PNH型血球の意義:金沢大学血液内科 中尾教授より-9
モエシンと再生不良性貧血:金沢大学血液内科 中尾教授より-8 から続く
【患者さんから学ぶ(1)】
骨髄不全病態におけるPNH型血球の意義は、学会・研究会や総説などで繰り返し訴えているうちに、各地の先生方に少しずつ理解してもらえるようになってきました。
4年前に北海道の内科学会地方会で貧血の講演をしたあとに、ある年配の先生が直接私のところに来られ、「MDSと診断した70歳以上の高齢患者さんの血液を2人分金沢大学に送って検査をしてもらったところPNH型血球が陽性だったので、シクロスポリンを投与したら二人とも驚くほどよくなりました。ありがとうございました。」とお礼を言って下さったときには幸せな気分になりました。
しかし、臨床検査としての重要性は確信したものの、PNH型血球が本当に正常骨髄に対する免疫学的な攻撃の結果として出現するのかという点については確信が持てませんでした。
それは何故かというと、PNH型血球陽性の再生不良性貧血患者さんが、再生不良性貧血を発病する前にPNH型血球が陰性であったという証拠がないためです。
ある時点でたまたま受けたフローサイトメトリー検査によりPNH型血球が陰性であった健常者が、その後再生不良性貧血を発症すれば、上記のことを証明できるかもしれません。
しかし、このようなことが起こる確率は何百万分の1にすぎません。良い動物モデルも存在しないため私自身、これは証明することは永遠に不可能と考えていました。
ところが。。。。
(続く)
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モエシンと再生不良性貧血:金沢大学血液内科 中尾教授より-8
再生不良性貧血とT細胞:金沢大学血液内科 中尾教授より-7 より続く
【瓢箪から駒】
これとは別に中条君は、再生不良性貧血症例の血清中に、ある骨髄性白血病細胞株由来の80kD蛋白に対する自己抗体が存在することを見出していました。
その頃には、ポリアクリルアミドゲル上で識別される一本のバンドから、そこに含まれる微量の蛋白を質量分析で同定できるようになっていたのですが、細胞のライセートを用いた電気泳動では、抗体で認識される一本のバンドといっても挟雑物が多いため、抗原分子の特定には至りませんでした。
もしこの抗体が病態に関わる重要なものであるとすれば、先に述べた理由でそれは造血幹細胞上のGPI-アンカー膜蛋白を認識する抗体の可能性があります。
もしそうだとすれば、PIPL-Cという酵素で細胞表面のGPI-アンカー膜蛋白を切断してやれば、自己抗体は培養上清中のGPI-アンカー膜蛋白を認識するかもしれないと考えました。
高松博幸君がそのような実験を行ったところ、ライセートを材料に用いた時と同じ大きさのバンドが患者血清中の抗体によって検出されました。見事に予想が当たったと喜んだのですが、実際にはこの抗原はGPI-アンカー膜蛋白ではなく、細胞内リンカー蛋白のモエシンであることが分かりました。
モエシンは、エクソゾームという小胞体構造物として細胞から短時間で培養液中に分泌されるという性質を持っています。このため、PIPL-Cによる切断とは無関係に、たまたま上清中に存在したモエシンが抗体で認識され、それが一本のきれいなバンドを形成したために、質量分析による同定が可能になったという訳です。
このモエシンは再生不良性貧血を引き起こす自己抗原ではなかったものの、免疫担当細胞にサイトカイン産生を誘導するという特異な機能を持つ自己抗体であることが、その後の高松君やルイス・エスピノーザ君の研究で明らかになりました。
本来の予想とは違ったのですが、細胞上清中の蛋白を調べるという突拍子もないアイデアがなければ、この抗体が認識する抗原は未だに不明のままだったのではないかと思います。
(続く)
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再生不良性貧血とT細胞:金沢大学血液内科 中尾教授より-7
MDSとPNH型血球:金沢大学血液内科 中尾教授より-6 より続く
【中条君の奮闘】
造血幹細胞に対する免疫反応を制御するためには、その細胞が発現している自己抗原を同定することがもっとも重要ですが、前述の理由でT細胞からのアプローチには限界があることを2000年頃に感じるようになりました。
この頃、がん免疫において重要な自己抗原(NY-ESO-1)が、患者血清を用いた抗体スクリーニングという分子生物学的な方法で同定されました(この抗原は、現在もっとも有望ながんワクチンとして臨床試験が行われています)。
T細胞による骨髄の傷害が再生不良性貧血の主たる病態といえども、何らかの自己抗体を同定すれば、それを頼りにT細胞の標的抗原を同定できるかもしれないと考えました。
そこで、当時助教として活躍していた故中条達也君を中心として、自己免疫性再生不良性貧血症例の血清を用いた抗体スクリーニングを開始しました。
最初はアッセイが安定せず苦労したのですが、最終的には中条君が留学生の憑君と岡山大学までアッセイを習いに行った結果、安定した結果を出せるようになりました。
その結果、不飽和脂肪酸のβ酸化を司るdiazepam-binding protein related sequence-1に特異的な抗体が自己免疫性の再生不良性貧血で高頻度に検出されることが分かりました。
(続く)
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金沢大学医学部:入学試験
平成22年2月25日(木)は、国立大学の入学試験(前期)がありました。
管理人は、金沢大学医学部の入学試験監督員の1人としての業務をいただく機会を得たのですが、この日は2月とは思えない暖かさ(暑さ)だったように思います。
気候のみでなく、受験生の熱気もあったと思います。受験生は真剣そのものです。熱気で試験会場が充満されていたかも知れません。
受験科目は、英語、理科(物理、化学)、数学でした。
最後の数学の解答用紙を回収する時に感じましたが、10人いますと、受験生の答えが数種類以上あったように思います。数学ですから、答えは一つなのだと思います。正答に至らなかった受験生も多いのかと思うと辛くなりますした。
全学生が、この日に至るまで一生懸命頑張ってきたので、全員を合格にしてあげたいのですが、それができないのがとても残念です。
是非とも、合否の結果のみではなく、これまで懸命に頑張ってきたことに誇りを持っていただきたいと思います。
合格をゲットした人は、入学後しっかり勉強して、悩める患者さんを救える臨床医(良医)の道、病気克服のための医学基礎研究の道、人類の健康を考える厚生医療の道などを極めて欲しいと思います。
倍率の関係で残念ながら合格できない人も、残念ながら多数出てしまいます。
しかし、チャンスは今回限りではありません。来年、再来年、その後もチャレンジする道があります。
あるいは、医学領域に関心があった場合、臨床医を目指す以外にも、医療と関連した多くの道があると思います。
是非とも、どのような形であれ、将来社会に貢献できる人材になって欲しいと思います。
たった一度だけの人生ですから。。。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 21:58
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MDSとPNH型血球:金沢大学血液内科 中尾教授より-6
微少PNH型血球:金沢大学血液内科 中尾教授より-5 より続く
【「MDSもどき」の同定】
このPNH型血球が検出される骨髄不全症例を検討していると、いくつかの共通の特徴があることが分かりました。
臨床的にもっとも重要なことは、典型的な再生不良性貧血だけでなく、骨髄細胞に形態異常があるため「MDS」と診断される症例の中にこのPNH型血球がしばしば検出されることです。
PNH型血球陽性の骨髄不全は形態異常の有無にかかわらず、シクロスポリンやATGに反応して改善します。
MDSという病気は形態異常によって診断される症候群でありながら、疾患概念はクローン性造血(一つの幹細胞によって造血が維持されている状態)による前白血病状態と定義されている不思議な疾患ですが、PNH型血球の増加を伴うMDSは実は免疫抑制療法によってすっかり改善してしまうMDSもどき(実体は再生不良性貧血)なのではないかと考えました。
そこで、再生不良性貧血やMDS症例の末梢血顆粒球を遺伝学的な手法で石山君が調べたところ、PNH型血球が陽性の骨髄不全症例の造血は多クローン性であることが明らかになりました。また、その後杉盛君による日本中の膨大な再生不良性貧血症例の解析により、PNH型血球の存在が免疫的な骨髄不全の優れたマーカーであることが証明されました。
このように実際にはクローン性造血ではない良性の骨髄不全でありながらMDSと診断される「MDSもどき」は日本だけでなく世界中に潜在しています。
困ったことにいったんMDSと診断されると、その患者さんは不治の病であり、造血幹細胞移植だけが唯一の根治療法であると認識されてしまい、たとえそれが「MDSもどき」であっても適切な治療がなされなくなります。
これは患者さんにとって非常に不幸なことですので、骨髄不全例をみた場合にはまずPNH型血球を検索するように、10年近く念仏のように唱え続けてきました。
しかし、微少なPNH型血球の存在がなかなか受け入れられないことに加えて、多くの血液内科医には「骨髄細胞に形態異常があるとMDS」、「MDSというと前白血病」いう先入観が刷り込まれているため、MDSもどき(実は再生不良性貧血)が未だに世界中でMDSと診断されているのが現状です。
(続く)
再生不良性貧血とT細胞:金沢大学血液内科 中尾教授より-7 へ
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微少PNH型血球:金沢大学血液内科 中尾教授より-5
再生不良性貧血 1999〜:金沢大学血液内科 中尾教授より-4 より続く
【微少PNH型血球との出会い】
そこで、私たちが外来で診ている自己免疫性再生不良性貧血症例の末梢血についてPNH型血球の有無を早速調べてみることにしました。
同じ調べるのであれば感度の高い方法を用いた方が良いと考え、1999年にニューヨークのグループが健常者の末梢血中にごく少数のPNH型血球が存在することを証明するのに用いた高感度のフローサイトメトリーを使って、留学生の王さんに血算血の残りを調べるように指示しました。
彼女が持ってきたフローサイトメトリーの生データを医局長室でみたところ、0.1%以下のわずかなPNH型血球が、検索した血液のすべてに認められました。
当時は王さんの実験手技が未熟であったため、何かのコンタミネーションかアーチファクトをみているのだろうと思ったのですが、何度調べても自己免疫性再生不良性貧血例では陽性になり、健常者ではそのようなPNH型血球の明らかな集団は全く認められません。
フローサイトメトリーという精度のそれほど高くない検査で0.1%未満の細胞集団があると言っても普通は信用されないのですが、多くの症例と健常者を比較することによって、PNH型血球陽性の骨髄不全患者と健常者の間には明らかな差があることが分かるようになりました。
これがその後10年の研究の方向性を決めることになりました。
(続く)
MDSとPNH型血球:金沢大学血液内科 中尾教授より-6 へ
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:37
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再生不良性貧血 1999〜:金沢大学血液内科 中尾教授より-4
自己免疫疾患:金沢大学血液・呼吸器内科 中尾教授より-3 より続く
【1999年から現在まで】
前置きが非常に長くなりましたが、ここからが教授就任以降の歩みになります。
再生不良性貧血例の骨髄において、何らかの抗原を認識するT細胞が増えていることは証明できたのですが、上記の理由で、その抗原が何かは依然として不明でした。
1999年のアメリカ血液学会で、私がかつて属していたNIHのラボから、興味深い発表がなされました。それは、発作性夜間血色素尿症(PNH)でみられる特定の蛋白(GPIアンカー膜蛋白)が欠失した顆粒球や赤血球(PNH型血球)の増加がみられる骨髄異形成症候群(MDS)は、このPNH型血球が増加していないMDS患者に比べて、ATGによって造血能が改善する確率が有意に高いという発表でした。
実はNIHのラボから発表される免疫関係の研究成果の多くは私たち研究の後追いで、独創性の高いものはほとんどなかったのですが、この発表を聞いた時には初めて感心されられました。
再生不良性貧血やMDS症例の一部の例では、このPNH型血球という一種のできそこないの血球が増えていることが以前から知られていました。
これは、GPIアンカー膜蛋白の生合成を司るPIGAという遺伝子に突然変異を来した造血幹細胞が、GPIアンカー膜蛋白を細胞表面に発現できないために、骨髄に対する免疫学的な攻撃を免れて生き残る結果であろうと想像されていましたが、直接の証拠はありませんでした。
PNH型血球が増えている患者に免疫病態が関与しているというNIHの報告はこのエスケープ仮説を臨床的に証明したものでした。これが本当であれば、GPIアンカー膜蛋白の中に、造血幹細胞に対する攻撃の標的となる自己抗原が含まれている可能性があります。
(続く)
微少PNH型血球:金沢大学血液内科 中尾教授より-5 へ
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自己免疫疾患:金沢大学血液・呼吸器内科 中尾教授より-3
再生不良性貧血とシクロスポリン:金沢大学血液・呼吸器内科 中尾教授より-2 より続く
【自己免疫疾患であることの証明】
最初に検証しようとしたのは、シクロスポリン反応性再生不良性貧血症例の骨髄細胞では、インターフェロンγという造血抑制性のサイトカインの遺伝子が恒常的に過剰発現されているのではないかという仮説です。
これはシクロスポリンが効きやすいということから当然予想されたことでしたが、実際にシクロスポリンで改善した患者さんの骨髄で、以前みられたインターフェロンγ遺伝子発現がみられなくなることを確認したときにはある種の感動を覚えました。
次に注目したのはヒト組織適合抗原(HLA)との関係です。
多くの臓器特異的自己免疫疾患では、特定のHLA分子が疾患のかかりやすさを決定していることが知られていました。再生不良性貧血でもHLA-DR2というクラスII抗原の頻度が高いという報告はあったのですが、これがこの病気の免疫病態に関わっているという証拠はありませんでした。
シクロスポリン依存性再生不良性貧血という純粋な自己免疫病を対象として検討すれば何らかの陽性の結果が得られるだろうと考え、当時塩野義製薬の研究所でHLA遺伝子タイピングキットの開発に携わっておられた兼重俊彦博士に何例か検体を送ってHLA遺伝子を決定してもらったところ、全例がHLA-DRB1*1501というアレルを持っていることが分かりました。
結果のレポートを見たとき、こんなに綺麗な現象があって良いものかと俄かには信じられませんでした。そのうちに、ささやかな発見の喜びとともに、これを追求すれば、長年多くの研究者が探し求めてきた造血幹細胞上の自己抗原が明らかにできるかもしれないという期待が膨らむのを感じました。
HLA分子はT細胞に抗原を提示する腕に当たります。腕の種類が決定すれば、その腕と抗原の両者を認識する骨髄中のT細胞を同定することによって、T細胞レセプターの相手(抗原分子)を同定できる可能性があります。
そこで、患者さんの骨髄から、病勢に一致して増殖しているCD4陽性T細胞のT細胞レセプターをまず同定し、そのようなレセプター構造(T細胞の顔)を持つT細胞の単離を試みました。有望なT細胞はいくつか単離できたのですが、CD4陽性T細胞の対応抗原を決定するための良い方法がまだ確立されていないため、このアプローチでは自己抗原を同定することはできませんでした。
(続く)
再生不良性貧血 1999〜:金沢大学血液内科 中尾教授より-4 へ
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再生不良性貧血とシクロスポリン:金沢大学血液・呼吸器内科 中尾教授より-2
骨髄移植と骨髄不全:金沢大学血液・呼吸器内科 中尾教授より-1 より続く
【なぜ再生不良性貧血か?】
一方、正常造血幹細胞に対する免疫学的な攻撃(再生不良性貧血)や、異常造血幹細胞(白血病)に対する免疫学的な反応(graft-versus-leukemia、GVL効果)のメカニズムが解明できれば、その成果を直接臨床に反映させることができます。
抗白血病免疫についてはすでに多くの研究者が取り組んでいる割に成果が挙っていないので、謎の多い再生不良性貧血における免疫反応を解明すれば、違った切り口から抗白血病免疫を解明できるのではないかと考えました。
臨床的観察から科学的な真実を見出すためには、何といっても沢山の患者さんを診なければなりません。また、患者さんの協力を得て臨床検体を数多く収集することも重要です。
私が幸運であったのは、原田先生が他の施設に先駆けて新しい治療を取り入れることに積極的であったため、当時日本の他施設ではほとんど使われていなかったシクロスポリンがすでに多くの再生不良性貧血患者さんに投与されていたことでした。
【シクロスポリン依存性再生不良性貧血との出会い】
NIHへの留学から帰国して血液内科の専門外来を担当したところ、シクロスポリンを投与されて改善した患者さんの中に、この薬を減量すると悪化し、増量すると改善するという「シクロスポリン依存性」の再生不良性貧血症例があることに気付きました。
NIHの研究室で相部屋だった女性研究者が、抗胸腺細胞免疫グロブリン(ATG)が効かない再生不良性貧血に対するシクロスポリン療法の臨床試験を担当しており、そのような例の20−30%にシクロスポリンが効くと言っていたのですが、当時はシクロスポリンのようなT細胞だけに選択的に働く免疫抑制剤で良くなるほど再生不良性貧血は簡単な病気ではないと思っていたので、彼女の言うことに対しても半信半疑でした。
しかし、実際に見事にシクロスポリン依存性に造血が回復する例を何例も目にした結果、再生不良性貧血という病気がT細胞による自己免疫病であることを誰よりも強く確信するようになりました。
そこで感じたことは、このような臨床的に貴重な経験は、同じような患者さんを診る機会のある世界中の血液内科医に知らしめる必要があるということと、そのような免疫学的背景を持つ患者さんを解析すれば、長年謎であった再生不良性貧血の免疫学的機序が明らかになるのではないかという期待でした。
臨床家は研究に多くの時間を割くことはできないので、良い研究成果を挙げるためには、いくつかの作業仮説を立てて、当たる確率の高い研究テーマだけを選んでそれに取り組む必要があります。
シクロスポリン依存性の再生不良性貧血の場合、その病気の存在に気付いている人は他にいないので、何かを調べればそれらはすべて新知見になります。
(続く)
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骨髄移植と骨髄不全:金沢大学血液・呼吸器内科 中尾教授より-1
金沢大学第三内科(血液・呼吸器内科)では、毎年同門会報が発刊されています。
決して格式張ったものではなく、気軽に手にして読めるものです。
この中で、当科の中尾眞二教授が「10年間の研究のあゆみ」と言うタイトルで原稿を書いていただいています(同門会報の中では、教授コーナーとなっています)。血液内科や当科に関心を持っておられる方々にとって、興味ある内容になっていますので、ブログ記事でもアップさせていただきたいと思います。
ブログ記事にすることで、金沢大学第三内科(血液・呼吸器内科)同門の方々のみならず、全国の皆様に読んでいただけるのがメリットではないかと思っています。
さて、今回は1回目です。
【初めに】
2009年8月1日で、先代の松田保名誉教授から旧第三内科を引き継いで丁度10年が経過しました。
通常であれば10年間を振り返って業績集のようなものを用意すべきなのでしょうが、元来大げさなことが嫌いで、後ろ向きの行事に時間を使いたくないという性質(たち)でもありますので、今回も例年通りの形で同門会報誌を皆様にお届けすることにしました。
ただ、このコーナーでは教室運営の問題点や今後の展望を毎年紹介してきたのですが、今年は一応の節目ではありますので、この10年における私自身の研究の歩みを記しておこうと思います。
血液内科グループの研究の柱は、造血幹細胞移植と、再生不良性貧血、骨髄異形成症候群などの骨髄不全ですが、今回は誌面が限られているため、主に骨髄不全に関する研究の歩みを紹介します。現在研究に関わっていない先生方にとっては退屈な文章になってしまうことをお許しください。
【骨髄移植と骨髄不全】
私は第三内科に入局して以来、骨髄移植による難治性血液疾患の治療をライフワークとして来ました。
大学院で研究を始めようとした頃、骨髄移植を成功させるためには、臨床だけでなく、造血の調節機構や、移植されたドナーの免疫担当細胞による抗白血病効果のメカニズムを明らかにすることが重要と考えられていました。
当時は「猫も杓子も造血幹細胞コロニー」という時代でしたので、師匠の原田先生に命じられて免疫担当細胞が造血コロニーに及ぼす影響を調べることになりました。
細胞の培養はそれなりに面白い仕事で、移植片中のコロニー形成細胞を測定することは移植臨床においても重要と考えていたのですが、実際の移植臨床では、採取した造血幹細胞が足りないために移植が成立しないということはほとんどありません。移植片が着かないのは、免疫が関与する拒絶が主な原因です。
また、1986年頃にたまたま見ていた国際実験血液学会の抄録集に、凍結保存しておいた自己の骨髄を体に戻す「自家骨髄移植」という治療の際、解凍した骨髄細胞を培養したところ、造血コロニーが全くできない例が何例かあったが、それを使って移植をしても特に問題は起こらなかったという発表がありました。
結局、ヒトの造血を正確に反映する良いアッセイがない限り、造血幹細胞を研究していても移植臨床には結びつかないと思うようになりました。
(続く)
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 05:59
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血栓性素因の妊娠とヘパリン類:TAT、F1+2、Dダイマー
血栓性素因を有した妊娠女性(妊婦)に対して、ヘパリン類による予防治療が行われることがあります。しかし、そのモニタリング法(凝血学的検査)(参考:血液凝固検査入門(図解))に関しては、一定の見解がないのが現状です。
血栓性素因を有した妊婦に対して低分子ヘパリンであるダルテパリン(商品名:フラグミン)を投与し、TAT、F1+2、Dダイマー、抗Xa活性の変動を検討した報告がありますので、紹介させていただきます。
Thromb Haemost 98: 163-171, 2007.
対象:
血栓性素因を有した妊婦で、Factor V Leiden、Prothrombin G20210A、先天性アンチトロンビン(AT)欠損症、先天性プロテインC(PC)欠損症、先天性プロテインS(PS)欠損症、抗リン脂質抗体症候群(抗カルジオリピン抗体 IgG or IgM、ループスアンチコアグラント、抗β2GPI抗体IgG or IgM)と言った血栓性素因を有した症例です。
また、いずれも妊娠合併症の既往がある症例です。
比較群:
低分子ヘパリン投与群では、ダルテパリン(フラグミン)を、20週までは5,000単位/日、その後37週(または出産時)までは5,000単位×2回/日が投与されています(39例)。
もう一方の群では、治療介入されていません(46例)。
採血のタイミング:
登録時(基礎値)、7〜9日後、20週(低分子ヘパリン投与群での薬物増量直前のタイミング)、36週です。
測定項目:
トロンビン-アンチトロンビン複合体(TAT)、プロトロンビンフラグメント1+2(F1+2)、D-dimer(Dダイマー)、抗Xa活性。
結果:
TAT、F1+2、Dダイマーは、どちらの群においても、全妊娠経過を通して有意に上昇していました。
低分子ヘパリン投与群では、全妊娠経過を通して抗Xa活性が明らかに上昇していました。
しかし、低分子ヘパリン投与によって、TAT、F1+2、Dダイマーのいずれもマーカーとも低下することはありませんでした(これらのマーカーに関して両群間に有意差はありませんでした)。
結論:
血栓性素因を有する妊婦に対して低分子ヘパリンを投与しても、少なくとも今回の投与方法では凝固活性化を抑制しないものと考えられました。
管理人による補足:
なおこの論文では結果の絶対値に関しましては特に強調されていませんが、妊娠36週の時点で、TATの中央値は両群とも9〜10ng/mL程度(正常値<3〜4 ng/mL)、F1+2の中央値は両群とも700 pM程度(正常値50〜170 pM程度)になっています。やはり、F1+2の上昇の方が目立つようです。
管理人の感想:
今後とも血栓性素因を有した妊婦に対するヘパリン類の投与症例は増加していくのではないかと思いますが、そのモニタリングをどうすれば良いのかに関しては重要な研究課題ではないかと思っています。
関連記事:
妊娠とTAT、F1+2
妊娠と凝固活性化状態:プロトロンビンフラグメント1+2(F1+2)
【リンク】
血液凝固検査入門(図解シリーズ)へ
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:25
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金沢免疫アレルギー研究会
第10回 金沢免疫アレルギー研究会のご案内(敬称略)
代表世話人 竹原 和彦
日時:平成22年3月8日(月) 19:00〜21:00
場所:ホテル日航金沢 3階 孔雀の間
製品紹介 19:00〜19:10
「 パリエット 最近の話題 」 エーザイ株式会社
開会の挨拶
金沢大学大学院医学系研究科 皮膚科学 准教授 藤本 学
一般演題 19:15〜19:50
一般演題1
座長 金沢大学大学院医学系研究科 皮膚科学 講師 長谷川 稔
「 IgE抗体を用いた皮膚アルサス反応による好酸球性血管炎モデルの検討 」
金沢大学大学院医学系研究科 皮膚科学 助教 石井 貴之
一般演題2
座長 金沢大学大学院細胞移植学 血液呼吸器内科 助教 片山 伸幸
「 気管支平滑筋収縮による咳嗽 」
金沢大学大学院細胞移植学 血液呼吸器内科 大倉 徳幸
特別講演 20:00〜21:00
座長 金沢大学大学院細胞移植学 血液呼吸器内科 准教授 藤村 政樹
「 C線維を介した生体防御反射 −咳から痒みまで− 」
星薬科大学 薬物治療学教室 教授 亀井 淳三
閉会の挨拶
金沢大学大学院細胞移植学 血液呼吸器内科 教授 中尾 眞二
* 会終了後、情報交換会あり。
* 会費:500円。
共催: 金沢免疫アレルギー研究会/エーザイ株式会社
【シリーズ】 好酸球性下気道疾患
1)概念 & β2-刺激薬の特徴
2)咳喘息
3)アトピー咳嗽 & 非喘息性好酸球性気管支炎
4)咳喘息・アトピー咳嗽・非喘息性好酸球性気管支炎の関係
【関連記事】 咳嗽の診断と治療
1)ガイドライン
2)咳嗽の定義 & 性状
3)急性咳嗽
4)遷延性咳嗽 & 慢性咳嗽
5)咳嗽の発症機序
6)診断フローチャート
7)咳喘息
8)アトピー咳嗽 vs. 咳喘息
9)副鼻腔気管支症候群(SBS)
10) 胃食道逆流症(GERD)
11)慢性咳嗽&ガイドライン
【関連記事】
慢性咳嗽の診療
非小細胞肺癌治療の最前線
肺がんに気づくサイン
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:31
| 研究会・セミナー案内
妊娠とTAT、F1+2
種々の後天性血栓性素因について、凝固活性化マーカーを測定した以前の論文を紹介させていただきます(Thromb Res 93: 71-78, 1999)。
この中でも、正常妊婦の凝固活性化のデータについて注目したいと思います。
関連記事:妊娠と凝固活性化状態:プロトロンビンフラグメント1+2(F1+2)
正常妊婦は、妊婦後期30例について検討されています。
【F1+2】この論文時の正常値は、0.4〜0.8(1.2)nMです。
妊婦後期では、2〜7nMに分布していました。正常の経過であっても、播種性血管内凝固症候群(DIC)レベルにまで上昇することがあるというのは驚くべき結果ではないかと思います。
【TAT】正常値は、<3〜4ng/mLです。
健常人(非妊婦)と比較しますと上昇していますが、2桁(10ng/mL以上)になった妊婦は、1割程度でした。
管理人には、妊娠に伴いTAT、F1+2のいずれも上昇するものの、F1+2の上昇の方が際立っているように感じました。
その原因はよく分かりませんが、ひょっとしたら分子量の違いによるものかも知れません。今後の検討が必用ではないかと思います。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 04:27
| 血栓性疾患
von Willebrand病における予防治療
血友病の治療目標の一つに関節症の進行を阻止することが上げられます。
このために、最近では凝固因子製剤の予防投与が行われるようになり、有効との報告が多数みられるようになってきました。
今回紹介させていただく論文は、凝固因子製剤の予防投与のvon Willebrand病バージョンということになります。
参考:血友病とvon Willebrand病の比較
「von Willebrand病における予防治療の意義」
著者名:Abshire T.
雑誌名: Thromb Res 124 Suppl 1 : S15-19, 2009.
<論文の要旨>
von Willebrand病(VWD)症例の一部では強力な治療を要する重症出血をきたすことがあります。
VWD3型の40%の症例では、関節内出血をきたし血友病性関節症の病態となることが知られています。
また、VWD2A型または2B型の症例では、胃腸出血の繰り返しのためangiodysplasiaをきたす懸念があります。
小児VWDでは、鼻出血(頻回、長い持続のため貧血の原因となります)をきたしやすく、生涯の健康、発育、QOLに悪影響を及ぼします。
これらの症例に対して、VWDを含有した製剤を予防的に輸注することは、出血およびそれに伴う合併症を軽減するのに有用です。
臨床試験の結果より、予防投与は、VWD3型および一部のVWD 1または2型に対して有効であると考えられています。
The VWD International Prophylaxis (VIP) trialが進行中であり、この結果がまとまれば、どのタイプのVWDに対して予防投与が有用であるか明らかになるものと考えられます。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 05:06
| 出血性疾患
血栓止血の臨床(研修医のために):凝固製剤の適応と使用法
血栓止血学会では、血栓止血の臨床(研修医のために)のシリーズが学会誌およびHPで掲載されています。
学会員でなくても、HPからフリーでダウンロードすることが可能です。もし、まだアクセスされていない方がおられましたら、是非一度アクセスしていただければと思います。超お薦めではないかと思います。血栓止血の臨床(研修医のために)
今回は、このシリーズからの論文を紹介させていただきたいと思います。
関連記事:止血剤
「Factor VIIa製剤:血栓止血の臨床-研修医のために-(凝固製剤の適応と使用法)」
著者名:桑原光弘、他。
雑誌名:日本血栓止血学会誌 20: 571-573, 2009.
<論文の要旨>
遺伝子組換え活性型第VII因子製剤(rFVIIa:商品名ノボセブン)は、インヒビターを保有する先天性血友病および後天性血友病患者に対する遺伝子組換えバイパス製剤です。
rFVIIa単独では止血反応は開始されず、組織因子との複合体形成により、あるいは活性化血小板膜上で止血反応が可能となります(血管損傷部位特異的な止血作用です)。
実際の投与方法は、rFVIIa 90μg/kg(60〜120μg/kg)を2〜3時間ごとに繰り返し静脈注射します(出血の重篤度により、投与方法を調整します)。rFVIIaは既往免疫反応(anamnestic response)によるインヒビター力価上昇を認めません。
rFVIIaは以上のような利点をもちますが、現行の製剤では効果を示さない症例も存在します。また、止血完了まで繰り返し静脈内投与が必要であるという利便上の問題も残っています。
これらのrFVIIaの欠点を克服するため、より止血作用に優れた製剤や、血中半減期を長くした製剤を、現在複数のメーカーが開発中です。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 02:25
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妊娠と凝固活性化状態:プロトロンビンフラグメント1+2(F1+2)
妊娠経過に伴い(妊婦では)、凝固亢進(あるいは凝固活性化、止血能亢進)状態になることは良く知られています。
これは出産に伴う出血に対しての生体防御反応(出産時の出血に対する備え)としての意味合いを有しているものと解釈されています。
換言しますと、妊娠に伴い誰でも凝固亢進(あるいは凝固活性化)状態になりますので、データの解釈に注意が必要です。
以下は最近報告されたThromb Haemost誌のletter論文です。管理人はこの論文の主旨とは別の点で興味を持ちました。それは、妊娠経過に伴う凝血学的マーカーの推移です。
Endogenous thrombin potential, prothrombin fragment 1+2 and D-dimers during pregnancy.
著者名:Dargaud Y, et al.
雑誌名:Thromb Haemost 103(2): 469-71, 2010.
以下の記載内容はこの論文の主旨とは異なりますが、管理人が興味を持った部分です。
【妊娠経過とともに上昇する凝固因子】
第VII因子、第VIII因子、フィブリノゲン
(この論文では触れられていませんでしたが、von Willebrand因子も妊娠経過と共に上昇することが知られています)
一方、第II・V・IX・X・XI因子、アンチトロンビン(AT)には有意な変動はありませんでした。
【妊娠経過とともに上昇する凝固活性化マーカー】
プロトロンビンフラグメント1+2(F1+2)(正常値0.45〜1.2 nM)
(この論文での測定キットは、以前のもののようです。今のキットでの正常値は、50〜170 pMくらいです)
妊娠前期:1.5 nM前後
妊娠中期:3.5 nM前後
妊娠後期:5.5 nM前後(仮にF1+2の正常値を0.55nMとしますと、何と10倍にまで上昇していることになります)
管理人の施設でも、以前はF1+2の正常値0.45〜1.2(0.4〜0.8)のキットを使用していましたが、3〜5 nM以上というのは、播種性血管内凝固症候群(DIC)レベルです。
妊娠女性で測定したF1+2の成績をそのまま鵜呑みにしますと、妊娠後期では究極の血栓症とも言えるDICに匹敵する位の凝固活性化があるということになってしまします。
妊婦でのF1+2は、母体における凝固活性化状態を正確に見ているのではなく、他の要素によっても変動しているのかも知れません。
なお、この論文では、トロンビン-アンチトロンビン複合体(TAT)や可溶性フィブリン(SF)の成績は掲載されていませんでしたが、やはり興味のあるところです。できれば、後日この点に関しましても記事にできればと思っています。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 04:52
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ノボセブン(活性型第VII因子製剤)とガイドライン
ノボセブン(遺伝子組換え活性型第VII因子製剤:recombinant Factor VIIa、rFVIIa)は、先天性血友病Aの合併症である第VIII因子インヒビターや後天性血友病に対する適応を有した治療薬です。
しかし、止血剤としての効果が抜群であるために、世界的に適応外使用がなされています。
適応外使用に対してガイドラインを作成するというのも変な話ですが、そのような論文が最近報告されました。より良い、ガイドラインが必要と論じています。
「遺伝子組換え活性型第VII因子製剤の適応外使用に関するガイドラインについて」
著者名:Willis CD, et al.
雑誌名:J Thromb Haemost 7: 2016-2022, 2009.
<論文の要旨>
遺伝子組換え活性型第VII因子製剤(rFVIIa)は、致命的出血に対して適応外使用される機会が増加しているため、ガイドラインの存在が必要と思われます。適応外使用の結果としてどのような転帰となるかは、あまり知られていません。
著者らは、Haemostasis Registry(オーストラリアとニュージランドにおける参加医療機関より、rFVIIaが適応外使用されると全て登録されます)よりデータを抽出しました。
参加医療機関は、rFVIIaの適応外使用に関する院内ガイドラインの提出を求められました。院内ガイドラインに完全に準拠した症例と、1つ以上の項目で準拠違反のある症例が比較されました。
75施設2,551症例の解析が可能でした。これらの施設のうち58施設ではガイドラインが提出されました。
ガイドライン準拠症例(n=530)と、非準拠症例(n=1,035)との間で、年齢、投与量、性別に差はみられませんでした。
ガイドライン準拠の有無と、28日後の予後との間には相関はみらませんでした。
以上、rFVIIaは、ガイドラインに準拠せずに使用されることが少なくないことが明らかになりました。
また、ガイドライン準拠の有無と予後との間に関連がなかったことより、より精錬されたガイドラインが求められているものと考えられました。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:46
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HCV/HIV重複感染血友病とペグ化IFN&リバビリン併用療法
血友病における問題点の一つとして、HIV感染症やHCV感染症があります。
また、HIVとHCV両者の重複感染も少なくありません。今回紹介させていただく論文は、この重複感染症への対応を論じています。
「HCV/HIV重複感染の血友病に対するペグ化インターフェロン&リバビリン併用療法」
著者名:Mancuso ME, et al.
雑誌名:J Thromb Haemost 7: 1997-2005, 2009.
<論文の要旨>
C型肝炎ウイルス(HCV)による慢性肝炎は、HIVも重複感染することで末期肝疾患(end-stage liver disease : ESLD)への進行が早まることが知られています。HCV/HIV重複感染の血友病患者でも例外ではありません。
ペグ化インターファロン(Peg-IFN)とリバビリン(Rbv)の併用療法は、HCVを死滅させて肝疾患の進行を阻止する唯一の方法ですが、HIVとの重複感染例では効果が減弱する懸念が指摘されています。
著者らは、HCV/HIV重複感染の成人血友病34例(抗ウイルス療法の前治療なし)を対象に、Peg-IFNα2aとRbvの併用療法の有用性を検討しました。
Peg-IFNα2aは180μg/週皮下注し、Rbvは1,000〜1,200mg/日で、48週間継続しました。
1例(3%)を除く全例で治療を完結できました。
15例(44%)ではウイルス学的に反応しました。13例(38%)ではいずれかの薬物の減量が必要でした。
急速なウイルス学的反応(4週後にHCV-RNAが陰性化)、硬変像がないことが、治療が有効となるための独立した条件でした。
有効例では、治療後3年間の追跡により、CD4陽性細胞の上昇、CD4/8比の上昇が確認されました。
以上、HCV/HIV重複感染した血友病患者に対して、抗HCV療法は有用と考えられました。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 03:53
| 医学全般
von Willebrand病と過多月経
von Willebrand病は、血友病と並んで有名な、先天性出血性疾患です(血友病とvon Willebrand病の比較)。鼻出血などの粘膜出血が特徴です。検査所見では、出血時間の延長、APTTの延長などがみられます。
管理人も何人かのvon Willebrand病の患者さんの診療にあたっていますが、von Willebrand因子活性が10%未満に著減している方でも、全くと言って良いほど日常生活で出血はみられません。
例えば、出産時大出血の原因精査を行って本疾患の診断がなされた方がおられますが、出産のその時までほとんど出血症状は見られませんでしたし、今もほとんど出血症状はありません。
このように、本疾患であるにもかかわらず診断のなされていない、いわゆる隠れvon Willebrand病の方が少なくないのではないかと思っています。
女性特有の出血症状とvon Willebrand病の関係を論じた報告がありましたので、紹介させていただきます。
「女性におけるvon Willebrand病の特徴と診断」
著者名:James AH.
雑誌名:Thromb Res 124 Suppl 1 : S7-10, 2009.
<論文の要旨>
遺伝形式を考慮しますと、von Willebrand病(vWD)は男女同数発症するはずです。しかし、臨床的には男性よりも女性の方が診断される症例数が多いことが知られています。
この理由としては、女性のvWDでは過多月経や出産時出血と言った症状が見られることがあるからです。過多月経は、vWDにおいて最も見られやすい症状の一つで、過多月経を契機にvWDと診断されることは多いです。
その他の産婦人科領域の出血症状としては、出血性卵巣嚢胞、子宮内膜症、出産後出血などが知られています。
過多月経の原因としてvWDがありうることに関しては、産婦人科医を含む臨床医においてあまり知られていないのが現状ではないかと思います。しかし、簡単なスクリーニング検査でvWDの可能性をチェックすることができますので、今後の啓蒙が必要と思われます。
過多月経に対しては、正しい知識のもとに初めて適切な薬物療法や外科治療を行うことが可能です。
また、手術時や出産時において適切な補充療法を行うことで、出血の合併症を阻止することが可能です。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:14
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遺伝子組換え活性型第VII因子製剤(ノボセブン)と血栓症
遺伝子組換え活性型第VII因子製剤(rFVIIa:商品名 ノボセブン)は、第VIII因子インヒビター(先天性血友病Aの合併症、後天性血友病)に対する適応を有した治療薬です。
この薬剤は止血効果が極めて優れているために、世界的に適応外使用がなされているのが現状です。究極の止血剤と言えるかも知れません。ただし、すぐれた効果を有しているものの、副作用は皆無という訳ではありません。
今回紹介させていただく論文は、遺伝子組換え活性型第VII因子製剤の合併症についての報告です。
「脳内出血に対するrFVIIaの投与と血栓塞栓症」
著者名:Diringer MN, et al.
雑誌名: Stroke 41: 48-53, 2009.
<論文の要旨>
脳内出血をきたした症例は、高齢、高血圧症、動脈硬化、糖尿病、臥床状態などの血栓塞栓症(TE)発症のリスクも有していることが多いのが特徴です。そのため、遺伝子組換え活性型第VII因子製剤(rFVIIa)は、TEを増加させる懸念もあります。
著者らは、rFVIIaによるTE発症頻度およびTE発症危険因子を明らかにするためFactor Seven for Acute Hemorrhage Stroke (FAST)トライアルのデータを解析しました。
脳内出血発症3時間未満の84症例が、rFVIIa 20μg/kg投与群、rFVIIa 80μg/kg投与群、プラセボ投与群に分類されました。心筋梗塞、脳梗塞、静脈TEに関しては詳細に評価されました。
その結果、動脈血栓症178例、静脈TE 47例が存在しました。静脈TEの発症頻度は3群間に差は見られませんでした。
一方、動脈血栓症はプラセボ投与群49例(27%)、rFVIIa 20μg/kg群47例(26%)、rFVIIa 80μg/kg群82例(46%)でした。心筋梗塞は、プラセボ群17例(6.3%)、rFVIIa 群57例(9.9%)にみられました。
動脈TEは、rFVIIa 80μg/kg投与(OR=2.14)、入院時の心&脳虚血徴候の存在(OR=4.19)、高齢(OR=1.14)、抗血小板薬の使用(OR=1.83)と関連していました。脳梗塞は各群それぞれ7、5、8症例みられました。
以上、リスクの高い患者に対する高用量rFVIIa の投与は、若干心筋梗塞発症を増やすものと考えられました。
また、脳出血に対するrFVIIa の投与は脳内出血量に対して抑制的に働くメリットの一方で、動脈TEが若干増加することに留意が必要と考えられました。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 05:49
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内分泌疾患における凝固線溶異常:後天性vWDなど
血友病やvon Willebrand病と言えば、通常は先天性出血性素因の代表的疾患ですが、実は後天性血友病や後天性von Willebrand病も知られており、最近何かと話題です。
また、内分泌疾患の中には、血栓止血異常をきたす疾患があることが知られています。
最近の論文を紹介させていただきたいと思います。
「内分泌疾患における凝固線溶異常」
著者名:Targher G, et al.
雑誌名:Semin Thromb Hemost 35: 605-612, 2009.
<論文の要旨>
多嚢胞性卵巣症候群、クッシング症候群、甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症、原発性副甲状腺機能亢進症、巨人症、下垂体前葉機能低下症、成長ホルモン分泌不全症においては、凝固線溶異常がみられることが知られています。
今後の詳細な検討は必要であるものの、臨床症状が明確な甲状腺機能低下症においては出血傾向をきたすようです。一方、その他の内分泌疾患においては血栓傾向となります。これらの内分泌疾患における凝固線溶異常は通常軽度〜中等度であるが、まれに高度である場合があります。
特に、顕性の甲状腺機能低下症における出血症状の原因は、主として後天性von Willebrand病(vWD)(1型)の病態となることが知られており、甲状腺ホルモンによる補充療法を行うとこの病態は改善します。上記の内分泌疾患で、時に高度な凝固異常を合併することを理解しておくことは、適切に対応する上でも重要と考えられます。
【参考】
後天性vWDの原因
・ 多発性骨髄腫、単クローン性ガンマグロブリン血症
・ リンパ腫
・ 骨髄増殖性疾患(ET、PV)
・ ウイルムス腫瘍
・ 先天性心疾患
・ 尿毒症
・ 甲状腺機能低下症
・ 薬物(バルプロ酸)
・ SLE など。
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| 出血性疾患
異常フィブリノゲン血症:出血と血栓症の共存
最近の記事でも、出血と血栓症の両者が共存する病態の治療は難しいと書かせていただきました。
ベクトルが180度反対方向に向いている病態が共存している訳ですから、一方の治療をしようとしますと、もう一方の病態には悪影響になる訳です。
出血と血栓症の両者が共存する病態の代表的なものとしては下記があります。
出血と血栓症の共存
1)播種性血管内凝固症候群(DIC)
2)特発性血管内凝固症候群(ITP)と抗リン脂質抗体症候群(APS)の合併
3)TTP、HUS、HELLP
4)電撃性紫斑病
5)その他
上記の他に、異常フィブリノゲン血症も、出血と血栓症の両者が共存する病態として知られています。
今回は、この疾患の最近の論文を紹介させていただきたいと思います。
「先天性異常フィブリノゲン血症の臨床症状と5種類の構造異常」
著者名:Miesbach W, et al.
雑誌名:Blood Coagul Fibrinolysis 21: 35-40, 2010.
<論文の要旨>
先天性異常フィブリノゲン血症はまれな凝固異常で、フィブリノゲン3遺伝のうち少なくとも1ヶ所で変異がみられます。
著者らは、12家系37例についての検討を行っています。
まず5種類の遺伝子異常が確認されました(αR16C、γA357T、γ318-319del、γM310T、αR16S)。年齢の中央値は51歳(11−86)でした。女性62%のうち、3例(13%)では1回以上の自然流産を経験していました。50%以上の症例では、1回以上の高度な出血を経験していました。
また、19%の症例(9/37症例;全員50歳以上)では、1回以上の動脈または静脈血栓症の既往がありました。血栓症の既往のある症例のうち、2例(7%)は深部静脈血栓症で、7例は動脈血栓症で、5例(14%)は両方でした。
凝血学的所見では、APTTよりもPT延長の方が高頻度にみられました。
このことは、フィブリノゲンの重合遅延と関連しているのかも知れません(APTTの測定系ではカルシウム添加前に接触相を活性化を行うため影響がみられにくいのです)。
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アスパラギナーゼ投与と中枢神経系の血栓症
関連記事:L-アスパラギナーゼ(ロイナーゼ)と血栓症、DIC
L-アスパラギナーゼ(ASP)は、急性リンパ性白血病などのリンパ性悪性腫瘍に対して使われる抗腫瘍剤です。
この薬剤の使用にあたって使用すべき点は、凝固因子活性(フィブリノゲンなど)が低下して出血しやすくなる一方で、凝固阻止因子(アンチトロンビンなど)も低下して血栓症も発症しやすくなる点です。
この点に関する論文は今までもありましたが、最近Blood誌に報告がありましたので、紹介させていただきます。
「ALLに対するアスパラギナーゼ投与とCNS血栓症&出血—FFPとクリオプレチピラートの効果—」
著者名:Lesleigh S, et al.
雑誌名:Blood 114: 5146-5151, 2009
<論文の要旨>
L-アスパラギナーゼ(ASP)を投与しますと、アンチトロンビン(AT)やフィブリノゲン(Fbg)が低下することが知られています。その結果、中枢神経系での血栓症(CNST)や出血をきたすことがあります。
Izaak Walton Killam Health Centre(IWK)では、ASP投与患者ではATとFbgの測定が行われており、血栓症や出血予防目的に新鮮凍結血漿またはクリオプレチピラート(CRY)による補充が行われています。
この治療法が、急性リンパ性白血病(ALL)症例にASPを投与した場合の上記合併症を予防するかどうか検討するために、予防治療が行われていないBC Childrens Hospital(BCCH)での症例と比較しました。
1990〜2005年で、IWKにおける240症例(FFPは37%、CRYは68%に投与されていました)、BCCHにおける479症例が対象となりました。
その結果、BCCHの7症例(1.5%)が静脈系CNSTを発症していましたが、IWKでは0症例でした(しかし、推計学的にFFPやCRYの効果は証明されませんでした)。
CNSTは、全て寛解導入療法中に発症しました。6症例では抗凝固療法下にASPが継続されました。全7症例は、寛解導入されました。血栓症発症の危険因子は、NCIクライテリアの高リスクALLであることのみであり、性、年齢、人種、BMIは無関係でした。
FFPもCRYもCNSTを有意に阻止しなかったため、予防治療を全ALL症例に対して投与することは推められないものと考えられました。
ただし、ALL高リスク症例における寛解導入療法時に補充療法を行うことは有用かも知れないと総括しています。
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ブログと先天性凝固異常症(3):金沢大学血液・呼吸器内科
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先天性凝固異常症とブログ(2):金沢大学血液・呼吸器内科 より続く
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5)問題点:
ブログの気軽さからか、“遺伝子解析“という倫理的な側面を有する検査を安易にお考えの先生方も時にいらっしゃいます。
検査のご説明をいたしますとハードルの高さに気付かれ、それっきり返答されてこなくなることもあるのです(ちょっと淋しいのですが)。
最近は、ネット上で某化粧品メーカーが ”肥満遺伝子の解析“ なんていうのも気軽にやっており、私共の行っている遺伝子解析も、同様と考えられているのかも知れません。
やはり、倫理的指針もご理解いただき、面倒くさくても諸手続きを踏んで検査を依頼して頂ければと願っています。
6)まとめ:
ブログを通じて見えてくることは、先天性凝固異常症の患者さん達は、必ずしも大規模な病院の血液内科に通院しているわけではなく、多くの領域の先生方が大変なご苦労のもと、その治療にあたっているという事実です。
そしてそこから感じられるものは、主治医の先生方が一生懸命に患者さんや家族と向き合い、なんとかいい方向にもっていきたいという熱い思いです。
私共といたしましては、こういった先生方の熱き思いに応えるためにも、適切なアドバイスや情報を(ブログを通じて)提供できるよう努力していきたいと考えております。
今後さらに、よりよい医療を患者さん方に提供するために、多くの先生方がこのブログを活用されることを願ってやみません。
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3)依頼される先生方の病院の規模:
先にも述べましたが、大学病院から、市中病院、そして個人医院の先生と、多岐に渡ります。
個人医院の先生も気軽にアクセスできる。これもブログの魅力です。
4)相談・依頼内容:
一番多いのが確定診断を目的とした遺伝子解析ですが、相談内容は妊婦のPS低下症例への対応から、ワルファリンの使い方、遺伝子異常保因者の家族への対応、などなど。
容易に返答できるものから、それは私たちも教えてほしい(無症状の血栓性素因保因者小児のワルファリン使用の有無、開始時期など)というものまで様々です。
ご相談の回答をするようになって、私共にとっては常識であっても、多くの先生方にまだ周知されていない情報や、誤って解釈されている情報があることに気づきました。
学会や専門家が集まる研究会では,決して触れることができない、臨床現場の一面を実感する瞬間です。
そんな相談内容に遭遇した時は、血栓止血学が幅広く浸透していくことを希望しながら、誠心誠意回答させていただいています。
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私たちのブログを通して、先天性凝固異常症(先天性血栓性素因ほか)の遺伝子解析の依頼がまいります。
その数は月平均2—3件に上り、依頼されてくる先生方は大学病院の先生方から市中病院の先生方、個人医院の先生までいらっしゃり、幅広く私共のブログが読まれていることを実感いたします。
「ブログから見えるわが国の先天性凝固異常症の実態」について、記事にしておきたいと思います。
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1)依頼疾患:
圧倒的に多い依頼がPS欠損症で、あとはPC欠損とAT欠損症が同数程度と続きます。
これは、まさに日本人にPS欠損症が多いことを反映しています。
凝固因子欠損症に関しては、血友病の研究で著名な大学が他にいくつかあることも関連しますが、当科における血友病の依頼は極めて少なく、むしろプロトロンビン欠損・異常症,第X因子欠損症とか、かなり稀な疾患に偏っています。
2)依頼される先生方の所属診療科:
血液内科だけに限らず、非常に多岐に渡ります。
つまり、発症した症状に則した専門医が患者さんを診療していますので、脳静脈洞血栓症例では脳外科や神経内科が、腸間膜静脈血栓では消化器外科、門脈血栓では消化器内科、肺塞栓では呼吸器内科、新生児の頭蓋内出血では小児科、と多くの診療科の先生方から依頼がきます。
最近は、産科の先生方からの依頼が急増しており、妊娠中の下肢深部静脈血栓や不育症の原因精査として、PS欠損症の依頼が多くあります。
こういった止血・血栓を専門とされない先生方が、インターネットで疾患について検索しているうちにこのブログにたどりつきアクセスしてくる。これぞブログの威力ではないでしょうか。
(続く)
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血友病に対する抗血栓療法
出血と血栓症は、相反する病態です。
この相反する病態が共存する場合がありますが、この際の治療は大変に難かしいです。
出血の治療を行おうとしますと血栓症にはマイナスに作用しやすくなりますし、血栓症の治療を行おうとしますと出血にはマイナスに作用しやすくなるからです。
出血と血栓症の共存
1)播種性血管内凝固症候群(DIC)
2)特発性血管内凝固症候群(ITP)と抗リン脂質抗体症候群(APS)の合併
3)TTP、HUS、HELLP
4)電撃性紫斑病
5)その他
血友病においては、適切な補充療法によりQOL、予後は大きく改善しました。
それに伴い、血友病の患者さんが血栓性疾患(脳梗塞、心筋梗塞など)に罹患されて、その加療(抗血栓療法)が必要になる場合が増えてきました。
血友病と血栓性疾患の合併は、まさに出血性疾患と血栓性疾患の共存ということになります。
最近、Blood誌に、このテーマをとりあげた論文が出ましたので、紹介させていただきたいと思います。
「高齢者血友病における加齢関連疾患の治療」
著者名:Mannucci PM, et al.
雑誌名:Blood 114: 5256-5263, 2009
<論文の要旨>
血液凝固因子製剤による定期的な補充療法が可能な国においては、血友病の平均寿命は一般男性に近付いてきています。
そのため血友病治療センターにおける次の目標は、高齢者においても適切な健康管理を行うことです。
高齢者では血友病と関連した病床(関節症、慢性疼痛、製剤由来感染症)のみでなく、心血管疾患や悪性腫瘍などの加齢と関連した疾患も問題となります。
心血管疾患では抗血栓療法が必要になることがあり、それに伴ない血友病の止血能を更に悪化させる可能性がありますが、証拠に基づいた治療ガイドラインはなく、経験的に補充療法の強化が行われているのが現状です。
現時点では、高齢者血友病患者が他の疾患に羅漢した場合には、非血友病患者と同様の治療がなされるべきと考えられます。
ただし、観血的治療が必要になった場合や止血能を低下させる薬物が投与させる場合には、補充療法を強化する必要があります。
さらに、急性冠症候群や非弁膜症性心房細動のような心血管疾患に取り組むためには、より詳細な補充療法スケジュールを考慮する必要があります。
血友病症例における抗血栓療法を真剣に考慮する必要がある時代になったということは、それくらいに、血友病の止血コントロールが適切に行われるようになってきているということではないかと思います。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 05:01
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不応性ITPに対する免疫抑制薬の併用療法(治療法)
特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の治療は、ピロリ菌の除菌療法も治療選択肢に加わったことで、たとえば10年前と比較して治療しやすくなったのではないかと思います。
しかし、現在においても難治性の症例が少なくないのも事実で、さらなる治療法の改善、工夫が求められています。最近のBlood誌に、不応性のITP症例に対する免疫抑制薬の併用療法の報告が出ましたので、紹介させていただきたいと思います。
「不応性の特発性血小板減少性紫斑病に対する免疫抑制薬の併用療法」
著者名:Donald M, et al.
雑誌名:Blood 115: 29-31, 2010.
<論文の要旨>
不応性の慢性特発性血小板減少性紫斑病(ITP)に対する治療選択肢は限られています。
著者らは、ITPやその他の疾患に対して、免疫抑制薬を併用して投与する治療は有効かもしれないとの考えから、特に重症で不応性のITP症例を対象に検討しています。
検討症例はITP19例で、血小板数3万/μL以上および血小板数が2倍以上になった場合を有効と判断しています。
治療薬は、アザチオブリン、ミコフェノール酸モフェチル(Mycophenolate mofetil)、サイクロスポリンです。これらの症例は、種々の前治療が中央値6回行われていました(1例を除いて摘脾術も行われていました)。
19症例中14例(73.7%)では治療効果がみられ、中央値24ヶ月効果が持続しました。ただし、8例(57.1%)ではその後再燃しました。再燃した8例のうち6例では治療の追加により反応がみられました。1回目の治療で反応のみられた14例のうち、2例(14.3%)では全ての投薬を中止した後も寛解を維持しました。
重篤な副作用はみられませんでした。
以上、不応性ITPに対する免疫抑制薬の併用療法は、血小板数を上昇させる上で有効(時に効果が持続)と考えられました。
いろいろな疾患において併用療法が行われていますが、ITPに対して免疫抑制療法を併用したという観点から、新鮮に感じる治療法ではないかと思います。
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