナルがAPCの抗炎症効果に重要な働きを演じていると論じています(この点は本シリーズの後の記事でも書かせていただきます)。

抗凝固活性を有さないAPCが敗血症に対して有効であるとしますと、出血の副作用を懸念する必要がなく安全な臨床応用が期待されますが、一方で、APCの敗血症に対する効果は、抗凝固活性に依存するという報告もあり、単純ではありません。

van Veen SQ, Levi M, van Vliet AK, et al. Peritoneal lavage with activated protein C alters compartmentalized coagulation and fibrinolysis and improves survival in polymicrobial peritonitis. Crit Care Med. 2006; 34: 2799-805.

Choi G, Hofstra JJ, Roelofs JJ, et al. Recombinant human activated protein C inhibits local and systemic activation of coagulation without influencing inflammation during Pseudomonas aeruginosa pneumonia in rats. Crit Care Med. 2007 May; 35: 1362-8.
 

(続く)敗血症と凝固・DIC(6)活性化プロテインC(APC)臨床試験

 

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血液凝固検査入門(図解シリーズ)

播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:50 | DIC

2010年11月14日

敗血症と凝固・DIC(4)プロテインCと凝固・線溶


敗血症と凝固・DIC(3)炎症と凝固のクロストーク より続く

関連記事:播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)

 

血管内皮


敗血症と凝固・DIC(4)プロテインCと凝固・線溶

血液は血管内を循環している場合には凝固することはありませんが、この点で血管内皮の果たす役割は極めて大きいことが知られています。

具体的には、血管内皮上には既述のトロンボモジュリン(TM)が存在するのみならず、ヘパリン様物質(ヘパラン硫酸プロテオグリカン:抗凝固性蛋白であるアンチトロンビンや組織因子経路インヒビターが結合)が存在し、プロスタサイクリン(PGI2:血小板機能抑制作用、血管拡張作用)、一酸化窒素(nitric oxide、NO:血小板機能抑制作用、血管拡張作用)、組織プラスミノゲンアクチベータ(tissue plasminogen activator、t-PA:プラスミノゲンをプラスミンに転換する線溶関連因子) が産生されます。


この中でも、プロテインC(PC)-TMシステムの意義は大きいです。

プロテインCは、主として肝臓で産生されるビタミンK依存性凝固阻止因子(セリンプロテアーゼ)です。

血管内でトロンビンが産生されて、血管内皮上に存在する抗凝固性物質であるトロンボモジュリン(TM)と結合しますと、トロンビン- TM複合体が形成されます。

この複合体は、プロテインCを活性化して活性化プロテインC(APC)に転換します。APCは、活性型第V因子と、活性型第VIII因子を不活化することで、抗凝固活性を発揮します。

トロンビンは、その本来の性格は向凝固性ですが、TMと複合体を形成することによりAPCの産生に寄与するという観点から、抗凝固性の性格に転換することになります。


APCは、線溶阻止因子であるプラスミノゲンアクチベータインヒビター(PAI)を不活化するために、凝固のみでなく線溶の性格も合わせ持っています。

前述の如く敗血症においては、炎症性サイトカインの作用によって血管内皮上のTMの発現が低下しているため、APCの産生が低下していることになります。

また、敗血症では肝不全の合併に伴って基質であるPCの産生自体も低下しているため、このこともAPC産生に対してマイナスに作用します。

 

(続く)敗血症と凝固・DIC(5)活性化プロテインC(APC)治療

 

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:30 | DIC

2010年11月13日

敗血症と凝固・DIC(3)炎症と凝固のクロストーク

敗血症と凝固・DIC(2)凝固活性化より続く

関連記事:播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)

 

敗血症と凝固・DIC(3)炎症と凝固のクロストークの概念

近年、炎症と凝固のクロストークの存在が数々の報告により明らかにされてきています。

Pawlinski R, Mackman N. Tissue factor, coagulation proteases, and protease-activated receptors in endotoxemia and sepsis. Crit Care Med. 2004; 32: S293-S297.

Pawlinski R, Pedersen B, Mackman N, et al. Role of tissue factor and protease-activated receptors in a mouse model of endotoxemia. Blood. 2004; 103: 1342-1347.

Huerta-Zepeda A, Cabello-Gutiérrez C, Ruiz-Ordaz BH, et al. Crosstalk between coagulation and inflammation during Dengue virus infection. Thromb Haemost. 2008; 99: 936-943.

Niessen F, Schaffner F, Furlan-Freguia C, et al. Dendritic cell PAR1-S1P3 signalling couples coagulation and inflammation. Nature. 2008; 452(7187): 654-8.

Levi M, van der Poll T. Inflammation and coagulation. Crit Care Med. 2010; 38(2 Suppl): S26-34.

すなわち、前述のように炎症(LPS、サイトカインなど)により凝固活性化を生じますが、生じたトロンビンや活性型第X因子は、PARs(Protease-activated receptors)を介して炎症を惹起するというものです。

実際、DICを合併した敗血症モデルに対して、免疫グロブリンを投与しますと、TNFやIL-6と言った炎症性サイトカインの抑制とともに、凝固異常や病理学的な血栓形成が抑制されます。

Asakura H, Ontachi Y, Nakao S, et al. Immunoglobulin preparations attenuate organ dysfunction and hemostatic abnormality by suppressing the production of cytokines in LPS-induced DIC in rats. Crit Care Med. 2006; 34: 2421-2425.

炎症と凝固のクロストークを遮断するような治療は、今後の発展が期待できるのではないかと考えられます。


敗血症などの重症感染症における凝固活性化や、DIC病態におけるサイトカインや血管内皮の関与、凝固と炎症のクロストークの存在が注目されるようになるとともに、抗炎症と抗凝固の両作用を有する治療薬が求められています。

活性化プロテインCは、そういう背景の中で脚光を浴びています。

なお、炎症と凝固のクロストークの現象は敗血症では存在しますが、非感染症性疾患においての存在は疑問ではないかと思っています(凝固活性化→炎症は、もし存在しても限定的と考えられます)。

Ontachi Y, Asakura H, Nakao S, et al. No interplay between the pathways mediating coagulation and inflammation in tissue factor-induced disseminated intravascular coagulation in rats. Crit Care Med. 2006; 34: 2646-2650.

 

(続く)敗血症と凝固・DIC(4)プロテインCと凝固・線溶

 

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:13 | DIC

2010年11月12日

敗血症と凝固・DIC(2)凝固活性化


敗血症と凝固・DIC(1)活性化プロテインCの意義 より続く

関連記事:播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)

 


敗血症

敗血症と凝固・DIC(2)敗血症における凝固活性化

敗血症などの重症感染症における凝固活性化や播種性血管内凝固症候群(DIC)の発症にはサイトカインの関与が大きいと考えられています。

関連記事:敗血症に合併したDICの発症機序

敗血症においては、lipopolysaccharide(LPS)やTNF、IL-1などの炎症性サイトカインの作用により、単球/マクロファージや血管内皮から大量の組織因子(tissue factor:TF)が産生され、著しい凝固活性化を生じます。

さらに、LPSやサイトカインは血管内皮上の抗凝固性蛋白であるトロンボモジュリン(thrombomodulin:TM)の発現を抑制しますので、凝固活性化に拍車がかかることになります。

凝固活性化の結果として生じた多発性微小血栓は、線溶活性化により溶解されようとしますが、LPSやサイトカインの作用によって血管内皮で線溶阻止因子プラスミノゲンアクチベータインヒビター(plasminogen activator inhibitor:PAI)が過剰発現し線溶が抑制されるために、多発性微小血栓が残存し、微小循環障害による多臓器不全が進行します。

Levi M, Ten Cate H: Disseminated intravascular coagulation. N Engl J Med. 1999; 341: 586-592.


なお、急性白血病や固形癌などの悪性腫瘍においては、腫瘍細胞中の組織因子により外因系凝固が活性化されることが、凝固活性化やDIC発症の原因と考えられています。

関連記事:悪性腫瘍(癌)とDIC:発症機序

血管内皮や炎症の関与がほとんどない点において、より直接的な凝固活性化の病態となっています。

 

(続く)敗血症と凝固・DIC(3)炎症と凝固のクロストーク

 

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:41 | DIC

2010年11月11日

敗血症と凝固・DIC(1)活性化プロテインCの意義

今回から、敗血症と凝固・DICをシリーズでお届けしたいと思います。
特に、抗凝固作用のみでなく、抗炎症作用も注目されている活性化プロテインCにスポットライトをあてたいと思います。

関連記事:播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)

 

敗血症と凝固・DIC(1)活性化プロテインCの意義 〜 イントロ 〜

敗血症における炎症と凝固のクロストークの存在が注目されるようになり、抗炎症と抗凝固の両作用を有する治療薬が求められています。

また、重症敗血症を対象にした遺伝子組換えヒト活性化プロテインC(APC)の臨床試験の結果(予後改善効果)は、当時大きなインパクトをもって世界に発信されました。

APCは、そういう背景の中で脚光を浴びています。

APCは、凝固、線溶作用を有するのみならず、血管内皮PC受容体と結合することでPAR-1を活性化し、さまざまな抗炎症効果、細胞保護作用を有しています。

血管内皮におけるAPC・PCR・PAR-1システムによる抗炎症効果、細胞保護効果に関する基礎的研究が多かったですが、近年は白血球を介したAPCの抗炎症効果も注目され、研究対象となっています。

(続く)敗血症と凝固・DIC(2)凝固活性化

 

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 13:28 | DIC

2010年11月10日

幼若血小板比率(IPF)/網血小板:インデックス

血小板数減少とIPF検査 :幼若血小板比率(IPF)(10)より続く

 参考:幼若血小板比率(IPF):インデックス/最近の動向

 
幼若血小板比率(immmature platelet fraction:IPF)インデックス

1)網血小板

2)血小板減少症

3)血小板数との相関

4)特発性血小板減少性紫斑病(ITP)

5)同種造血幹細胞移植

6)臍帯血移植&IPFサージ

7)血栓症&抗血小板療法

8)MDS

9)骨髄異形成症候群

10)血小板数減少とIPF検査

 

 

【リンク】

血液凝固検査入門(図解シリーズ)

播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:04 | 出血性疾患

2010年11月9日

血小板数減少とIPF検査 :幼若血小板比率(IPF)(10)


骨髄異形成症候群:幼若血小板比率(IPF)(9) より続く

IPF
 

今後の展望

血小板数減少患者が受診しても、ただちに血液科が対応したり、骨髄検査実施後初期治療や血小板輸血の適応が判断したりできるとは限りません。

むしろ、そのような恵まれた環境は例外的と思われます。

IPF測定により、非侵襲的かつ迅速に血小板造血能をある程度評価することができます。

今後臨床におけるIPF測定の利便性・有用性は益々高まると予想されます。

 

(続く)幼若血小板比率(IPF)/網血小板:インデックス へ

 

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:21 | 出血性疾患

2010年11月8日

骨髄異形成症候群:幼若血小板比率(IPF)(9)

MDS:幼若血小板比率(IPF)(8) より続く

 

骨髄異形成症候群におけるIPF(2)

幼若血小板比率(IPF)高比率MDSを、血小板数5万/μl以上かつIPF 10%以上と定義した場合、自施設のMDS 40例中8例(20%)を占めていました。

一方、このような症例は、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)例には全くみられませんでした。

IPF高比率MDSは、7番染色体異常を中心に全例で染色体異常がみられました。

また、血小板・骨髄巨核球の形態異常が高頻度にみられました。


MDS病型分類では、RAEBが 4例(RAEB全体の40%)を占めましたが、RAも4例(RA全体の13%)含まれていたことは注目すべきと考えられます。

比較的予後良好と考えられるRAでも、IPF高値例は、予後不良染色体異常が存在し、実際は高リスクMDSの可能性があります。

MDSにおけるIPF測定は、7番染色体異常を中心とする予後不良MDSをスクリーニングスする迅速かつ簡便な方法として有用かもしれません。

 

(続く)血小板数減少とIPF検査 :幼若血小板比率(IPF)(10)

  

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2010年11月7日

MDS:幼若血小板比率(IPF)(8)


血栓症&抗血小板療法:幼若血小板比率(IPF)(7)より続く

MDSとIPF

 

骨髄異形成症候群におけるIPF(1)

骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome: MDS)では、IPFと血小板数の相関はみられません(上図)。

この原因として、血小板減少が軽い割にIPFが高値となる「IPF高比率MDS」の存在があります(下表)。

Sugimori N, Kondo Y, Shibayama M, et al: Aberrant increase in the immature platelet fraction in patients with myelodysplastic syndrome: a marker of karyotypic abnormalities associated with poor prognosis. Eur J Haematol 82:54-60, 2009

柴山正美, 杉森尚美, 上地幸平, et al: 骨髄異形成症候群の幼若血小板高比率は7番染色体異常を含む予後不良染色体異常の存在を示唆する. 日本検査血液学会雑誌 9:136-42, 2008

 

IPF高比率MDS(血小板数5万/μl以上かつIPF 10%以上のMDS)の特徴

● MDS全体の約20%

● 7番染色体を中心とする予後不良染色体異常

● 巨核球・血小板の形態異常

● 形態診断上約半数は予後良好MDS
 

 (続く)骨髄異形成症候群:幼若血小板比率(IPF)(9)

 

 
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播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:57 | 出血性疾患

2010年11月6日

第8回北陸血栓研究会のご案内


第8回北陸血栓研究会

日 時:平成22年11月27日(土)16:00〜18:00
場 所:十全記念会館(金沢大学医学部構内)


代表世話人 金沢大学医薬保健研究域医学系 細胞移植学教授      中尾 眞二
当番世話人 富山大学大学院医学薬学研究部 危機管理医学教授     奥寺 敬  先生


プログラム

16:00〜16:10    学術情報提供 CSLベーリング株式会社

16:10〜17:00    一般演題 (数題の予定)

17:10〜18:00    教育講演 

「転写因子NF−κB活性化調節機構から視る炎症と凝固のクロストーク」

富山大学大学院医学薬学研究部  臨床分子病態検査学教授 北島 勲  先生

会費:500円(学生無料)

 

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:13 | 研究会・セミナー案内

2010年11月5日

血栓症&抗血小板療法:幼若血小板比率(IPF)(7)


臍帯血移植&IPFサージ:幼若血小板比率(IPF)(6)より続く

 

血小板増多・血栓症・感染症におけるIPF

血小板増多性疾患において、IPF高値は血栓症(参考:血管内皮の抗血栓性物質と線溶)の危険因子と報告されています(参考:骨髄増殖性疾患:真性赤血球増加症、本態性血小板血症と血栓症)。

Rinder HM, Schuster JE, Rinder CS, et al: Correlation of thrombosis with increased platelet turnover in thrombocytosis. Blood 91:1288-94, 1998

抗血小板療法の効果判定にも有用かもしれません。

Cesari F, Marcucci R, Caporale R, et al: Relationship between high platelet turnover and platelet function in high-risk patients with coronary artery disease on dual antiplatelet therapy. Thromb Haemost 99:930-5, 2008

Rinder HM, Schuster JE, Rinder CS, et al: Correlation of thrombosis with increased platelet turnover in thrombocytosis. Blood 91:1288-94, 1998

 

さらに、急性冠動脈疾患の急性期はIPFが著増し、IPF増加と冠動脈再閉塞との関連が示唆されています。

Grove EL, Hvas AM, Kristensen SD: Immature platelets in patients with acute coronary syndromes. Thromb Haemost 101:151-6, 2009

Gonzalez-Porras JR, Martin-Herrero F, Gonzalez-Lopez TJ, et al: The role of immature platelet fraction in acute coronary syndrome. Thromb Haemost 103:247-9, 2010

 

また、感染症によりIPF が若干増加する可能性が示唆されていましたが、逆にこれを利用して、IPFを細菌感染症の早期診断に利用するという試みもあります。

Briggs C, Hart D, Kunka S, et al: Immature platelet fraction measurement: a future guide to platelet transfusion requirement after haematopoietic stem cell transplantation. Transfus Med 16:101-9, 2006

Di Mario A, Garzia M, Leone F, et al: Immature platelet fraction (IPF) in hospitalized patients with neutrophilia and suspected bacterial infection. J Infect 59:201-6, 2009

 

(続く)MDS:幼若血小板比率(IPF)(8)

 

 
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:26 | 出血性疾患

2010年11月4日

臍帯血移植&IPFサージ:幼若血小板比率(IPF)(6)


同種造血幹細胞移植:幼若血小板比率(IPF)(5)より続く

図5

造血幹細胞移植の場合、血小板造血に先行して一過性にIPF増加がみられます(IPFサージ:上図)。

Takami A, Shibayama M, Orito M, et al: Immature platelet fraction for prediction of platelet engraftment after allogeneic stem cell transplantation. Bone Marrow Transplant 39:501-7, 2007



IPFサージは、好中球回復と同じ生着の時期にみられ、拒絶例ではIPFサージが起こらなかったことから、造血幹細胞生着の指標にもなる可能性が考えられています。

特に臍帯血移植は造血回復が遅く、生着不全も多いことから、IPFサージは心強いランドマークになると思われます。

IPFは、血小板輸血適応の判断にも有用です。

網赤血球数と同様、化学療法や造血幹細胞移植後の日常診療として測定すべき検査項目と考えられます。

最近、新生児血小板減少症におけるIPFの有用性が相次いで報告されています。

Kihara H, Ohno N, Karakawa S, et al: Significance of immature platelet fraction and CD41-positive cells at birth in early onset neonatal thrombocytopenia. Int J Hematol 91:245-51, 2010

Cremer M, Weimann A, Schmalisch G, et al: Immature platelet values indicate impaired megakaryopoietic activity in neonatal early-onset thrombocytopenia. Thromb Haemost 103:1016-21, 2010

Cremer M, Paetzold J, Schmalisch G, et al: Immature platelet fraction as novel laboratory parameter predicting the course of neonatal thrombocytopenia. Br J Haematol 144:619-21, 2009


特にNICU管理が必要な新生児では、骨髄検査など侵襲的検査が実施困難な場合も多く、IPF測定は利便性が高いです。

(続く)血栓症&抗血小板療法:幼若血小板比率(IPF)(7)

 
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2010年11月3日

同種造血幹細胞移植:幼若血小板比率(IPF)(5)

特発性血小板減少性紫斑病(ITP):幼若血小板比率(IPF)(4)より続く

IPFは、化学療法や造血幹細胞移植後の血小板回復予測にも有用で(下図)。

Takami A, Shibayama M, Orito M, et al: Immature platelet fraction for prediction of platelet engraftment after allogeneic stem cell transplantation. Bone Marrow Transplant 39:501-7, 2007

 


同種造血幹細胞移植における血小板回復(平均値) 

図A
図B
図C

 


(A) 骨髄移植(BMT)

(B) 末梢血幹細胞移植(PBSCT)

(C) 臍帯血移植(CBT)


いずれも血小板数回復に先行して、幼若血小板比率(IPF)が一過性に増加します(IPFサージ)

幼若血小板絶対数数(absolute immature platelet count: AIPC)の回復は、血小板回復とほぼ一致します。

Briggs C, Hart D, Kunka S, et al: Immature platelet fraction measurement: a future guide to platelet transfusion requirement after haematopoietic stem cell transplantation. Transfus Med 16:101-9, 2006

Yamaoka G, Kubota Y, Nomura T, et al: The immature platelet fraction is a useful marker for predicting the timing of platelet recovery in patients with cancer after chemotherapy and hematopoietic stem cell transplantation. Int J Lab Hematol, 2010

Zucker ML, Murphy CA, Rachel JM, et al: Immature platelet fraction as a predictor of platelet recovery following hematopoietic progenitor cell transplantation. Lab Hematol 12:125-30, 2006

Yamazaki R, Kuwana M, Mori T, et al: Prolonged thrombocytopenia after allogeneic hematopoietic stem cell transplantation: associations with impaired platelet production and increased platelet turnover. Bone Marrow Transplant 38:377-84, 2006

Takami A, Shibayama M, Orito M, et al: Immature platelet fraction for prediction of platelet engraftment after allogeneic stem cell transplantation. Bone Marrow Transplant 39:501-7, 2007

Abe Y, Wada H, Tomatsu H, et al: A simple technique to determine thrombopoiesis level using immature platelet fraction (IPF). Thromb Res 118:463-9, 2006

Koike Y, Miyazaki K, Higashihara M, et al: Clinical significance of detection of immature platelets: comparison between percentage of reticulated platelets as detected by flow cytometry and immature platelet fraction as detected by automated measurement. Eur J Haematol 84:183-4, 2010

 

 

(続く)臍帯血移植&IPFサージ:幼若血小板比率(IPF)(6)

 

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2010年11月2日

特発性血小板減少性紫斑病(ITP):幼若血小板比率(IPF)(4)


血小板数との相関:幼若血小板比率(IPF)(3)より続く

図3

血小板減少におけるIPF

特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の場合、IPFと血小板数の逆相関はより顕著にみられます(上図)。

柴山正美, 杉森尚美, 上地幸平, et al: 骨髄異形成症候群の幼若血小板高比率は7番染色体異常を含む予後不良染色体異常の存在を示唆する. 日本検査血液学会雑誌 9:136-42, 2008

治療が奏効し血小板数が回復すれば、IPFも正常化します。

Abe Y, Wada H, Tomatsu H, et al: A simple technique to determine thrombopoiesis level using immature platelet fraction (IPF). Thromb Res 118:463-9, 2006

肝硬変など脾機能亢進時も同様の傾向が認められます。

これは、血小板造血能が正常に保たれていれば、血小板減少の程度に応じた骨髄巨核数増加を反映していると考えられます。

一方、再生不良性貧血では、血小板産生能が回復しないかぎり、IPFの増加はみられません。

Briggs C, Kunka S, Hart D, et al: Assessment of an immature platelet fraction (IPF) in peripheral thrombocytopenia. Br J Haematol 126:93-9, 2004


このように、IPF測定により、骨髄における血小板産生能を半定量的に評価することが可能です。

Mean platelet fraction (MPV)やplatelet distribution width (PDW)も血小板産生能評価の指標になり得ますが、精度はIPFの方が優れます。

Ault KA, Rinder HM, Mitchell J, et al: The significance of platelets with increased RNA content (reticulated platelets). A measure of the rate of thrombopoiesis. Am J Clin Pathol 98:637-46, 1992

 

(続く)同種造血幹細胞移植:幼若血小板比率(IPF)(5)

 

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:46 | 出血性疾患

2010年11月1日

第24回日本臨床内科医学会(in 金沢)


第24回日本臨床内科医学会が、平成22年10月10日(日)から11日(月)の2日間、石川県金沢市の石川県立音楽堂、ホテル日航金沢を中心に開催されました。

学会


今回のテーマ 「未来の日本の医療を考えようー内科医の結束を・・」

私たちにとっては、金沢大学第三内科の近藤邦夫同門会会長が、学会長をつとめられたということでも、とても感慨深いものがあります。

石川県臨床内科医会は平成7年、梅田俊彦会長のもと、第9回日本臨床内科医学会を開催いたしまして、1000人を超える多くの先生方にご参加いただきました。

それから15年目に再び医学会が開催されたことになります。

HPの会長挨拶
には、「今回は、富山(若栗 宣人会長)、福井(島田 政則会長)両県の内科医会の先生方のお力添えもいただいての開催の運びとなりました。3県の内科医会の会員684人が一丸となって力を合わせ医学会を成功させたいと願っております」と書かれていました。

また、近藤会長からは、以下のようにお聞きしています。
「内科医として地域医療を支える現場にいる勤務医、開業医の厳しい状況を考えられた医学会でした。第1内科、第2内科、第3内科、医科大学、北陸3県すべての先生方のお力で盛会に終えることが出来ました。1200人ほどの方が全国からこられました。」


第24回日本臨床内科医学会が、盛会となり、意義深いものになったことを嬉しく思います。


 

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