金沢大学 血液・移植研究グループ紹介(1):臨床研究
金沢大学血液内科・呼吸器内科(第三内科)の臨床・研究・教育内容を、シリーズで順に紹介させていただきたいと思います。
内容は、金沢大学第三内科同門会誌(平成20年度版)の内容を、改変してお届けしたいと思います。
当科への入局や、当科および当科の関連病院での臨床研修を検討されている皆様の御参考となれば幸いです(参考:入局者募集)。
まずは、血液・移植研究グループからです。
【金沢大学 血液・移植研究グループ】(1)
<臨床研究>
急性白血病(acute leukemia)、慢性骨髄性白血病(chronic myelogenous leukemia:CML)、高危険度骨髄異形性症候群(MDS)は、主に日本成人白血病研究グループ(Japan Adult Leukemia Study Group :JALSG)の臨床研究に参加し、治療を行っています。
急性前骨髄球性白血病(acute promyelocytic leukemia:APL)を除くAML(acute myelogenous leukemia:AML)は、成人例および高齢者とも、現在抗CD33抗体(gemtuzumab ozogamicin)を寛解導入療法に併用する臨床研究が、 JALSGで検討され、第I相臨床試験が始まりました。
CMLでは、imatinib抵抗例でのBCR-ABL遺伝子の変異解析、慢性期CMLに対するimatinibの標準的増量法と積極的増量法のランダム化比較第III相臨床試験(CML207)が行われています。
APL(参考記事:APLとDIC)では、維持療法でのレチノイン酸と合成レチノイン酸であるtamibarotene(Am80)との比較試験(APL204)や再発APLに対する亜ヒ酸による寛解導入療法(APL205R)が行われています。
悪性リンパ腫(malignant lymphoma)に対しては、地域医学研究基金の予後不良DLBCLに対するupfrontの自家造血幹細胞移植併用大量化学療法の研究(NHL04)に参加しています(参考記事:1・2)。
(続く)
骨髄不全:金沢大学 血液・移植研究グループ紹介(2)へ
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研修医・入局者募集
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 05:31
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金沢大学病院での研修〜カンファレンス〜:後期研修医の独り言(1)
【大学病院での研修〜カンファレンスについて思う〜】
このたび不定期に後期研修医Hの独り言を連載することになりました。よろしくお願い致します。
金沢大学病院(血液内科・呼吸器内科)での後期研修を開始して早一ヶ月が経とうとしています。
初期研修は一般病院で行っていた事もあり、一般病院との様々な違いを実感することの多い一ヶ月でした。
まず感じた事は受け持ち患者の数が違います。
一般病院ではどうしても受け持ち患者の数が多くなりがちです。
多数の患者を受け持つ分、その中でどの症例をまず診る必要があるか、重症度・緊急性を判断する能力がまず問われます。またその患者において何がmain problemなのかを考えるトレーニングを日々行う事になります。
一方、大学病院の研修では受け持ち患者はそう多くはありません。
ただし診断や治療方針を決定するのが困難な症例や、様々な合併症をかかえており集学的な医療を必要とする症例が多く、一人一人の患者の様々なproblemをきっちりとassessmentする能力が問われます。
それを端的に表現したのがカンファレンスです。
一般病院のカンファレンスはその人の病状の説明をいかにクリアカットにプレゼンし、治療方針を確認するために行われます。一人当たりにかける時間はそう長いものではありません。
それに対して大学病院のカンファレンスは1例1例を、しっかりdissucussionしていきます。これまでの経過・現状・今後の治療方針を全員で確認していきます。
また学生・初期研修医・後期研修医・医員・指導教官と様々な立場の人が参加するため色んな立場からの意見が飛び交います。
時には学生の投げ掛けた素朴な質問が指導教官たちを悩ませる事もあります。
そういう意味では大学病院での研修は非常に基本に忠実で、一般病院で初期研修を受けた自分にとってはある種の衝撃を受けています。
初心忘るべからず。
次回は、金沢大学病院での研修(外勤と地域医療について思う)を記事にしたいと思っています。
(続く)
金沢大学病院での研修〜この4カ月間〜:後期研修医の独り言(2)へ
【関連記事】
金沢大学 血液内科・呼吸器内科(研修医):一言お願いします!
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:19
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臨床腫瘍学会体験記:金沢大学血液・呼吸器内科(第三内科)より
平成21年3月20日から21日にかけて、名古屋国際会議場にて第7回日本臨床腫瘍学会学術総会が開かれました。
日本臨床腫瘍学会は、2002年に設立されたばかりの歴史の浅い学会ですが、癌診療に関わる様々な人が入会しており、すでに会員が7,000人を超える大きな学会になっています。
以前に、専門医試験対策が掲載されましたが(日本臨床腫瘍学会専門医認定試験の対策(重点記事))その専門医を認定している親学会となります。
今回の学術集会で、金沢大学 血液内科・呼吸器内科(今回は呼吸器内科)から2演題の発表があり、そのうち1題は、口演発表で採択されました。口演発表のセッションは約300人+立ち見で超満員の中で行われたのですが、発表者は非常に緊張している姿が写真で伝わるでしょうか?
金沢大学第三内科ブログでは、造血細胞移植学会(第31回日本造血細胞移植学会総会(札幌))のような楽しそうな学会関連写真も掲載されています。蛇足ながら、 日本臨床腫瘍学会の後にも、参加者同士で、名古屋コーチンを食べ歩いたことも報告しておきたいと思います。
【関連記事】
非小細胞肺癌治療の最前線
肺がんに気づくサイン
慢性咳嗽の診療
【リンク】
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第7回日本臨床腫瘍学会学術集会HP
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:18
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トランサミン(5):APL、ATRA、副作用(血栓症)
トランサミン(4):線溶亢進型DICに対して から続く
【APL合併DICに対するトラネキサム酸投与の是非】
<APLと線溶亢進型DIC>
急性前骨髄球性白血病(acute promyelocytic leukemia:APL)は、典型的な線溶亢進型DICを発症します。DICに対して適切な治療が行われませんと、脳出血を含め、致命的な出血をきたすことがあります。
<APLとATRA>
急性白血病の中でも、APLに合併したDICの特殊性として、all-trans retinoic acid(ATRA)による治療が行われることがあります。ATRAは、APLの分化誘導としても有効であるが、APLに合併したDICに対してもしばしば著効します。しかも、APLの分化誘導に成功するよりも遥かに早く、DICの改善傾向をもたらすことも多いです(1〜2日くらいのこともあります)。これに伴い、出血症状も速やかに消退することがしばしば経験されます。
<APLにおける線溶亢進型DICの発症機序>
APLにおいてDICを発症する原因は、他の急性白血病と同様に、白血病細胞中に含有されている組織因子(tissue factor:TF)による外因系凝固機序の活性化と考えられています。
さらに、APLにおいて線溶亢進型DICを合併する理由は、APL細胞に存在するアネキシンIIの果たす役割が大きいと考えられています(関連記事)。アネキシンIIは、t-PAと、プラスミノゲンの両線溶因子と結合することが可能ですが、このことで、t-PAによるプラスミノゲンの活性化能が飛躍的に高まることが知られています。
<ATRAによるDICの変貌>
大変興味深いことに、APLに対してATRAを投与しますと、APL細胞中のTFが抑制されることに加えて、上記のアネキシンIIの発現も強力に抑制されることが知られています。このために凝固活性化と線溶活性化に同時に抑制がかかり、APLのDICは速やかに改善するものと考えられています。
ただし、ATRAによるアネキシンII発現の抑制は相当に強力であるらしく、APLの著しい線溶活性化の性格は速やかに消失します。APLの線溶亢進型DICの性格は、線溶抑制型DICに変貌します。
<ATRA投与時にはトランサミンは禁忌>
APLに対してATRAを投与している場合に、トラネキサム酸(商品名:トランサミン)を投与すると全身性血栓症や突然死の報告が多数みられます。
APLに対してATRAを投与している場合には、トラネキサム酸は絶対禁忌です。
(シリーズ完結)
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DIC関連記事 (病態・診断・治療)
NETセミナー:DICの病態・診断
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:27
| 出血性疾患
トランサミン(4):線溶亢進型DICに対して
トランサミン(3):有効な病態 から続く
【線溶亢進型DICに対するトラネキサム酸投与の是非】
<DICに対する抗線溶療法の基本的考え方>
まず、DICに対するトラネキサム酸(商品名:トランサミン)などの抗線溶薬の投与は原則禁忌であることを強調しておきたいと思います。
DICにおける線溶活性化は、血栓を溶解しようとする生体の防御反応の側面もありますので、これを抑制することは生体にとって不利益です。実際、DICに対して抗線溶療法を行った場合に、全身性血栓症の発症に伴う死亡例の報告が複数みられています。
特に、敗血症などの重症感染症に合併したDICにおいては、プラスミノゲンアクチベータインヒビター(plasminogen activator inhibitor:PAI)が著増し線溶抑制状態にありますので、多発した微小血栓が残存しやすい病態です。このような病態に対して、抗線溶療法を行うことは理論的にも問題があり、絶対禁忌です。
敗血症症例に対して抗線溶療法を行ったという臨床報告はみられませんが、我々の検討によりますと、敗血症DICと病態が近似したLPS誘発DICモデルに対してトラネキサム酸を投与すると、臓器障害は著しく悪化し死亡率も高くなるという結果を得ています。
<線溶亢進型DICに対する抗線溶療法>
一方、重症の出血症状をきたした線溶亢進型DICに対して、ヘパリン類(ダナパロイド、低分子ヘパリンなど)の併用下にトラネキサム酸を投与しますと、出血症状が劇的に改善することがあるのも事実です。
ただし、線溶亢進型DICに対してトラネキサム酸が許されるのは、以下の条件が全て満たされている時に限定されます。
1) 線溶亢進型DICの病態診断が間違いないこと(以下の表を参照)。
2) 重症出血のコントロールをできずに苦慮していること。
3) 必ずヘパリン類(ダナパロイド、低分子ヘパリンなど)との併用下であること。
4) 専門家に日々コンサルトできる状態にあること(誤った治療法は血栓症の副作用のため致命症になることがあるためです)。
なお、上記の条件を満たさない線溶亢進型DICに対しては、メシル酸ナファモスタット(商品名:フサンなど)の投与が無難です。実際、極めて重症でなければ、メシル酸ナファモスタットは線溶亢進型DICに対して著効いたします(高カリウム血症の副作用には注意)。
表:線溶亢進型DICの病態診断を行うための指針
----------------------------------------------------------------------
1. 必須条件:TAT≧20μg/lかつPIC≧10μg/ml(※)
2. 検査所見:下記のうち2つ以上を満たす
1) FDP≧80μg/ml
2) フィブリノゲン<100mg/dl
3) FDP/DD比の高値(DD/FDP比の低値)
3. 参考所見:下記所見がみられる場合、さらに重症出血症状をきたしやすい。
1) 血小板数低下(<5万/μl)
2) α2PI活性低下(<50% )
----------------------------------------------------------------------
(※)この必須条件を満たす場合は典型例である場合が多い。TATやPICが、上記の7〜8割レベルの上昇であっても、線溶亢進型DICの病態と考えられることもある。
(続く)
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DIC関連記事 (病態・診断・治療)
NETセミナー:DICの病態・診断
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:26
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トランサミン(3):有効な病態と副作用(血尿時、血栓症)
トランサミン(2):作用機序、半減期、保険適応 から続く
【トラネキサム酸が有効な病態】
トラネキサム酸(商品名:トランサミン)は止血剤としての印象が大変強く、実際に種々の出血に対して多少なりとも効果を発揮する可能性がありますが、最も効果を発揮するのは全身性の線溶活性化が原因の出血です。
たとえば、以下のような場合です。
1) 線溶療法時の副作用としての出血
2) アミロイドーシスに線溶活性化病態を合併した場合の出血
3) 線溶亢進型DIC時の致命的な出血(ただし、使用法を間違えますと全身性血栓症を誘発して死亡例の報告もあります。このあとのシリーズ記事で紹介させていただきます)
4) プラスミノゲンアクチベータ産生腫瘍
5) 体外循環時の出血(線溶活性化病態となることが知られています)
6) 先天性α2プラスミンインヒビター欠損症における出血
7) その他
トラネキサム酸が、血友病における出血(関節内出血など)や、von Willebrand病における出血(鼻出血など)の頻度を低下させる可能性がありますが、過剰な期待を持たない方が良いと考えられます。
血友病Aであれば第VIII因子製剤、血友病Bであれば第IX因子製剤、von Willebrand病であればDDAVP(デスモプレシン)やvWFを含有した第VIII因子製剤(商品名:コンファクトF)が基本的な止血治療法となります(参考記事:止血剤の種類と疾患)。
全身性出血性素因の精査を行っても出血性素因が発見されなかった場合の種々の出血(鼻出血、紫斑など)に対しても、カルバゾクロムスルホン酸ナトリウム(商品名:アドナ)とともにトラネキサム酸が投与される場合があります。ただし、この場合も有効性に関して過剰な期待を持たない方が良いと考えられます。
また、血尿に対してトラネキサム酸を投与すると、凝血塊が溶解されにくくなり尿路結石の原因になることがあるため注意が必要です。
さらに、血栓症の致命的な副作用には、くれぐれも注意が必要です(後のシリーズ記事で紹介いたしなます)。
(続く)
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DIC関連記事 (病態・診断・治療)
NETセミナー:DICの病態・診断
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:39
| 出血性疾患
トランサミン(2):作用機序、半減期、保険適応
トランサミン(1):線溶とは から続く
【作用機序】
トラネキサム酸(tranexamic acid、商品名:トランサミン)は、血中で分解されますと、2分子のイプシロンアミノカプロン酸となります。これらの、トラネキサム酸とイプシロンアミノカプロン酸は同様の機序により抗線溶作用を発揮しますが、トラネキサム酸の方が強力です。
両薬はリジンと類似した構造を有し(リジン誘導体)、プラスミノゲンのリジン結合部位と結合して、プラスミノゲンのフィブリンへの吸着を阻止することで抗線溶作用を発揮します。
また、本薬とプラスノゲンの複合体は血中半減期が短いため連用することで血中プラスミノゲン活性が低下していきますが、このことも抗線溶作用機序となっています。
【半減期】
トラネキサム酸の血中半減期は、1〜1.5時間であり、3〜4時間以内に腎から排泄されます(腎代謝)。換言しますと、腎機能障害がある場合には、血中半減期が長くなることに注意が必要です。
【保険適応】
トラネキサム酸の保険適応は、全身性線溶亢進が関与すると考えられる出血傾向、局所線溶亢進が関与すると考えられる異常出血、湿疹及びその類症、蕁麻疹、薬疹・中毒疹における紅斑・腫脹・掻痒、咽喉頭炎・扁桃炎における咽頭痛・発赤・充血・腫脹、口内炎における口内痛及び口内粘膜アフタです。
トラネキサム酸は、内服薬、注射薬の両薬が存在しますが、内服薬は外来治療用として用いて、注射薬は入院治療薬として用いることが多いです。
さて、上記のような保険適応疾患に対する効果の程度には議論のあるところですが、それとは別に、トラネキサム酸が最も効果を発揮する病態、逆に、絶対に投与してはいけない病態があります。
それは。。。
(続く)
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播種性血管内凝固症候群(DIC)<図解>(インデックスページ)
DIC関連記事 (病態・診断・治療)
NETセミナー:DICの病態・診断
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:37
| 出血性疾患
トランサミン(1):線溶とは
トラネキサム酸(商品名:トランサミン)は、アドナなどとともに止血剤の代名詞的な薬剤です。
今回から、数回のシリーズで、トランサミンの話題を提供させていただきたいと思います。
【線溶とは】
生体内における線溶(fibrinolysis)とは、組織プラスミノゲンアクチベーター(tissue plasminogen activator:t-PA)がプラスミノゲン(plasminogen)をプラスミン(plasmin)に転換することによって、プラスミンが主としてフィブリン(fibrin)(血栓:thrombus)を分解(溶解)する現象です。
そして、血栓溶解の分解産物がフィブリン/フィブリノゲン分解産物(fibrin/fibrinogen degradation products:FDP)ですし、フィブリン分解産物の細小単位がDダイマーです。
この際、t-PA(血管内皮から産生)とプラスノゲン(肝から産生)は、フィブリンに対する親和性が高いために血栓上で効率よく線溶が進行することになります(線溶とt-PA&プラスミノゲン:血液凝固検査入門(10))。
また、プラスミノゲンはリジン結合部位を介してフィブリンに結合することが知られています。
血中FDPやDダイマーが上昇する疾患は血栓性疾患において多数知られていますが、 血中FDPやDダイマーなどのマーカーの上昇は、通常は血栓の分解を意味しています。
すなわち、凝固活性化の結果血栓が形成されて、かつ線溶活性化の結果として血栓が溶解した(凝固・線溶の両者の活性化が進行した)サインと考えることができます。
線溶は、生体内においては形成された血栓を溶解するという観点から、生体防御反応的意味合いを有しています。
たとえば、播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)においては、全身性持続性の著しい凝固活性化がみられて全身臓器の細小血管に微小血栓が多発しますが、同時進行的に線溶も活性化して血栓が溶解してFDPやDダイマーが上昇します。
この時の線溶活性化が適度であれば、まさに生体防御反応と言うことができるのです。
さて、トラネキサム酸(商品名:トランサミン)は止血剤の代名詞なのですが、線溶という生体防御反応を抑制してしまうお薬でもあります。ですから、その使用方法には十分な注意が必要です。トランサミンは、諸刃の剣的なお薬ということができます。
(続く)
トランサミン(2):作用機序、半減期、保険適応へ
トランサミン(インデックスページ)へ
播種性血管内凝固症候群(DIC)<図解>(インデックスページ)
DIC関連記事 (病態・診断・治療)
NETセミナー:DICの病態・診断
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 21:37
| 出血性疾患
血栓性素因の血液検査:血液凝固検査入門(40)
PT-INRのセルフモニタリング:血液凝固検査入門(39)から続く。
血液凝固検査入門(インデックスページ) ← クリック! 血液凝固検査入門シリーズの全記事へリンクしています。
金沢大学血液内科では、血液学的な血栓性素因がないかどうかということで、しばしばご相談(紹介)を受けています。
上図では、血液学的な血栓性素因を示しています。赤字は、検査項目です。当科において、この中で最も高頻度に診断されるのは、抗リン脂質抗体症候群です。次は、高Lp(a)血症です。
なおこの内容につきましては、既に記事になっていますので、その記事へのリンクのみとさせていただきます。
血栓性素因の血液検査(アンチトロンピン、プロテインC、抗リン脂質抗体他)
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 20:23
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PT-INRのセルフモニタリング:血液凝固検査入門(39)
PT-INR、APTTと抗凝固療法:血液凝固検査入門(38)から続く。
糖尿病患者さん、特にインスリン治療中の場合には、しばしば自宅で自己血糖測定をなさっています。その結果をふまえて、治療に反映されます。
経口抗凝固療法の治療薬であるワルファリン(商品名:ワーファリン)を内服中の患者さんでは、PT-INR(プロトロンビン時間のINR)や、プロトロンビンフラグメント1+2(prothrombin fragment 1+2:F1+2)の定期的な測定が必要です。
INRは国際的に異論のないところですが、F1+2の扱いにおいては、専門家の間でも意見の分かれるところです。管理人たちは、INRと比較しても、F1+2は同等以上に価値がある検査と思っていますが(参考記事:PT-INR、APTTと抗凝固療法:血液凝固検査入門(38))、まだInternationalとはなっていません。
さて、InternationalであるINRですが、海外では既に自宅で測定している国もあるようです。そして、そのINRの結果をふまえて、治療に反映されるという訳です。
日本ではまだそのような医療環境にはなっていませんが、そんなに遠くない将来、ワーファリンは自宅での血液検査をみながらコントロールするというような時代がくるのではないかと思っています。
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:15
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PT-INR、APTTと抗凝固療法:血液凝固検査入門(38)
INR&F1+2と副作用&効果判定:血液凝固検査入門(37)から続く。
血液凝固検査入門(インデックスページ) ← クリック! 血液凝固検査入門シリーズの全記事へリンクしています。
抗凝固療法と言えば、経口抗凝固療法治療薬であるワルファリン(商品名:ワーファリン)を連想すると思いますが、厳密に言いますと、以下のように2大別できます。
【抗凝固療法】(治療薬)
1) 経口薬
・ ワーファリン:経口可能な抗凝固薬は今だにワーファリンのみです。抗血小板薬は、アスピリン(商品名:バイアスピリン、バファリンなど)、チクロピジン(パナルジン)、クロピドグレル(プラビックス)、シロスタゾール(プレタール)、ベラプロスト(プロサイリン、ドルナー)、サルポグレラート(アンプラーグ)など多数あるのですが。。。。
2) 注射薬
・ ヘパリン類:ダナパロイド(オルガラン)、低分子ヘパリン(フラグミン、クレキサンなど)、未分画ヘパリン(標準ヘパリン)、フォンダパリヌクス(アリクストラ)
・ アルガトロバン(スロンノン、ノバスタン)
・ メシル酸ナファモスタット(FUTなど)、メシル酸ガベキサート(FOYなど)
・ アンチトロンビン濃縮製剤(アンスロビンP、ノイアート、ノンスロン)
・ 遺伝子組換えトロンボモジュリン製剤(リコモジュリン)
・ 活性化プロテインC製剤(アナクトC)
さて、これらの薬剤のモニタリングはどうすれば良いのでしょうか。
前回の記事(INR&F1+2と副作用&効果判定:血液凝固検査入門(37))でも書かせていただいたように、管理人らは、ワーファリンの効果判定はプロトロンビンフラグメント1+2(prothrombin fragment 1+2:F1+2)、副作用チェックは、PT-INR(またはトロンボテスト)で行うべきであろうと考えています。
それでは、ヘパリン類についてはどうでしょうか。
欧米の教科書では、未分画ヘパリンを投与する場合には、APTTを1.5倍に延長させるようにとか、APTTを2倍に延長させるようにと言った記載があります。
しかし、APTTを延長させたということは、未分画ヘパリンが投与されているという証拠かもしれませんが、効果が発揮されているかどうかは、話は別ではないかと思っています。
APTTが延長しすぎているという事は、出血の副作用が生じ易い状況にあるため、要注意というサインととるべきではないでしょうか。
実際、低分子ヘパリンや、ダナパロイドと言った、「改良型のヘパリン」類は、APTTをあまり延長させないために出血の副作用が少ないことをウリにしています(APTTが延長しなくても効果は未分画ヘパリンと同等以上です)。
ヘパリン類の効果判定は、FDP、Dダイマー、TATなどで行うべきではないでしょうか。
ただし、このあたりの考え方は、専門家の間でも意見が分かれるのではないかと思います。10年後、20年後、更に言いますと、100年後、1,000年後にはどのような考え方になっているのか、タイムマシンにのって、答えを見に行きたいところです。
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:52
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鼻血が出たら: 森下英理子の取材記事(北国新聞)
北国新聞では、「丈夫がいいね」という連載がなされています。
本日の朝刊では、「鼻血が出たら」ということで、金沢大学血液内科の森下英理子の取材記事が掲載されました。
耳鼻科疾患、薬の副作用、von Willebrand病、血液型とvon Willebrand因子の関係、代償性月経、高血圧、白血病、特発性血小板減少性紫斑病などについて触れられていました。
この中でも、おそらく北国新聞の読者の方にとっては薬の副作用として出血症状がありうるという点が、最も印象に残られたのではないかと思います。
金沢大学血液内科・呼吸器内科ブログ(血液・呼吸器内科のお役立ち情報)でも、鼻血関連の記事を掲載中ですので、ご参考となれば幸いです。
鼻出血(鼻血が止まらない):粘膜出血へ
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 16:34
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白血球数が少ない(ご相談の回答):金沢大学附属病院血液内科
ご質問メールをいただいたのですが、本名が書かれていましたので、公開手続きをとらずに、ブログ記事として紹介させていただきます。
(ご質問の内容)文意の変わらない範囲内で、若干のみ改変しています。
-----------------------
健康診断で、白血球数が基準値(3,500〜8,000/μL)より少ないと言われました。
私の場合は、白血球数2,200/μLぐらいしかありません。
血液内科で診てもらえばいいという話でしたが、もし治療が必要となれば、平均治療期間はどれくらいでしょうか?
-----------------------
(以上がご質問内容です)
(回答)
白血球数2,200/μと言うのは確かに少な目です。
この場合、経時的にどうであったかが重要です。たとえば、毎年の健康診断で、8,000/μL→4,000/μL→2,200/μLと徐々に低下してきている場合は、病的な場合があります。
一方、毎年の健康診断で、2,400/μL→2,000/μL→2,200/μLと言った経過の場合にはあまり心配ないことの方が多いでしょう(自分の正常値が2,000/μL程度ということになります)。
次に重要なのは、白血球の分画(種類)です。白血球には、好中球、リンパ球、単球、好酸球、好塩基球などの種類があります。この分布が正常か異常かも重要です。
また、白血球以外の血球数が正常かどうかも重要です。
具体的には、赤血球数(Hb、ヘマトクリット)、血小板数が正常かどうかです。
ご質問のされ方から、おそらく白血球数は低値であるものの、白血球分画は正常、赤血球数(Hb、ヘマトクリット)、血小板数も正常であったのではないかと推測いたします。なおかつ、何年も前から同じような白血球数で推移されているのではないでしょうか。この場合には、特に加療を要しません。
ただし、病気である可能性も0%ではありませんので、血液内科を受診される方が良いでしょう。
金沢大学附属病院血液内科に受診いただく場合には、健康診断をしていただいた診療機関で紹介状を書いていただき、なおかつ当院予約センターで予約をとった上で受診いただければと思います。
なお、治療が必要かどうかの前に、疾患があるのかないのかの見極めが重要になってきます。
以上、お答えになっているでしょうか。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:56
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INR&F1+2と副作用&効果判定:血液凝固検査入門(37)
PT-INRと血栓塞栓症:血液凝固検査入門(36)から続く。
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 11:13
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急性前骨髄球性白血病(APL)とDIC:ATRA、アネキシンII
播種性血管内凝固症候群(DIC)<図解シリーズ> ← クリック
急性前骨髄球性白血病(acute promyelocytic leukemia:APL)は、播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)を必発することで、良く知られています。線溶活性化が高度なタイプのDICを発症し、脳出血を含む全身性の出血をきたすことがあります。
管理人が医師になったころは、APLの患者様が入院されますと、出血症状のコントロールがつかず、翌日脳出血を発症されるということもありました(管理人が主治医として担当させていただいた患者さまも何人かおられ、思い出しますととても残念な思いです)。そういう意味では、昔はAPLは白血病の中でも、最も注意すべき病気でした。しかし、時代は変わって、今はAPLは、最も治療しやすい白血病になりました。
その理由は、ビタミンA誘導体であるATRA(all-trans retinoic acid)の登場です。ATRAは、APL細胞を分化誘導させて、APLを寛解へと導きます。
このATRAの素晴らしいところは、APL細胞を分化誘導させるのみでなく、APLに合併したDICをも一気にコントロールするところです。就寝前に、ATRAを内服していただきますと、翌朝には出血症状が軽減していることが多々あります。
さて、何故ATRAは、APLのDICに対してこんなに有効なのでしょうか?
この理由を書かせていただく前に、APLではなぜ線溶活性化が著明なDICを発症するのかを書かせていただきたいと思います。
APLでDIC(線溶活性化が強いタイプのDIC)を発症する理由
1)APL細胞には大量の組織因子(tissue factor:TF)(旧称:組織トロンボプラスチン)が発現しています。そのため、外因系凝固活性化が一気に進行します。
2)APL細胞には、アネキシンIIが過剰発現しています。アネキシンIIは、組織プラスミノゲンアクチベータ(tissue plasminogen activator:t-PA)と、プラスミノゲンに結合します。そうしますと、t-PAのプラスミノゲンに対する作用が飛躍的に高まります。そのため、著しい線溶活性化が進行します。このようにしてAPLでは、線溶活性化が著しいタイプのDICを発症します。
引用:N Engl J Med の論文があります。
ところが大変興味あることに、ATRAを投与いたしますと、APL細胞のTFとアネキシンIIの発現が一気に抑制されます。まさに、凝固、線溶、両おさえ状態になります。ATRAはAPLの分化誘導のみならず、DICに対しても著効するのです。分化誘導に成功するには1〜2ヶ月必要だと思いますが、DICは極めて短い期間で効果を発揮します。
なお、ここで重大な注意事項があります。
APLに対してATRAを投与している時は、絶対にトラネキサム酸(トランサミン)を投与してはいけないということです。
APLに対してATRAを投与している時にトラネキサム酸を投与して、血栓症を誘発して死亡したという報告が多数あります。
APLに対してATRAを投与しますと、アネキシンIIの発現が抑制されて線溶活性化が抑制されるために、DICの性格が変貌するためと考えられます。
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・NETセミナー:DICの病態・診断
・NETセミナー:DICの治療
・ヘパリン類(フラグミン、クレキサン、オルガラン、アリクストラ)
・ヘパリン類の種類と特徴(表)
・低分子ヘパリン(フラグミン、クレキサン)
・オルガラン(ダナパロイド )
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 05:54
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PT-INRと血栓塞栓症:血液凝固検査入門(36)
INRとF1+2の相関:血液凝固検査入門(35)から続く。
血液凝固検査入門(インデックスページ) ← クリック! 血液凝固検査入門シリーズの全記事へリンクしています。
心房細動(atrial fibrillation:
Af)は、
脳梗塞(
心原性脳塞栓)などの血栓塞栓症の重要なリスクファクター(risk factor:危険因子)として良く知られています。
今回紹介させていただく成績は、大変示唆に富んでいます。
心房細動(atrial fibrillation:Af)の患者さんを対象に、
ワルファリン(商品名:ワーファリン)を投与して、血栓塞栓症や出血の頻度がどうなるかをみたものです。
横軸は
PT-INRです。この数字が大きくなるほど、
プロトロンビン期間(prothrombin time:PT)の延長が高度でありワーファリンコントロールは強力であることを意味しています。縦軸はイベント発症率です。
全対としては
PT-INR 2.0〜3.0が最もイベント発症率が低いようです。
次に個々にみてみましょう。まず黒くつぶされている大出血の発症率を見てみましょう。ワーファリンが強力になるほど、特に
PT-INR 5.0以上では大出血の頻度が高くなっています。これはうなずける結果です。
一方、斜線で示されている血栓塞栓症の発症率はどうでしょうか。
PT-INR 1.0〜1.9とワーファリンコントロールが弱い状態では、血栓塞栓症の発症率は高くなってしまうようです。しかし、INR 4.0以上、あるいはINR 5.0以上と出血の副作用が懸念されるような強力なワーファリンコントロールを行いましても、血栓塞栓症の発症はやはり高頻度なのです。
これはどういうことかと言いますと、INRというマーカーは、出血しないかどうかをモニタリングすることは可能であるものの、決して効果判定のマーカーにはなっていないということを意味しています。
さて、それではどうすれば良いのでしょうか。。。。
(続く)
INR&F1+2と副作用&効果判定:血液凝固検査入門(37)へ
PT-INRは、以下の記事を御参照いただければと思います。
・
PT(PT-INR)とは? 正常値、ワーファリン、ビタミンK欠乏症
・
PT-INRとは(正常値、PTとの違い、ワーファリン)?
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 21:21
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深部静脈血栓症/肺塞栓(エコノミークラス症候群):危険因子、血栓性素因
深部静脈血栓症/肺塞栓(エコノミークラス症候群):下大静脈フィルターから続く。
【深部静脈血栓症&肺塞栓の危険因子】
深部静脈血栓症/肺塞栓(インデックスページ)← クリック
深部静脈血栓症(DVT)、肺塞栓(PE)の危険因子としては、上図のような疾患、病態が知られています。若干解説を加えたいと思います。
1) 脱水・多血症:
ヘマトクリットの上昇は血液粘度を上昇させ、易血栓状態となります。裏をかえせば、十分な水分の補給は、血栓阻止的に作用します。
2) 肥満:
以前より指摘されている危険因子ですが、さてその理由はと言いますと、答えに窮してしまいます。肥満の方は(しばしば中性脂肪や血中インスリン濃度が高く)、線溶阻止因子PAIが上昇するため、線溶抑制状態になっているからかも知れません。
3) 妊娠・出産(特に帝王切開出産):
2つの理由があります。一つは、胎児の存在により物理的に下大静脈や腸骨静脈が圧迫されますので、静脈の血流が悪化します。もう一つは、妊娠経過により止血因子(vWF、フィブリノゲンその他)が上昇し凝固活性化状態となります。妊娠経過とともに凝固活性化マーカーTATが上昇する現象が知られています。
4) 経口避妊薬:
血栓症の原因として良く知られていますが、その原因は不明な点も多いようです。凝固阻止因子プロテインSが低下するという報告もあります。
5) 下肢骨折・外傷:
ベット上安静により下肢の筋肉ポンプが働かなくなります。
6) 手術後(特に骨盤内臓・整形外科領域):
特に整形外科術後に、深部静脈血栓症が多いことにつきましては、既にこのシリーズで記事にさせていただきました。
7) 下肢麻痺、長期臥床、ロングフライト:
同じく、筋肉ポンプが働かなくなる状態です。
8) 悪性腫瘍の存在:
がん細胞中の組織因子の発現により凝固活性化状態になります。換言すれば、DVTの患者様を拝見しましたら、癌が隠れていないか留意が必要です。なお、担癌患者様で、遊走性静脈炎を合併することがあり、Trousseau症候群として知られています。
9) 心不全、ネフローゼ症候群:
心不全では下肢静脈流が低下します。また、心不全の原因によっては、それが凝固活性化状態の原因になっている可能性があります(拡張型心筋症、心室壁運動低下を伴った陳旧性心筋梗塞など)。ネフローゼ症候群では血中アンチトロンビンが低下して、凝固活性化状態になるという考え方があります。
10) 深部静脈血栓症や肺塞栓症の既往:
これは経験的に断言できます。極めて強い危険因子だと思います。
11) 血栓性素因(詳細は下記)
【血栓性素因】
深部静脈血栓症(DVT)& 肺塞栓(PE)の原因精査として、まず前半記事の内容をチェックいたします。さらに、全身性血栓性素因の有無の精査につきまして、上図の項目をチェックいたします。
1.先天性凝固阻止因子欠乏症
アンチトロンビン欠乏症:血中アンチトロンビン活性を測定します。
プロテインC欠乏症:血中プロテインC活性を測定します。
プロテインS欠乏症:血中プロテインS活性を測定します。
2.線溶異常症
1)プラスミノゲン異常症:血中プラスミノゲン活性を測定します。日本人の3%に、異常プラスミノゲン血症がみられます。
2)高Lp(a)血症:Lp(a)は、線溶因子であるプラスミノゲンと類似した構造を有し、拮抗的に作用します。動&静脈両者の血栓症の危険因子です。血中Lp(a)濃度を測定します。
3.後天性血栓性素因
1)抗リン脂質抗体症候群:抗カルジオリピン抗体(抗カルジオリピン-β2GPI複体抗体)、ループスアンチコアグラントを測定します。
2)高ホモシステイン血症:動&静脈両者の血栓症の危険因子です。 血中ホモシステイン濃度を測定します。
管理人の経験では、半数例で上記のどれかの危険因子が判明します。この中でも、抗リン脂質抗体症候群は圧倒的に頻度が高いです。その次は、高Lp(a)血症です。
関連記事:深部静脈血栓症と血栓性静脈炎の違い
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・抗Xa vs. 抗トロンビン
・深部静脈血栓症
・ロングフライト血栓症
・閉塞性動脈硬化症
・ヘパリン類(フラグミン、クレキサン、オルガラン、アリクストラ)
・ヘパリン類の種類と特徴(表)
・低分子ヘパリン(フラグミン、クレキサン)
・オルガラン(ダナパロイド )
・アリクストラ(フォンダパリヌクス)
・プロタミン(ヘパリンの中和)
・スロンノン(アルガトロバン)
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:46
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深部静脈血栓症/肺塞栓(エコノミークラス症候群):下大静脈フィルター
深部静脈血栓症/肺塞栓(エコノミークラス症候群):予防、ガイドラインから続く。
【深部静脈血栓症/肺塞栓に対する下大静脈フィルターの是非】
下大静脈フィルターには、永久的(permanentタイプ)と、非永久的(temporaryタイプ)があります。
理屈は、下肢に深部静脈血栓症(DVT)があっても(そしてその血栓の一部が血流にのって肺動脈に至ろうとしても)、下大静脈にフィルターを留置しておけば、肺塞栓(PE)まで至らないだろうという考え方です。確かに、理屈だけ聞けばよさそうに感じます。
しかし、上図を見ての通り、フィルターとは言っても隙間だらけのフィルターです。本当に巨大な血栓が飛んで来た時だけ、引っ掛けよう、というよりもむしろフィルターにぶつかって巨大な血栓が少しでも砕けるのを期待しようということになります。
フィルターに対する思いは、臨床家の間でもかなりの温度差があるように感じています。フィルターを支持する臨床家は、上図の右の取り出されたフィルターを見て、しっかり血栓が「補足された」と表現します。一方、フィルターをあまり支持しない臨床家は、フィルター(異物)を入れたから、フィルター部位で血栓が「形成されてしまった」と表現します。
上図では、どちらの立場も尊重するため、フィルター部位には血栓が「存在していた」と書かせていただいています。
出血性素因があり抗凝固療法を行えない時など、フィルターが必要な時は必ずありますが、そのようなケースは極めて例外的であろうと管理人は考えています。少なくとも、何でもかんでもフィルターを入れるというのは間違った考え方でしょう。
【下大静脈フィルターの成績】
上図は、近位部深部静脈血栓症(DVT)に対して、下大静脈フィルターを留置して肺塞栓(PE)の予防効果を検討したものです。フィルター留置群200例、非留置群200例、計400例での比較検討になっています。
予想に反して、肺塞栓の発症、大出血の副作用、死亡に関しては両群間に有意差はみられませんでした。しかも皮肉なことに、有意差がついたのは深部静脈血栓症の再発率でした。フィルター留置群の方が、有意に深部静脈血栓症の再発率が高くなっています。
論文中では、下大静脈フィルターの短期的なメリットはあると論じていますが、長期的にみますと、あまり良いことはないと言うことになります。
体内に異物を留置することにはデメリットもありますので、フィルターを留置するかどうかの判断は慎重に行うべきであろうと考えられます。
(続く)
深部静脈血栓症/肺塞栓(エコノミークラス症候群):危険因子、血栓性素因
深部静脈血栓症/肺塞栓(インデックスページ)← クリック
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:29
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深部静脈血栓症/肺塞栓(エコノミークラス症候群):予防、ガイドライン
深部静脈血栓症/肺塞栓(エコノミークラス症候群):治療から続く。
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【深部静脈血栓症/肺塞栓の予防】
心原性脳塞栓に代表されるように、血栓症は一旦発症してしまいますと不可逆的な機能麻痺を残してしまったり、最悪の場合には死に至ってしまうことがあります。
血栓症予防の重要性は、心原性脳塞栓のみならず、静脈血栓塞栓症(VTE)(深部静脈血栓症(DVT)&肺塞栓(PE))についても全く同様です。特に、肺塞栓(PE)を発症しますと致命症になってしまうことがあります。
さて、静脈血栓塞栓症の発症予防のためにはどうすれば良いでしょうか?
1)足関節の底背屈運動:
いわゆる下肢の「筋肉ポンプ」を働かせる行動になります。車中泊や、ロングフライトで、静脈血栓塞栓症を発症しやすくなるのは、下肢を動かすことができず筋肉ポンプが、働かなくなるためです。
筋肉ポンプは、下肢の静脈血を心臓側へ還す上で、とても重要な働きを演じているのです。
2)脱水を避ける:
脱水になりますと、血液粘度が上昇し、血栓症を誘発しやすくなります。脱水にならないような水分補給が重要です。ただし、アルコールには利尿作用がありますので、同じ水分とは言っても逆効果です。
3)弾性ストッキングの装着:
これは極めてDVT予防効果があります。表在血管の血液の鬱滞をなくし、深部静脈の血流を増加させます。患者さんから下肢をしめつけると血流が悪くなるのではないかというご質問をよくお受けいたしますが、そのようなことはありません。静脈血流は良くなるのです。
管理人は、20〜30年後には、世界中の人類が、疾患の有無とは関係なく弾性ストッキングを装着する時代がくるのではないかと真剣に思っています(弾スト時代の到来)。
【静脈血栓塞栓症の予防ガイドライン】
治療以上に重要なのが予防です。
手術後、特に整形外科手術後に、深部静脈血栓症を高率に発症することにつきましては既に記事にさせていただきました(参考記事)。肺塞栓まで発症してしまいますと、致命症になることがあります。折角、手術に成功しましても、術後に静脈血栓塞栓症を発症しては、術後の経過を一気に悪くしてしまいます。
現在、肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドラインが発行されており、術後の肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)に対する注意が呼びかけられています。
詳細はガイドラインを見ていただくのが良いのですが、ポイントは、
1)早期離床、積極的運動:いわゆる筋肉ポンプを働かせる訳です。
2)弾性ストッキング:予防効果が大きいです。
3)間欠的空気圧迫法:予防法ですが、治療には用いてはいけません。深部静脈血栓症があるにもかかわらず、間欠的空気圧迫法を行いますとかえって肺塞栓を誘発してしまいます。
4)抗凝固療法(ヘパリン類)
(続く)
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関連記事:深部静脈血栓症と血栓性静脈炎の違い
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:28
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深部静脈血栓症/肺塞栓(エコノミークラス症候群):治療
深部静脈血栓症/肺塞栓(エコノミークラス症候群):症状&診断から続く。
【深部静脈血栓症/肺塞栓の治療】
静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism:VTE)、すなわち深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)&肺塞栓(pulmonary embolism:PE)の治療です。上図では、一応、網羅的に列挙しましたが、何と言っても基本は抗凝固療法です。
<急性期の治療>
低分子ヘパリン(商品名:フラグミン)、ダナパロイド(商品名:オルガラン)、未分画ヘパリンと言った抗凝固療法(点滴or注射製剤)から選択します。
●未分画ヘパリン:
10,000〜20,000単位/24時間くらいで投与することが多いです。APTTを〜倍に延長させるように(たとえば2倍に延長させるように)という投与方法が欧米の教科書では推奨されていますが、管理人はこのような方法には疑問を感じています。日本人で、APTT2倍にも延長させるような投与方法はむしろ出血の副作用を増強させる懸念の方が大きいと考えています。むしろ、APTTがあまり延長させないようにヘパリンを投与する方が上手な投与方法であることが多いと考えています。
そもそもAPTTが延長することとヘパリンが効いているかどうかは無関係です。ヘパリンの効果は、FDP、Dダイマー、TATなどで評価すべきでしょう。ただし、このあたりの考え方は専門家の間でも意見が分かれるところです。
なお、特にICUで管理されている患者さんでは、動脈ラインから採血されることがしばしばあると思いますが、動脈ラインのヘパリンがほんのわずかでも混入しますと、APTTは著しく延長しますので、注意が必要です。
●フラグミン:
低分子ヘパリンの中のフラグミンは、DICにしか保険収載されていません。DVT/PEには保険が認可されていないのですが、未分画ヘパリンよりもいろんな点ですぐれた薬剤です。本来であれば、欧米でのようにDVT/PEの治療にも低分子ヘパリンを使用したいところです。なお、クレキサンという低分子ヘパリンは、整形外科手術後のDVT予防目的に使用することができますが、残念ながら治療目的には使用できません。
フラグミンを使用可能な場合には、75単位/kg/24時間で使用します(通常4,000〜5,000単位/24時間くらいの使用量になります)。未分画ヘパリンとは単位の使い方が違いますので注意が必要です。
●オルガラン:
これも優れた薬剤ですが、残念ながら日本ではDICにのみ保険収載されています。この薬剤は半減期が20時間と長いために、1日2回の静脈注射のみで持続した効果を期待できるのが魅力です。そのため、24時間持続点滴で患者様を拘束する必要がありません。もし本薬を使用可能な場合は、DICに準じて、1,250単位を、1日2回静脈注射します。
<慢性期の治療>
ワルファリン(商品名:ワーファリン)による抗凝固療法(経口薬)を行います。通常PT-INR2〜3(トロンボテスト換算で、TT 9〜17%)程度のコントロールを行います。
2.の線溶療法は、別途下記させていただきます。
3.の下大静脈フィルターは、ごく限られた適応です。
4.の弾性ストッキングはむしろ予防としての意義の方が大きいです。
5.の手術が必要になることは、極めて例外的です。おそらく1%もないと思います。
【深部静脈血栓症/肺塞栓に対する線溶療法の是非】
血栓溶解療法(線溶療法とも言います)は、文字通り血栓を溶解する治療です。
いろんな血栓症に対して行われています。心筋梗塞、一部の超急性期の脳梗塞などに行われています。線溶療法に成功しますと、臨床症状が劇的に改善します。このため、臨床家としても全例の血栓症に対して行ってみたいという誘惑にかられることがあります。ただし、出血の副作用には十分な注意が必要です。たとえば、適応のない脳梗塞に対して不適切な線溶療法を行いますと、脳出血を合併して、かえって予後が悪くなることがあります。
さて、静脈血栓塞栓症(VTE)、すなわち深部静脈血栓症(DVT)&肺塞栓(PE)に対してはどうでしょう?
実は、静脈血栓塞栓症に対する線溶療法は、むしろ行わない方が良い場合の方が多いのです。最近報告された一流誌の総説論文でも、むしろ線溶療法を行いすぎないようにと警鐘をならしています。
<深部静脈血栓症(DVT)に対する線溶療法>
一般的には推奨されないとされています(超重症の場合の四肢救済目的を除く)。むしろ、線溶療法を行うことによって、血栓の遊離を促して、肺塞栓をおこしやすくなるという考えがあるくらいです。また、出血の副作用の懸念があります。DVTで、線溶療法が必要な例は、おそらく1割もないのではないかと思います。
<肺塞栓(PE)に対する線溶療法>
ショックなど血行動態が不安定な重症例にのみ適応があります。軽症例に行いますと、出血の副作用の方が強く出てしまって良いことはありません。
管理人は、線溶療法が、静脈血栓塞栓症に対して安易に使われすぎているのではないかと懸念しています。むしろ、線溶療法を行いたい気持ちを抑えるのが、静脈血栓塞栓症の治療のポイントではないかと思っています(繰り返しになりますが、重症例では適応がありますが、症例はごく限られているでしょう)。
やはり、静脈血栓塞栓症の治療の基本は、抗凝固療法、すなわち、急性期のヘパリン類、慢性期のワーファリンと考えられます。
(続く)
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深部静脈血栓症/肺塞栓(エコノミークラス症候群):症状&診断
深部静脈血栓症/肺塞栓(エコノミークラス症候群):整形外科手術、地震災害 から続く。
【深部静脈血栓症/肺塞栓の症状】
深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)と肺塞栓(pulmonary embolism:PE)の臨床症状は、典型例から非典型例までいろいろです。
DVTの症状
1.疼痛
2.腫脹(末梢まで腫脹)
3.発赤
4.熱感
5.Homan’s sign(足の背屈で腓腹部に疼痛)
PEの症状
1.突発的な胸痛、呼吸困難
2.血痰、喀血
3.ショック
4.意識消失
5.無症状も少なくない
典型例では、上記のような臨床症状がみられます。
ただし、DVT、PEともに、全く症状がなく検査(下肢静脈エコー、胸部造影CTなど)によって初めて分かるということも少なくありません。ただし、臨床症状がないから大丈夫かと言いますと、そういう訳ではありません。
たとえばDVTの場合、下肢の腫脹のないDVTの方が、血流によってかえって血栓が遊離してPEを起こしやすいという考え方もあるのです。
【深部静脈血栓症/肺塞栓の診断】
深部静脈血栓症(DVT)と肺塞栓(PE)の診断は、いずれも、画像診断が基本的診断法になります。
DVTは、以前はRIベノグラフィーが中心的役割を果たしていた時代もありますが、現在は下肢静脈エコーが中心的役割を果たしています。DVT診断は、下肢静脈エコーなしには語れないと言っても過言ではないでしょう。造影CTを行うこともありますが、造影CTは肺塞栓の診断には有効ですが、DVT診断という観点からは下肢静脈エコーに軍配があがります。
PEは、まず造影CTを行って、致命的なPEがないか早々にチェックします。ただし、末梢レベルのPE診断には、肺血流スキャンが有効です。
DVT&PEを同時にチェックしたいということであれば、造影CTと下肢静脈エコーの組み合わせが最強かも知れません。
ただし、これらと肩を並べるようにとても大事な検査があります。それは、Dダイマーという検査です。この検査は、威力を発揮します。
【Dダイマーの威力】
血液検査のDダイマーは、今では深部静脈血栓症(DVT)や肺塞栓(PE)の診断になくてはならない重要な検査です。
Dダイマーがどのようなものかについては、以前の記事もご参照いただければと思います(Dダイマー関連記事)。
もちろん、画像診断は基本的診断法ではありますが、Dダイマーは画像診断と同等以上の価値があります。それは、DVT&PE診断における、Dダイマーの陰性的中率の高さです。2003年に、N Engl J Medという一流雑誌に報告されました。
陰性的中率(negative predictive value:NPV)が高いというのはどういうことかと言いますと、Dダイマーが正常であれば、DVT&PEを否定できるという意味です。
検査の中には侵襲的な検査もあるなかで、Dダイマー血液検査をするだけです。
しかも、最近では大病院でなくても簡単に設置できるコンパクトなタイプのDダイマー測定機器も登場してきています。
もし、Dダイマーが正常であることが分かりますと、そのあとの検査を簡略化できる可能性があるのです。現在、DVT&PE診断におけるDダイマーの地位は極めて高いものになっていますが、その理由は、素晴らしい陰性的中率の高さにあります。
なお、念のためですが、陽性的中率は高くありません。確認しておきたいと思います。Dダイマーが高いからと言ってもDVTという訳ではありませんが、Dダイマーが正常であればDVTを否定できるという訳です。
Dダイマーが正常であれば、ほとんど100%DVTを否定できるというのは極めてパワフルなマーカーということができます。
(続く)
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・NETセミナー:DICの治療
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深部静脈血栓症/肺塞栓(エコノミークラス症候群):整形外科手術、地震災害
深部静脈血栓症/肺塞栓(エコノミークラス症候群):概念 から続く。
関連記事:地震災害とエコノミークラス症候群(肺塞栓)
【整形外科手術と深部静脈血栓症】
深部静脈血栓症(deep vein thrombosis :DVT)や肺塞栓(pulmonary embolism:PE)は、日本人には少ない病気ではないかと考えられてきた歴史があります。しかし、それは大きな間違いでした。
たとえば、整形外科手術後には、高頻度でDVTを発症しますが、日本人での発症頻度と欧米人での発症頻度はほとんど変わりません。
人工股関節置換術(THA)後には、日本人でも 20〜30%でDVTを発症しますし、人工膝関節置換術(TKA)後には、 50〜60%でDVTを発症します。これらの発症頻度は、欧米人とほとんど同じです。日本人においても、整形外科術後のDVT発症率はとても高いことがわかります。
上記の手術対象疾患は、通常悪性疾患ではなく良性疾患です。手術が成功しても、術後に深部静脈血栓症→肺塞栓(いわゆるエコノミークラス症候群)を発症して、致命症になっては大変です。近年、フォンダパリヌクス(商品名:アリクストラ)、エノキサパリン(商品名:クレキサン)などのヘパリン類が、術後DVT発症予防薬として、速やかに保険収載されました。当局としても、術後DVT発症予防に力を入れていることが伺えます。
さて、人工股関節置換術(THA)後と、人工膝関節置換術(TKA)後を比較した場合に、なぜ後者の方がDVTの発症率が高いのはなぜでしょうか? 後者手術の場合は、手術に際して、手術部位の近位も遠位も駆血します。そのために、血流がより鬱滞しやすく、血栓を形成しやすいようです。
【地震災害と深部静脈血栓症】
深部静脈血栓症/肺塞栓(エコノミークラス症候群)について知っておかなければいけないこととして、地震災害時の発症をあげることができます。
先の、新潟中越大震災の際に、被災者、特に車中泊をされていた方々に深部静脈血栓症/肺塞栓が多発されたことが知られています。車中泊を行っていますと、下肢をあまり動かすことができずに筋肉ポンプが働きません。そうしますと、下肢に血液が淀むために血栓(深部静脈血栓症)ができやすくなるのです。
地震小康時に車外にでますと、歩行に伴う筋肉収縮とともに一気に下肢の筋肉ポンプが働きます。下肢に形成された血栓が筋肉ポンプの作用によって飛んで肺動脈に閉塞しますと、肺塞栓です。致命症になることがあるのです。
このことを教訓に、日本でのその後の地震では、車中泊はほとんど行われなくなっているようです。
当時の地震の際に、とても貴重な検討がなされています。巡回診療により、車中泊の方のDVT/PEの有無を検討したものです。何と、驚くべきことに、約3割の方でDVT/PEが検出されています。車中泊がいかに良くないかを示す成績ではないかと思います。
2007年の能登半島地震 では、車中泊はほとんど無かったと聞いています。
しかし、それにもかかわらず、被災地での検査(下肢静脈エコー)の結果では、1割を超える方に、深部静脈血栓症(DVT)が見つかったと聞いています(当院検査部ボランティア活動からの情報)。つまり、地震災害では、車中泊以外の要素も、深部静脈血栓症/肺塞栓(エコノミークラス症候群発症)発症と関連しているようです。
地震災害時のエコノミークラス症候群発症の原因
1)下肢を動かさない状態:
車中泊は良くないです。また、弾性ストッキングを着用して下肢静脈血流を良くしましょう。なお、ボランティア活動の一環として、被災地にはしばしば大勢分の弾性ストッキングが搬入されると聞いています。
2)脱水状態:
十分な水分を摂取できない状態が予想されます。脱水は血液粘度を高め、血栓症を誘発します。
3)ストレス:
地震災害時のストレスはどうしようもないかも知れません。
4)睡眠薬:
睡眠薬による血管拡張作用(血液が滞留しやすくなる)、睡眠薬により睡眠中の動きが少なくなることなどが原因ではないかと考えられます。地震に伴う不眠が予想されますが、深部静脈血栓症には留意が必要です。
なお、車中泊はしない方が良いのですが、特殊状況下では車中泊をせざるをえないことがあるかも知れません。管理人は、車の中には、家族全員分の弾性ストッキングを保管しておいてはどうかと、真剣に考えています。
(続く)
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関連記事:深部静脈血栓症と血栓性静脈炎の違い
関連記事
・血栓症の分類と抗血栓療法の分類
・抗血小板療法 vs, 抗凝固療法(表)
・PT-INRとトロンボテスト
・NETセミナー:血栓症と抗血栓療法のモニタリング
・ワーファリン
・抗Xa vs. 抗トロンビン
・深部静脈血栓症
・ロングフライト血栓症
・閉塞性動脈硬化症
・ヘパリン類(フラグミン、クレキサン、オルガラン、アリクストラ)
・ヘパリン類の種類と特徴(表)
・低分子ヘパリン(フラグミン、クレキサン)
・オルガラン(ダナパロイド )
・アリクストラ(フォンダパリヌクス)
・プロタミン(ヘパリンの中和)
・スロンノン(アルガトロバン)
・NETセミナー:DICの病態・診断
・NETセミナー:DICの治療
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:09
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深部静脈血栓症/肺塞栓(エコノミークラス症候群):概念
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【深部静脈血栓症/肺塞栓とは】(エコノミークラス症候群)
深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)、肺塞栓(pulmonary embolism:PE)は、かつては日本人には少ない病気と誤解されてきた時代がありますが、決してそのようなことはありません。欧米人と遜色のない発症頻度ではないかと思います。サッカーのT選手が罹患した病気としても、一躍日本人の間に有名になった病気でもあります。
深部静脈血栓症にできた血栓の一部が剥離して、肺動脈に飛来して閉塞した病気を肺塞栓と言います。ですから、しばしばこの2疾患は同時にみられます。そのため、英語の教科書などでも、DVT/PEとして取り扱っているものが少なくないと思います。DVT&PEの両者を合わせて、静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism:VTE)と言っています。
なお、臨床家の間でも、一部誤解がある場合がありますが、肺梗塞ではなく肺塞栓です。肺組織は、肺動脈と気管支動脈の二重支配を受けていますので、肺梗塞にはなりにくいのです。
【深部静脈血栓症と血栓性静脈炎の違い】
(関連記事:深部静脈血栓症と血栓性静脈炎の違い)
深部静脈血栓症(DVT)と、血栓性静脈炎(表在性血栓性静脈炎:superficial thrombophlebitis)は、名前は似ていますが違う病気です。研修医の先生とお話していて、DVTのことかと思っていたら、実は静脈瘤からの血栓性静脈炎の話であったということが多々あります。
両者が合併することも皆無ではありませんが、病態、罹患血管、原因、症状、肺塞栓を合併しやすいかどうか、治療のいずれもが違いますので、しっかりと区別する必要があります。この違いはかなり重要です。
<血栓性静脈炎>
血栓性静脈炎は、炎症が先にあって二次的に血栓ができます。罹患血管は表在静脈ですので、外から目でみて分かります。静脈の走行にそって、赤く筋状にみえます。発赤した血管の走行部分を触りますと痛いですが、罹患血管以外には炎症がないために罹患血管以外を触っても痛くありません。下肢全体がパンパンに腫れるというようなこともありません。重症の場合は、皮膚がただれた感じになってしまいます。
しかし、血栓性静脈炎は肺塞栓を起こすことはまずありません。ですから、抗血栓療法は不要です。局所療法、消炎鎮痛剤、抗生剤などによる治療になります。
原因として、静脈瘤、外傷、血管刺激性の強い点滴後などがありますが、原因不明も多いです。
<深部静脈血栓症>
深部静脈血栓症は、血栓が先にあって二次的に炎症を伴います。罹患血管は深部静脈ですので、外から目でみても血管の走行は分かりません。典型例では、片方の下肢がパンパンに腫脹します(この病気で両下肢が腫れるのは極めて例外的です。両下肢が腫れた場合には、深部静脈血栓症ではなく浮腫でしょう)。ただし、下肢の腫脹を伴わないで、下肢静脈エコーなどの検査で初めて分かる深部静脈血栓症も少なくありません。
注意すべき点は、深部静脈血栓症は肺塞栓を発症することがある点です。通常、十分な抗血栓療法が必要となります。急性期には、ヘパリン類による治療を行い、慢性期には、経口薬であるワルファリン(商品名:ワーファリン)による治療を行うことになります。
原因として、長期臥床、悪性腫瘍、先天性&後天性凝固異常などがありますが、原因を明らかにできないこともあります。
血栓性静脈炎と深部静脈血栓症は名前は似ていますが、治療方法を含め、大きな違いがありますので、しっかり区別すべきと考えられます。
【深部静脈血栓症は右or左下肢に多い?】
深部静脈血栓症(DVT)と言えば、通常、下肢に発症するものを連想すると思います。上肢に発症するDVTも皆無という訳ではありませんが、極めて例外的です。さて、下肢のDVTですが、右側に多いのでしょうか、それとも左側に多いのでしょうか?
答えから先に言いますと、左側です。もちろん、右側のDVTもかなりありますので、どちらかと言えばという程度です。管理人の経験では、右側:左側=4:6くらいではないかと思います。
左側に多い理由ですが、左総腸骨静脈が、右総腸骨動脈によって腹側から圧迫されているために、左下肢静脈血流が悪いことが原因と考えられています。しかし、右側にもありますので、以前よりも左右差は強調されなくなってきているかも知れません。
【深部静脈血栓症は日本人に少ない?】
深部静脈血栓症(DVT)は日本人には少ないのではないかと考えられてきた歴史があります。実際、管理人が医学部学生であったころは、DVTの講義すらなかったような気がします。また、卒業して医師になってからも、ずっと日本人では、DVTはあまりないものと思いこんでいました。
しかし、その考え方は、今では大きな間違いになっています。数ある血栓症のなかでも、深部静脈血栓症は最も多い血栓症の一つになっています。
これは、以下の2つの要素があると思います。
1)食生活の欧米化に伴い、実際にDVTの発症率が増加してきた。
2)診断技術の向上(特に、下肢静脈エコーやDダイマー検査)により、今まで埋もれていた症例が発掘されてきた。
おそらく、両者の要素があるのではないかと思います。
DVTのみに留まらず、肺塞栓(PE)も発症しますと、致命症になってしまうことがあります。DVT/PEの正しい理解はとても大事だと思います。
なお日本において、DVT/PEに対する関心は、近年とても高くなっています。サッカーのT選手が罹患されたこと、地震災害時のDVT/PE発症、整形外科術後のDVT/PE発症(院内で発症して致命症になることがあるため、訴訟になってしまうこともあるようです)などがその理由ではないかと思います。
(続く)
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関連記事(リンクしています)
・血栓症の分類と抗血栓療法の分類
・抗血小板療法 vs, 抗凝固療法(表)
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・NETセミナー:血栓症と抗血栓療法のモニタリング
・ワーファリン
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:20
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北国新聞「丈夫がいいね」:血友病、深部静脈血栓症/肺塞栓
北国新聞朝刊の連載「丈夫がいいね」に、金沢大学血液内科(第三内科)朝倉英策の取材記事が掲載されました。
2009年4月12日(日):血友病
2009年4月17日(金):深部静脈血栓症/肺塞栓(エコノミークラス症候群)(1)
2009年4月18日(土):深部静脈血栓症/肺塞栓(エコノミークラス症候群)(2)
なお、金沢大学血液内科ブログ(血液・呼吸器内科のお役立ち情報)でも、上記疾患に関する記事を充実させています。
【関連記事】
深部静脈血栓症/肺塞栓(インデックスページ)
抗血栓療法カテゴリー
血友病(hemophilia)とは
全身性出血性素因の最初の検査
血液凝固検査入門(インデックスページ)<図解>
播種性血管内凝固症候群(インデックスページ)<図解>
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 07:48
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金沢大学病院から兼六園、金沢城、満開の桜
金沢大学病院から兼六園までは、歩いて10分程度の距離です。
お昼休みに兼六園を散策できるというのは、ちょっとした贅沢かも知れません。
さて、今日は春を通り越したのではないかと思うくらいの暖かな日でした。兼六園の桜も、一気に満開を迎えたようです。
兼六園といえば、ことじ灯籠と思っておられる方も多いのではないでしょうか。
確かに、このような構図を見ますと、反射的に兼六園と思ってしまいます。
金沢城を背景にした桜もとっても素敵です。
この金沢城の下では、今日もいくつかのブルーシートが敷かれていて、夜の花見宴会の準備がなされていたようです。
桜の花は、遠くからみても近くからみても、見る人を引きつける魅力を持っていますね。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 20:51
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INRとF1+2の相関:血液凝固検査入門(35)
心房細動とF1+2(アスピリン vs. ワーファリン):血液凝固検査入門(34)から続く。
血液凝固検査入門(インデックスページ) ← クリック! 血液凝固検査入門シリーズの全記事へリンクしています。
心房細動症例に対して抗凝固療法治療薬であるワルファリン(商品名:ワーファリン)を投与した場合の、PT-INRと凝固活性化マーカーであるプロトロンビンフラグメント1+2(F1+2)との相関関係を見たのが上図です。
両者の間には負の相関関係があります。
つまり、ワーファリンコントロールを強くしますと(PT-INRを高値でコントロールしますと)、F1+2は低下していますので凝固活性化が是正されていることになります。
逆に、ワーファリンコントロールが弱くなりますと(PT-INRが低値になりますと)、F1+2は上昇してしまいますので凝固活性化は是正されていないということになります。
この相関関係は理にかなっていると言えます。確かに、多くの症例で全体的に検討しますと上記の通りなのでしょう。
しかし、じっくりこの図を見ていますと違ったことも見えてきます。つまり、INR 6.7くらいで大出血の副作用をおこしうるようなワーファリンコントロール中であっても、F1+2が異常高値になっている症例も存在します。
逆に、INR 1.0とワーファリンを内服していないに等しい状態であってもF1+2が正常であることも少なくありません。
全体的にみれば、確かにINRで評価したワーファリンコントロールの強度と、F1+2で評価される凝固活性化状態は関連がありますが、個々の患者さんでは必ずしもこの相関が当てはまらないことが少なくありません。
個々の患者さんにおける適切なワーファリンコントロールのためには、PT-INRのみでなくF1+2も同時にチェックして、より良いコントロールを行うべきではないかと考えられます。
PT-INRは、以下の記事を御参照いただければと思います。
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:05
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節外性NK/T細胞リンパ腫、Macroglobulinemia:悪性リンパ腫アカデミー(2)
悪性リンパ腫(2009 Malignant Lymphoma Academy)の続編です。
前回記事:マントル細胞リンパ腫、FDG-PET:悪性リンパ腫アカデミー (1)
節外性NK/T細胞リンパ腫(NKTCL)の治療について(Dr. Kim:Sungkyunkwan Univのレクチャー)
● 疫学:アジアでは、末梢性T細胞リンパ腫(PTCL)、NK/T細胞リンパ腫の中で疾患頻度は、非特異型(PTCL-NOS)、成人T細胞性白血病/リンパ腫 (ATLL)、節外性NK/T細胞リンパ腫(NKTCL)がそれぞれほぼ1/4ずつ(International T-Cell Lymphoma Project)。
● 至適な化学療法
1. stage I/II
放射射線治療と DeVIC(CBDCA, ETP, IFM, DEXA)療法との同時併用療法、放射射線治療と VIPD(CDDP, ETP, IFM, DEXA)療法との同時併用療法の有用性が期待される。
2. 進行期
進行期、再発例では、骨髄抑制など治療関連毒性の検討が必要であるが、SMILE療法の有効性が期待される(Yamaguchi M et al. Cancer Sci 2008; 99: 1016-1020)。
bortezomibを併用したCHOP療法(Bor-CHOP)は、進行期PTCLに有効であるが、NKTCLには効果が期待できない。
campathは効果が期待できない
● 移植の有用性
自家移植のもっともいい適応は、NKPIが高く(NKPIが2点以上)、移植時寛解である例(後方視的検討。Lee J et al. Biol Blood Marrow Transplant. 2008; 14:1356-1364)。
NKPI;B症状、CS III以上, LDH 高値、所属リンパ節病変
● 中枢神経再発
中枢神経再発の頻度は、節外性NK/T細胞リンパ腫の0-6%。
CSIII以上、リンパ節病変を有する例、NKPI>2点では中枢神経再発予防を考慮すべき。
Waldenstroem’s Macroglobulinemia(WM)の治療について(Dr. Shah(MDACC)のレクチャー)
● MDACCでは、1991年以降初発のWM患者に対してはクラドリビン(2-CdA)を用いた治療を行って生存率を改善している。
<レジメン>
・ 2-CdA+CY、6週間あけて2コース
8時間毎に2-CdA 1.5mg/m2を皮下注射、7日間(2-CdA 1.5mg/m2 q8hr SC x7d)+Cyclophosphamide 40mg/m2を1日3回内服、7日間(Cyclophosphamide 40mg/m2 b.i.d po x7d)
・ 2-CdA+CY+R、6週間あけて2コース
8時間毎に2-CdA 1.5mg/m2を皮下注射、7日間(2-CdA 1.5mg/m2 q8hr SC x7d)+Cyclophosphamide 40mg/m2を1日3回内服、7日間(Cyclophosphamide 40mg/m2 b.i.d po x7d)+Rituximab 375 mg/m2点滴を週1回、4週間(Rituximab 375 mg/m2 IV qwkx4w)
2-CdA+CY群と2-CdA+CY+R群では奏効率はほぼ同等も(83% vs 95%)、奏効期間は2-CdA+CY+R群で優れる(23ヶ月 vs 59ヶ月)。
それぞれの血液毒性は、好中球<1000:68%、71%、好中球<500:41%、18%、血小板数<50000 :16%、0%、感染症:43%、35%。
2コース終了後もMタンパクが漸減すること、再発後の再投与でも78%が奏効し、初回治療と同等の奏効期間が期待出来ることが特徴。アルキル化剤併用療法より優れる。Flu+R、Dex+CY+Rなどと比較しても優れた臨床効果。
初発時血球減少を認めない例がいい適応だが、プリンアナログで治療されたWMではt-MDS/AML、DLBCL発症頻度が高いことが最近報告されており、今後長期的な評価が必要か(Leleu X et al. J Clin Oncol 27:250-255)。
血球減少を認める例のfront lineとしてはInternational Workshopの推奨治療のとおりアルキル化剤、プリンアナログ、Rituximabの単剤療法か(Treon S et al.2006 107: 3442-3446)。
● IgM surgeは、Rituximab以外に、2-CdA 、Fludarabineであっても初回治療の100日以内にみられる。治療前paraproteinの多い例では、末梢神経障害増悪や過粘稠症候群等の予防に血漿交換を考慮。
● Auto-PBSCTの有用性についてはエビデンスが乏しいが、MDACCでは今後auto-PBSCTの有用性を検討するため、auto-PBSCT可能と判断された初発WM例では、2-CdA+CY+R 療法前に、Bortezomib+Rituximabによる寛解導入療法2-3クール行い、奏効例ではその後PBSCHしておく試みがすすめられている(Bortezomib+Rituximabに奏効しなかった例ではさらにR-hyper-CVADを追加してPBSCHを試みる)。
● これまでもWMの予後因子の報告があるが、新たなinternational scoring system for WM (ISSWM) の紹介(Morel et al. Blood 2009)。
予後因子
年齢>65歳、Hb <11.5 g/dl、plts <10万、β2MG >3mg/l、IgM > 7g/dl
The new international prognostic system for symptomatic Waldenstroem Macroglobulinemia requiring therapy
Stratum |
Score |
患者総数(%) |
Failed |
median survival |
Percent(※) |
Hazard ratio |
Low |
0 or 1(年齢除く) |
155(27) |
38 |
142.5 |
120.3-195.7 |
1 |
Intermediate |
age or 2 |
216(38) |
87 |
98.6 |
81.7-137.2 |
2.36 |
High |
≧3 |
203(35) |
134 |
43.5 |
36.6-55.1 |
6.61 |
Percent(※):0.95LCL(lower confidence limit)ー0.95UCL(upper confidence limit)
(続く)
【関連記事】
マントル細胞リンパ腫、FDG-PET:悪性リンパ腫アカデミー (1)
節外性NK/T細胞リンパ腫、Macroglobulinemia:悪性リンパ腫アカデミー(2)
NETセミナー:悪性リンパ腫の診断
悪性リンパ腫:1
悪性リンパ腫:2
悪性リンパ腫:3
悪性リンパ腫:4
【リンク】
金沢大学 血液内科・呼吸器内科ホームページ
金沢大学 血液内科・呼吸器内科ブログ
研修医・入局者募集
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 05:46
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金沢大学附属病院の研修医にもやすらぎの桜咲く
金沢では、あちらこちらで桜がとても綺麗です。あと数日で、満開を迎えるのではないかと思います。
兼六園ばかりでなく、実は金沢大学病院の敷地内でも、桜を堪能できるスポットがいくつかあります。
(関連記事)
兼六園の桜咲く:金沢大学病院から歩いていける名園
管理人の経験ですが、窓から見える桜がとても綺麗なので、桜をみながら廊下を歩いていたところ、向こうから来る人にぶつかりそうになったことがあります。
その人も、窓から見える桜を見ながら廊下を歩いていたようです。
懸命に診療・研修に励む研修医の先生方にとっても、大学病院敷地内の桜は、安らぎを提供してくれるのではないでしょうか。
青空に浮かぶ桜のコントラストも素敵なのですが、幹に近づいてみますと、こんなところからも頑張って花を咲かせていました。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 07:23
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心房細動とF1+2(アスピリン vs. ワーファリン):血液凝固検査入門(34)
心房細動と凝固活性化マーカー:血液凝固検査入門(33)から続く。
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心房細動(atrial fibrillation:Af)の患者さんに対する抗血栓療法は、 ワルファリン(商品名:ワーファリン)による抗凝固療法が適切と言うのは、現在では常識のように知られています。ただし、この認識は昔から確立していたわけではありません。
実際、一つ前のバージョンの治療ガイドラインでは、心房細動に対する抗血栓療法として、アスピリンによる抗血小板療法も今以上の比重がありました。
さて、今回も以前の報告ではありますが、重要な報告を紹介させていただきます。
上図は、心房細動の患者さんに、アスピリンやワーファリンを投与すると凝固活性化状態はどのように変化するかをみた報告です。この報告がなされた時の、プロトロンビンフラグメント1+2(F1+2)の正常値は、0.4〜0.8 nM位です(現在の測定キットでの正常値は、50〜170 pM位です)。
Controlと言うのは、抗血栓療法を行っていない心房細動の患者さんの成績です。F1+2の明らかな上昇がみられており、凝固活性化状態にあることがわかります。
Aspirin(アスピリン)を投与するとどうでしょうか。Controlと比較しましてもF1+2の値に変化は見られません。これは、心房細動の凝固活性化状態に対して、アスピリンは無効であることを血液検査で証明していることになります。
一方、Warfarin(ワーファリン)を投与するとどうでしょうか。Controlと比較しますと、F1+2が明らかに低下しています(正常値レベルまで是正されています)。これは、心房細動の凝固活性化状態を、ワーファリンがしっかり是正していることを血液検査で証明していることになります。
このような血液検査からも、心房細動の凝固活性化状態は、アスピリンではなくワーファリンでコントロールされることが分かります。
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 20:36
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兼六園の桜咲く:金沢大学病院から歩いていける名園
金沢大学血液内科・呼吸器内科(第三内科)のスタッフの方から、素敵な画像を提供していただきました。本日、昼休みを利用されて、しばし散策されたそうです。
金沢大学病院から歩いて10分くらいの距離に、兼六園があります。
塔台もと暗し的なところがあって、兼六園は、地元の人よりも県外の方の訪問の方が多いのではないかと思いますが、桜(花見)のシーズンは例外です。地元の方も多数訪れられます。
今日は好天です。日本の風情を楽しまれた方からの、画像をアップしておきたいと思います。
この静かな水面と、おくが深い色彩が、心の安らぎにつながるような気がいたします。
兼六園全体としましては、まだ3分咲きくらいだということです。明日以降も、数日〜1週間くらいが見どきというところでしょうか。
3分咲きの桜の上に小さく見えているのが金沢城です。管理人が学生のころは、教養学部時代はこのお城の敷地内の校舎で勉強いたしました。懐かしい思い出です。
金沢城の下では、今晩の花見宴会の場所とりのブルーシートが見えます。
蛇足ながら、管理人が金沢大学の入学時の試験結果の電報は、合格が「兼六園の桜咲く」、残念な結果だった場合は「兼六園の雪深し」だったような気がします。大昔の話ですので、間違いだったらすいません。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 17:02
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心房細動と凝固活性化マーカー:血液凝固検査入門(33)
TAT・F1+2・SF・Dダイマー:血液凝固検査入門(32)から続く。
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:30
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マントル細胞リンパ腫、FDG-PET:悪性リンパ腫アカデミー(1)
2009年3月14&15日の両日、M.D. Anderson Cancer Center(MDACC)のProf. Hagemeisterらを講師に招いて開かれた、2009 Malignant Lymphoma Academy(中外製薬後援)がありました。印象に残った内容を報告します。
マントル細胞リンパ腫(MCL)の診断について(Dr. Medeirosのレクチャー)
1.診断はFISHによる t(11;14)の検出。表面マーカー解析や組織病理のみでは誤診につながる。
・t(11;14)はFISH法が90-95%と最も検出感度が高い。一方PCR法では、t(11;14)は転座部位が複数箇所あるため検出感度が30-50%と低い。
・マントル細胞リンパ腫の組織像は多彩で、病理検体のみではLBL、DLBCL、MZL、CLL、PLL、splenic lymphoma with villous lymphocyteとの鑑別が問題になることがある。
・マントル細胞リンパ腫以外に組織免疫染色でcyclinD1が陽性になりうる疾患としては、Hairy cell leukemia、MM、CLL/SLL(-/+)、DLBCL(〜5%)があり注意が必要。
2.マントル細胞リンパ腫は診断時高頻度に消化管に浸潤している。
診断時消化管病変症状を認めたのは26%であったが、内視鏡検査にて上部消化管浸潤を54%、下部消化管病変を88%に認めた。また上部および下部消化管浸潤を病理学的に診断されたそれぞれ45%、88%は肉眼的に粘膜の異常を認めなかった(Romaguera et al. Cancer 97:586-591, 2003)。
3.マントル細胞リンパ腫のほとんど(94%)は、t(11;14)以外の染色体異常を有しており、gene expression profilingは予後を層別化する。
・実際の臨床ですぐに評価可能なものとしては、Ki-67(MIB-1)indexが高い例は予後不良です(R-CHOP: Blood 111:2385,2008; HyperCVAD: Cancer 115:1041,2009)。
FDG-PET検査について(Dr. Proのレクチャー)
FDG-PETは非常に有用であるが、リンパ腫の病型や解決すべき技術的な問題などのため、その評価法には前向きな検討が必要。
・FDG avidity
Routinely avid- HL、DLBCL、FL、MCL
Variably avid- MZL、CLL/SLL、T-cell、cutaneous B- and T-cell lymphomas
実際M.D. Anderson Cancer Center(MDACC)では、DLBCL、HL、MCLの場合、治療前、化学療法中(2コース後)、治療後にFDG-PETを施行していますが、治療中のFDG-PET結果でその後の治療方針の変更はないそうです。治療終了後のフォローアップにもFDG-PETは用いていません。
一方FLでは、bulky病変やLDH高値などtransformationが疑われる例などで必要に応じて治療前にFDG-PETを施行するのみで、staging目的でも積極的にFDG-PETをすることは無いようです。化学療法中や治療後にもFDG-PETを施行していません。
FDG-PETは治療後の予後評価に有用ではありますが、どの時点で評価するのが最もいいのでしょうか(2008年ASHのCashenらの報告では6コース後)。
現時点では治療後早期のFDG-PETの結果をもってその後の治療法の変更をすべきではない、また疑陽性の頻度も高く、残存病変をみた場合にはFDG-PETで評価せず積極的な生検での確認が必要という理解です。
(続く)
【関連記事】
マントル細胞リンパ腫、FDG-PET:悪性リンパ腫アカデミー (1)
節外性NK/T細胞リンパ腫、Macroglobulinemia:悪性リンパ腫アカデミー(2)
NETセミナー:悪性リンパ腫の診断
悪性リンパ腫:1
悪性リンパ腫:2
悪性リンパ腫:3
悪性リンパ腫:4
【リンク】
金沢大学 血液内科・呼吸器内科ホームページ
金沢大学 血液内科・呼吸器内科ブログ
研修医・入局者募集
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:39
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TAT・F1+2・SF・Dダイマー:血液凝固検査入門(32)
抗血栓・血小板・凝固 療法:血液凝固検査入門(31)から続く。
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抗血栓療法には、抗血小板療法と抗凝固療法があること、そしてこれらの使い分けが重要であることは前回記事(
血液凝固検査入門(31))にさせていただきました。
これらの
抗血小板療法や抗凝固療法が必要な患者さんは、血小板活性化状態や凝固活性化状態にある患者さんということができます。血液検査で、血小板活性化状態や凝固活性化状態を評価することはできるのでしょうか?
残念なことに、血小板活性化状態を評価できるマーカーは、少なくとも保険診療の範囲内ではありません。研究室レベルで、血小板活性化マーカーを検討している医療機関はありますが、一般臨床で応用可能になるのにはまだまだ時間がかかりそうです。
一方、凝固活性化状態を評価できるマーカーは複数存在しています。
凝固活性化マーカー
1) トロンビン-アンチトロンビン複合体(thrombin-antithrombin complex:
TAT)
凝固活性化の結果として最終的に産生されるトロンビンというkey enzyme(鍵となる酵素)の産生量を反映するマーカーです。トロンビンとその代表的な阻止因子であるアンチトロンビン(AT)が1:1結合したものがTATです。TATが高いということは、生体内でトロンビン産生が亢進している、すなわち凝固活性化状態にあるということを意味します。
TATは非常に優れたマーカーですが、弱点もあります。
<TATの弱点>
a) 正確性?:トロンビンの代謝経路としては、アンチトロンビンとの結合の他に、
トロンボモジュリン(TM)との結合などその他の代謝経路もあります。
TATをみても、key enzymeであるトロンビン産生量を正確に把握できないのではないかという指摘です。
b) 正常域近傍の感度?:
TATの正常値は3〜4ng/mL未満です。
播種性血管内凝固症候群(DIC)、
深部静脈血栓症(DVT)などのように高度な凝固活性化をきたす病態には大変敏感なマーカーです。しかし、正常値近傍あるいは正常値よりも低くなるかどうかをみるには鈍感なマーカーなのです。たとえば、ワーファリンによる抗凝固療法を行っても正常値よりも低くなるところまでみることはできません。TATは最低値は0ng/mLですので、これより低いレベルを評価することはできないのです。
c) artifactが出やすい:上記の図にあるマーカーの中で、最もartifactが出易いマーカーはTATです。たとえば、極めて採血が困難な方で、採血に長時間を要してしまった患者さんでは、artifactとしてTATが高値になってしまうことがあります。採血中に試験管内凝固が起きた場合に、最も影響を受け易いマーカーがTATです。共同研究をさせていただいている当院検査部から素晴らしい欧文論文が報告されています(
参考文献)。
2) プロトロンビンフラグメント1+2(prothrombin fragment 1+2:F1+2)
F1+2も、TAT同様に凝固活性化マーカーです。上図で示されているように、プロトロンビンからトロンビンに転換する際に、プロトロンビンから遊離するペプチドです。F1+2は、TATの弱点とされた点をクリアしています。
<F1+2の特長>
a) 正確性:
TATよりもkey enzymeであるトロンビン産生量を正確に反映しています。F1+2は、プロトロンビンからトロンビンに転換する際に、プロトロンビンから遊離するペプチドですので、100%トロンビン産生量を反映していることになります。トロンビン産生量を評価したいという観点からは、TATよりも正確性において優れていることになります。
b) 正常域近傍の感度:F1+2の正常値は50〜170pMです。DICやDVTなどのように高度な凝固活性化をきたす病態にも敏感ですが、正常値近傍にも鈍感なマーカーです。たとえば、ワーファリンによる抗凝固療法を行いますと、十分な効果が発揮されている場合には、正常値よりも低くなるところまでみることができます。
d) artifactが出にくい:採血困難で長時間を要した場合であってもTATよりもartifactが出にくいです(
参考文献)。
3) 可溶性フィブリン(soluble fibrin:SF)
これも凝固活性化を反映したマーカーです。フィブリノゲンからフィブリンに転換する過程で形成される中間産物です。上図の中では最も新しいマーカーですので、今後浸透していくのではないかと思います。管理人は、SFはTATとは違ったものを評価している、換言しますとSFとTATが解離することも少なくない印象を持っています。
4) Dダイマー(D-dimer:DD)
血栓が形成されて(安定化フィブリンが形成されて)、その血栓が溶解しますとDダイマーが血中に出現します。ですから、
Dダイマーが高値であると言うのは、血栓が既に形成されてしまって、かつ溶解したということを意味しています。なお、Dダイマーは、artifactが全く出ないというのも強みです。
上図のマーカーを上手に駆使することによって、凝固活性化の病態を適確に把握できるのではないかと思います。悪性腫瘍とともに血栓症は人間の二大死因です。管理人は、上図のマーカーのどれかを健康診断の血液検査に組み込んではどうかと真剣に考えています。
TATを健康診断にと言いたいところなのですが、健康診断でartifactが出るのは困りますので、
Dダイマーが良いのではないかと思っています。
健康診断でDダイマーが組み込まれば、多くの方が早期診断、早期治療の観点から恩恵を受けるのではないかと思っています。
(続く)
心房細動と凝固活性化マーカー:血液凝固検査入門(33)
【関連記事】
<特集>播種性血管内凝固症候群(図説)← クリック(シリーズ進行中!)
PT-INRは、以下の記事も御参照いただければと思います。
・
PT(PT-INR)とは? 正常値、ワーファリン、ビタミンK欠乏症
・
PT-INRとは(正常値、PTとの違い、ワーファリン)?
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:23
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抗血栓・血小板・凝固 療法:血液凝固検査入門(31)
Dダイマーと血栓症:血液凝固検査入門(30)から続く。
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クリック! 血液凝固検査入門シリーズの全記事へリンクしています。
血栓症(thrombosis)は、一旦発症してしまいますと、頑張って加療しましても不可逆的な機能麻痺を残したり、最悪の場合には死に至ってしまいます。血栓症の代表的疾患である脳梗塞をイメージしていただければ納得しやすいのではないかと思います。
血栓症を発症してしまった後も当然ながら全力で加療しますが、上記のような事情から、血栓症を発症させない治療ができればより理想的です。
このような血栓症を発症させないような治療のことを、
抗血栓療法と言います。ただし、この抗血栓療法もただ行えば良いという訳ではありません。
ちゃんと効いているかどうかのチェック(血液凝固検査:血栓症と抗血栓療法のモニタリング)をしてあげる必要があります。詳細は、次回以降の記事にさせていただきます。
抗血栓療法の分類
1. 抗血小板療法
【代表的薬物】
アスピリン(商品名:バファリン、バイアスピリンなど)、チクロピジン(商品名:パナルジン)、クロピドグレル(商品名:
プラビックス)、シロスタゾール(商品名:
プレタール)、ベラプロストナトリウム(商品名:
プロサイリン、ドルナーなど)
【有効な病態】
血流が速い環境下の血栓(
動脈血栓)。
血流の速い環境下では、血小板が活性化しやすい(
血小板血栓)という有名な現象が知られています。ですから、抗血小板薬で、血小板活性化を抑制するのが有効なのです。
【有効な代表的疾患】
脳梗塞(心房細動からの脳塞栓を除く)、心筋梗塞、閉塞性動脈血栓症からの血栓症など。
【病理学的特徴】
動脈血栓(血小板血栓)は、血小板含有量が多いために、病理学的に白く見えます。
白色血栓という言い方があります(白血球ではなく血小板のために白く見えます)。
2. 抗凝固療法
【代表的薬物】
内服薬は、ワルファリン(商品名:ワーファリン)のみです。
注射薬では、
ヘパリン類(商品名:
オルガラン、
フラグミン、クレキサン、
アリクストラなど)、
アルガトロバン(商品名:スロンノン、ノバスタンなど)
【有効な病態】
血流が遅い環境下の血栓(
静脈血栓)。
血流の遅い環境下では、凝固が活性化しやすい(
凝固血栓)という有名な現象が知られています。ですから、抗凝固薬で、凝固活性化を抑制するのが有効なのです。
【有効な代表的疾患】
深部静脈血栓症、肺塞栓、心原性脳梗塞(心房細動からの脳塞栓)など。
心原性脳梗塞は、血栓で閉塞する部位は脳動脈ですが、血栓ができる理由は心房細動に伴う心内血液滞留(血流が遅い環境下における凝固血栓)です。ですから、ワルファリンによる抗凝固療法が有効です。
【病理学的特徴】
静脈血栓(凝固血栓)は、フィブリン含有量が多いですが、血流が遅いために多くの赤血球を巻き込みます。赤血球含有量が多いために、病理学的に赤く見えます。
赤色血栓という言い方があります。
3. 線溶療法
ウロキナーゼ、組織プラスミノゲンアクチベータ(t-PA)などによる血栓を溶解する治療です。この治療を行っているということは、血栓症を発症してしまったということを意味します。できれば、この治療のお世話にならないようにしたいものです。また、線溶療法では出血の副作用を無視できません。
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:23
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Dダイマーと血栓症:血液凝固検査入門(30)
FDP&Dダイマー(D dimer)とは:血液凝固検査入門(29)から続く。
【関連記事】
<特集>播種性血管内凝固症候群(図説)← クリック(シリーズ進行中!)
血液凝固検査と言えば、まず何の検査をイメージするでしょうか。
20年前であれば、
プロトロンビン時間(PT)、
活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)、トロンボテスト(TT)、ヘパプラスチンテスト(HPT)ではないでしょうか。
現在はどうでしょうか? おそらく、
Dダイマー(D dimer)をまず思い浮かべる方が多いのではないかと思います。Dダイマーは、まさにブレイクした検査と言うことができます。
Dダイマーは何故ブレイクしたのでしょうか。
1) Dダイマーは、
播種性血管内凝固症候群(DIC)診断用として20数年前に登場しました。今も、DIC診断のための意義は大変大きいです。Dダイマーなしには、DIC診断はありえないと言えるでしょう。
2)
Dダイマーは、
深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:
DVT)や
肺塞栓(pulmonary embolism:
PE)診断においても、
極めて高い陰性的中率を誇ることが報告されています。DVT診断において陰性的中率98〜99%と言う報告すらあります。陰性的中率が高いと言うのは、
Dダイマーが正常であればDVTを否定できるという意味です。念のためですが、陽性的中率は高くありません(Dダイマーが高値だからと言ってDVTと言う訳ではありません)。
3) Dダイマーは、artifactが全くでないのも強みです。血液凝固検査は、採血手技などによってartifactが出てしまうこともありますが(※:下記)、Dダイマーはそのようなこともなく、大変信頼できる検査ということができます。
4) Dダイマーを院内検査している医療機関では、ほとんどの場合に即日に結果が出ます。
(※)血液凝固検査のartifact(有名なもの)
・採血が極めて困難な場合:試験管レベルで血液凝固がおきるために、凝固活性化マーカー(
TATなど)が、artifactで高値となることがあります。
・ 検体への
ヘパリン混入:中心静脈ルートからの採血、動脈留置カテーテルからの採血、透析回路からの採血などでありえます。APTT(時にPTも)がartifactで延長することがあります。
・ クエン酸ナトリウム入り採血管(凝固用採血管)に、規定の血液量ではなく少しの血液しか入らなかった場合:クエン酸ナトリウムの濃度が高くなってしまうために、artifactでAPTTやPTが延長することがあります。
・ 多血症の患者さんのクエン酸ナトリウム入り検体:遠心して得られる血漿部分にクエン酸ナトリウムの濃度が高くなってしまうために、artifactでAPTTやPTが延長することがあります。
Dダイマーは、血栓症(
DVT、肺塞栓など)、
DICなどの緊急性を要する疾患や病態の診断に不可欠な重要な検査です。このような緊急性を要する疾患の診療に携わっている医療機関では、必ず院内測定すべき検査です。
血液凝固検査入門(インデックスページ) ←
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(続く)
抗血栓・血小板・凝固 療法:血液凝固検査入門(31)
PT-INRは、以下の記事も御参照いただければと思います。
・
PT(PT-INR)とは? 正常値、ワーファリン、ビタミンK欠乏症
・
PT-INRとは(正常値、PTとの違い、ワーファリン)?
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 05:27
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