CBT(コアカリ):息切れ
CBT(コアカリ)血栓止血領域の問題紹介と解説です。
今回は連問です。
(1/4)42歳の女性.1週間前から階段を上るときに息切れを感じるようになったため来院した.
この患者に聞くべきことを4つ選んだ時に残るのはどれか.
a 咳・痰は出ますか.
b 体重は減りましたか.
c 生の牛肉を食べましたか.
d 歯科治療を受けましたか.
e 歯を磨く時に出血しやすいですか.
【選択肢について】
a 労作時の息切れは肺疾患でもみられます。咳・痰の症状の有無は是非確認しておきたいところです。
b 労作時の息切れは消耗性疾患(悪性腫瘍など)でもありえます。体重減少があったかどうかは確認しておきたいところです。
c 社会的に知られた食中毒事件で、生の牛肉と言えば、溶血性尿毒症症候群(HUS)をすぐに想起するくらいに、有名になったかも知れません。HUSを疑った場合には血便などの消化器症状をまず確認します。しかし生の牛肉を食べたかどうか聞いても問題はないので、悩ましい選択肢です。
d 抜歯後の出血傾向があるかどうかは、診断につながることがあるため、聞いておきたいです。ただし、労作時の息切れがあるからと言って、歯科治療の有無をすぐ確認するかどうかは疑問であり悩ましい選択肢です。
e 歯を磨く時に出血するかどうかは、出血傾向の有無を判断する上で重要な情報です。ただし「階段を上るときに息切れを感じる」からと言って、歯を磨く時に出血するかどうかを確認するかどうかは悩ましいです。
【正答】
d or c or e
【感想】
不適切問題と言わざるを得ないと思います。
回答が分散して、正答率が低い問題であっただろうと推測します。
学生の皆さんは、この問題を回答できなくても臨床実習できますので、どうかご安心ください。
(続く)CBT(コアカリ):出血&異常細胞へ
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:44
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CBT(コアカリ):止血
CBT(コアカリ)血栓止血領域の問題紹介と解説です。
止血のうち,二次止血に関与するのはどれか.
a 血小板凝集
b 血圧維持
c 血液凝固
d 血管収縮
e 線維素溶解
【ポイント】
止血には、血小板による一次止血と、凝固因子による二次止血のステップがあります。
形成された血栓を溶解する機序が線維素溶解(線溶)です。
【選択肢について】
a 血小板粘着と凝集は一次止血に関与します。
b 血圧維持と止血は無関係です。
c 血液凝固は、二次止血に関与します。
d 血管収縮は止血と直接は関係ありません。
e 線溶とも言います。過剰な血栓はプラスミンによって溶解します。
【正答】 c
【感想】
二次止血、一次止血といった止血知識の基本を問っていますが、用語の確認的な問題に留まっているようです。
管理人は、一次止血、二次止血という表現自体に、違和感を感じています。
ほぼ瞬時に進行している止血機序を分割することに抵抗を感じています。
分ける必要があるのでしょうか?
<止血>
血管が破綻しますと、まず「血小板粘着」が起きます。
さらに多くの血小板が集結して「血小板凝集」を生じます。
その結果、血管破綻部位に「血小板血栓」が形成されます。
ここまでが、一次止血です。
ついで、血小板を反応の場として多くの凝固因子が集結して、最終的にトロンビンが形成されますと、フィブリノゲンがフィブリンに転換して凝固が完結し「凝固血栓」が形成されます(強固な止血血栓が形成されます)。
これを二次止血と言います。
<リンク>
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:55
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CBT(コアカリ):von Willebrand因子
CBT(コアカリ)血栓止血領域の問題紹介と解説です。
von Willebrand因子の役割はどれか.
a 凝固因子IIIを活性化する.
b 凝固因子VIIを活性化する.
c 血管透過性を亢進する.
d 血小板の粘着を促進する.
e 好中球をホーミングする.
【ポイント】
von Willebrand因子(VWF)には、二つの大きな役割があります。
(1)血小板粘着に必要です。
(2)第VIII因子のキャリア蛋白です(血小板凝集にはフィブリノゲンが必要である)。
【選択肢について】
a 凝固因子IIIは死語に近いです。通常は組織因子(tissue factor:TF、旧称は組織トロンボプラスチン)と言います。TFは、第VII因子とともに、外因系凝固活性化を開始します。
b 凝固因子VIIという表現も一般的ではありません。通常は血液凝固第VII因子と呼称しています。4つのビタミンK依存性凝固因子(VII、IX、X、II)の中で、第VII因子は最も半減期が短いです。
c VWFは血管透過性とは無関係です。
d VWFは血小板が粘着する際に必要です。この際、VWFは血小板のGPIb/IXと結合します。GPIb/IXの先天性の欠損症が、出血性素因であるBernard-Soulier症候群です。
血小板が凝集する際にはフィブリノゲンが必要ですが、この際フィブリノゲンは血小板のGPIIb/IIIaと結合します。GPIIb/IIIaの先天性欠損症が血小板無力症(別名:Glanzmann病)です。
e VWFには好中球ホーミング作用はありません。
【正答】 d
【感想】
凝固因子IIIという死語は、使用していただきたくなかったところです。
日本血栓止血学会で、「凝固因子III」は誰一人として口にしない用語だと思います。
凝固因子VIIという表現も如何なものでしょうか。このような記載法のされた教科書がまだ存在するのでしょうか。普通に、第VII因子という表記をしていただきたかったところです。
試験に臨んだ学生さんが、違和感を感じなかったら良いのですが。。。
ちょっと心配です。
<von Willebrand病>
von Willebrand病(VWD) は、von Willebrand因子(VWF)が先天性に欠損した先天性出血性素因であす。
常染色体優性遺伝するタイプが多いです。
鼻出血などの粘膜出血が多い点が特徴的です(血友病は関節内出血、筋肉内出血が特徴的です)。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:37
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CBT(コアカリ):血液凝固因子カルボキシル化
CBT(コアカリ)血栓止血領域の問題紹介と解説です。
血液凝固因子の炭酸化(カルボキシル化)に関与するのはどれか.
a ビタミンA
b ビタミンD
c ビタミンE
d ビタミンK
e 葉酸
【ポイント】
血液凝固因子のなかには、活性を有するためにはビタミンKを必要とするビタミンK依存性凝固因子が4つ存在します。
ビタミンKは、活性を有していないビタミンK依存性蛋白内のグルタミン酸残基(Glu)を、活性のあるγ-カルボキシグルタミン酸(Gla)へ転換するカルボキシル化反応において、補酵素として作用しています。
そのため、ビタミンK欠乏状態では、このカルボキシル化反応が進まず、ビタミンK依存性蛋白は活性を有することができません。
【選択肢について】
a 関与しません。
b 関与しません。
c 関与しません。
d 血液凝固因子の炭酸化(カルボキシル化)に関与します。
e 関与しません。
【正答】 d
【感想】
血液凝固因子の炭酸化(カルボキシル化)がCBT(コアカリ)で出題されるとはビックリ仰天です。
血液凝固因子のカルボキシル化とはどういう意味か答えられる臨床医は、100人中1人もいないような気がいたします。
管理人はCBTの意義をあまり理解していないのですが、臨床実習を行う上で必要な知識の確認ということでしたら、この設問は学生さんに可哀想な気がいたしました。
<ビタミンK依存性蛋白>
1) 血液凝固因子:第VII、IX、X、II因子(半減期の短い順番です)。
特に、第VII因子が最も半減期が短い点は重要です。
ビタミンK欠乏症のスクリーニングやワルファリン(ビタミンKの拮抗薬)のコントロールには、APTTではなくPTを用いているのは、PTは半減期の短い第VII因子も反映しているためです。
2) 血液凝固阻止因子:プロテインC、プロテインS。
この二つの血液凝固阻止因子がビタミンK依存性であることを知らないと解答できない問題が、2年連続国試で出題されています。
3) 骨代謝関連蛋白:オステオカルシン。骨粗鬆症の薬物の一つに、ビタミンK製剤もあります。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:19
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造血器悪性腫瘍:予防的濃厚血小板輸血(PC)の是非
論文紹介です。
関連記事:APTT、血友病、後天性血友病、第V因子インヒビター、第VIII因子インヒビター
「造血器悪性腫瘍患者に対する予防的血小板輸血未施行の場合について」
著者名:Stanworth SJ, et al.
雑誌名:N Engl J Med 368: 1771-1780, 2013.
<論文の要旨>
造血器悪性腫瘍患者に対する予防的な血小板輸血(PC)の是非については結論が出ていません。
著者らは、英国およびオーストラリアの14施設においては上記を検討するための非盲検非劣性無作為比較試験を行いました。
血小板数1万/μL未満になった際に予防的PC輸注を行う群と行わない群に分類しました。
血小板減少をきたすような化学療法または幹細胞移植治療を受けた16歳以上の患者を対象としました。
主要評価項目は、WHO出血グレード2、3、4度の出血としました。
全部で600例(非予防群301例、予防群299例)(2006〜2011年)が対象となりました。
その結果、PC非予防投与群では151/300例(50%)で出血がみられたのに対し、予防投与群では128/298例(43%)で出血がみられました。
非予防群では予防群と比較して出血している期間がより長く、初回出血までがより短かい結果でした。
自己幹細胞移植を行った患者では、両群間に差はみられませんでした。
以上、予防的なPC投与は有用と考えられました。
ただし、PC予防投与にもかかわらず多数症例で出血がみられました。
<リンク>
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:58
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血友病B:遺伝子組換え第IX因子製剤の持続輸注
論文紹介です。
関連記事:APTT、血友病、後天性血友病、第V因子インヒビター、第VIII因子インヒビター
「遺伝子組換え第IX因子製剤の持続輸注による小児期血友病Bの開頭術周術期管理」
著者名:山本真梨子 他。
雑誌名:臨床血液 54: 300-304, 2013.
<論文の要旨>
遺伝子組換え第IX因子製剤(rFIX)の持続輸注によって開頭術周術期管理を行った重症型血友病Bについて報告されています。
症例は1歳男児、頭蓋内出血で発症し、開頭血腫除去後からrFIX定期補充療法を行いました。
クモ膜襄胞が増大し、rFIXの持続輸注を術後7日間以降まで続けました。
手術の合併症は認めませんでした。
rFIXの薬物動態は半減期25時間、in vivo recovery 0.69 IU/dL/IU/kgでした。
またrFIX溶解後のFIX活性は、室温で72時間まで95%以上を保っていました。
本症例はrFIX持続輸注によって開頭術周術期管理を行いました。
本邦初めての小児例と思われます。
適切な活性値を保つには、個々の薬物動態に基づいて維持投与量を調節することが重要です。
持続輸注の利点として、血中凝固因子活性を一定時間、一定レベルに持続できる点があげられます。
開頭手術を含め、出血の危険性が高い場面では活性値の変動を少なく管理できるため、間欠的投与よりも優れたFIX因子活性が得られると考えられました。
一方で、持続輸注ではボーラス投与と比較して、血栓症の合併するリスクが上昇するという報告がありますが、本邦において血栓症は認められませんでした。
rFIXは、赤血球の凝集を軽減するために、添付の溶解液を注射用水から0.234%NaClに変更した経緯があります。
著者らの実験からは、0.234%NaCl溶解液を用いてもrFIX活性は室温で72時間までは95%以上のFIX活性を保ちえました
<リンク>
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:12
| 出血性疾患
後天性第XIII因子欠損症治療:ステロイド, リツキシマブ他
論文紹介です。
関連記事:APTT、血友病、後天性血友病、第V因子インヒビター、第VIII因子インヒビター
「後天性第XIII因子欠損症の治療戦略」
著者名:Boehlen F, et al.
雑誌名:Thromb Haemost 109: 479-487, 2013.
<論文の要旨>
後天性第XIII因子欠損症の報告は60例未満であり、そのほとんどの症例では明らかな臨床症状がみられています。
後天性第XIII因子インヒビターの治療戦略を示す上で、著者らは65万男性症例を提示しています。
その症例は異常出血の既往はありませんでしたが、高力価の第XIII因子インヒビターの出現に伴い突然に大量出血をきたしました。
経過観察の3年間の今に至るまで基礎疾患はみられていません。
プレドニゾン、リツキシマブ、サイクロフォスファマイド、免疫グロブリン、免疫吸着、免疫寛容の各治療を行いましたがインヒビターは消失しませんでした。
ただし、力価は低下して1年以上にわたり出血はみられなかったため臨床効果はみられました。
なお、本症例は静脈血栓塞栓症も有していました。
著者らの後天性第XIII欠損症におけるインヒビター除去の治療戦略は、以下のように提案されています。
第1選択薬:ステロイド ±(サイクロフォスファマイド or リツキシマブ)
第2選択薬:その他の免疫抑制薬(マイコフェノレート、サイクロスポリンAなど)
第3選択薬:免疫吸着 ± 免疫寛容療法
<リンク>
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:52
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先天性第XIII因子サブユニットB欠損症:同種抗体の出現
論文紹介です。
関連記事:APTT、血友病、後天性血友病、第V因子インヒビター、第VIII因子インヒビター
「先天性第XIII因子サブユニットB欠損症においてBサブユニットに対する同種抗体が出現した症例」
著者名:Wada H, et al.
雑誌名:Thromb Haemost 109: 661-668, 2013.
<論文の要旨>
第XIII因子はフィブリン安全化因子であり、活性を有するAサブユニット(FXIII-A)とキャリアであるBサブユニット(FXIII-B)よりなります。
FXIII-Bは、FXIII-Aが循環血中から早くクリアランスされるのを防いでいます。
先天性FXIII-A欠損症はまれな出血性素因ですが、FXIII-B欠損症はさらにまれです。
著者らは、重症のFXIII-B欠損症の日本人男性を報告しています。
この症例は73才時に、血小板数減少と歯肉出血をきたしており、FXIII活性は10%でした。
筋肉内血腫を突如きたした際には第XIII因子製剤で止血されましたが、第XIII因子活性は10%に留まっていました。
74才の時に、偶然FXIII-Bが完全に欠損していることが判明しました(ELESA, western blottin)。
さらに、dot blotにより、この疾患では初めてFXIII-Bに対する同種抗体が検出されました(FXIII製剤輸注に起因すると考えられました)。
以上、先天性FXIII-B欠損症は重症型であっても本来は出血症状は軽症ですが、FXIII-Bに対する同種抗体が出現すると出血症状は悪化するものと考えられました。
<リンク>
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:42
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先天性第VII因子欠損症とrFVIIaによる予防
論文紹介です。
関連記事:APTT、血友病、後天性血友病、第V因子インヒビター、第VIII因子インヒビター
「先天性第VII因子欠損症における予防」
著者名:Napolitano M, et al.
雑誌名:Haematologica 98: 538-544, 2013.
<論文の要旨>
第VII因子は半減期が大変に短いために、第VII因子欠損症の出血予防対策は難しいと考えられてきました。
Seven Treatment Evaluation Registry (STER)では、第VII因子欠損症における予防レジメの有効性、安全性、適用について評価されました。
第VII因子欠損症の34症例(1〜45才、女性21例)、38臨床経過につき解析されました。
最重症の表現型(中枢神経系、消化管、関節出血)では、最も予防レジメが使用されました。
21症例(24経過)では遺伝子組換え活性型第VII因子(rFVIIa)が使用され、4症例では血漿由来製剤が使用され、10症例ではFFPが使用されました。
予防計画は、frequent courses(週3回;n=23)、infrequet courses(週2回以下、n=15)に分類されました。
frequentとinfrequent couresesでの著効率はそれぞれ18/23(78%)、5/12(41%)でした。
長期予防は、1〜10年以上継続されました。
血栓症発症やインヒビターの出現はみられませんでした。
以上、先天性第VII因子欠損症の一部の患者では重症出血のため予防が必要でした。
rFVIIaを使用する場合は、週3回(毎週計90μg/kg)投与が有効と考えられました。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:36
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von Willebrand病:VWFpp/VWF抗原量比
論文紹介です。
関連記事:APTT、血友病、後天性血友病、第V因子インヒビター、第VIII因子インヒビター
「VWFpp、VWF/VWDpp比、FVIIIによるvon Willebrand病(type 1)の性格」
著者名:Eilenboom J, et al.
雑誌名:Blood 121: 2336-2339, 2013.
<論文の要旨>
von Willebrand因子(VWF)の翻訳後修飾の過程で、VWFプロぺプチド(VWFpp)が分離されます。
VWDpp/VWF抗原量比やFVIII因子活性/VWF抗原量比は、VWFの合成やクリアランスを評価できる可能性があります。
著者らは、Molecular and Clinical Markers for the Diagnosis and Management of Type1 WFD(MCMDM-1 VWD)studyにおいて、VWFpp、VWFpp/VWF抗原量比、FVIII因子活性/VWF抗原量比の意義を検討しました。
その結果、疾患を有さない血縁者や健常人と比較して、VWD(type1)患者では、VWFpp/VWF抗原量比や第VIII因子活性/VWF抗原量比は上昇していました。
ヘテロのミスセンス突然変異の患者では、ヘテロのヌルアレル患者と比較して、VWFpp/VWF抗原量比が高値でした。
一方、第VIII因子活性/VWF抗原量比は、ヘテロのVWFヌルアレル患者で最も高値でした。
以上、これらの比を評価することでVWFの産生低下やクリアランス亢進を判断できますが、しばしば両機序が同時にみられるものと考えられました。
<リンク>
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:27
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遺伝性出血性毛細血管拡張症(オスラー病)と抗血栓薬
論文紹介です。
関連記事:APTT、血友病、後天性血友病、第V因子インヒビター、第VIII因子インヒビター
「遺伝性出血性毛細血管拡張症(オスラー病)と抗血小板&抗凝固療法」
著者名:DevlinHL, et al.
雑誌名: N Engl J Med 368: 876-878, 2013.
<論文の要旨>
遺伝性出血性毛細血管拡張症(hereditary hemorrhagic telangectasia: HHT、オスラー病)は、毛細血管拡張や動静脈奇形が原因となって鼻出血などの出血症状をきたす疾患です。
HHT症例では血栓性疾患の合併も少なくありません。
国際調査の分科会では、抗血栓薬(抗血小板薬や抗凝固薬)がHHTの出血に与える影響についても情報収集されました。
オンラインアンケート調査には、HHTの確定診断のなされた973症例(年齢中央値53.1歳:14-89歳、女性655/973:67.3%)が含まれていました。
973例中700例(71.9%)では抗血栓薬の使用歴がなく、そのうち381例(54.4%)は主治医から抗血栓薬を使用しないよう指導されていたことが理由でした。
HHTが理由で心筋梗塞の治療が行われずに死亡した血縁者がいると回答した者もありました。
一方で、抗血栓薬投与中のHHTが379例あり、153例(40.4%)で鼻出血に変化はないと回答していました。
9/379例(2.4%)は、鼻出血がむしろ改善しました。
少量アスピリン(75mg)、ヘパリンよりも、高用量アスピリン(300mg)やワルファリンの方が鼻出血を悪化させました。
抗凝固薬服用者では抗血小板薬服用者と比較して、鼻出血以外の出血が高頻度にみられました。
しかし、ヘパリン投与社の43/93例(46%)、ワルファリン投与者の21/55例(38%)では、鼻出血は不変または改善しました。
以上、HHT症例に対する抗血栓薬の投与は注意すれば問題ないものと考えられました。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:44
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von Willebrand病:少量デスモプレシン皮下注
論文紹介です。
関連記事:APTT、血友病、後天性血友病、第V因子インヒビター、第VIII因子インヒビター
「1型von Willebrand病の小児に対する少量デスモプレシン皮下注の効果」
著者名:Akin M.
雑誌名:Hematology 18: 115-118, 2013.
<論文の要旨>
著者らは、1型von Willebrand病(VWD)に対する少量デスモプレシン(DDAVP)皮下注の効果につき検討しました。
対象は小児14例(3〜16才)で、1型VWDの診断がなされ出血の既往と家族歴がみられました。
DDAVPの投与量は平均0.15(0.12〜0.18)μg/kgとしました。
VWF:Rco, VWF:Ag, FVIII:Cの前値の平均はそれぞれ、28(20-30)、34(25-42)、40(29-48)U/dlでした。
DDAVP皮下注1時間後に、VWF:Rco, VWF:Ag, FVIII:Cの平均はそれぞれ、109(72-144)、132(88-166)、151(96-198)U/dlでした。
以上、小児の1型VWDに対する少量のDDAVP皮下注投与は少なくとも0.3μg/kgの経静脈投与と同等の効果がありました。
DDAVPは、特に発展途上国においてさらに普及してもよい治療ではないかと考えられました。
<リンク>
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:30
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von Willebrand病:DDAVPテスト投与と注意点
論文紹介です。
関連記事:APTT、血友病、後天性血友病、第V因子インヒビター、第VIII因子インヒビター
「von Willebrand病の診断と治療の基本」
著者名:Castaman G, et al.
雑誌名:Haematologica 98: 667-674, 2013.
<論文の要旨>
von Willebrand病(VWD)は、von Willebrand因子(VWF)が量的、質的に欠損する先天性出血性素因です。
VWFは第VIII因子のキャリア蛋白であるため、その欠損または異常により、第VIII因子活性も種々の程度に低下します。
臨床症状は主として粘膜出血や軟部組織出血です。
重症度は、VWFや第VIII因子の低下度に依存しています。
高度にVWFが低下した例での診断は容易ですが、軽症症例で確定診断を追求することは過剰診療につながる懸念があります。
治療目標は、VWFと第VIII因子両者の是正です。
1型VWD(FVIII、VWF≧10U/dL)に対してはデスモプシン(DDAVP)が有効です(テスト投与で効果を確認しておくのが良いです)。
2型&3型VWDではデスモプレシンは無効のことがあり、VWF/ FVIII製剤(日本ではコンファクトF)が必要となります。
<DDAVPのテスト投与>
・VWF<30 U/dLでは、DDAVPテスト投与が望まれます。1時間後(ピーク)と少なくとも4時間後(クリアランス)に、FVIII、VWF:Ag、VWF:Rcoの測定を行います。
・DDAVP投与後に、>50 U/dLとなれば良い適応です。
<DDAVPの注意点>
・2才未満の小児:低Na血症(→水分摂取を制限します)
・動脈硬化を有する高齢者:動脈血栓症合併に注意します。
・大人ではDDAVP後24時間は水分摂取の制限をします(1L未満)。
<リンク>
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:20
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von Willebrand因子(VWF)と癌の関係
論文紹介です。
関連記事:APTT、血友病、後天性血友病、第V因子インヒビター、第VIII因子インヒビター
「VWFと癌の関係について」
著者名:Franchini M, et al.
雑誌名:Thromb Res 131: 290-292, 2013.
<論文の要旨>
von Willebrand因子(VWF)は人における最も大きな血漿蛋白であり、内皮下基質や血管内皮細胞表面に血小板数が粘着する際に介在します。
また循環血中において第VIII因子のキャリア蛋白としても作用しています。
VWFのこのような止血機序における役割とは別に、VWFは血管新生やアポトーシスを抑制することによって抗腫瘍効果を発揮するという報告もあります。
ただし、VWFが腫瘍の播種を抑制するという実験データがある一方で、VWFの高値は悪性腫瘍患者の予後不良因子という報告もあります。
著者らはこの点を明らかにするためにイタリア血友病センター協会(AICE)による多施設後方視的研究を計画しており、イタリアVWD患者における悪性腫瘍患者のデータを収集中です。
この調査によってVWFと癌との関係に関する有用な情報を提供するでしょう。
驚くべきことに、これまでのVWD患者における癌の報告は3症例しかありませんが、これら疫学調査ではないために上記の検討は有意ではないかと考えられます。
<リンク>
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:11
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von Willebrand病と血管形成異常
論文紹介です。
関連記事:APTT、血友病、後天性血友病、第V因子インヒビター、第VIII因子インヒビター
「von Willebrand病に関連した血管形成異常」
著者名:Franchini M, et al.
雑誌名:Br J Haematol 161: 177-182, 2013.
<論文の要旨>
von Willebrand病(VWD)と血管形成異常との関連は、40年以上にわたり知られています。
血管形成異常と関連した胃腸からの出血は、先天性出血性素因の臨床経過を悪化させて、治療を困難にさせます。
後天性にvon Willebrand因子(VWF)活性が低下する病態(AVWS)においても血管形成異常をきたすことが知れれており、実際、単クローン性高ガンマグロブリン血症(MGUS)、Heyde症候群、補助人工心臓を装着した症例などでの報告がみらます。
この総説ではVWD関連の血管形成異常について、機序、臨床、治療の側面から解説されています。
たとえば、機序面ではVWFは血管新生に影響を与えているという研究、高分子マルチマーが特に関与している(血管形成異常は高分子マルチマーが欠損しているVWD2または3型で多いため)という報告などが紹介されています。
治療面では、先天性VWDでは補充療法(重症例では予防的定期補充療法)が紹介されています。
AVWSでは原因疾患を除去することが重要ですが、MGUSのように原因除去できない場合は予防的定期IVIGが有効です。
サリドマイドやスタチンなどの血管新生を阻止する薬物も可能性はあるもののエビデンスはありません。
この病態には不明な点も多く今後の検討が必要です。
<リンク>
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:57
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1型von Willebrand病:D1472H配列変異
論文紹介です。
関連記事:APTT、血友病、後天性血友病、第V因子インヒビター、第VIII因子インヒビター
「D1472H配列変異を有する1型von Willebrand病患者は出血しない」
著者名:Flood VH, et al.
雑誌名:Blood 121: 3742-3744, 2013.
<論文の要旨>
von Willebrand病(VWD)の診断は、現在の臨床検査とくにリストセチンコファクター活性(VWF:RCo)と関連して複雑です。
著者らは最近、健常人の中にvon Willebrand因子(VWF)A1領域における配列変異(D1472H)を持つ者がいることを報告しました。
この場合には、VWF:RCo/ VWF抗原量比が低下していますが、出血症状を伴いません。
今回はさらに1型VWDの診断に至る症状を有する症例にまで検討範囲を拡大しました。
その結果、D1472H配列変異を有する1型VWD症例では、この変動を有さない症例を比較してVWF:RCo/ VWF抗原量比は有意に低く、健常人での以前の知見と同様でした。
しかし、D1472H配列変異を有するVWD症例であっても、出血スコアが高い訳ではありませんでした。
以上、D1472H配列変異は1型VWDであったとしても出血症状を増強させないものと考えられました。
<リンク>
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:49
| 出血性疾患
糖ペグ化遺伝子組換え第VIII因子製剤(N8-GP)と血友病A
論文紹介です。
関連記事:APTT、血友病、後天性血友病、第V因子インヒビター、第VIII因子インヒビター
「糖ペグ化遺伝子組換え第VIII因子製剤の血友病A患者に対する最初のトライアル」
著者名:Tiede A, et al.
雑誌名:J Thromb Haemost 11: 670-678, 2013.
<論文の要旨>
N8-GPは、半減期を延長させるために開発された糖ペグ化遺伝子組換え第VIII因子製剤です。
著者らは、従来の第VIII因子製剤とN8-GPとで薬理動態を比較しました。
治療歴のある重症血友病A患者26人を対象に、N8-GPおよび第VIII因子製剤を、25, 50, 75U/kgのいずれかの量で投与しました。
その結果、N8-GPはいずれの用量であっても安全であり、副作用も低頻度でした。
FVIIIやN8-GPに対する新たなインヒビターの出現はなく、N8-GPに対する結合抗体も出現しませんでした。
N8-GPの薬理動態は用量と直接的に依存していました。
N8-GP の回収率は、0.025 U/mL/kg、クリアランスは、1.79mL/hr/kgでした。
N8-GP50 U/kg投与した場合に第VIII因子活性が1%以上を維持しているのは、6.5日間(3.6〜7.9日間)でした。
N8-GPの平均半減期は19時間(11.6〜27.3時間)であり、従来の製剤の1.6倍でした。
N8-GPは、75U/kgまで安全に投与できることが確認され、半減期や第VIII因子>1%を維持している日数も延長されました。
このことは、N8-GPにより製剤投与回数を減らせるものと考えられました。
<リンク>
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:38
| 出血性疾患
後天性血友病Aの治療法
論文紹介です。
関連記事:APTT、血友病、後天性血友病、第V因子インヒビター、第VIII因子インヒビター
「後天性血友病Aの治療法」
著者名:Douglas W, et al.
雑誌名:Br J Haematol 161: 157-165, 2013.
<論文の要旨>
後天性血友病A(AHA)は、出血の既往歴や家族歴のない個人に致命的な出血症状をきたす疾患です。
第VIII因子に対する自己抗体が出現するこの病態の基礎疾患として、妊娠、自己免疫性疾患、悪性腫瘍などが知られていますが、明らかな基礎疾患がない場合もあります。
本疾患では急性から反復性の出血により致命的となることがあるため、迅速な診断と治療が求められます。
治療目標は止血管理と第VIII因子インヒビターの除去の二つあります。
無作為臨床試験はないために専門家の意見によって治療が行われているのが現状です。
止血管理とインヒビター除去の第1選択薬は普辺的に受け入れられているが、著者らは第2選択薬についても論じています。
<第一選択薬>
・止血管理:aPCCまたはrFVIIa
・インヒビター除去:ステロイド ± サイクロフォスファマイド
<第二選択薬>
・止血管理:他方のバイパス製剤への変更、2者バイパス製剤の連続or併用投与、免疫吸着療法
・インヒビター除去:リツキシマブ ±(ステロイド、サイクロフォスファマイド、サイクロスポリン、アザチオプリン、サイクロフォスファマイド&ヴィンクリスチン&プレドニゾン)
<リンク>
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:28
| 出血性疾患
血友病:肝疾患の血小板数低下とトロンボポエチン受容体作動薬
論文紹介です。
関連記事:APTT、血友病、後天性血友病、第V因子インヒビター、第VIII因子インヒビター
参考:ITPと抗リン脂質抗体症候群(APS)、ロミプロスチム、
「慢性肝疾患のために血小板減少をきたした血友病に対するトロンボポエチン受容体作動薬の投与」
著者名:Aguilar C.
雑誌名:Blood Coagul Fibrinolysis 24: 231-236, 2013.
<論文の要旨>
トロンボポエチン受容体作動薬(TPO-RA)であるエルトロンボパグやロシプロスチムは当初は不応性ITPに使用されてきましたが、最近はHCV関連の慢性肝疾患(CLD)に起因する血小板数低下にも応用されるようになってきました。
血友病患者の止血管理にもTPO-RAが応用できる可能性があります。
血友病患者に対する観血的処置の前や、抗ウイルス療法(インターフェロンなど)前または治療中に、血小板数を上昇させる目的にもTPO-RAを適用できるかも知れません。
あるいは、進行したCLDのために高度な血小板数低下がみられる症例においても、出血の頻度を減らす目的に有用でしょう。
ただし、CLDに対してTPO-RAを投与すると門脈血栓症など腹腔血管血栓症をきたしたという報告もあります(とくに血小板数が20万以上になったり、他の血栓症リスクを持った患者に観血的処置を行った場合)。
そのため血友病患者は血栓症になりにくいかも知れませんが、血小板数は5〜10万に維持されるよう用量調節すべきでしょう。
以上、TPO-RAはCLDのために血小板数低下をきたした血友病患者に対して治療選択肢の一つになると考えられました。
<リンク>
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:17
| 出血性疾患
APTT標準化の問題:第IX因子に対する感受性
論文紹介です。
関連記事:APTT、血友病、後天性血友病、第V因子インヒビター、第VIII因子インヒビター
「APTTの注意点と標準化」
著者名:山崎 哲 他。
雑誌名:日本検査血液学会雑誌 14: 85-95, 2013.
<論文の要旨>
APTTは、最も一般的に測定されている血液凝固スクリーニング検査の一つです。
しかし、APTTは未だ標準化された検査ではなく、試薬によって各種感受性が異なることが知られてます。
著者らは、APTTの標準化に向けた作業として、各種感受性に関する再評価を行ってきました。
現在までに、健常人検体では大きな差異は認められませんでしたが、未分画ヘパリン、凝固因子(第VIII、第IX因子)およびループスアンチコアグラント(LA)に対する感受性は大きく異なる結果が示され、したがって、自施設で使用する試薬の特性を意識したうえで結果を解釈することが重要であり、さらに、試薬変更などの際には臨床サイドに十分な説明と理解を求める必要があると考えられました。
APTTの標準化に向けては、APTTに求める性能を明確した上で、一定した試薬の方向性や一律に比較可能な評価方法の設定などを、一つ一つ整理しながら進めていく必要があると考えられました。
初回の検討では、FVIIIについてはコージネイトFS(バイエル薬品)をFVIII欠乏血漿(シスメックス)に、FIXについてはノバクトM(アステラス製薬)ををFIX欠乏血漿(シスメックス)に添加して、6.3〜100%の範囲で5濃度の血漿試料を作成し、13試薬2機種でAPTTを測定しました。
その結果、FVIIIでは何れの試薬/機器でも1.2倍以上の延長度となり異常値となりましたが、FIXで1.2倍以上となってたのは、CAで6試薬、STAで2試薬のみでした。
2回目の検討では、比較用パネル血漿として上記と同様に10、30、100%の3濃度作成、各種試薬/機器の組合せで測定しました。
初回の検討と同様にFVIIIは全ての試薬で30%未満では異常値の判定となりましたが、FIXでは平均1.11倍(1.07〜1.15倍)と何れの試薬も1.2倍までの延長を示しませんでした。
以上の2回にわたる検討では、FIXの感受性がいずれも低い結果となり、現状のAPTT試薬の特性としてFVIIIに対する感受性は一定以上あるものの、FIXに対する感受性は低い傾向にあることが示唆されました。
<リンク>
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:12
| 出血性疾患
医師国家試験:血小板数低下、凝集像
医師国家試験対策
24歳の女性
昨年、職場の定期健康診断で血小板数の軽度低下を指摘された。その他の結果に異常はなかった。
今年の健康診断でも同様の指摘があり、精査を勧められて来院した。
生来健康で、これまで紫斑や鼻出血などはなく、月経にも異常を認めない。
身体所見に異常はない。
血液所見:赤血球460万、Hb13.5g/dl、Ht40%、白血球6,700、血小板8万。
末梢血塗抹May-Giemsa染色標本:多数の血小板が凝集した像。
【ポイント】
24歳の若い女性で、健康診断で血小板数の低下を指摘されていますが、
紫斑、
鼻出血、
過多月経などは一切なく、何ら出血症状はみられていません。
【病態】
血小板数は低下していますが、貧血はなく白血球数も正常です。その他の全ての検査が正常と推測されます。
末梢血液像が特徴的であり、血小板の凝集している像が観察されています。
血小板数を含む血球数は自動血球測定機器でカウントされますが、この機器は血小板の大きさで血小板と認識するために、血小板凝集塊は血小板とは認識されません。
この現象を
偽性血小板減少症と言っています。
生体内で血小板凝集が起きている訳ではなく疾患ではありません。
血球計算用の採血管に含まれる
EDTA存在下でみられる現象で、0.03〜0.1%程度の出現率と言われます。
偽性血小板減少症という現象を知らないと(血小板数1万と本症例よりもはるかに著減してカウントされることもあります)、特発性血小板減少性紫斑病性(ITP)と誤診される可能性があります。
もちろん、骨髄穿刺の痛い検査は必要ありませんし、治療も必要ありません。
<血小板数低下をきたす疾患・病態>
1. 血小板破壊の亢進
・
播種性血管内凝固症候群(DIC)
・
特発性血小板減少性紫斑病性(ITP)
・
血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、
溶血性尿毒症症候群(HUS)、
HELLP症候群
・
ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)
・
抗リン脂質抗体症候群(APS)
・ 体外循環 など
2. 骨髄抑制をきたす病態
・ 造血期悪性腫瘍(急性白血病、慢性骨髄性白血病の急性転化、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫の骨髄浸潤など)
・ 血球貪食症候群
・ 固形癌(骨髄浸潤有り)
・ 骨髄抑制を伴う化学療法&放射線療法中
・ 薬物に伴う骨髄抑制
・ 一部のウイルス感染症
・ 造血期悪性腫瘍以外の一部の血液疾患(再生不良性貧血、
発作性夜間血色素尿症、巨赤芽球性貧血など)
3. 肝不全、肝硬変、脾機能亢進
4. 敗血症
5. Bernard-Soulier症候群、May-Hegglin症候群、Wiskott-Aldrich症候群
6. 希釈
・ 大量出血
・ 大量輸血、大量輸液
・ 妊娠性血小板減少症 など
7. 偽性血小板減少症(疾患ではない)
8. その他
【対応】
通常は血球計算用の採血管はEDTA入り試験管ですが、敢えてクエン酸ナトリウム入りの採血管(血液凝固検査で用いられます)やヘパリン入り採血管を使用して血小板数をカウントしますと、この現象は解除されます。
【参考】
血小板数が低下しているにもかかわらず、全く出血症状がない場合には偽性血小板減少症を疑って、末梢血液像を確認したり、クエン酸ナトリウムまたはヘパリン入り試験管を用いて再検します。
<リンク>
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:14
| 医師国家試験・専門医試験対策
医師国家試験:両下肢の左右対称性紫斑
医師国家試験対策
6歳の男児
血尿を指摘され来院した。2週前から腹痛と膝関節痛とがみられ、3日後から下腿に皮疹が出現したため近医で治療を受けていた。昨日顕微鏡的血尿を指摘され紹介された。
血圧98/46mmHg。腹痛と関節痛とは訴えない。下腿に皮疹を認める。
尿所見:蛋白(-)、糖(-)、沈渣に赤血球30〜40/1視野、白血球0〜1/1視野。
血液所見:赤血球430万、白血球9,600、血小板28万。出血時間2分30秒(基準対照3分以下)、プロトロンビン時間<PT>11.0秒(基準対照11.3)、APTT31.6秒(基準対照32.2)。
血清生化学所見:総蛋白7.2g/dl、アルブミン3.7g/dl、尿素窒素13mg/dl、クレアチニン0.6mg/dl、総コレステロール160mg/dl。免疫学的所見:ASO333単位(基準250以下)。抗核抗体陰性。CH5032U/ml(基準25〜35)。
来院時の下腿:両下肢に左右対称性の紫斑
【ポイント】
経時的には、2週間前からの腹痛と膝関節痛(来院時には消失)、10日前位からの下腿の特有の皮疹、そして昨日顕微鏡的血尿を指摘されています。
特に皮疹としてみられている紫斑が特徴的です。
この疾患では下肢〜臀部を中心に、左右対照性の新旧の紫斑が多発します。
若干膨隆して触知可能なことが多いです。性状は、点状から不整形な紫斑と多様ですが、広範囲の紫斑となることはありません。
【病態】
血小板数の低下は無く、出血時間が正常なため血小板機能も正常と考えられます。
PT、
APTTの凝固検査も正常です。
家族歴、既往歴、現病歴にも特別な記載はありませんが、腹痛、関節痛、血尿がポイントになっています。
また、何より紫斑が特徴的です。血管壁に起因する出血症状と考えられます。
本症例は、
Schönlein-Henoch紫斑病 (アレルギー性紫斑病)です。
<出血症状症例での考え方の流れ>
<病態把握の流れ>
家族歴、既往歴、現病歴の聴取 → 先天性?
↓
身体所見 → 特徴的な出血部位?
↓
検査(※)
<検査>
血小板数低下 → 有:血小板数低下の疾患
↓無
血小板機能低下(出血時間、血小板凝集能)→ 有:血小板機能低下の疾患
↓無
凝固異常、線溶亢進(
PT、
APTT、フィブリノゲン、
FDP)→ 有:凝固線溶異常
↓無
血管壁の異常
<Schönlein-Henoch紫斑病 (アレルギー性紫斑病)>
1. 小児に多い血管性出血性素因(成人にもあり)。毛細血管の透過性が亢進。
2. 皮膚出血斑(下肢に左右対称性の紫斑)を中心とした出血症状。
3. しばしば上気道感染が先行。
4. 時に,腹部症状(腸重積、腹痛、下血など)、関節痛、血尿、腎障害(IgA腎症に類似)を伴う。
5. 全身性の血管炎が本態。血管壁にIgAの沈着。
6.
PT、
APTT、
出血時間、血小板数は正常。時に、
第XIII因子が低下。
7. 腎障害がなければ、予後は良好。自然治癒も多い。
【治療】
アレルギー性紫斑病は高度の腎障害がなければ予後は良好で、自然治癒も多いです。
第XIII因子が低下している場合には、第XIII因子濃縮製剤が有効なことがあります。
重症例では、副腎皮質ステロイドが使用されることもあります。
【参考】
腹痛、関節痛、血尿といった随伴症状、
紫斑の性状に注意します。
凝固検査が全て正常である点もポイントです。
<リンク>
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:52
| 医師国家試験・専門医試験対策
医師国家試験:血小板数低下、赤沈遅延
医師国家試験対策
48歳の女性
2か月前から腹痛と腹部膨満感と出現し、背痛を伴ってきたので来院した。
腹部超音波検査で両側の卵巣に腫瘤像を認めた。
赤血球306万、Hb11.0g/dl、白血球4,700、血小板3.2万。
血清生化学所見:AST33単位、ALT19単位、LDH521単位(基準370以下)、プロトロンビン時間18秒(基準10〜14)、血漿フィブリノゲン100mg/dl(基準170〜410)。赤沈3mm/1時間。
胃内視鏡写真&胃エックス線造影写真:スキルス胃癌
【ポイント】
48歳の若い女性であるが、腹痛と腹部膨満感が2ヶ月間継続しています。
背痛もみられるようになってきています。腹痛のみでなく背部痛もあるというのは、膵臓の症状なのでしょうか、あるいは何らかの悪性疾患があって、背部痛をきたすような転移があるのでしょうか。
症状のみでは、診断を絞り込むことができないために、胃カメラ、腹部エコー検査、CT(必要に応じて造影も)などの検査を進めていくことになるでしょう。
悪性疾患が疑われた場合には、PET検査も必要になるかも知れません。
【病態】
腹部エコー検査では両側の卵巣に腫瘤像がみられており、婦人科疾患や他臓器悪性疾患からの転移などが考えられます。
胃カメラおよび胃透視検査からは、胃癌(スキルス胃癌)がありますので、やはり、胃癌から卵巣への転移でしょう。
胃癌や結腸癌から卵巣への転移は
クルーケンベルグ腫瘍としても知られています。
血液検査では、血小板数が3.2万と低下しているのが際立った所見です。フィブリノゲン100mg/dLと低下、
PT18秒と延長しているのも注目されます。
進行した病態と考えられるにもかかわらず、赤沈は3mm/1hrと遅延しています。赤沈が遅延しているのは、フィブリノゲンが低下しているためです。
LDHが上昇していますが、悪性疾患ではしばしばみられる所見です。
以上より、転移性の胃癌に
播種性血管内凝固症候群(DIC)を合併していると考えられます。
DICの三大基礎疾患は、敗血症、急性白血病、固形癌です。
産科合併症の常位胎盤早期剥離、羊水塞栓、小児科でも遭遇するKasabach-Meritt症候群、救急部での外傷、心血管外科での動脈瘤なども基礎疾患として有名です。
DICの確定診断のためには、
FDP、Dダイマーの測定が必須です。
また、凝固活性化マーカーの
TAT、線溶活性化マーカーの
PICも測定することで
DICの病型分類が可能になります。
<赤沈亢進の理由>
1. ヘマトクリットの低下(貧血)
2. γグロブリンの上昇
3. フィブリノゲンの上昇
(備考)
上記は全て炎症反応としてみられる所見です。フィブリノゲンの低下したDICでは、病態は重篤であるにも関わらず赤沈は遅延します。昔は、重症の患者で赤沈遅延の所見をみたら、DICを疑うべきであると教育されたこともあります(現在はこのような診断はせずに直接フィブリノゲンを測定します)。
【治療】
DICの治療としてが、以下があります。上ほど重要です。本症例では、手術不能と考えられるために、抗がん剤治療(化学療法)とともにヘパリン類を投与することになるでしょう。
<DICの治療>
1. 基礎疾患の治療:最重要。
2. 抗凝固療法:以下より選択。
・
ヘパリン類:
アンチトロンビン(AT)活性が低下している場合にはAT濃縮製剤を併用
・
トロンボモジュリン製剤
・
合成プロテアーゼインヒビター
3. 補充療法:必要例のみ。
・
濃厚血小板:血小板の補充
・
新鮮凍結血漿:凝固因子の補充
4.
抗線溶療法:原則禁忌(血栓を増悪させるため)
【参考】
DICの基礎疾患に遭遇したら、血液凝固検査(FDP、Dダイマーなど)を行うことがDIC診断への第一歩です。
患者は重篤ですが、赤沈は遅延し、フィブリノゲンは低下します(敗血症のDICは別です)。
<リンク>
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:19
| 医師国家試験・専門医試験対策
医師国家試験:習慣性流産、深部静脈血栓症(3)
医師国家試験:習慣性流産、深部静脈血栓症(2)より続く。
医師国家試験対策
32歳の女性
一昨日からの下肢の腫脹を主訴に来院した。3回流産歴がある。
左下肢に熱感を伴う有痛性の腫脹を認める。左足を背屈すると腓腹部に疼痛が生じる。
血液所見:赤血球370万、Hb11.0g/dl、白血球3,200、血小板8万、プロトロンビン時間<PT>12秒(基準10〜14)、APTT 62秒(基準対照32.2)。抗核抗体160倍(基準20以下)。
【治療】
現在は
DVTの急性期であり、肺塞栓を併発しないように、
へパリン類(未分画へパリン、低分子へパリンなど)による抗凝固療法を開始します。
急性期を脱することができたあとの慢性期の治療も重要です。
抗血栓療法による治療を継続します。
本症例は、
深部静脈血栓症という静脈血栓症であるため、抗凝固療法を行いたいところですが、
ワルファリンには開催奇形性の副作用の問題があり、若い女性には処方しにくいです。
患者と充分に相談の上、治療法を選択します。
抗血栓療法の分類
1. 抗血小板療法:
・ 血小板の働きを抑制する治療。
・ 血流が速い環境下における動脈血栓症(血小板血栓)に有効。
・ 脳梗塞(心房細動を除く)、心筋梗塞、末梢動脈血栓症などの予防に用いる。
・ 代表薬:アスピリン(内服薬)
2. 抗凝固療法
・ 凝固の働きを抑制する治療。
・ 血流が遅い環境下における静脈血栓症(凝固血栓)に有効。
・ 深部静脈血栓症、肺塞栓などの予防に用いる。
・ 心房細動からの脳塞栓(心原性脳塞栓)の発症予防にも用いる
(※)。
・ 代表薬:ワルファリン(内服薬)、へパリン類(注射薬)
(※)心房細動では塞栓部位は脳動脈であるが、心内に血栓が形成される理由は心内血液滞留のためであり、血流が遅い環境下における凝固血栓の性格を有している。抗凝固療法は有効であるが抗血小板療法は無効である。
【参考】
習慣性流産のキーワードのみでも抗リン脂質抗体症候群(APS)を想起できるようにしたいです。
APSでは、動脈血栓症も静脈血栓症もみられます。
<リンク>
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:39
| 医師国家試験・専門医試験対策
医師国家試験:習慣性流産、深部静脈血栓症(2)
医師国家試験:習慣性流産、深部静脈血栓症(1)より続く。
医師国家試験対策
32歳の女性
一昨日からの下肢の腫脹を主訴に来院した。3回流産歴がある。
左下肢に熱感を伴う有痛性の腫脹を認める。左足を背屈すると腓腹部に疼痛が生じる。
血液所見:赤血球370万、Hb11.0g/dl、白血球3,200、血小板8万、プロトロンビン時間<PT>12秒(基準10〜14)、APTT 62秒(基準対照32.2)。抗核抗体160倍(基準20以下)。
【病態】
血液検査では、血小板数低下とAPTT延長という特徴的な所見がみられています。血小板数低下、APTT延長という本来であれば出血傾向になるべき検査所見であるにも関わらず本症例では静脈と胎盤に血栓がみられている点がミステリアスですが、
抗リン脂質抗体症候群でしばしばみられる検査所見です。本症例では抗核抗体が陽性であるが、陰性のこともあります。
抗リン脂質抗体症候群の確定診断のためには、抗カルジオリピン抗体(特にβ2GPI依存性のもの)とループスアンチコアグラントの検査が必須です。
抗リン脂質抗体症候群とは
<概念>
・ リン脂質またはリン脂質に結合した蛋白に対する自己抗体(抗リン脂質抗体)が出現することにより、血栓症(動脈も静脈もあり)、習慣性流産(不育症)を来す。
・ 狭義の不妊ではなく、妊娠成立は同じ。
・ SLEなどの自己免疫性疾患、悪性腫瘍、薬物服用に伴い発症。また特発性のものも多い。
・ 後天性の血栓症の原因としてもっとも頻度が高い。
<症状>
1. 動脈血栓症:
・ 脳梗塞,一過性脳虚血発作
・ 心筋梗塞(日本人には少い)
・ 網膜中心(分枝)動脈血栓症
・上&下腸管膜動脈血栓症
2. 静脈血栓症
・ 肺塞栓
・
深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)
・ 網膜中心(分枝)静脈血栓症.
・ 上&下腸管膜静脈血栓症
・ 脳静脈洞血栓症
・ Budd-Chiari症候群
3. 不育症、習慣性流産:胎盤に血栓ができるため。妊娠中期以降もあるのが特徴。
4. 網状皮斑:皮膚の循環障害による。
5.てんかん,舞踏病,片頭痛.
<血栓傾向をきたす機序>
不明。単一ではない。多数の学説あり。
<診断>下記の1.&2.の両者を満たすもの
1. 臨床症状の存在
(1)血栓症
(2)習慣性流産(不育症)
2.下記の抗リン脂質抗体のいずれか一方以上が陽性
(1)抗カルジオリピン抗体:β2-glycoprotein I (β2-GPI)依存性のものが重要
(2)ループスアンチコアグラント(Lupus anticoagulant :LA)
<検査>
1. 抗カルジオリピン抗体陽性
2. ループスアンチコアグラント陽性
3. 梅毒反応の生物学的疑陽性(BFP)
4. 血小板数の低下:5-10万/μL程度が多い
5. 活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)の延長
6. 複数の凝固因子の低下
7. 抗核抗体(ANA)などの自己抗体の陽性
<リンク>
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:28
| 医師国家試験・専門医試験対策
医師国家試験:習慣性流産、深部静脈血栓症(1)
医師国家試験:習慣性流産、深部静脈血栓症(2)より続く。
医師国家試験対策
32歳の女性
一昨日からの下肢の腫脹を主訴に来院した。3回流産歴がある。
左下肢に熱感を伴う有痛性の腫脹を認める。左足を背屈すると腓腹部に疼痛が生じる。
血液所見:赤血球370万、Hb11.0g/dl、白血球3,200、血小板8万、プロトロンビン時間<PT>12秒(基準10〜14)、APTT62秒(基準対照32.2)。抗核抗体160倍(基準20以下)。
【ポイント】
一昨日から左下肢の有痛性の腫脹がみられている32歳の女性です。3回の流産歴もある点が注目され、習慣性流産です。
下肢が腫れている場合には、まず両側性なのか片側性なのかを意識する必要があります。
両側性の場合は浮腫の可能性が高いですが、片側性の場合、特に急激に症状がみられた場合には
深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)を疑います。
下肢のDVTは左側に多いことが有名です(右側には無いと言う訳ではありません)。左総腸骨静脈が、右総腸骨動脈によって圧迫されるために健常人でも左下肢静脈の方が血流が悪いためです。
足を背屈すると腓腹部(ひふくぶ;ふくらはぎ)の疼痛がみられることを
Homans徴候と言いますが、下肢静脈エコーが普及することによって無症候性のDVTも多数診断されるようになったために、以前ほど重用視していません。
急性DVTは、肺塞栓を併発すると致命症になる場合があるために、早急な診断治療が必要です。
さらに重要なことはなぜ若い女性が、DVTを発症したかです。
内科領域で習慣性流産と言えば、真っ先に
抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid syndrome:APS)を想起する必要があります。
胎盤に血栓ができるためです。
なお、妊娠する機会は健常人と同じであり不妊症ではありません。妊娠早期の流産もありますが、安定期以降であっても流産・死産があり得ます。
(続く)
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:18
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医師国家試験:APTT延長、筋肉内出血
医師国家試験対策
13歳の男子
左殿部の痛みを主訴に来院した。2日前、運動後に左殿部の痛み自覚し、その後同部に腫れも出現した。同様のエピソードは過去に経験したことがないという。
意識は清明。体温36.2℃。脈拍54/分、整。血圧116/72mmHg。左殿部は硬く腫脹し、圧痛を認める。発赤と皮診とを認めない。
血液所見:赤血球375万、Hb11.2g/dl、Ht35%、白血球6,800、血小板38万、PT11.0秒(基準10〜14)、APTT56.0秒(基準対照32.2)、フィブリノゲン220mg/dl(基準200〜400)、血清FDP12μg/dl(基準10以下)。CRP0.3mg/dl。
【ポイント】
運動後に左臀部の痛みが見られた13歳の男子です。
痛みの部位に腫れを伴っていて、圧痛があります。
特に打撲した訳ではないにもかかわらず、左臀部に痛みを伴う腫脹を生じてきた点が特徴です。
確定診断のためにはCTが必要ですが、筋肉内出血が疑われます。
出血症状の中には、部位が疾患に特徴的なものがあり、診断を絞り込んでいける場合があります。
特徴的な出血部位からのアプローチ
1) 関節内出血:
血友病A&B。
2) 筋肉内出血:血友病A&B、
後天性血友病(
第VIII因子インヒビター)。
3) 粘膜出血(鼻出血など): von Willebrand病。
4) 四肢末梢(特に下肢)の左右対照性紫斑:アレルギー性紫斑病。
5) 臍帯出血:先天性第XIII因子欠損症。
6) 高齢者で前腕伸側、手背の紫斑(赤紫色で境界明瞭):老人性紫斑
7)
タール便(黒色便):胃、十二指腸などからの出血。
【病態】
血液検査では、
APTTの明らかな延長が見られています。血小板数正常、
PT正常であることも押さえておく必要があります。
FDPがごく僅かに上昇しているが、筋肉内血腫のためではないかと推測されます。FDPは血栓や血腫中に存在するフィブリンが分解されると形成されます。本症例では血腫中に形成されたFDPの一部が流血中に入ったと考えられます。
APTT延長、筋肉内血腫、男性とくれば、
血友病です。
確定診断のためには、凝固因子活性の測定が必要です。第VIII因子活性が低下していれば血友病A、第IX因子が低下していれば血友病Bです。
Von Willebrand病でもAPTTの延長がみられますが、粘膜出血(鼻出血など)が特徴的です。
なお本症例ではみられていませんが、血友病では筋肉内血腫以上に有名なのが
関節内出血です。
血友病は伴性劣性遺伝するために、男性のみの疾患です。
後天性血友病(第VIII因子に対する自己抗体が出現する)も完全に否定はできませんが、本疾患は男性では高齢者に発症しやすいです(女性では妊娠、出産を契機に発症することがあります)。
後天性血友病においても筋肉内出血がみられますが、不思議なことに関節内出血はまずみられません。
APTTの延長する疾患
(I)出血性疾患
1. 血友病A:第VIII因子活性低下
2. 血友病B:第IX因子活性低下
3. von Willebrand病:von Willebrand因子(VWF)低下。VWFは第VIII因子のキャリア蛋白でもあり、第VIII因子も低下してAPTTが延長する。
4.
ビタミンK欠乏症:ただし、
PTの延長の方が遥かに目立つ(PTは半減期の短い第VII因子も反映するため)。
5. 先天性X、V、II因子欠損症:PTも延長する。
6. 先天性XI因子欠損症:出血症状がないことも多い。
(II)血栓性疾患
1.
抗リン脂質抗体症候群(APS):
ループスアンチコアグラントが陽性の場合にAPTTが延長しやすい。
2. 先天性XII因子欠損症:不思議なことに出血症状ではなく血栓傾向になる。
【治療】
血友病の出血に対しては、血液凝固因子製剤が有効です。
血友病Aでは第VIII因子製剤、血友病Bでは第VIII因子製剤を用いるために、血友病AなのかBなのかの診断がなされていないと治療できません。
【参考】
筋肉内出血をきたした男子です。
APTTの延長が見られている点が注目されます。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:48
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医師国家試験:意識障害、破砕赤血球
医師国家試験対策
45歳男性
意識障害のため搬入された。
5日前から38℃台の発熱が続いていた。昨日から傾眠状態となり、次第に増悪してきたため家族が救急車を要請した。下痢と血便とはなかったという。
意識レベルはJCSII-30。身長158cm、体温39.0℃、脈拍88/分、整。血圧110/70mmHg。呼吸数28/分。皮膚に出血斑を認める。
尿所見:蛋白2+、潜血2+。
血液所見:赤血球138万、Hb4.1g/dl、Ht16%、白血球8,000、網赤血球5%、血小板1.2万、PT97%(基準80〜120)、APTT32秒(基準対照32)。
血液生化学所見:総蛋白6.9g/dl、アルブミン3.3g/dl、尿素窒素24mg/dl、クレアチニン0.9mg/dl。心電図と胸部エックス線写真とに異常を認めない。
末梢血塗抹May-Giemsa染色標本:赤血球破砕像あり。
【ポイント】
意識障害、発熱のために緊急搬送されてきた45歳の男性です。
昨日から傾眠傾向であり、増悪しています。
ここまでだと脳炎などの感染症も鑑別に上がってくるでしょう。
下痢と血便がないことが確認されているので、消化器感染症は否定的です。
皮膚に出血斑があるため、何らかの出血性病態もあります。血圧は保たれているので、ショック状態にはなっていません。
【病態】
血液検査では著明な貧血(Hb 4.1g/dL)と血小板数低下(1.2万/μL)が際立った所見です。
網赤血球が5%と著増しており、
溶血性貧血が疑われます。おそらく、溶血を反映してLDH上昇、ハプトグロビン低下(溶血の敏感なマーカー)、間接ビリルビン上昇といった所見も予想されます。ただし、クームス試験は陰性です。
凝固検査としての
PT、
APTTは正常のため、出血性病態の原因は凝固異常ではなく、血小板数低下のみで良いでしょう。
本症例で最も意義深い所見は末梢血液像であり、
破砕赤血球がみられます。
破砕赤血球がみられ、神経・精神症状(脳の症状)が見られているために、TTPと診断されます。
破砕赤血球がみられる疾患
(1)
血栓性微小血管障害症(thrombotic microangiopathy:TMA):溶血性貧血、血小板数低下、臓器障害(微小循環障害による)をきたす。
1. 血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombovytopenic purpura:TTP):脳の症状。
2. 溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome:HUS):腎臓の症状。
3. HELLP症候群:hemolysis, elevated liver enzyme, low platelet。妊娠合併症、肝の症状。
4. 移植後TMA など。
(2)播種性血管内凝固症候群(DIC)の一部:一般的ではない。
(3)心血管障害:人工弁置換後・心臓弁膜症の一部
(4)全身転移を伴った癌の一部
【治療】
TTPでは、血漿交換が有効です。
TTPでは、
ADAMTS13(VWF cleaving protease: VWF-CP、VWF切断酵素)に対する自己抗体が出現して、ADAMTS13活性が低下します。
そのため、血小板凝集能の高い超高分子量VWFマルチマーが切断されずに残存し、血小板凝集が進行します。
血漿交換を行うことで、この自己抗体と超高分子量VWFマルチマーを除去して、ADAMTS13を提供することができます。まさに、一石三鳥の治療です。
ただし血漿交換のみでは再燃することがあり、しばしば副腎皮質ステロイドによる免疫抑制療法が併用されます。
なおADAMTS13に対する自己抗体の出現やADAMTS13活性の低下は、TTPに特徴的な所見であり、他のTMAではみられません。
そのため、他のTMAでは血漿交換治療の効果は限定的です。
濃厚血小板PCは、血小板血栓の多発を誘発し病状が悪化するために禁忌です。
【参考】
意識障害・精神神経症状、破砕赤血球がポイントになっています。
精神神経症状はしばしば動揺する(悪化したり改善したりする)点も特徴です。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:22
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医師国家試験:紫斑、点状出血、血小板低下
医師国家試験対策
3歳の男児。
紫斑を主訴に来院した。
2週間に38.7℃の発熱が2日間続き、近医で咽頭炎と診断された。昨日から全身に赤〜紫色の点状の皮診が出現している。診察前に鼻出血があり、止血に20分を要した。
体温36.9℃。脈拍88/分、整。全身の皮膚に紫斑を認める。口腔内に粘膜出血を認める。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦で、肝•脾を触知しない。
血液所見:赤血球340万、Hb10.5g/dl、白血球6,700、血小板0.6万。
血清生化学所見:AST31IU/l、ALT28IU/l、LDH284IU/l(基準176〜353)。CRP0.1mg/dl。
骨髄塗抹染色標本:巨核球の増加。
【ポイント】
紫斑を主訴に来院した3歳の男児です。先行する上気道感染症がみられています。
紫斑の患者で上気道感染症がみられる場合は、急性ITP(成人に多い慢性ITPは含まれない)、アレルギー性紫斑病などを思い浮かべながら、病歴を聴取します。
全身に赤〜紫色の点状の皮疹が出現していますが、点状出血でしょうか。
紫斑の性状によってもある程度疾患の絞り込みが可能です。
鼻出血の止血に20分も要しており、加えて口腔内出血があり、高度な出血症状がみられています。
外来では血液検査の結果が未着であっても、入院も想定した対処が必要です。
紫斑の種類と病態
・
点状出血(petechiae、径1〜5mm):血小板や血管が原因。
・
斑状出血(ecchymosis、径数cm以内):凝固異常が原因。
・
びまん性出血(suggillation、面積の比較的大きな皮下出血):凝固異常が原因。
【病態】
血液検査では、血小板数の著しい低下が最も際立った所見です。
軽度の貧血も見られていますが、それ以外には特に大きな所見はみられていません。
LDHは全く正常であることも注目しておきたいです。
血小板数が著減する疾患の中には、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、溶血性尿毒症症候群(HUS)、急性白血病などもありますが、これらの疾患ではLDHが上昇します。
骨髄像では、巨核球が増加しています。
特発性血小板減少性紫斑病性(idiopathic thrombocytopenic purpura:ITP)と診断されます。
近年は、
免疫性血小板減少症(immune thrombocytopenia:ITP)とも言うようもなりました。
血小板に対する自己抗体が出現して、脾臓で血小板が破壊されます。
典型例では、骨髄像での血小板産生が代償性に亢進しているために幼若な血小板が流血中に多くなり、
幼若血小板比率(immature platelet fraction:IPF)が高くなります。
幼若な血小板は大きいために、ITPではしばしば巨大血小板が出現します。
小児ITPでは急性型が約8割を占め、ウイルス感染が先行する場合が多いです。
慢性型は成人ITPに多く、原因は特定できないことが多いです。
出血性疾患の病態別にみた分類を示します。
出血性疾患の病態別にみた分類
1)
血小板数の低下:ITP、TTP、HUS、HELLP、再生不良性貧血、急性白血病、
播種性血管内凝固症候群(DIC)(3、4の要素も)など。
2)
血小板機能の低下:血小板無力症、von Willebrand病(3の要素/
APTT延長も)、NSAID(アスピリンなど)内服など。
3)
凝固異常:
血友病A& B、
後天性血友病、
ビタミンK欠乏症など。
4)
線溶過剰亢進:線溶亢進型DIC(1、3の要素も)など。
5)
血管壁の異常:アレルギー性紫斑病、単純性紫斑、
老人性紫斑など。
【治療】
急性ITPでは、副腎皮質ステロイドが第一選択薬です。多くの場合には効果が期待できます。
慢性ITPでは、
ピロリ菌が陽性であれば、除菌療法をまず行います。半数以上で血小板数の回復がみられます。
ピロリ菌陰性または除菌療法の効果がみられなかった場合には、副腎皮質ステロイドを投与します(ただし、血小板数1〜3万程度に低下していても出血症状が軽度であれば経過観察することも少なくないです)。
ステロイドが効かない場合には脾摘を行います(寛解率は約60%)。
平成23年度よりITPに対して
トロンボポエチン受容体作動薬が保険適用となりました。
脾摘が無効の時やステロイド抵抗性で脾摘が困難である場合には同薬が考慮されます。
【参考】
血小板数低下以外に大きな所見がなく骨髄巨核球が増加していれば、特発性血小板減少性紫斑病性(ITP)を考えます。
小児に多い急性ITPでは、しばしば先行するウイルス感染症がみられます。
<リンク>
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:53
| 医師国家試験・専門医試験対策
新鮮凍結血漿製剤(FFP)インデックス
新鮮凍結血漿製剤(FFP)(7)注意点より続く。
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:56
| 輸血学