金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2010年7月31日

出血症状が軽度である重症血友病の特徴

今回紹介させていただく論文は、出血症状が軽度である重症血友病の特徴について報告しています。

 

「出血症状が軽度である重症血友病の特徴

著者名:Santagostino E, et al.
雑誌名:J Thromb Haemost 8: 737-743, 2010.


<論文の要旨>


重症血友病(FVIIIまたはFIX<1 IU/dl)
であっても、出血症状の重症度は種々であることが知られています。FVIII/IXの遺伝子型が、残存凝固因子活性を決定する主因と考えられていますが、同じ遺伝子型であっても出血症状の程度に差がみられます。

著者らは、出血症状がごく軽度な重症血友病(n=22;I群)と、出血症状が高度な重症血友病(n=50;II群)を対象に、遺伝子型と内因性トロンビン形成能(ETP)を検討しました。

その結果、I群においてはII群と比較して、血友病Bである比率が高く、重症のFVIII/IXの遺伝子変異(null mutations)が低率であり、FVIII/IXの抗原量が高く、多血小板血漿(PRP)を用いたETPが高いという結果でした。

多変量解析を行ったところ、null mutationsでないことのみが、軽症の出血症状であることの独立した予知因子でした。

以上、null mutationsでないことは出血症状を規定する因子と考えられました。

また、PRPを用いたETP測定によって出血症状の重症度を判別できるものと考えられました。


【リンク】

血液凝固検査入門(図解シリーズ)

播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:06 | 出血性疾患

2010年7月30日

小児特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の特徴

今回紹介させていただく論文は、日本人小児の特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の特徴を多施設

で検討した報告です。

 

「日本人小児における慢性ITPの特徴

著者名:Kubota M, et al.
雑誌名:Int J Hematol 91 : 252-257, 2010.


<論文の要旨>


著者らは、急性ITPと慢性ITPの初診時における差異、および慢性ITP予後規定因子について検討しました。

対象は、京大小児血液研究グループに属する12病院において1991年4月〜2006年3月の間に新たに診断された小児ITP247例です(急性ITP 180例、慢性ITP 67例)。


その結果、慢性化の危険因子は、以下の要素でした。

1)年齢が高いこと 

2)初診時の血小板数高値

3)疾患の既往歴があること

4)合併症があること

5)先行する感染症またはワクチン接種がないこと

6)イムノグロブリン上昇がないこと


摘脾がなされた症例や経過観察のできなかった症例を除いた、慢性ITPの50%の症例が回復するのに要する期間は5.6年でした。

 

慢性ITPの予後良好因子は、以下でした。

1)初診時の年齢が3才未満であること

2)慢性ITPの診断時における血小板数が高値であることがであった。

 

慢性ITPの予後と無関係な因子は、以下でした。

1)性別

2)初診時の血小板数

3)感染症またはワクチンの接種



【リンク】

血液凝固検査入門(図解シリーズ)

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2010年7月29日

第11回 日本検査血液学会学術集会:(会長)川合陽子先生

 

 

フジテレビ

ゆりかもめ

国際会議場

 

平成22年7月24日から、2日間にわたって、日本検査血液学会が行われました。

会場:東京ビッグサイト
期間:平成22年7月24日(土)〜25日(日)

大会長:
国際医療福祉大学 臨床医学研究センター
医療法人財団順和会山王病院 川合陽子先生

管理人もこの学会はほぼ毎年出席していますが、年々参加者が増えているように思います。とても活気にあふれています。
日本における医学関係学会のなかで、最も成長株の学会の一つではないかと思います。

また、医師のみならず、検査技師の方や企業の方の出席も大変多いため、堅苦しくなく明るい感じなのもこの学会の良いところではないかと思います。

管理人が聴講していた会場も、多くの出席者で、相当な数の立ち見が出ていました。
会場の入り口も人垣ができていて、出入りするのもままならないといった感じでした。

血液内科医や検査技師の方で、もしまだ入会されていない方がおられましたら、是非入会されることをお勧めしたいと思います。プログラムもとても充実して大変勉強になります。

上図(上)は、新橋からゆりかごめ(中)にのって、学会場(東京ビッグサイト:国際会議場)に行くまでに、画像におさめました。何を画像におさめたかにつきましては、解説不要ではないかと思います。

そして、会場の東京ビッグサイト(国際会議場)(下)です。


【リンク】

血液凝固検査入門(図解シリーズ)

播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:18 | 血液内科 | コメント(0)

2010年7月28日

小児の抗リン脂質抗体症候群(インデックスページ)

小児抗リン脂質抗体症候群の治療:小児APS(11)より続く。

リンク:抗リン脂質抗体症候群

 

 
【小児の抗リン脂質抗体症候群】(インデックスページ)

1)抗リン脂質抗体症候群とは

2)aCL、抗β2GPI抗体、ループスアンチコアグラント

3)抗リン脂質抗体症候群の血栓症発症機序

4)小児における抗リン脂質抗体症候群

5)新生児の抗リン脂質抗体症候群

6)小児の抗リン脂質抗体症候群

7)小児抗リン脂質抗体症候群の血栓症

8)小児抗リン脂質抗体症候群の「非」血栓症状

9)小児の劇症型抗リン脂質抗体症候群

10)小児の感染症惹起抗リン脂質抗体症候群

11)小児抗リン脂質抗体症候群の治療


リンク抗リン脂質抗体症候群


【リンク】

血液凝固検査入門(図解シリーズ)

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2010年7月27日

小児抗リン脂質抗体症候群の治療:小児APS(11)

小児の感染症惹起抗リン脂質抗体症候群:小児APS(10)より続く。

 
 
【小児抗リン脂質抗体症候群の治療】

現在、小児抗リン脂質抗体症候群(APS)の最適な治療法に関する臨床研究はありません(参考:抗血栓療法)。

小児APSは、成人(3-11%)に比べて血栓症の再発率が高く(19-29%)、無治療や抗凝固療法中止後に再発しやすいことが知られています。

Ped-APS試験では、静脈血栓症患者では全員が長期間抗凝固療法を受けていましたが、動脈血栓症患者では40%しか抗凝固療法あるいは抗血小板療法を受けていませんでした。

Avcin T, et al.: Pediatric antiphospholipid syndrome: Clinical and immunologic features of 121petients in an international registry. Pediatrics 122: e1100-e1107, 2008.

 

再発率が高いことより、再発予防が最も重要であり、長期の抗凝固療法が必要です。

したがって、成人抗リン脂質抗体症候群(APS)と同様に、初回静脈血栓症患者に対してはINR2.0〜3.0を目標とした中用量のワルファリン内服で、再発を繰り返すような患者に対してはINR3.0以上を目標にワルファリンコントロールすることが妥当と考えられます。

一方、動脈血栓症の患者に対しては推奨される治療法は現在のところありませんが、2006年AHA/ASAのガイドラインに準じて、ワルファリンよりもむしろ抗血小板剤の投与が望ましいと考えられます。

Sacco RL, et al.: Guidelines for prevention of stroke in patients with ischemic stroke or transient ischemic attack: a statement for healthcare professionals from the American Heart Association/American Stroke Association Council on Stroke: co-sponsored by the Council on Cardiovascular Radiology and Intervention: the American Academy of Neurology affirms the value of this guideline. Stroke 37: 577-617, 2006.

 

将来的には、小児APSに適した診断基準ならびに治療法が提唱されることが望ましいと思われます。

 

(続く)

小児の抗リン脂質抗体症候群(インデックスページ)



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血液凝固検査入門(図解シリーズ)

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:02 | 血栓性疾患

2010年7月26日

小児の感染症惹起抗リン脂質抗体症候群:小児APS(10)

小児の劇症型抗リン脂質抗体症候群:小児APS(9)より続く。

 
 
【小児の感染症惹起抗リン脂質抗体症候群】


小児では成人と比較して、ウイルスや細菌感染後に一過性に抗リン脂質抗体(aPL)が出現しやすいことが知られています(参考:血液凝固検査入門)。

通常は抗リン脂質抗体症候群(APS)の臨床症状とは関連せず無症状のため、見過ごされることが多いのが現状です。

APS発症の危険性は少ないのですが、まれに血栓症や出血を合併することがあります。

APSを発症しやすい感染症としては、以下が知られています。

・パルボウイルスB19
・サイトメガロウイルス
・水痘ウイルス
・HIV
・ブドウ球菌や連鎖球菌感染
・グラム陰性菌
・マイコプラズマ など。

なお、ループスアンチコアグラント(LA)陽性で低プロトロンビン血症を認め、しばしば出血をきたす病態を、LA-hypoprotrhombinemia syndromeと呼んでいます。

Bajaj SP, et al.: Acquired hypoprothrombinemia due to non-neutralizing antibodies to prothrombin: mechanism and management. Blood 65: 1538-1543, 1985.


(続く)

小児抗リン脂質抗体症候群の治療:小児APS(11)



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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:43 | 血栓性疾患

2010年7月25日

小児の劇症型抗リン脂質抗体症候群:小児APS(9)

小児抗リン脂質抗体症候群の「非」血栓症状:小児APS(8)より続く。

 
 
【小児の劇症型抗リン脂質抗体症候群】

劇症型抗リン脂質抗体症候群(Catastrophic antiphospholipid syndrome:CAPS)はまれな病態ですが、急激に血栓が多発し多臓器不全に陥る致死率の高いAPSの特殊型です(参考:血液凝固検査入門)。

CAPSの発症頻度は、成人APSでは1%以下と推測されています。

小児APSでも報告されていますが、ほとんどが先行感染と関連します。


大血管が閉塞しているにもかかわらず、臨床的には腎、肝臓、中枢神経、肺、心臓、皮膚の細小血管循環障害の所見を示します。

 

最近では、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)播種性血管内凝固症候群(DIC)などに類似した病態を示すことより、細小血管障害性APS (microangiopathic antiphospholipid-associated syndrome: MAPS)と呼ぶことが提唱されています。

Asherson RA, et al.: Microangiopathic antiphospholipid-associated syndromes revisited – new concepts relating to antiphospholipid antibodies and syndromes. J Rheumatol 34: 1793-1794, 2007.


(続く)

小児の感染症惹起抗リン脂質抗体症候群:小児APS(10)



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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:00 | 血栓性疾患

2010年7月24日

小児抗リン脂質抗体症候群の「非」血栓症状:小児APS(8)


小児抗リン脂質抗体症候群の血栓症状:小児APS(7)より続く。

 
【小児APSの非血栓症状

小児抗リン脂質抗体症候群(APS)(参考:血液凝固検査入門)の特徴的な臨床所見は、抗リン脂質抗体(aPL)と関連する「非」血栓性の症候である以下の頻度が、成人APSより高い点です。

・Evans症候群
・網状皮斑 
・Raynaud症状 
・血小板減少症 
・溶血性貧血 
・偏頭痛 
・舞踏病 など

Ped-APS試験では、血液異常が39%、皮膚疾患が25%、非血栓性神経疾患が16%の患者に合併しており、特に二次性APSでは血液異常などの非血栓性疾患が高頻度に認められました。

Avcin T, et al.: Pediatric antiphospholipid syndrome: Clinical and immunologic features of 121petients in an international registry. Pediatrics 122: e1100-e1107, 2008.


(続く)

小児の劇症型抗リン脂質抗体症候群:小児APS(9)



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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:38 | 血栓性疾患

2010年7月23日

小児抗リン脂質抗体症候群の血栓症状:小児APS(7)


小児の抗リン脂質抗体症候群:小児APS(6)より続く。

図2


 
【小児APSの血栓症状

小児抗リン脂質抗体症候群(APS)患者に発症する血栓症は多様です。動脈・静脈のいずれにも発症し、大血管から毛細血管レベルまですべての血管に、そして様々な臓器に発症します(参考:血液凝固検査入門)。

欧米における小児APS 121例の集計(Ped-APS試験)では、静脈血栓症が60%を占め、動脈血栓症が32%でした(上図)。

Avcin T, et al.: Pediatric antiphospholipid syndrome: Clinical and immunologic features of 121petients in an international registry. Pediatrics 122: e1100-e1107, 2008.


静脈血栓症の中では、下肢深部静脈血栓(DVT)の頻度が最も高く、次に脳静脈洞血栓症が多いという結果でした(上図)。

 

一方、動脈血栓症では、脳虚血発作が約8割と圧倒的に多く、虚血性心疾患はわずかに1%でした。

 

脳静脈洞血栓症と脳虚血発作を含む脳血管障害は、小児APS患者の32%を占めており、成人APS(16-21%)と比較すると高率でした。

また、原発性APSでは動脈血栓症、特に脳虚血発作の頻度が高く、自己免疫性疾患に合併するAPSでは静脈血栓症の頻度が高いという結果でした。

Ped-APS試験でのaPLの検出率は、aCL 81%、抗β2GPI抗体67%、LA 72%であり、成人に比べてLA陽性率が高率でした。

診断に際しては、これら3種類の抗体全てをルーチンに検査することが重要です。また、先天性血栓性素因を1つ以上有している患者が、45%認められました。


(続く)

小児抗リン脂質抗体症候群の「非」血栓症状:小児APS(8)



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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:07 | 血栓性疾患

2010年7月22日

小児の抗リン脂質抗体症候群:小児APS(6)

新生児の抗リン脂質抗体症候群:小児APS(5)より続く。



 【小児APSの特徴】

小児抗リン脂質抗体症候群(APS)の診断は、一般的にはSapporo Criteria-Sydney改変の分類基準に基づき、動・静脈血栓症を認め、同時に少なくとも1つの抗リン脂質抗体(aPL)が検出された場合に確定します(参考:血液凝固検査入門)。

成人APSの発症は女性に多いですが(男女比1:5)、小児APSでは1:1.2とわずかに女児に多い程度です。

Avcin T, et al.: Pediatric antiphospholipid syndrome: Clinical and immunologic features of 121petients in an international registry. Pediatrics 122: e1100-e1107, 2008.

これは、成人APSでは血栓症患者の他に、不育症の女性が含まれることが一つの要因と考えられています。


また、成人APSでは単独で発症する原発性APSの割合が全体の53〜57%と若干多いですが、小児APSでは原発性APSと自己免疫疾患に合併した二次性APSがそれぞれ半数ずつを占めています。


二次性APSの約8割が全身性エリテマトーデス(SLE)に合併しており、その半数がSLE診断以前あるいは診断時に血栓症を発症しています。

発症時の平均年齢は10.7歳(年齢範囲:1.0-17.9歳)です。原発性APS(8.7歳)の方が二次性APS(12.7歳)に比べて若いです。

 

(続く)小児抗リン脂質抗体症候群の血栓症状:小児APS(7)



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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:06 | 血栓性疾患

2010年7月21日

新生児の抗リン脂質抗体症候群:小児APS(5)

小児における抗リン脂質抗体症候群:小児APS(4)より続く。

 

 【新生児APS】

 新生児期は、血液凝固・線溶システム(参考:血液凝固検査入門)が未熟で、凝固阻止因子(プロテインC、プロテインS、アンチトロンビン)濃度の低下や線溶能の低下を認め、さらには血管内カテーテル留置などの頻度が高く、血栓症をおこしやすい時期です。

新生児抗リン脂質抗体症候群(APS)はきわめてまれな後天性新生児血栓症で、重篤になりやすく死に至る場合もあります。胎盤経由の母親由来抗リン脂質抗体(aPL)が原因であるとの証拠が増えつつありますが、反論もあり結論は得られていません。

 

<症状>

過去20年間の文献をメタ解析したBoffaらの報告によりますと、aPL陽性新生児16例のうち、8割が動脈血栓症を発症し、半数が脳虚血発作を認めました。

Boffa MC, et al.: Infant perinatal thrombosis and antiphospholipid antibodies: a review. Lupus 16: 634, 2007.

ほとんどの症例が血栓症の危険因子として、aPL陽性に加えて血管内カテーテル留置、敗血症、仮死分娩、先天性血栓性素因などを有しており、3/4の新生児血清中に母親と同じaPLが検出されました。

したがって、aPL陽性妊婦から産まれた新生児に対しては、1週間以内に血清中aPLの検査と他の血栓症の危険因子について検索し、血栓症の発症に備えるべきと考えられます。

また、APSの母親から産まれた小児は、学習障害をきたす確率が健常児に比べて有意に高いという報告もあります(26.7% vs 4%)。

Nacinovich r, et al.: Neuropsychological development of children born to patients with antiphospholipid syndrome. Arthritis Rheum 59: 345, 2008.

 

in vitroの実験では、aPLが脳組織や脳血管内皮細胞に直接結合することが明らかになっており、動物実験においても長期間aPLに暴露されたマウスは行動異常を示します。

このような実験結果は、胎盤経由で移行したaPLが、胎児の脳神経発達に障害を与える可能性を示唆しています。

したがって、aPL陽性の母親から産まれた小児に対しては、神経精神発達の評価を定期的に長期間経過観察することが推奨されています。

 

(続く)

小児の抗リン脂質抗体症候群:小児APS(6)



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2010年7月20日

小児における抗リン脂質抗体症候群:小児APS(4)

抗リン脂質抗体症候群の血栓症発症機序:小児APS(3)より続く。

 

【小児におけるAPS

Avcin T.: Antiphospholipid syndrome in children. Curr Opin Rheumatol 20; 595-600, 2008.


一般的に抗リン脂質抗体症候群(APS)は妊娠可能な若年女性に多く、50歳以降はわずかに12%程度、小児ではさらにまれです。

小児におけるAPSは、1979年にOliveらが循環抗凝血素を有し血栓症を発症したSLE合併9歳男児について報告したのが最初です。

小児のAPSは確立された診断基準も無く、成人のガイドラインや臨床基準を応用しているため、正確な発症頻度を算定することは困難です。また、成人APSに比べて多施設共同臨床研究も少なく、実態についてはあまり知られていません。

小児におけるAPSには、新生児期に発症する新生児APSと、幼小児期や青年期に発症する小児APSとがあります。

成人APSとは、以下のようないくつかの点で異なっていることを考慮する必要があります。


<小児におけるAPSの特徴>

1)血栓傾向をきたす危険因子(動脈硬化、喫煙、経口避妊薬)がない。

2)感染症惹起抗リン脂質抗体(aPL)の出現頻度が高い。

3)aPL抗体価のカットオフ値の違い。

4)長期間の治療に影響する小児特異的なファクタ—の存在、など。

 

(続く)

新生児の抗リン脂質抗体症候群:小児APS(5)


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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 02:07 | 血栓性疾患

2010年7月19日

抗リン脂質抗体症候群の血栓症発症機序:小児APS(3)


aCL、抗β2GPI抗体、ループスアンチコアグラント:小児APS(2)より続く。

図1

 

【血栓症の発症機序】

抗リン脂質抗体症候群(APS)(抗カルジオリピン抗体<aCL>、、ループスアンチコアグラント<LA>)における血栓形成機序はまだ明らかになっていませんが、いくつかの仮説が提唱されています。

一つの仮説は、aPLの標的抗原、特にβ2GPIの抗凝固作用が抗体の結合により阻害され血栓傾向をきたす、というものです。しかし、in vivoにおけるβ2GPIの抗凝固作用は重要ではなく、また先天性β2GPI欠損症(ホモ接合体)患者では血栓傾向がみられなかったことより、β2GPI機能障害のみでAPSの血栓傾向を説明するのは困難です。

 

近年提唱されているaPLの血栓原性機序は、以下のような考え方があります。

1)aPLが、β2GPIやプロトロンビンなどのリン脂質結合蛋白を介して血管内皮細胞、単球を活性化または障害する。

2)aPLが生体内凝固制御機構(活性化プロテインC系、アンチトロンビン系、アネキシンA5抗凝固系)を阻害する。

3)aPLが血小板に結合し活性化する。

4)aPLが補体を活性化する、などです。

 

特に最近の動向は、aPLによる細胞の活性化に関する研究が盛んです。

Matsuura E, et al.: Pathophysiology of β2-glycoprotien I in antiphospholipid syndrome. Lupus 19: 379-384, 2010.

in vitroにおいて抗β2GPI抗体がβ2GPIの存在下で血管内皮細胞を活性化して組織因子(TF)、接着因子(ICAM-1, VCAM -1,E-セレクチン) 、炎症性サイトカインの発現を誘導します。

このaPLによる細胞活性化には、NFκB、Ras-Erk、p38 MAPKなどのシグナル伝達経路の関与が明らかにされています(上図)。

Kinev AV, et al.: Tissue factor in the antiphospholipid syndrome. Lupus 17: 952-958, 2008.

また、血栓症のみならず不育症の原因として補体活性化が注目されており、aPLによる補体活性化が、C5aを介した好中球のTF発現を誘導します。

Ritis K, et al.: A novel C5a receptor-tissue factor cross-talk in neutrophilis links innate immunity to coagulation pathways. J Immunol 177: 4794-4802, 2006.

 

(続く)

小児における抗リン脂質抗体症候群:小児APS(4)



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血液凝固検査入門(図解シリーズ)

播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)

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2010年7月18日

金沢大学第三内科 夏恒例の懇親会



ビールパーティー

 
7/15(木)に、第三内科恒例の夏のビールパーティーが行われました。場所は、金城楼 です。

 
管理人が若かりし頃は、金城楼でビールパーティーはできなかったのではないかと思いますが、今回のようなイベントが金城楼でできるとは嬉しいかぎりです。

 
金沢大学第三内科在籍のスタッフのみならず、当科がお世話になっている部署のスタッフの方々、当科にご縁のあった研修医や医学生の皆さんの出席もあり、とても盛りあがった会になりました。

 


【リンク】

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2010年7月17日

北陸血栓止血検査懇話会のご案内(ループスアンチコアグラント)


第6回北陸血栓止血検査懇話会開催のご案内

北陸血栓止血検査懇話会
代表幹事 岡田 敏春(福井大学医学部附属病院)

【日時】 平成22年 8月21日(土) 16時15分〜18時00分
【場所】 金沢都ホテル 5階  能登の間

【研究会内容】
16時15分〜16時45分

<学術情報提供1> 
「コアグピアPT-N」「コアグピアAPTT-N」の新製品紹介

<学術情報提供2>
高速凝固タイプ「インセパックUSQ3シリーズ」の紹介
積水メディカル株式会社 検査事業部門 
カスタマーサポートセンター学術グループ  金田 幸枝

17時00分〜18時00分

座長 金沢大学附属病院 高密度無菌治療部 准教授  朝倉 英策 

<特別講演>

ループスアンチコアグラント:「血栓止血検査の問題児」

北海道医療大学歯学部 内科学 教授  家子 正裕 先生

* 駐車場は完備されています。
* 受付にて参加費500円徴収させて頂きます。

 

【関連記事リンク】

抗リン脂質抗体症候群(インデックスページ)

 

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播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:37 | 研究会・セミナー案内 | コメント(0)

2010年7月16日

aCL、抗β2GPI抗体、ループスアンチコアグラント:小児APS(2)


抗リン脂質抗体症候群とは:小児APS(1)より続く

 

【抗リン脂質抗体(anti-phospholipid antibody: aPL)】

抗リン脂質抗体症候群(APS)の診断に必須の検査項目である抗リン脂質抗体(aPL)とは、リン脂質あるいはリン脂質と蛋白の複合体に結合する自己抗体の総称です(参考:臨床検査からみた血栓症)。

APSと関連するaPLの主な標的抗原は、β2-グリコプロテインI(β2GPI)とプロトロンビンであることが、最近の研究では明らかにされています。

Matsuura E, et al.: Anticardiolipin antibodies recognize β2-glycoprotien I structure altered by interacting with an oxygen modified solid phase surface. J exp Med 179: 457-462, 1994.

Amengual O, et al.: Specificities, properties, and clinical significance of antiprothrombin antibodies. Artheitis Rheum 48: 886-895, 2003.

APS分類基準では、診断的aPL として抗カルジオリピン抗体(aCL)、抗β2GPI抗体、ループスアンチコアグラント(LA)が取り上げられており、その他にホスファチジルセリン依存性抗プロトロンビン抗体(aPS/PT)や抗ホスファチジルエタノラミン抗体などの研究レベルのaPLも考慮されています。

 

<aCLと抗β2GPI抗体>

当初、aCLはリン脂質であるカルジオリピンが直接の標的抗原だと考えられていましたが、現在ではAPSに特異的なaCLと、膠原病(APSを合併しないSLEなど)や感染症患者にみられる非特異的なaCLは、標的抗原が異なることが明らかになっています。

APS患者に検出されるaCLは、カルジオリピンに結合して構造変化を起こしたβ2GPIに結合する自己抗体、すなわちβ2GPI依存性aCLです。

一方、非特異的aCLはβ2GPIの存在とは無関係にカルジオリピンに結合します。

現在測定されているaCLは血栓症状との関連性は低く、aPLのスクリーニング検査としての意味合いが強いです。

Galli M, et al : Lupus anticoagulants are stronger risk factors for thrombosis than anticaldiolipin antibodies in the antiphospholipid syndrome : a systematic review of the literature. Blood 101: 1827-1832, 2003.

一方、抗β2GPI抗体測定は構造変化を起こしたβ2GPIに結合する免疫グロブリンを検出するものですが、この抗体は血栓症状との関連性が強いです。保険収載されていないため、代わりに本邦で開発されたβ2GPI依存性aCLを測定することが多いですが、両者が同一なものであるかどうかは明確ではありません。

 

<ループスアンチコアグラント>

ループスアンチコアグラント(LA)は、「個々の凝固因子活性を阻害することなく、in vitroのリン脂質依存性凝固反応(APTT、カオリン凝固時間、希釈ラッセル蛇毒時間など)を阻害する免疫グロブリン」と定義されています。

LAは血栓症状と強く関連するaPLです。特に抗β2GPI抗体と同時に検出されるβ2GPI依存性LAが著しく強い関連性を有します(オッズ比42.3)。

Galli M, et al : Lupus anticoagulants are stronger risk factors for thrombosis than anticaldiolipin antibodies in the antiphospholipid syndrome : a systematic review of the literature. Blood 101: 1827-1832, 2003.


LAの責任抗体として、aPS/PTおよび抗β2GPI抗体が考えられていますが、それ以外の抗体の関与も推測されます。

Atsumi T, et al.: Association of autoantibodies against the phosphatidylserine-prothrombin complex with manifestations of the antiphospholipid syndrome and with the presence of lupus anticoagulant. Arthritis Rheum 43: 1982-1993, 2000.


LA陽性者の半数がaPS/PT陽性であり、aPS/PT陽性者は9割以上がLA陽性であり、aPS/PTはLAの補助診断としての意義が高いと考えられます。

 

(続く)

抗リン脂質抗体症候群の血栓症発症機序:小児APS(3)



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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:16 | 血栓性疾患

2010年7月15日

抗リン脂質抗体症候群とは:小児APS(1)


抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid syndrome: APS)は、若年者でみられる血栓症の原因疾患の一つという印象が強いかも知れませんが、この病気は全ての年齢層においてみられる疾患です(参考:臨床検査からみた血栓症)。

若年者と言いましても、いろんな年齢層がありますが、小児科領域でも遭遇することのある疾患です。

今回のシリーズでは、小児科領域のAPSに言及しながら、記事を少しずつアップしていきたいと思います。

 

【抗リン脂質抗体症候群とは】

APSは、血栓症または妊娠合併症を臨床症状とする自己免疫性疾患です。

1986年にHughesらにより初めて提唱されましたが、現在では40歳以下の若年者における後天性血栓性素因の代表的な疾患として重要です。

APSの診断には、2006年に報告されたSapporo Criteriaを改定したAPS分類基準が用いられています。

Miyakis S, et al.: International consensus statement on an update of the classification criteria for definite antiphospholipid syndrome (APS). J Thromb Haemost 4: 295-306, 2006.

すなわち、(1)臨床所見として動静脈血栓症または妊娠合併症を少なくとも1つ認め、同時に(2)検査所見として少なくとも1つの抗リン脂質抗体(aPL)が12週間以上はなれて2度以上検出された場合に、APSと診断します。

 

-----------------------

抗リン脂質抗体症候群の改定分類基準(2006年版)

以下の臨床所見の1項目以上が存在し、かつ検査所見の1項目以上が12週間以上の間隔をあけて
2回以上検出された場合を抗リン脂質抗体症候群(APS)と分類する   

臨床所見   
1.血栓症:画像検査や病理検査で確認できる1つ以上の動静脈血栓症(血管炎は除く)
2.妊娠合併症
  (a) 妊娠10週以降の胎児奇形のない1回以上の子宮内胎児死亡
  (b) 妊娠高血圧症、子癇もしくは胎盤機能不全などによる1回以上の妊娠34週未満の早産
  (c) 妊娠10週未満の3回以上連続する原因不明習慣性流産

検査所見       
1.ループスアンチコアグラント(LA)陽性(LAの測定は国際血栓止血学会のガイドラインに従う)
2.IgGまたはIgM型抗カルジオリピン抗体陽性:中等度以上の力価または健常人の99パーセンタイル以上
3.IgGまたはIgM型抗β2−グリコプロテインI抗体陽性:健常人の99パーセンタイル以上

-----------------------

(続く)aCL、抗β2GPI抗体、ループスアンチコアグラント:小児APS(2)





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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 02:45 | 血栓性疾患

2010年7月14日

先天性第VII因子欠損症における出血と血栓症

先天性第VII因子欠損症は、教科書的にはPTの延長でスクリーニングされるはずですが、PTの延長が軽度のこともあり、見逃しそうになることがあります。

第VII因子が半減したヘテロ接合体では、ほとんど症状はみられないことの方が多いです。このことも、見逃しそうになる理由になります。

今回紹介させていただく論文は、先天性第VII因子欠損症で門脈血栓症を発症したというミステリアスな報告です。

リンク:凝固異常症の遺伝子解析のご依頼はこちらから。

 

「先天性第VII因子欠損症における門脈血栓症

著者名:Klovaite J, et al.
雑誌名:Blood Coagul Fibrinolysis 21: 285-288, 2010.


<論文の要旨>


先天性第VII因子欠損症においては、ほとんどの場合出血傾向が問題になりますが、時に血栓塞栓症の合併症があることに注意が必要です。この場合、観血的処置や補充療法を契機とすることが多いです。しかし、明らかな契機なく血栓症を発症することもありえます。

著者らは、慢性の門脈血栓症を合併した先天性第VII因子欠損症の女性症例を報告しています。

患者は妊娠32週にあり、プロトロンビン時間(PT)の延長(INRの上昇)(APTTは正常)と、血小板数の著減所見をみとめていましたが、特別な症状はありませんでした。

精査の結果、門脈が海綿静脈洞化(シャントを伴う)していることが確認されました。

また、FVII遺伝子に3つのしばしばみられる多型性がみられました。第VII因子活性性の低下はみられましたが、他の血栓性素因はありませんでした。

以上、先天性第VII因子欠損症には出血のみでなく、血栓症の合併症にも注意が必要と考えられました。





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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:04 | 出血性疾患

2010年7月13日

小児von Willebrand病患者における出血症状の定量

von Willebrand病(VWD)は、先天性の出血性素因です。

医師国家試験にも毎年のように出題される重要疾患です。

国家試験的には、出血時間の延長、APTTの延長(PTは正常)(血液凝固検査入門)、粘膜出血(鼻血など)、常染色体優性遺伝と言ったところが特に重要でしょうか(血友病とvon Willebrand病の比較)。

この疾患は、見逃されていることが多いのではないかという指摘があります。

実際、管理人が拝診させていただいている患者さんでも、重症例(von Willebrand因子活性が測定感度以下)であるにもかかわず、日常生活で全くと言って良いほど出血しない方が、複数人おられます。

出血の程度を、より客観的に評価することは重要ではないかと思います。

 

「小児von Willebrand病患者における出血症状の定量(小児用アンケート法による)

著者名:Biss TT, et al.
雑誌名:J Thromb Haemost 8: 950-956, 2010.


<論文の要旨>


打撲後出血や皮膚粘膜出血は、一般に小児において見られやすいです。本来は、出血の既往を詳細に聴取することで、先天性出血性素因を有しているかどうか判別が可能なはずです。

著者らは、小児出血アンケート(Pediatric Bleeding Questionnaire ; PBQ)を用いて、von Willebrand病(VWD)の小児と、VWDでない同朋に対してインタビューを行いました。小児VWD100例(中央値10.9才:0.8〜17.8才)と、VWDのない21例からアンケートを回収しました。


その結果、出血スコアの中央値はVWD 7点(0〜29点)、非VWD 0点(−1〜2点)でした。出血スコア(中央値)はVWDのサブタイプにより異なっており、type1確診例9.0(n=40)、type1疑診例2.0(n=38)、type2 14.0(n=6)、type3 12.0(n=16)でした。

出血スコアと年齢の間には正相関がみられました(P=0.0004)(加齢とともに出血リスクに遭遇する機会が増加するためと考えられました)。

高頻度にみられる出血症状は、手術時出血、抜歯後出血、過多月経でした。包皮切開術、頭蓋内出血、肉眼的血尿、臍帯断端からの出血も、それぞれ32%、4%、4%、3%にみられました。

以上、PBQは小児VWDの出血重症度を評価する上で、適当であると考えられました。





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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:43 | 出血性疾患

2010年7月12日

急性前骨髄球性白血病(APL)における出血と血栓症


急性前骨髄球性白血病(APL)と言えば、DIC、出血のイメージが強いかも知れません。

しかし、血栓症も重大な問題点です。

 

「急性前骨髄球性白血病(APL)における出血と血栓症


著者名:Sanz MA, et al.
雑誌名:Thromb Res 125 Suppl 2 : S51-S54, 2010.


<論文の要旨>

急性前骨髄球性白血病(APL)は、特種な遺伝子変異(PML遺伝子とRARA遺伝子の相互転座)を有する急性白血病であり、致命的な消費性凝固障害(播種性血管内凝固症候群(DIC))を合併することでも有名です。

APLを救命するためには、この凝固異常に対する早急な対応が必要ですが、この点においても全トランスレチノイン酸(ATRA)薬の果たす役割は大きいです。すなわち、ATRAの投与により、凝固異常はしばしば速やかに改善します。また、APLの完全寛解率は90〜95%と高率です。

ただし、APLの寛解導入治療に抵抗性の症例は少なくなってきましたが、出血死は依然としてAPL初期治療時の重要な問題点です。


一方、APLにおける致命的な血栓症の合併も重大な問題であるにもかかわらず、過小評価されているのが現状です。

 

以上、APLの治療にあたっては、出血と血栓症の両者に対する十分な注意が必要です。



(注意)
APLに対してATRAを投与している場合に、トラネキサム酸(トランサミン)を投与すると全身性の血栓症をきたして、致命症となったという報告が多数みられます。

APLに対してATRA治療を行っている場合は、トラネキサム酸の投与は禁忌です。



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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:24 | 出血性疾患 | コメント(0)

2010年7月11日

血友病患者における骨密度

今回紹介させていただく論文は、血友病症例における骨密度の検討です。

メタ解析が行われています。

 



「血友病患者における骨密度


著者名:Iorio A, et al.
雑誌名:Thromb Haemost 103 : 596-603, 2010.


<論文の要旨>

骨粗鬆症(参考:オステオカルシン)は、骨密度(BMD)の低下によって引き起こされます。血友病症例は、運動量が少ないことや、血液由来ウイルス感染症が原因となって、骨粗鬆症に羅患しやすい可能性があります。

著者らは文献をレビューし、重症血友病におけるBMD低下について検討しました。

7つの報告のうち、腰椎BMD(g/cm2)は7報告(全部)、BMIは5報告、HCVは6報告で評価されていました。BMDの標準化平均差(SMD)を用いて、血友病とコントロールの比較を行いました。また、BMIとHCV感染の影響は、メタ回帰分析で検討しました。

大人血友病101例(33±8.9才)、大人コントロール101例、小児血友病111例(8±3.6才)、小児コントロール307例を解析することができた。


その結果、腰椎BMDは、重症血友病においてはコントロールと比較して有意に低値でした(大人&小児ともに)。血友病患者におけるBMDの低下は、BMIやHCV感染とは無関係でした。


今回のメタ解析によって、重症血友病においてはBMDが低値であることが明らかになりました。

今後、血友病症例における骨折の頻度の検討や、骨粗鬆症防止のための治療法についての検討も必要と考えられました。



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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:08 | 出血性疾患

2010年7月10日

血友病患者における心血管疾患の管理

血友病は出血性疾患です。

血液凝固因子製剤によるコントロールが良好になってきたためだと思いますが、今回紹介させていただくような論文も良く目にするようになってきたように思います。



「血友病患者における心血管疾患の管理


著者名:Coppola A, et al.
雑誌名:Semin Thromb Hemost 36: 91-102, 2010.


<論文の要旨>

血友病患者における心血管疾患の罹患率や死亡率は、一般男性と比較して低いものと考えられています。しかし、適切な補充療法の普及により血友病患者の包括的治療は改善しており、上記の問題は臨床的にも重要性を増しています。

血友病患者を対象とした虚血性心疾患の臨床試験は、充分と言えるものはありませんが、現実問題として臨床試験の実施は不可能ではないかと思われます。

エビデンスに基づいたガイドラインはないため、症例報告の解析に依存せざるを得ませんが、適切な補充療法が行われているという前提であれば、虚血性心疾患や心手術の管理は非血友病と同様に行えばよいと考えられます。


抗血栓療法は、血栓症発症のリスクと、既に存在している出血傾向のバランスを考慮しながら行うことになります。

今後、血友病患者の高齢化に伴って、臨床医は心血管疾患にも配慮しながら管理する必要があるため、他の専門医へのコンサルトも重要になってくると思われます。



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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:56 | 出血性疾患

2010年7月9日

抗トロンビン薬 (ヒルジン、アルガトロバン他)インデックス

経口抗Xa薬&抗トロンビン薬の今後:抗トロンビン薬(7) より続く

 

【抗トロンビン薬】インデックス

1)抗血栓療法

2)ヒルジン

3)bivalirudin (Hirulog、ヒルログ)

4)アルガトロバン(商品名:スロンノン、ノバスタン)

5)Ximelagatran(キシメラガトラン)

6)ダビガトラン

7)経口抗Xa薬&抗トロンビン薬の今後

 


【リンク】

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:46 | 抗凝固療法

2010年7月8日

経口抗Xa薬&抗トロンビン薬の今後:抗トロンビン薬(7)

ダビガトラン:抗トロンビン薬(6)より続く

 
  【経口抗Xa薬や経口抗トロンビン薬の今後

経口可能な抗Xa薬として、リバロキサバン(rivaroxaban: バイエル)、エンドキサバン(endoxaban: 第一三協)、アピキサバン(apixaban: ファイザー)、YM150(アステラス)、TAK442(武田)などが開発中です。

抗Xa薬は、今回のシリーズではとりあげていませんので、詳細は割愛させていただきます。

経口抗トロンビン薬と、経口抗Xa薬の有効性および安全性の比較、病態によって使い分けする方向性になるのかなど、今後の検討課題と考えられます。


現在日本において内服可能な抗凝固薬はワルファリンのみですが、本薬はビタミンK依存性凝固因子の活性を低下させるものの、活性型凝固因子を不活化する作用はないため、播種性血管内凝固症候群(DIC)に対しては無効です。

大動脈瘤や巨大血管腫に合併した慢性DICなど、外来での加療が望まれる症例にしばしば遭遇しますが、将来的には経口抗Xa薬や経口抗トロンビン薬でのコントロールが可能になればメリットは大きいと考えられます。

また、抗リン脂質抗体症候群(APS)の不育症に対しては、現在ヘパリンの皮下注が数カ月〜10ヶ月にわたって行われていますが、この病態に対しても将来経口抗凝固薬でのコントロールが可能になれば恩恵は大きいと考えられます(ワルファリンは催奇形性の副作用の問題があります)。

(続く)

 


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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 00:15 | 抗凝固療法

2010年7月7日

金沢大学附属病院(七夕の願い)

七夕

上画像は、金沢大学附属病院のエントランスで納めたものです。

七夕での、多くの願い、祈りが込められています。市内のいろんな所で目にしますが、これだけ多くの願いが込められているのは、他では見られないのではないでしょうか。

どうか全ての方の願いが叶い、全ての人が健康で長生きができますように。。。

 


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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 00:58 | その他

2010年7月6日

ダビガトラン:抗トロンビン薬(6)

Ximelagatran(キシメラガトラン):抗トロンビン薬(5)より続く

 
  【ダビガトラン

抗トロンビン薬 (ヒルジン、アルガトロバン他)インデックス

抗血栓療法、抗血小板療法、抗凝固療法(アスピリン、ワーファリン)
PT(PT-INR)とは?

ダビガトランエテキシレート(dabigatran etexilate)は、経口抗トロンビン薬として海外では既に使用可能な薬物です。7)8)9)。

7.    Schulman S, Kearon C, Kakkar AK, et al: Dabigatran versus warfarin in the treatment of acute venous thromboembolism. N Engl J Med 361: 2342-2352, 2009.

8.    Connolly SJ, Ezekowitz MD, Yusuf S, et al: Dabigatran versus warfarin in patients with atrial fibrillation. N Engl J Med 361: 1139-1151, 2009.

9.    Eriksson BI, Dahl OE, Rosencher N, et al: Dabigatran etexilate versus enoxaparin for prevention of venous thromboembolism after total hip replacement: a randomised, double-blind, non-inferiority trial. Lancet 370(9591): 949-956, 2007.



プロドラッグであるダビガトランエテキシレートは、消化管から吸収されるとエステラーゼによる代謝を受けて活性代謝産物であるダビガトランに変換されます。ただし、本薬の吸収はPHに依存しており、PPIの併用により吸収が低下することが知られています。

内服後2〜3時間後に血中濃度がピークとなり、ダビガトランの半減期は12〜17時間です。

約80%は腎から代謝されるために、腎不全患者では注意が必要ですが、一方で肝不全患者に対してはあまり支障ありません。


ダビガトランは、トロンビンの活性部位に結合し、トロンビン活性を特異的に抑制します。

液相のトロンビンのみならずフィブリンに結合したトロンビンを不活化します。また、血小板第4因子などの血漿タンパク質と結合しにくいために、効果に個人差が少ないのも特徴です。

用量依存的に、凝固検査であるPTやAPTTを延長させます。


臨床試験の結果、人工股関節全置換術の静脈血栓塞栓症発症予防および死亡率を低下させ、低分子ヘパリンであるエノキサパリンと同等の効果がえられました。

また、出血の副作用出現も、エノキサパリンと同等でした。

本薬は、欧州において人工股関節置換術、人工膝関節置換術後の静脈血栓塞栓症発症予防薬として認可されています。

 

(続く)

経口抗Xa薬&抗トロンビン薬の今後:抗トロンビン薬(7)

 


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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:58 | 抗凝固療法

2010年7月5日

Ximelagatran(キシメラガトラン):抗トロンビン薬(5)

スロンノン、ノバスタンなど:抗トロンビン薬(4)より続く

 
  【キシメラガトラン

Ximelagatran(キシメラガトラン)は、melagatran(メラガトラン)のプロドラッグです。

キシメラガトランは、抗トロンビン薬として経口投与可能な薬物です。

キシメラガトランはメラガトランのプロドラッグであり、経口投与されると小腸より速やかに吸収され活性を有するメラガトランに変換されます。

本剤は経口投与後2〜3時間で血中濃度が最高値に達し、血中半減期は約3時間です。

本剤の薬物動態は極めて安定しており、患者の体重、年齢、性別、人種による差異はなく、他薬剤や食物との相互作用もありません。


急性深部静脈血栓症、非弁膜症性心房細動症例などにおける有用性が報告されてきました。

経口薬であることや、INRまたはトロンボテストによるモニタリングの必要性がないことのメリットはすこぶる大きかったのですが、肝障害の副作用のため開発が断念されたのは残念です。

 

(続く)

ダビガトラン:抗トロンビン薬(6)

 


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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 02:48 | 抗凝固療法

2010年7月4日

スロンノン、ノバスタンなど:抗トロンビン薬(4)

bivalirudin (Hirulog、ヒルログ):抗トロンビン薬(3)より続く

 
  【アルガトロバン】 (商品名:スロンノン、ノバスタンなど)

アルガトロバン
は、アルギニン骨格を有する分子量約530の化合物であり、アンチトロンビン(AT)非依存性に抗トロンビン活性を発揮します。半減期は、30分程度です。

本薬は日本においても使用可能な合成抗トロンビン薬(AT非依存性)であり、保険適応上、脳血栓症急性期(ラクナ梗塞&心原性脳塞栓を除く)、慢性動脈閉塞症(閉塞性動脈硬化症、バージャー病)、血液体外循環時(先天性AT欠損症や、AT活性が低下した患者において)、ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)2型における使用が認可されています  5)6)。


5.    Kawano H, Toyoda K, Miyata S, et al: Heparin-induced thrombocytopenia: a serious complication of heparin therapy for acute stroke. Cerebrovasc Dis 26: 641-649, 2008.

6.    Chong BH, Isaacs A: Heparin-induced thrombocytopenia: what clinicians need to know. Thromb Haemost 101: 279-83, 2009.


本薬は肝代謝の薬剤であり、肝不全症例に対して投与する場合には血中濃度が著しく上昇(PTAPTTが著しく延長)することが知られており注意が必要です。



添付文書によりますと、HITに対して用いる場合には、

「0.7μg/kg/分より点滴静注を開始し,持続投与する。なお,肝機能障害のある患者や出血のリスクのある患者に対しては,低用量から投与を開始すること。活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)を指標に投与量を増減し,患者毎の投与量を決定する」
と書かれています。

この投与方法では、標準的体重の患者であれば、アルガトロバン60mg/24時間程度の投与量となります。

本薬は、HITと同じく血小板数が低下する血栓性病態である播種性血管内凝固症候群(DIC)に対する臨床試験が行われた過去があります。

DICの臨床試験では、アルガトロバン30mg/24時間の用量であったと記憶していますが、この用量でも致命的な出血の有害事象が高頻度にみられた事にも言及しておきたいと思います。

(続く)

Ximelagatran(キシメラガトラン):抗トロンビン薬(5)

 


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播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 02:27 | 抗凝固療法

2010年7月3日

bivalirudin (Hirulog、ヒルログ):抗トロンビン薬(3)

ヒルジン:抗トロンビン薬(2)より続く

ヒルジン図
 



【bivalirudin
】 (Hirulog ;ヒルログとも言う)

bivalirudin (Hirulog ;ヒルログとも言う)は、20個のアミノ酸からなるヒルジン誘導体です。

ヒルログはヒルジン同様に血栓(フィブリン)に結合したトロンビンに対しても抗トロンビン作用を有しています。

しかも、分子量がより小さいことのメリットとして血栓に結合したトロンビンに対してはヒルジンよりも有効かもしれない点と、抗原性がより低いと思われる点があげられます。

血中半減期は、約30分でありヒルジンと比較して短いです。


ヒルジンとの相違点は、トロンビンと結合するとアミノ酸残基のArg-Pro結合が分解されてトロンビンとの親和性が低下することです。そのため、トロンビンに対する阻止効果が一過性であり、血中半減期はより短く、安全性がより高いものと期待されています。

ヒルログについても、不安定狭心症に対して出血の副作用なくコントロールしえたという報告、急性心筋梗塞に対して線溶療法を行った場合にヘパリンを併用した場合よりもヒルログを併用した場合の方が再灌流率が良好であるという報告、冠動脈形成術に際してアスピリンにヒルログを併用し出血の副作用なく良好な成績がえられたとする報告などがみられます。

ヒルジンおよびその誘導体は日本ではまだ臨床応用されていませんが、米国においては、ヒルジンはHIT、虚血性心疾患、DVT予防などに対して、bivalirudinは虚血性心疾患に対するPTCA、線溶療法時などに使用され、好成績が報告されています1)2)3)4)。


1.    Kastrati A, Neumann FJ, Mehilli J, et al: Bivalirudin versus unfractionated heparin during percutaneous coronary intervention. N Engl J Med 359 :688-696, 2008.

2.    Stone GW, Witzenbichler B, Guagliumi G, et al: Bivalirudin during primary PCI in acute myocardial infarction. N Engl J Med 358: 2218-2230, 2008.

3.    Mehran R, Lansky AJ, Witzenbichler B, et al: Bivalirudin in patients undergoing primary angioplasty for acute myocardial infarction (HORIZONS-AMI): 1-year results of a randomised controlled trial. Lancet 374(9696): 1149-1159, 2009.

4.    Stone GW, White HD, Ohman EM, et al: Bivalirudin in patients with acute coronary syndromes undergoing percutaneous coronary intervention: a subgroup analysis from the Acute Catheterization and Urgent Intervention Triage strategy (ACUITY) trial. Lancet 369(9565): 907-919, 2007.

 

(続く)スロンノン、ノバスタンなど:抗トロンビン薬(4)

 


【リンク】

血液凝固検査入門(図解シリーズ)

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:11 | 抗凝固療法

2010年7月2日

ヒルジン:抗トロンビン薬(2)

抗血栓療法:抗トロンビン薬(1)より続く

ヒルジン

【ヒルジン】


自然界には抗凝固活性を示す物質がいくつか知られていますが、その一つとしてヒルの唾液腺分泌物に含まれる抗凝固物質があります。医療用ヒル(Hirudo medicinalis)は、1世紀以上も前より静脈性うっ血状態に使用されてきた歴史があります。1884年、Haycraftはこの抗凝固物質について初めて報告し、1904年、Jacobyによってヒルジンと命名されました。

天然ヒルジンは65個のアミノ酸からなる分子量約7,000のポリペプチドです(上図)。
トロンビンと1:1複合体を形成することにより抗凝固活性を発輝します。


ヘパリン類との相違点としては、

(1)アンチトロンビン(AT)非依存性にトロンビン活性を阻止すること
(2)フィブリンに吸着されているトロンビンに対しても強い阻止効果を発輝すること
(3)血漿中蛋白と結合しないため血小板第4因子(PF4)により中和されることはないこと
(4)ヘパリン起因性血小板減少症(heparin induced thrombocytopenia: HIT)発症の懸念がないこと

などが挙げられています。血栓性疾患においては、しばしばヘパリン結合血漿蛋白が上昇するため、このことが未分画ヘパリンの効果の個人差(無効例の存在)の一因と考えられてきましたが、ヒルジンではこの懸念がありません。


ヒルジンの臨床応用を可能にしたのは、遺伝子工学的手法によるヒルジンの大量生産によるところが大きいです。実用化には至りませんでしたが、本邦でも播種性血管内凝固症候群(DIC)治療薬として臨床試験が行われた歴史があります。

現在、天然性ヒルジンの部分的なアミノ酸残基の置換や、N末端領域の修飾を行ったいくつかの遺伝子組換え型ヒルジンが知られています。遺伝子組み換えヒルジンは、天然ヒルジン同様に65個のアミノ酸残基よりなり、6-14、16-28、22-39の3ケ所にジスルフィド結合(S-S結合)を形成しています。desirudinは欧州にて、lepirudinは米国にて使用可能です。

ヒルジンのC末端は、トロンビンの陰イオン結合部位とイオン結合し、ヒルジンのN末端側はトロンビンの無極性部位と結合することにより、ヒルジンはトロンビンと高度の親和性を有し複合体を形成すると考えられています。この結果、トロンビンによる全ての向凝固作用が消失し、凝固活性化のpositive feedbackが抑制されるものと考えられます。

また、ヒルジンと結合したトロンビンはATと結合できないため、ATの消費を抑制する効果も期待されています。なお、トロンビンとフィブリノゲンとの親和性よりも、トロンビンと血小板膜表面上のトロンビン受容体との親和性が高度であるため、凝固を阻止するヒルジン濃度は血小板活性化を阻止しないものと考えられています。

トロンビンはフィブリノゲンをフィブリンに転換することで向凝固作用を有しますが、この際、トロンビンはフィブリンへの結合能も有しています。このことは、生じたトロンビンをフィブリン内に埋没させることにより、トロンビンの効果を消失させるnegative feedbackとしての意義を有しています。

しかし、このようにフィブリンに結合したトロンビンは依然として凝固活性を有しており、線溶療法時に血栓が溶解しフィブリンに結合したトロンビンが再露呈されることが線溶療法後の再閉塞の一因と考えられています。

このフィブリン結合トロンビンは、ヘパリン・アンチトロンビン複合体では阻止されにくいですが、ヒルジンはフィブリン結合トロンビンをも有効に阻止することが可能です。

ヒルジンの血中半減期は0.6〜2時間と報告されており、大部分が腎で代謝されます。そのため腎不全合併症例においてはクリアランスが著しく遅延し、投与量の注意が必要です(腎不全合併症例における検討では、血中半減期は15〜41hrと延長しています)。

 

(続く)

bivalirudin (Hirulog、ヒルログ):抗トロンビン薬(3)

 


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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:26 | 抗凝固療法

2010年7月1日

抗血栓療法:抗トロンビン薬(1)

血栓症の発症を抑制する治療のことを、抗血栓療法と言います。

抗血栓療法には、抗血小板療法と抗凝固療法があります。

その使い分けに関しましては、過去の記事も参考にしていただければと思います。

今回のシリーズは、抗トロンビン薬についてです。

 

抗凝固薬

 

【はじめに】

抗凝固薬開発の経緯で興味あることとして、活性型血液凝固第X因子(Xa)およびトロンビンの2活性型凝固因子のうち、より選択的に抗Xa活性を有する薬剤と、より選択的に抗トロンビン活性を有する薬剤の相反する方向性での探究が行われてきた点です。

それぞれの抗凝固薬については、効果、副作用両面からの検証が必要ですが、どの薬剤が優れた薬剤であるかはまだ結着はついていません。管理人らは、種々の臨床の状況ごとに最も有用な薬剤は異なってくるのではないかと考えています。


抗凝固薬探究の別の観点からの動向として、内服可能な薬剤の開発が挙げられます。

現在内服可能な抗凝固薬はワルファリン(参考:PT-INR)のみですが、本剤はビタミンK依存性凝固因子活性を低下させますが、ヘパリンのように活性型凝固因子を阻止する訳ではありません。

活性型凝固因子を阻止しうる内服可能な抗凝固薬の開発は、臨床的に今後最も期待されるところです。

 

(続く)

ヒルジン:抗トロンビン薬(2)

 


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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:26 | 抗凝固療法 | コメント(0)

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